(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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『主』との戦い1

 

『このまま行きましょう。そうすれば、『主』は私を嫌って近づいてこない。ミユキもハルも守ることができますから』

 

水無瀬ユキハはミユキとハルと融合したサクヤモンのまま、一夜を明かした。

 

『今なおミユキは『主』に囚われています。諦めることなく、たった1人で戦い続けています。その唄がずっと聞こえてきます。彼女が今どこにいるのか手に取るようにわかる。ついてきてください、ご案内しましょう』

 

最後にしたい朝食を食べて、今までお世話になった校舎を掃除した。そしてしばらくしてからサクヤモンに案内される形でこの世界の中心である史跡に向かう。昨日、俺たちが『主』の配下の大将クラスを粗方狩り尽くしたために、こちらを監視こそしてくるが立ち塞がるような気概があるケモノガミは残っていなかった。

 

霧は濃い。だがサクヤモンが錫杖を鳴らして、詔を唱えるだけで一瞬にして晴れ渡る。一度晴れてしまえば四聖獣の加護に守られている俺達を阻むものはなにもなかった。

 

史跡は初日に俺とコテモンが調べたときのままだった。近くの神社や鳥居が倒壊し、見るも無惨な姿を晒していたし、真っ赤な彼岸花がグチャグチャに踏み荒らされてこそいたが、史跡の中は手付かずのままだった。

 

奥の突き当たりの石室には大きな穴が空いていて、慎重に降りていくと、第二階層、第三回層があった。水無瀬家の蔵にあった朝廷から派遣された絵師が残した古文書と寸分違わぬ壁画が姿を現したのである。水無瀬教授は懸命に写真をとっていた。日の目を見た石室は劣化の運命にある。しかも、『主』との激闘が予想される中、この遺跡が残っている可能性はないのである。

 

勾玉と一体化しているサクヤモンが手をかざすと石の扉が音もなく開き、巨大な石室が姿を現した。火を灯すことができる灯籠が四方に置かれている。一番大きな石室だ。一歩入ると誰もいないのに火がついた。煌々とあたりが炎のゆらめきを伴いながら照らされる。

 

そこには世界がまだひとつだったころ。ニンゲンとケモノガミが共に暮らしていて、それぞれが互いに特殊な繋がりを持っていることをあたりまえとしていたことを示す壁画が見渡す限り広がって描かれていた。そして、神が降臨するために四聖獣と大地の化身ファンロンモンを降臨させ、対となる従者が精神体となるための儀式に失敗し、神が汚されて怒り狂う様が描かれていた。

 

そのひとつひとつを撮影するのは水無瀬教授だけではない。俺もだった。

 

四聖獣の許可をえた今、俺たちはケモノガミを新たなる都市伝説にするためにネットにたくさん画像や動画をあげることになった。

 

俺はTwitterしかやってなかったため、自然とそちらがメインになる。今までスパムしかきたことがないDMはパンク寸前になっていた。そのうち俺の家が契約してる新聞社の名前があったから開いてみる。

 

『初めまして。ネットメディア鹿野岸新聞の山寺と申します。先日投稿された『ケモノガミ信仰』のツイートを拝見してご連絡しました。ぜひ弊社記事にてご紹介させて頂きたく思いますが、DMにて詳しくお話を伺う事は可能でしょうか?ご検討の程、お願い致します』

 

現在進行形で土砂崩れに巻き込まれて行方不明のはずのひとりがTwitterでケモノガミ信仰に関するツイートや壁画を淡々と投稿していくのはなかなかにインパクトがあったようだ。一夜明けるととんでもない数のいいねとリツイートを記録していた。

 

あえて現在地を公開情報にすることで鹿野岸の史跡にいることは明らかで、今ここにいるのだと誰もがわかっている。

 

もはや追いきれないほどのあらゆるメディアからの依頼が殺到している。初めこそ律儀に一社一社対応しようとしていたのだが、あまりに数が多くなってくるとキリが無い。途中で通知があまりにもうるさくてあらゆる通知を切った俺は、画像だけをあげることに専念することにしたわけだ。

 

Twitterは動画の長さは最大2分20秒しかない。Youtubeは動画の投稿の仕方がよくわからないし、動画を投稿しながらツイートする余裕なんてないだろう。だから淡々と史跡に潜っていく様子をツイートしつづける。コメントはしないで画像だけあげていく。最後の壁画をあげおえたころ、ガイオウモンが声をかけてくる。

 

「スバルの旦那、そろそろ本番だ。iPhoneの通知は切っときな。これから真剣勝負なんだ、通知に邪魔されて負けたらシャレになんないからね」

 

「そうだな、ありがとう。そうするよ」

 

ガイオウモンに言われて、俺はいわれた通りマナーモードに切り替えた。

 

「さあて、こっからがいよいよ本番だ。こっから先に『主』はいる。この先をいけばもはや退路はない。泣いても怒ってもこれが最後。やり残したことはないね、みんな?あとはもう行くだけだ、準備はいいね?」

 

ガイオウモンがいう。俺たちはうなずいた。

 

「いい返事だ。さあ、いこうかサクヤモン」

 

うなずいたサクヤモンが目の前の小さな祠に手をかざす。祠が紫色の光に包まれ、消えてしまう。そして、石室全体が揺れた。ゆっくりと目の前の巨大な石が開かれていく。目の前には先を見通せない真っ暗な空間が広がっていたが、キラキラとした無数の光が煌めいていて、宇宙に放り出されたんじゃないかと不安になる。

 

サクヤモンが『主』を鎮める歌を歌い出す。歌は俺たちを包み込み、俺たちめがけて襲いかかってきた『主』の眷属達を弾き返してくれた。

 

俺たちはこの銀河にも似た世界を見たことがある。霧幻の追憶で見た光景だ。この光のひとつひとつが生贄に捧げられてきた人々、あるいはケモノガミたちの魂なのだ。この中のどこかにミユキがいるはずだ。

 

俺たちは注意深くあたりを見渡しながら先に進む。サクヤモンと同じ煌めきを伴う光をみつけるにはそう時間はかからなかった。

 

数多の星に似た魂を捕らえている蜘蛛の巣の中心の近くにその輝きはあったのだ。原理不明の動力で動く巨大な機械が暗闇の世界の中心で浮遊している。

 

何度見ても首が痛くなるほど大きな機械だ。これこそが『主』の本体にして、本来ならばケモノガミ世界を安定させるためにつくられたはずの機構だった。そこにはボルトバウタモンの姿はないから、この機械の中におそらくファンロンモンと水無瀬ハルチカがいるはずだ。

 

暗闇全体が拍動しているのか、一定のリズムで鼓動が聞こえる。その度に数多の魂の光が煌めいている。

 

「こいつがケモノガミ世界の『主』か、何度見ても味気ねえシロモンだ。情緒もクソもねえや。まずはこいつを叩き壊して、水無瀬ハルチカとファンロンモンを巣食う怨念ごと引き摺り出してやろうぜ」

 

ガイオウモンが菊鱗を抜く。

 

「賛成だ。まずは途方もない悪意に塗りつぶされたハルチカ達の魂を解放してやろう。もう終わりなき悪夢から目覚める時が来たんだって。もう君たちは1人じゃないんだって。迎えにきてあげたんだってことを、教えてあげないといけないね、タクマ」

 

ウォーグレイモンの言葉にタクマはうなずいた。

 

『主』はなにもいわない。ただ不気味な唸り声にも似た駆動音だけ響き渡る。次から次と『主』の眷属たちが機構に近づこうとするウォーグレイモンたちの前に立ち塞がる。

 

『邪魔立てはさせません、あなた方の相手はこの私です』

 

サクヤモンが『主』の眷属たちの前に立ち、そう宣言するなり巨大な狐を呼んだ。

 

『さあ、お行きなさい。勇気ある者達よ。ハルチカをどうか正気に戻してやってください』

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