「サクヤモンには指一本近づけさせねえぜ、水無瀬ユキハがやられちまったら全てが終わるんでな!」
ガイオウモンが『主』からもたらされる光とも闇ともつかない原理不明の力を叩き切る。
「おまえだけがいいカッコするなっての、俺も混ぜろよ」
ベルゼブモンがその死角から串刺しにしようとした機械をマシンガンで撃ち抜いた。
「我らの前に立つことこそが罪であると知れ。ゆえに貴様は死罪だ。生かして帰さん」
プルートモンが『主』めがけて漆黒の必殺技を放つ。三体がかりでようやく『主』の攻撃を防ぐことができていた。
『今です、みなさん。四聖獣と従者の彼らから授かった力を今ここで解放してください』
サクヤモンが呼びかけた刹那、ラブラモンがバイフーモンに、ファルコモンがスーツェーモンに、シャコモンがチンロンモンに、そしてフローラモンがシェンウーモンに進化した。
そして、それぞれが守護すべき方位に降臨する。その瞬間、暗黒の世界の真下に途方もない光が溢れてくる。四聖獣の加護がさらなる力を彼らに付与したのか、4つの光が次第に輝きを増し、中央に鎮座する『主』を捕らえた。
曼荼羅のような魔方陣が形成され、『主』を捕らえたのである。
サクヤモンが歌により『主』の動きを牽制しつづけている。そして、錫杖の清らかな音が響き渡る。突如、真上に穴が空いた。それは渦を撒き、螺旋となり、次第に展開していくてはないか。
『ケモノガミ世界の安定を願う機構よ。その平定にニンゲンとケモノガミの魂を捕らえ、絆を利用する狼藉はもはや許されません。彼らを返していただきましょうか』
四聖獣の聖なる力がサクヤモンの奏でる鎮魂の歌の力をさらに高めているようだった。次から次へと蜘蛛の糸に絡めとられていた光がひとつ、またひとつと解放され、渦に飲み込まれていくのがわかる。
どうやらサクヤモンは門をあけて、『主』に囚われている魂を解放することで弱体化を狙っているようだった。
「ありがとう、サクヤモン!ウォーグレイモン、今だ!」
「うん!」
「メタルガルルモン、行けるね?」
「任せておけ!」
四聖獣の曼荼羅は途方もない範囲攻撃でもあるようで、足元が輝くたびに『主』全体がのけぞるようにして揺れ、遅れて世界全体が揺れた。ウォーグレイモンとメタルガルルモンがその圧倒的な攻撃力と機動力を生かして『主』を構成している機構を破壊していく。
サクヤモンの歌に浄化された魂が解放されていくに従い、明らかに繰り出される攻撃の数々は威力が落ちていた。
「サクヤモン、このまま門を開きすぎると、あちらとこちらが完全に繋がってしまうよ!?『主』はあちらに行くのが目的なんだ、そろそろ閉じないと!」
さすがに加速度的に広がりを見せる上空の門に驚いたタクマが呼びかけるが、サクヤモンはきにするなとばかりに笑った。
「でも......」
『安心してください。あなた方の考えうる事態にはいたしませんから』
その時だ。
俺のiPhoneのバイブが鳴った。ひっきりなしになり続けている。どうやら通知がたくさんきているようだ。無視しようとしたら、みんな自分のポケットを気にし始める。サクヤモンは笑って促してくるので、俺はiPhoneを開いた。さっき開いたままだったTwitterが目に入る。
ケモノガミ信仰や関連する単語がサジェストを汚染し、トレンド入りし続けているのは変わらない。ただ、おすすめやトレンドをケモノガミ関連の単語がさっきより埋め尽くしているのがわかる。DMを覗いてみると、これはあなたが投稿したのかという質問がたくさん来ていた。なんだと思ってYoutubeのページに飛んでみる。
「えっ!?」
「なんだこれ、こっちの戦い見えてるじゃん?!」
「やばいやばいやばい、これ以上門が開いたら、野次馬がこっちに押しかけてくるって!」
なんと門が開かれている影響で土砂崩れの現場に現れたケモノガミの画像や動画を面白がって近づいてしまった人たちが向こうの史跡からこちらを覗いているようなのだ。
どれも逆さまの動画なのは世界の境界が曖昧だからなのか、それとも異世界だからなのかはわからない。ただ、現在進行形でインターネット上にこの戦いが配信されている状態のようなのだ。音声まではないようだ。映像もかなり不鮮明ではあるが、個人を特定することは可能だろう。
『案ずることはありません。あちらの史跡はすでに倒壊していて、史跡の奥に踏み込むことはできません。彼らは私が繋げた門から発生したオーロラからみえる逆さまの世界を見ているにすぎないのです。こちらに干渉することはできません』
「ということは......そうか、認知の力を利用するつもりなのだね、サクヤモン!」
『はい、あなた方からお話しいただいたインターネットを通じた認知の力は途方もない威力を門の封印にもたらしました。ゆえに我らの力になると思ったのです』
真偽はともかく真っ暗な空間で禍々しい機械を前に見たこともないかっこいいモンスターと少年達が戦っている動画が全世界に配信されているのだとしたら。もたらされる力の恩恵はどれほどのものになるのだろうか。サクヤモンが予測したその認知の威力を俺たちは即座に目の当たりにすることになる。
「すさまじいな、なんて力だ」
「これが認知の力......!」
『主』と直接戦っているウォーグレイモン達が一番恩恵を受けている。門から吹き込んでくる様々な色をした風が2体を包み込み、あらゆる強化を付与していくのがわかる。その風は暗黒の世界全体を吹き抜け、サクヤモンを守るように戦っているガイオウモンたち。『主』を封じることに尽力しているシェンウーモン達にまで及んでいるのがわかる。
「いける、いけるよ、タクマ!これなら!」
「ああ、行けるぞハル!これなら『主』に一撃が通る!」
ウォーグレイモンとメタルガルルモンがうなずいた。タクマたちもうなずく。2体は認知の力により存分に引き出され、跳ね上がった能力を余すことなく最大限に活用する。発動した必殺技は今までになく凄まじい光を伴っていた。
「ガイアフォース!」
「コキュートスブレス!」
轟音があたりに響き渡る。駆動音が明らかにおかしくなっていく。数多の星のように輝いていた魂は解放されるにつれて世界は闇に包まれている。唯一の光源と成り果てようとしていた『主』に、なにかが砕け散る音がする。様々なパーツがこぼれ落ちては虚空に消えていき、巨大な機械の中央から巨大な亀裂が入った。青白い光が走る。電気にも似たそれはたくさんの塊になり、剥離していくのがわかる。
かろうじて原型を止めようとしていた外殻は、その存在すらも2体の必殺技をもろに受け葬られてしまった。
禍々しい何かが噴出するのがわかる。煙のようにあっという間に世界全体が視界不良に陥る。それが『主』の破壊とともに姿を表した神の本体なのだと俺たちはすぐに知ることになる。
「いよいよケモノガミ世界の『神』のご登場だね、気を引き締めていくよ!」
俺のすぐ近くにいるはずのガイオウモンの言葉が凄まじい風によってかき消されてしまう。あまりの暴風は雨を呼び、天変地異にも似た変化を暗黒の世界にもたらした。土石流だ。なにもないはずなのに、土石流によってもたらされるはずの土砂が巻き上げられ、世界全体を席巻し始めたのである。
間違いない。『主』が砕かれた先に現れたのは、破滅の呪縛に囚われた水無瀬ハルチカの半身、ファンロンモンだった。