(完結)鹿野岸奇譚(デジモンサヴァイブ)   作:アズマケイ

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『主』との戦い3

荒れ狂う豪雨の最中だった。

 

突如、俺たちのiPhoneから光が走った。それは吹き荒れる暴風や土砂の竜巻を跳ねのけ、2体のケモノガミに到達する。ケモノガミ文字がたくさん現れ、2体を包んでいくのがわかる。シルエットが2つから1つになるのを戦いの最前線で目撃した俺たちは目を丸くするのだ。

 

「嘘だろ、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが土壇場で合体するなんて!」

 

「生きたまま合体なんてありなのか?!人間とパートナーのケモノガミなら同じ存在だからできるだろうけど、パートナーがいるケモノガミ同士なんてほんとに赤の他人じゃないか!」

 

「いえ、ありえない話ではありません。タクマさんとアキハルの意思が、パートナーたるウォーグレイモンとメタルガルルモンの心がこの瞬間に一致したのでしょう。彼らだけではありません。この光景を目撃している沢山の人々の意思が彼らの勝利を願ったから。応援しているから。その意思を届けたいと意思表示をしたからこそ、認知の力が最大限に発揮されたのです」

 

「こいつはすげえもんを見せてもらったぜ。究極の姿に至った2体の意思が完全に一致しないと有り得ない事象だ。そこに大衆意識ってやつが味方してくれなきゃこんなこと起こりえない。よく見ときな、スバルの旦那。これがニンゲンとケモノガミの可能性の一端だ」

 

土石流の台風が真っ二つに斬られた。

 

光を突き破った先にウォーグレイモンとメタルガルルモンの姿はなかった。代わりにそこにいたのは、マントをはためかせて飛翔する一体のケモノガミである。

 

ウォーグレイモンの形をした左腕には盾と剣が、そしてメタルガルルモンの形をした右腕には大砲やミサイルが装備されている。背中のマントは、巻き上げられた土砂から身を守るようにはためいている。

 

そのケモノガミは名乗りもしないまま、土砂を巻き上げる台風の中に突撃していく。メタルガルルモンの形をした大砲から打ち出される絶対零度の冷気弾が、竜巻を丸ごと凍結させてしまう。追撃とばかりに右腕から冷気、左腕から火炎を放つ。

 

ウォーグレイモンの形をした剣グレイソードで敵を打ち上げ、ガルルキャノンで撃ち落とし、グレイソードでX字に切り裂く。 さらにグレイソードにエネルギーをチャージして敵を切り裂く。

 

「これで終わりだ!」

 

ファンロンモンを巣食う怨念達が一体残らず両断されていく。禍々しい魂が浄化されて鮮やかな光を帯び、それらは門の向こう側に吸い上げられていった。

 

ファンロンモンの毒々しい光沢が輝かしい黄金の色彩を取り戻していく。いつしか土石流や台風の痕跡は跡形もなく消滅し、史跡の最深部だというのに暗闇はファンロンモンの輝きに満たされていく。目を開けることも難しいくらいに神々しい世界が広がっていった。

 

気づけばあのケモノガミは居なくなっていて、アグモンとガブモンが倒れていた。タクマと水無瀬教授があわてて駆け寄り、パートナーを抱きしめる。

 

サクヤモンが眩しすぎる輝きをものともせず、ファンロンモンに近づいていく。

 

『ファンロンモン、あなたを蝕んでいた穢れは全てタクマさんたちによって取り払われました。お加減はいかがですか』

 

『───────水無瀬の巫女か、久しいな。我は......』

 

どうやら水無瀬ハルチカと強制的に同化していたせいでファンロンモン自身は長きに渡るアラガミに堕ちた記憶はないようだ。

 

『大丈夫、心配いりません。全て終わりましたから。タクマさんたちが全て成し遂げてくださいました』

 

サクヤモンはそういって涙を拭うと、24万年にも渡るケモノガミ世界の歴史について語り出した。

 

『そうか......』

 

ファンロンモンが俺たちに首を垂れた。そして、ひとりひとり名前を呼んでお礼をいってくれた。

 

『我を、いや我らを呪詛から解放してくれたこと、感謝するぞニンゲンたちよ。多大な迷惑をかけてしまったようだな。本当にすまなかった。命を落としたニンゲンとケモノガミのために、我らは少しでも償うために精進することを誓おう』

 

『ファンロンモン、ならば水無瀬ハルチカと水無瀬ミユキの魂を返していただけませんか。今のあなたならばこのケモノガミ世界を統治するにたる神として君臨できるはずです。今度はハルチカだけではない、私もおそばでお手伝いさせてください』

 

『そうだな......』

 

ファンロンモンが咆哮するとひとつの光がサクヤモンの元にやってくる。それが身体に消えていき、サクヤモンがようやく融合を解いた。ハルとミユキが現れたかと思うとそのまま倒れてしまった。水無瀬教授と慌てて受け止める。

 

水無瀬ユキハの体が四聖獣の従者のような精神体として俺たちの前に現れた。

 

『数日とはいえ憑依状態のまま、合体進化をしていたわけですから負担が大きいようです。そのまましばらく眠らせてあげてください。1時間もすれば目を覚ましますから。目を覚ましたとき、きっと水無瀬ミユキとレナモンの時間が動き出すはずです。これでようやくちゃんとした人間として、ケモノガミとして、生きていけるはずです』

 

「それは本当かね?」

 

『はい、安心してください、水無瀬アキハル。あなたの姉は生きながら死んでいたようなものでしたが、これで、歳を取ることができるようになるはずです』

 

「そうか......よかった、姉さんもようやく帰ることができるんだな」

 

ファンロンモンがもう一つの光を呼び出した。それは水無瀬ユキハによく似た青年の姿になっていく。そのまま水無瀬ハルチカは真っ青になった様子で崩れ落ちてしまった。

 

『姉上......タクマ達......ファンロンモン......私は、わたしは、何ということを......!!いっときの感情に任せて甚大な被害をもたらした挙げ句、何人の命を......』

 

そのまま泣き出してしまったハルチカに俺たちは顔を見合わせた。ついさっきまで殺し合いをしていたとはいえ、肉体があれば今にも自殺しかねないほど水無瀬ハルチカは己の犯した罪の大きさに発狂寸前になっている。あまりの変質ぶりに俺たちはあのケモノガミから浄化されていった禍々しい怨念達の恐ろしさを改めて目の当たりにしたのだった。

 

「やっぱ怨霊達に取り憑かれてたのかこれ......」

 

「あのケモノガミが祓ってくれたのが全てなんだよ、きっと」

 

「24万年もずっとその時のままの感情で固定化されてたってこと?」

 

「うわあ、悲惨......」

 

「考えるだけでゾッとしちゃうかも」

 

ハルチカは死にたいのにもう死ねないのだ。この地に魂が縛り付けられている。そういう意味では降臨の儀式自体は成功していたのだろうか。

 

『ハルチカ』

 

『姉上......』

 

『途方もない時間がかかるでしょう。それでも私たちは罪を償うためにまだまだやらなければならぬことがあるのです。我らの末裔たる水無瀬アキハルから話を聞こうではありませんか』

 

『......まだ、私に出来ることはあるのだろうか?』

 

水無瀬教授がケモノガミ世界のこれからについて説明しはじめる。インターネット上に世界丸ごと移住させるという途方もない計画ながら、水無瀬ハルチカとファンロンモンの力はなくてはならないものだ。そう結んだ水無瀬教授にハルチカはようやく瞳に光が宿る。

 

『ありがとう、水無瀬アキハル。そして、タクマたちも。私達も是非尽力させてくれ、ニンゲンとケモノガミの新たな未来を迎えるために』

 

深々と姉弟が頭を下げる。俺たちはこれからよろしくと笑ったのだった。

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