こうしてケモノガミ世界を救った俺達だったのだが、現実は非常で人間世界に帰らなければならない。なにせ土砂崩れに巻き込まれて行方不明になってから数時間が経過していることになっているからだ。家族や友達をこれ以上心配させてはいけない。
そういうわけで、俺たちはファンロンモンたちに別れを告げて、そのまま史跡の出口まで送ってもらったのである。
史跡から出ると彼岸花が咲き乱れる森に出た。太陽は傾き、夕暮れにさしかかっているのがわかる。オレンジ色の木漏れ日が差し込んでいるのがわかる。
春の青空が夕暮れに溶けていく過程が垣間見れる。土砂崩れによって倒壊した史跡の奇跡的に残っていた通路から這い出した俺たちを待っていたのは、倒壊した神社。破壊された狛犬。そしてファンロンモンの復帰によりまた一時的に閉じられた門に消えたケモノガミ達の残した数々の痕跡だ。
さいわい人だかりはいない。オーロラが消えてから季節外れの大雪があたりを襲ったようでかなりの量が積もっているのがわかる。うへえと思いながらなんとか雪の中を進んでいくと、次第に積雪は少なくなり、人除けの雪だったのだと理解する。この猛吹雪に野次馬達は追い立てられたのだろうことは想像に難くない。
苔むした階段に来る頃には、1センチも雪はなかった。ぐしゃぐしゃになった靴に愚痴りながらみんな次々に降りていく。ここにいるのは俺たち人間だけではなかった。
みんなパートナーのケモノガミを連れてきてしまったのだ。なにせタクマ達はパートナーとしばしのお別れをするか、そのまま連れて帰るかとファンロンモンに聞かれたとき、一様に連れて帰ると宣言した。パートナーはケモノガミ世界なら離れ離れになっても大丈夫だが、こちらの世界に連れてくる場合は片時も離れてはいけない。せめてもの手向にとアグモン達は幼年期というさらに小さな姿にしてもらうことができたのだ。
これでリュックに無理やり詰め込めばなんとなる大きさだ。とりあえず俺達はこれでいいがキャンプに来ているタクマ達はどうやって家に連れて帰るのか、家族になんて説明するのか必死に考えている。なにせバスに乗り込んで都会に帰ってアパートにある自宅まで帰らなくちゃいけないのだ。
勢いでパートナーを連れてきたはいいが、ぶっちゃけこれからどうしようかと頭を抱えているショウジの後ろの方を俺は歩いていた。
「なあ、カプリモン」
「なんでい、旦那」
金属性のヘルメットを被ったレッサーパンダかアライグマのような尻尾を持つ小型のケモノガミがスポーツバックから顔を出す。水色のケモノガミはコテモンに見慣れすぎて違和感がひどいがこれから時間は沢山あるのだ。そのうち慣れるだろう。
「目が見えねえわりにはちゃんとこっちむくのな」
「コウモリみてーなもんさ」
「あー、超音波の?」
「そうそう」
カプリモン曰く頭のヘルメットに付いている2本の角の中には、あらゆる電波や音を受信出来るアンテナを持っているらしい。しかも口から超音波を出して、跳ね返ってくる音波で前方の対象物を認識する、コウモリのような特性を持っている。そのために、カプリモンは昼夜関係無く行動することができるらしい。
「こっから忙しくなるぞ、カプリモン。なんせ言ってなかったけど、うちの爺さん婆さんはケモノガミ大っ嫌いだからな。ミユキと水無瀬教授に丸め込んでもらおうぜ」
「それはいいんだけどさあ、スバルの旦那。このスポーツバッグなんとかなんないかい?狭いったらありゃしねえや」
「無茶言うなよ、お前隠すようなモンこれしかねえんだから」
軽口を叩きながら階段を下る。
iPhoneにようやく届いた爺さんからのLINEには、話だけは聞いてやるから一回家に帰ってこいとあったのだ。水無瀬ミユキと水無瀬教授、あと2人のパートナーたちとみんなで撮影した記念写真を先に送りつけたからだいたいのことを察してくれたらしい。神隠しにあった教え子が50年ぶりに帰還したんだ、ケモノガミだからって元の場所に返してきなさいにはならないと俺は信じている。
まあ、カプリモンと暮らすことを許してくれないなら、ケモノガミ世界から帰らないと先に牽制したのがでかかったとは思うんだが。カプリモンが考える100倍くらいこれからは大変だろうことはわかっていても、さすがに俺はまだいうきにはなれなかった。
階段を降りきると、土砂崩れに巻き込まれてしまい倒れた鳥居がみるも無惨な姿を晒している。注連縄が目印のトンネルにはすでに先頭を歩くタクマ達がいて、はやく来るように急かしているのが見えた。
あの時、ニンゲンとケモノガミの在り方を、有るべき姿を、正しいと感じた未来を決めたのは俺たちだ。俺たち自身だ。このトンネルを潜った瞬間から、俺たちはその未来のためにあらゆる尽力をしなければならないとなんとなく理解している。
だが、俺たちの誰ひとりとして、自然とこれからの心配はしていなかった。俺達は1人ではないし、理解者である大人もいる。事情を説明してくれる時代の生き証人だってあの史跡に戻ればいる。
たった1週間と少しの大冒険だったが、たしかに俺たちはふたつの世界を救ったし、それに見合うだけのものをこの手につかみ取れた確信があるのだ。
これからも続くであろう長い長い道に向けて、力強く、迷いのない一歩を踏み出した。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
四聖獣関係の描写の強化、現実世界とケモノガミ世界の時間のズレの徹底、敵の強化、水無瀬一族の掘り下げ考えつく全てをやり遂げたつもりです。三鷹スバルはそれを補強するためのオリ主であり恋愛関係にするつもりは元々ありませんでした。キャラとの絡みは主人公たるタクマの特権ということで。