豪華絢爛な玉座に続くレッドカーペットの両脇には小さなケモノガミたちがたくさんいる。仰々しく開かれた黄金の扉の先には、金色の玉座があり、ミウがちょこんと座っていた。
あれが欲しい、これが欲しい、とわがままをいうたびに慌ててケモノガミたちがいろんなものを持ってくる。あれでもない、これでもない、それは嫌と食い散らかされたお菓子、ジュースとくれば衣食住には困ってなさそうだ。
近くにいるピンク色の二枚貝にひっついている緑色のスライムみたいなやつがシャコモンだろうか。案内人に連れられてやってきた俺たちに気付いたのか、みょーんと伸びてミウに呼びかけている。
食べかけのケーキをほうばりながら、こっちをみたミウはやっほーと笑いながら椅子から飛び降りて近づいてきた。
これはあれだな、カイトが頑張って誘導したおかげでここに来るまでケモノガミたちには一切会わないできたから危機感を一切抱いてないなこいつ。あまりにも無警戒なミウに俺はほっとした。肝心のカイトがどこにもいないあたり、嫌な予感しかしないがおいとこう。
「元気そうだな、ミウ。よかった、無事だったんだな」
「あははっ。お兄ちゃんみたいなこと言わないでよ、スバルさん。キモいよ?」
「容赦ねえなオイ......。ミウも遺跡から落ちたんだよな?あの日からどうやってここまでこれたんだ?結構遠くね?」
「えーっとね、彼岸花がたくさん咲いてる神社に迷い込んで、ゴツモンたちに襲われたからみんなバラバラになっちゃったんだ。ウチ、お兄ちゃんと山の道までは一緒だったんだけど、喧嘩になってー。ちょっとあたり見てくるとか言っていなくなっちゃってさ。ずーっと放置されたからムカついて先にいったの。そしたら、テントウムシみたいなケモノガミに会って、ここのことおしえてもらったんだー!」
「その途中でわたしと会ったのよね、ミウ」
「そうそう、シャコモン凄いんだよ!ゴツモンなんかあっという間に水でぶっ飛ばしちゃったんだから!」
シャコモンが得意げに笑っている。
「それでー、ここでジジモンと会って、ケモノガミの赤ちゃんのお世話してたら女王様になってくれって言われたの!すごいでしょー!ふっふっふー、よきにはからえー!」
ご機嫌なミウが俺たちにどうやってここまで来たのか聞いてきたので話してやったのだが、予想通りゴツモン以外敵と会ったことがないミウとシャコモンにはこの世界がどれだけ危ないかピンと来ないようだった。
なんか話盛ってない?と言われてしまい、俺は困ってしまう。無事だったのはありがたいがこれでは二日後の襲撃が心配だ。
「はー、こいつは素晴らしいね旦那」
「こ、コテモン?どうしたんだよ、お前」
ジジモンの家からずーっとブスくれて無言になってしまい機嫌が悪かったコテモンがイライラした様子で口を挟んだ。
「コテモンていうんだ、スバルさんのパートナー。なんか怒ってない?」
「みたいね、どうかしたの?」
「どーもこーもねえよ。ようやく巡り会えた感動の再会なとこ悪いがもう我慢ならねえや。行きやしょう、スバルの旦那。またな嬢ちゃん。できればもう会いたかねえがな!!」
「え、あ、おいコテモン!どこ行くんだよ!」
「ちょっと頭冷やしてくらぁ」
「あーもー仕方ねえな......忠告はしたからな、ミウ。明日までに襲撃に備えてケモノガミたち逃す準備だけはしとけよ!じゃあな!」
ミウにはシャコモンがいるから大丈夫だろう。俺は何か言いたそうだったミウたちに背を向けてコテモンの後を追った。致命的な発言をぶつけそうになったから最後の理性でもって押さえ込み、出て行くことを選んだコテモンを一人にすることはどうしても出来なかったのだ。
何度目になるかわからない曲がり角を抜けるとようやくコテモンに追いつくことができた。
「待ってくれ、コテモン。俺もいくからさ」
「いいのかい、スバルの旦那。ミウのことが心配でここまできたんだろ、アンタ」
コテモンは歩みを止めない。
「無事は確認できたからいいんだよ。ミウは馬鹿じゃねえからな、忠告しときゃあとは自分で考えるだろ。コテモンに言われたことの意味がわからないやつじゃねーからな」
「そうかい?とてもそうには見えなかったがね」
「あー......まあ、ミウのことしゃべってないこともあるからな。事情があるんだよ、色々と」
「訳ありだからって庇ってるとこ悪いがね、スバルの旦那。オレにはどうしてもジジモンの目が腐り落ちたようにしか見えねえや」
「そこまで言うか、容赦ねえなオイ」
「だってそうでしょう?よく我慢できやすね、スバルの旦那。あの嬢ちゃん、スバルの旦那を禁足地にまで探しに行かせたあげく、こっちに迷い込ませた癖に謝罪のひとつもないと来た。心配してここまできたのにお礼も言わずに、挙句の果てに嘘つき呼ばわりして言うに事欠いてキモイだぁ?馬鹿にすんのもいいかげんにしやがれってんだ」
「我慢っつーか、カイトが目隠ししてる状態だから、どっちかっつーと可哀想だなが先にくるけどな」
「可哀想でこの場所がめちゃくちゃにされちゃ困るんだがねえ。女王がわがままできんのはケモノガミ達を襲撃から守る義務があっからみんな言うこと聞いてるだけだってなんでわからねえんだ?!こいつのパートナーがシェンウーモン様になれる可能性を秘めてるダァ!?どこがだ、ふざけんじゃねえ!!冗談は休み休み言えってんだ!!」
やはりジジモンの言葉がコテモンの逆鱗に触れたようだ。怒りが完全にそっちにシフトしている。
「あーもうやめだやめだ、オレもスバルの旦那みてーに可哀想だなあって思いながらほっとくことにしやす。あのクソガキにゃ遊園地を守るのは無理だ、話にならねえ!この場所がこの世界にとってどんだけ大事か、この場所を守ることがどういう意味を持つのか知りもしねえでいけしゃあしゃあと!!あーもう腹立つううう!!オレたちでなんとかしやしょう、旦那!」
ぜいぜい言いながら我慢していたことを言い切ったコテモンはすっきりした顔をしている。どうやら俺のうちに秘めていた苛立ちはコテモンにも伝播していたようで、ジジモンの言葉から端を発した地雷原をミウたちは見事に踏み抜いてしまったようだった。
「クンビラモン達と被るかもしれねーけど、敵襲に備えて見回りでもするか?」
「そうだね、旦那。善は急げだ、ジジモンちに泊まらせてもらうことにしやしょう。遊園地のルートはだいたい把握してるかんな、案内しやす」
「ほんと詳しいな、コテモン。顔も広いし、すげえなお前」
「オレが詳しいのは北のあたりだけさ、他はさっぱりだ。それにすごいんじゃねえ、スバルの旦那にふさわしいパートナーになりたくて頑張ってきただけだい。気にすんな、はは」
「そっか、ありがとうな。俺のことまで馬鹿にされた気がして嫌だったんだな!嫌な役目押し付けて悪かった。俺が言わなきゃいけなかったのに」
「いや別に俺は本音を言ったまででさあ」
「ミウに言わなかったろ、ありがとうな」
「よせやい、スバルの旦那に嫌われるのが怖くて言えなかっただけでさあ」
「そっか」
「そういうことでい」
「もしミウが何かしら対策とってたら、見直してくれよな。かわいい妹分なんだ」
「どーだかねえ......ま、期待はしないでおきやすがね」
城を後にした俺たちは、ジジモンの家を拠点に自主的に警備をすることにしたのだった。
「なあ、コテモン。シェンウーモン様って、あの亀のケモノガミの名前か?」
「そうでさあ、クンビラモンはシェンウーモン様の御用聞きでもあっから、どんなにすごいケモノガミなのか話には聞いてるからついね」
「なるほどな......友達が仕えてるケモノガミ馬鹿にされた気がしたわけか」
「そういうことにしといてくだせえ」