今、俺たちは遊園地の入口の反対側にいる。早朝から俺とコテモンは自主的に遊園地まわりの見回りをしていた。気づけば結構太陽があがっている。小腹が空いたからジジモンにもらった軽食を食べていた。
「そういや今日はやけに静かだねい」
遊園地の方を見ながらコテモンがいう。たしかに遊園地の遊具がなにひとつ動いていないし、ケモノガミたちの姿がないことに気がついた。ここから見える明かりはジジモンの家とミウたちがいる城だけだ。
「今日がたまたま休みとか?この遊園地って休みあったりする?」
「いんやいつだって動いてるよ」
「じゃあミウたちが城に逃げ込めっていったんじゃねえかな、隠し通路が結構あるみたいだし」
「どうだかね、クンビラモンの予知を聞いて自主的に閉じこもってるだけかもしれねえや。昨日の今日で態度を改めるたあ思えないがね」
「でも女王さまがいるから大丈夫みたいなケモノガミ結構いただろ?うろついてないってことはなんかしら指示は出してそうだけど」
「スバルの旦那はほんとにミウの嬢ちゃんを庇うねえ」
「庇うっつーか、コテモンと俺だと知ってる情報に差があるから、見えるもんが違うだけだと思うぜ」
「どんな事情があったらあーいう暴言が許されるんだかねえ」
心底呆れた様子でコテモンが愚痴る。俺は苦笑いこそしたが流すことにした。ミウのことを知らない人間はだいたいコテモンみたいな反応をすることが多いからかもしれない。
「スバルの旦那がそこまでいうなら、ちったあ期待してやろうかねえ......」
ためいきをついて、コテモンが手すりに登りはじめた。見回りの再開だ。
「いつかこの世界は霧にのまれるんじゃねーかってスバルの旦那は心配してたけど、それはきっと当たってるんすよ。遅かれ早かれこの世界は終わる。遊園地が死んだケモノガミの転生先だって話したと思いますがね、ケモノガミも『主』に引き摺り込まれて転生すらできねえからだんだん赤ちゃんも減ってるんでさあ。あいつらが死んだら、遊園地が霧にのまれたら、きっとこの世界に蔓延る霧は一気に濃くなりやす。オレはどうしてもそれが嫌でなんねえんだ」
城壁の上に設けられた通路は手すりがついている。コテモンは器用に手すりの上を歩きながら不審な影がないかあたりを見回していた。城の外の茂みに何体かクンビラモンの分身を目撃したから、きっとクンビラモンたちも同じ気持ちなんだろう。シェンウーモンの配下たちが重点的に遊園地を警備している理由がわかった気がした。
「あのクソジジイ、ミウの嬢ちゃんに何にも説明せずに後継者にしたてあげやがったのか、ふらふらほっつき回るのが心配で話をでっちあげたのかはしりやせんがね、ちっとは考えて物を話すべきだと思うんだ。昔からこうでさあ。昨日だってスバルの旦那が知りたがったことをのらりくらり誤魔化そうとしやがってからに」
「なんかさあ、ジジモンたちって俺たちのこと信じきれねーのかなって思ったんだけど気のせいか?」
「......どーいう意味でい」
「人間が迷い込むたびに『主』に引き摺り込まれたか、帰ったわけだろ?この世界が終わりはじめてるの知りながら。話したところでなんとかしてくれるのか?って諦めを感じたんだけど。巻き込みたくないっていう気遣いと半々くらいでさ」
「あー、まあ、そういう輩が多いのは否定しねえや。スバルの旦那がそんな奴じゃないって散々説明したんだがねえ」
「信じてほしかったら証拠をみせてみろってことだろ、多分。信じるって結構疲れるからな」
「そーいうもんかね?」
「少なくても俺はそうだから、ケモノガミも同じだって言われたら結構納得するけどな」
「スバルの旦那もしんどい想いしたけとあんのかい?」
「まーな、もう諦めたけど。諦めるまでがしんどかった。今から信じてくれっていわれたら勘弁してくれってなる。たぶんジジモンもそんな感じなんじゃねーかな。疲れてんだよ、たぶん」
「ふむ。詳しく聞いても?」
「面白い話じゃねーからなあ」
「しんどい話ならまた今度にしやすか?嫌じゃねえなら、俺だって正直スバルの旦那のこと色々知りたいんだけど......。ま、無理にとはいわねえよ?」
この世界に迷い込み、コテモンに助けてもらってからもう4日になる。この世界を安全に渡り歩いてこれたのは、間違いなくいろんな奴と交流があって無条件で俺の相棒をやってくれてるコテモンのおかげだ。それはわかっている。わかっているんだが、どうしてもその先が紡げなかった。言葉に詰まった俺を見てちょっと寂しそうな顔をしたコテモンだったが、また今度にしてくれた。
気を取り直してあたりを見渡した俺は不自然に不明瞭な場所を見つけて足を止めた。
「どうしたんだい、旦那」
「あれなんだろう、コテモン。霧か?」
「霧?おかしいな、あんなとこ今まで霧なんて出たこと......」
身を乗り出してみると俺たちの目の前で霧が消えてしまったではないか。嫌な予感がして下に降りる階段をかけおりた俺たちは森が広がっている方角にいくため、城の外に出た。
「スバル、コテモン、敵影を確認したでチュ!ここから西の方角でチュよ!」
「クンビラモン、ちょうどよかった!そっちに一瞬霧が出てたんだよ、コテモンが今まで見たことないって」
「それはやばいでチュね、『主』の配下には霧にまぎれて瞬間移動するやつがいるでチュよ。スバルたちには荷が重いだろうから、こっちは任せるでチュ!スバルたちは遊園地の方を頼むでチュ!」
クンビラモンの姿が消えてしまった。分霊だったようだ。俺とコテモンはあわてて遊園地の方に引き返す。
「なるほど、入り口から来る奴らは陽動か!めんどくせえことしやがる!!スバルの旦那、準備はいいかい?いくぜ?」
「準備はできてるぜ、コテモン!」
「任せなぁ!!」
コテモンがヤシャモンに進化するなり、その白い仮面が不思議な光を放ち始める。
「もんざえモンたちか、厄介でさあ」
「もんざえモン?」
「『主』直属の部下たちでさあ、強さ的にはドクグモン10体かギュウキモンくらいの差がある」
「めっちゃつえーじゃん!」
「直々のお出ましたあ、いったい......あ、そういうことか」
「どうした?」
「ラッキーだぜ、スバルの旦那。アンタがいってた嬢ちゃんのお迎えがちょうど遊園地の真ん前にきたみたいだ!」
「マジで?」
「なんだよ、ジジモンも嬢ちゃんも一緒じゃねえか!なんだよなんだよ、はじめっからそのつもりなら最初から話せってんだ!いっつもいっつも言葉が足りねえんだからよ、あのクソジジイめ!!」
どこか嬉しそうにヤシャモンがいう。実況してくれてありがたいんだが俺には状況がさっぱりわからない。その仮面で超能力が使えるんなら俺にもその力で俯瞰図あたりを見せてほしいんだがそこまで便利なものじゃないらしい。
まあ、ヤシャモンがミウたちを見直してくれたみたいだから結果オーライだろうか。
俺はとりあえずヤシャモンに置いていかれないようについて行くことにした。
「偉そうなことばかりいってるけど、弱い奴ばかり狙うなんて、卑怯者じゃないか!!」
「な、なんだとぉっ......オ、オレはそういうつもりじゃ......」
黄色いクマのぬいぐるみみたいなやつを先頭に、たくさんのケモノガミを引き連れて現れた敵とタクマたちはすでに交戦状態だった。青いオオカミみたいな奴がタクマの挑発にあからさまに動揺しているのがわかる。よほど堪えたのかタクマに捲し立てられたオオカミは途中で戦線離脱してしまう。どうやら『主』の部下とはいえ一枚岩というわけではないらしい。その隙を狙って戦場に飛び込んだヤシャモンがまた何体かを傀儡にする念力を発動し、一気にこう着状態だった戦況に風穴を開けることができた。
いきなり現れた新手にタクマたちが驚いている。
「遅れてごめんな、タクマ!遊園地の見回りしてたら遅れちまった!ヤシャモン、頼むぜ」
「厄介な敵にはデバフかけさせてもらったぜ!オレがまとめて相手してやっからよぉ、兄ちゃんたちはもんざえモンを頼むぜ!」
「スバル!生きてたのか、おまえ!」
「勝手に殺すなよ、失礼な!だいたい妹ほっといて今まで何してたんだよ、カイト!」
「いやだっておまえ......いや、なんでもない、ミウに忠告してくれてありがとうな」
「か、カイトがお礼いってる!?」
「うっせえ、俺だってありがとうくらい言えるっての!」
「もう、今はそんなことどうでもいいでしょう!?戦いに集中しなくちゃ!!」
アオイの一喝でカイトとミノルが静かになる。気を取り直して、俺たちは戦いに身を投じることになったのだった。