タクマたちが拠点にしている学校に戻ったときには、すでに夕方だった。
移動がてら自己紹介はもう済んでいる。カイトとミウ以外はみんな課外キャンプの参加者だ。ほぼ初対面だがカイトから話は聞いてるみたいで詳しいことはあんまり聞かれなかった。どんな説明したんだあいつ......。なんでか知らないけどタクマたちに普通に呼び捨てにされてんだが。
ゴーグルがトレードマークの百束(ももつか)タクマは中学2年生でカイトと同じ歳。ピンチになるとリーダーシップを発揮するタイプだが普段はまとめ役はしたがらず、みんなの意見を調整する慎重なやつ。パートナーのアグモンは黄色い小さな恐竜のケモノガミ。マイペースながらやるべきことはちゃんとやるタイプ。
渋谷アオイはタクマと違う学校の中学3年生。真面目で大人しく、発言は控えめだが男子が意見対立すると溜め込んでた不満を爆発させる形で黙らせるタイプ。料理担当でみんなの胃袋を鷲掴みしている。タクマより慎重派。パートナーはラブラモンという犬みたいなケモノガミ。はっきりモノを言うタイプでアオイを全面的に信頼している。タクマとアオイとミノルは特に仲がいいが、最近はサキとよくいる。
日向(ひなた)ミノルはタクマと同じ学校かつ同じ学年の親友で、軽口と冗談が多い楽観主義者。社交的ですぐ仲良くなれるが、意見を対立させるのが苦手ですぐ茶化そうとする。調子に乗ってトラブルを起こすこともある。なんかタクマに憧れてる節がある。パートナーは鳥形のケモノガミでファルコモン。しっかり者で礼儀正しく、ミノルのいい相方。
富永リョウはタクマともアオイとも違う学校の中学3年生。一匹狼を気取っているが、カイトよりは周りに合わせられる。現実が見えるから怖がるタイプで、一度死にかけたときにタクマたちに助けられてからは開き直って、意見を言えるようになった。パートナーはクネモンという喋れない芋虫のケモノガミだが、リョウは助けてもらってからはこわがるのをやめたらしい。
君島サキはタクマの学校の中学1年生。自由奔放で気分屋だが周りのことは意外とみているタイプ。なんかこの世界のことを未だに現実的に見てないのか、あぶなっかしいくらいに前向きなところがある。パートナーは植物のケモノガミのフローラモン。さっぱりしていて合わせるのが上手でサキと仲がいい。
加山シュウジは課外キャンプのボランティアにきていた高校1年生、俺と同い年か。引率の時は頼れるイメージだったけど、どうやら常識から外れるこの世界とは相性が悪いみたいで意気込みに反して空回りしてるらしい。リーダーみたいだが実際はタクマが意見調整とフォローして回してるのが実情みたいだ。パートナーは茶色いうさぎみたいなケモノガミのロップモン。無邪気で幼い、しかもまだ進化できないからか、シュウジとは相性が最悪みたいだ。
カイトのパートナーのドラクモンはかなりいいやつみたいだ。こいつに適度な距離を保ちつつ冷静につっこんだり、茶化したりできるやつはほんとに貴重だからな。
ミウのパートナーのシャコモンはかなり現実主義で常識的だが相性がいいのはよく知ってるからいいとして。
ミウと俺は最後に合流した組のため、案内がてらこの4日で出来たルールを聞いて回っていた。男子と女子で教室がわかれており、シャワーは当直があった名残か使うことができるため時間制。トイレも使える。水も使える。避難所用に備蓄してある保存食や近くで採れるきのみ、きのこ、植物の管理をカイトたち、調理担当はアオイたちがしているようだ。
避難所用の毛布や間仕切りと簡易なテントを渡された俺はさっそく寝床をつくるために窓際を選んで組み立てた。
「あー、4日目にして、やっと人の生活に戻れた気がするぜ。プライベートが保障されるってすばらしい」
テントから出てきた俺に男子がうんうんうなずいている。
「ドクグモンたちに夜襲撃された俺たちも大変だと思ってたけどさー、全然マシだったんだなあ、タクマ」
「ほんとだよ、ミノル。僕たちは野宿は免れたから」
「羨ましい限りだよ。僕とサキくんはファングモンに追いかけ回されるし、野宿だし、ひたすら逃げ回る羽目になった」
「シュウジと違って、俺はミウとはぐれて野宿だからまだマシか?」
「まあ、木の上に隠れてやり過ごしたしな」
「ぼっちなのはカイトと同じなのに、なんで俺だけギュウキモンに初日から目ェつけられなきゃなんねえんだよ、あークソ。なんつー理不尽な」
「もんざえモンみたいなやつだったんだろう?よく無事だったね」
「ありがとう、シュウジ。まあなあ......追手は振り切ったけどギュウキモンまだ生きてるだろうし、油断は禁物だぜ。しんじらんねえ数のドクグモンたちに襲われたからさあ......生きた心地がしなかった」
「ドクグモンってアルケニモンの手下だと思ってだけど、そうじゃないやつもいるんだな」
「カイトと言い合いになったっつーあれか?さっき聞いたけど、人間に化けるとか怖すぎじゃね?よく無事だったな、おまえら」
「紙一重みたいなものだよ、リョウがあやうく死ぬところだったんだ。みんなで止めたからなんとかなったとこ、あるよね。正直、リョウが死ぬ夢みたよ、僕」
「助かったのに夢で殺すなよ、タクマ!」
「し、仕方ないじゃないか!僕らの声が届かないの、ほんとに怖かったんだから!」
「あー、まあ、それは悪かった。でもまあ、助かったんだからいいだろ、クネモンのおかげでな」
「キュイキュイッ!!」
「マジ?」
「アルケニモンだけじゃねえ、『主』ってやつは幻覚みせてくるんだよ。こう、精神抉る奴とか、現実逃避したくなるやつとか。あやうく自分から行くとこだったんだからな」
「錯乱してたよね」
「まーな」
リョウはあんまり思い出したくないのか顔色が悪い。みんないきなり黙り込んでしまった。助かったのにタクマが悪夢に見るくらい怖かったってことはよほど怖いものを見たんだろうなと察した俺は唾を飲み込んだ。
「話を聞いてりゃ、ものの見事に精神攻撃ばっかじゃねえかい。『主』の配下はあいかわらずエグいことしやがるねえ。パートナーと対になってる俺らに特攻じゃねえかい、相変わらず的確なことしかしてこねえ」
「コテモンは他のケモノガミと違って色々知ってそうだけど、それはなぜだい?」
「なぜってそりゃあ、勝手に間借りしてる遺跡がクンビラモンつー北を守護するシェンウーモンさまの御用聞きの拠点だからよ。嫌でも詳しくなるぜ、霧追っ払うのに忙しいから手伝えってな」
俺はiPhoneの写真を見せながら壁画のデジモンと三体の配下が実在することを説明した。
「そのシェンウーモンてケモノガミは『主』をどうにかできないのかい?」
「それは無理ってもんだぜ、シュウジの旦那。『主』が手しか出せねえのは、シェンウーモン様たちが『主』を霧の向こうに封じてるからよ。因果関係が逆だ、逆。身動き取れねえからクンビラモンたちを作って東西南北を守らせてんだからよ」
「そ、そうなのか......今はまだマシなのか」
さすがに写真を提示されるとシュウジは信じざるをえないようだ。
「悪い知らせしか情報提供できなくて悪いがね、オレの知ってることを話しやしょうか」
コテモンは4日間で俺に説明してくれたことをそっくりそのままタクマたちに話した。
「霧が未だに出ないところは、この世界にとって大事なところか、東西南北を守護するケモノガミのお膝元ってことか」
「そういうことでい」
「じゃあさ、じゃあさ、実はここもそうだったりするんじゃねえの?だいぶ南だろ、ここ」
「でもミノル、僕たち毎日この辺り散策してるけど、そんな強そうなケモノガミに会ったことないよな?」
「あー、そっかあ。じゃあ違うか」
「いんや、合ってると思うぜ、ミノルの兄ちゃん。『主』ならアンタら狙って真っ先に霧で覆うはずなのにしねえんだから、できねえんだろうよ。会ってないのはたまたまじゃねえかい?島とはいえ南側はかなり広いからな、見回り三体だけでやってんだ。クンビラモンみたいに予知も分身もできねえ奴らは足で稼ぐしかねえからな。『主』の配下にいつも襲撃されてるから、逆に近寄らないのかもしれねえぜ」
「そう言われてみればそうかもしれない」
「もんざえモンみたいな奴らが毎日襲撃しにきたら、たしかにどこにもいけない。筋は通っているね」
「ちなみにコテモンはどんなやつかしらねえの?南を司るケモノガミと配下たちの名前」
「さあ......?さすがにオレでもわかんねえや、すまねえスバルの旦那。北側から出たことねえもんだから、この辺りの土地勘は全くねえのよ。下手したらタクマの兄ちゃんたちのが詳しいまであるぜ。史跡にいったのはビビビッときて、スバルの旦那を探しにいったあの日が初めてでさあ」
「えっ、マジで?わざわざ霧が出るかもしれねえのに、知らない土地に来てたのかよコテモン」
「そりゃそうだろ、スバルの旦那。会う前に死なれちゃ困るんだよ、オレまで死ぬんだから。案の定、いきなりギュウキモンに襲われてるし、気が気じゃなかったんだぜ」
「コテモンと会えてよかったね、スバル。2人の情報がなかったら、これからどうしたらいいか途方に暮れるところだったよ。無事でほんとによかった」
「あー、情報全然入らずだったのか、タクマたちは」
「そうなんだよ、アルケニモンたちに話を聞くかって話になってさあ。色々荒れてたとこなんだ」
「そりゃよかった、ぎりぎりのタイミングだったんだな」
「まったくだぜ」
この世界のこと、ケモノガミのこと、現在の状況、タクマたちが知らなかったことが大量にわかったせいか、みんなどこかほっとしているようにさえ思えた。
「なあ、この黒板て使っていいのか?」
「黒板?いいけど」
「コテモンが生まれてから数えた年と、俺の年が同じだっていうんだよ。計算が合わねえから一回調べたくてさあ」
「コテモンそんなことまで覚えてんのかよ、すげえな!?」
「ここまでくると普通にこえーなお前」
「失礼な、アンタらのパートナーだって覚えてないだけで、同じくらい待ってるはずだぜ」
「えっ、そうなのか?アグモン」
「うーん、よく覚えてないや」
「こちらには時間の概念がないからな、何日過ぎたかなんて数えないとわからないのだ」
「ぼくもいつからいるか、覚えてないや」
「キュウウ」
コテモンのもってる情報が重要すぎて無駄に信憑性を帯びてしまったためか、みんなの視線が俺のもつチョークに向けられている。無駄に緊張するなあ。
「こっちの世界の10日があっちの1時間計算になるな」
「ほんとかよー?」
「コテモンもスバルも沢山の証拠を持ってきてくれたからな......あながち嘘とはいいきれないのがまた」
「でもこれが本当なら、よかったじゃないか。1時間もたってないなら、まだテレビには出てないよ、きっと」
「えー、つまんねえ」
つられて俺たちは笑ったのだった。