幻想の境界線   作:悪魔野郎

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クソ魔王

 

「……後は歩くよ。シャンクス」

「……ああ、またな」

 

 涙はない。後悔もない。お互いに血の繋がりを超える信頼を持って分かれる。

 

 ──後ろから聞こえる酔っ払い共の歌を聞きながら

 

 何時間歩いただろう。ネムにとって初めて自分の力でここまで歩いてきた。

 その事に軽く感動しながら、目的の島についた。

 ネムにとって因縁の島。元、音楽の島であるエレジア。

 

 少し、妹の話をしよう。

 

 実際に妹──ウタと年の差は無い。ウタよりもネムのほうが身長が高かったのでシャンクスがそう決めたのだ。

 ウタは歌の天才だった。その歌声は歌姫と称されても名前負けしない天使の声だった。

 ネムもウタの歌が好きで眠るときはいつも子守唄を歌ってもらっていたほどだ。

 

「ウタって歌うときに声変わるよね」

「バカにしてる?」

「どっちかというと褒めてる」

 

 姉妹の仲は良くも悪くもない──っと本人達は思っているがある程度の歳になっても一緒に寝ているのは、仲が良いと言うのを超えている。

 

 ウタとネムが分かれたのは数年前になる。

 

「──くそぉがァァ!」

 

 ネムは女性が出してはいけない声を出しながら燃えゆく街を疾走していた。

 ウタを迎えに行ったら、なんかいきなり現れた『歌の魔王』とかいう奴に腕をふっ飛ばされたり、民家ごとふっ飛ばされたりと散々な目にあっていたネムは涙目で走っていた。

 

「フゥー」

 

 千切れた片腕を持ちながら感で選んだ民家に入り隠れる。

 

「……5秒……いや、7.5秒」

 

 ネムは自身の体質をこのとき、既に制御していた。

 ネムの体が非常に強い理由は睡眠時による肉体の超回復だ。そして、副次効果で通常ではあり得ない自己回復能力を発揮する。

 更に完全睡眠に入れば、更に回復能力は跳ね上がる。

 しかし、一瞬でも判断を誤れば死ぬ状況。それでもウタが悲しむのを嫌がったネムは、腕を戻すために睡眠に入った。

 

 現実では7.4秒。しかし、体感では数年と言っても過言ではない極限状態。走馬灯の如き極限の集中のお陰か? 予定より0.1秒早く起きた。それが生死を分けた。

 

「……」

 

 隠れた民家はネムがいた場所以外全てが壊れ、跡形もなく吹っ飛んでいた。

 ネムは走った。女子供を優先させて避難させる。それだけを頭に入れて。ネムもこの頃は海賊といえど幼子。死へ恐怖は本能的に強かった。だが、姉としてのプライドが許さない。妹が悲しむのなら、立ち直るまで見守ろう。妹がやらかしたのならば、何度だって助けよう。

 そんな他者からしたらくだらないエゴに突き動かされながら走り続けた。

 シャンクスが決着をつけたときにはもう、街は消えていた。

 五十人。万は遥かに超えていただろう国の生存者はたったそれだけ。

 覇気を使える上に、更にその上位に食い込む真の強者しか対抗し得ない魔王相手ならば奇跡的なのだろうか? 

 

「ウタとはここで別れる」

 

 シャンクスの言葉に反対は出来なかった。

 姉としてのプライドはズタズタに引き裂かれ、ウタの姉を名乗っていいのか自己嫌悪に陥っていたネムはそこで妹と別れた。

 

 そして、現在。

 

 覇気を得た。悪魔の能力も得た。()()()()()()()()

 

 ネムにとってこれは復讐ですらない。通過点ですらない。

 

「魔王──トットムジカ」

 

 そう、それは

 

貴方はどんな悪夢を見せてくれる?」

 

 決定事項だ。

分岐点

  • 計画遂行編
  • 海軍編
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