幻想の境界線   作:悪魔野郎

7 / 10
……修行パート無いとアレに間に合わないし、それだと被害が物凄い事になるし……まだ、マシなエンドです……


私の悪夢と私の希望(トゥルーエンド)

 

「私は……いや、もう少し考えさせて」

「分かった」

 

 ウタはひたすら迷っていた。本当にその選択でいいのか。本当に皆が幸せになることができるのか。そもそも、幸せだけが幸せなのか。

 シャンクスのような海賊もいると仮定して『奪うこと』にも『生み出す』ものがあるのではないか? 

 

 そんな無限ループのような思考がかれこれ一ヶ月ほどウタの中で行われていた。

 

『お母さん! ごっはーん!』

「はいはい。作るから、それまでお菓子でも食ってなさい」

『イッエーイ!』

 

 昼ご飯の催促を要求してきたムジカに少し呆れながら、ネムはウタの成長を噛み締めていた。

 迷うことは悪ではない。思想無き悪や正義に価値がないように、迷った末に生み出した己の価値には悪も正義もない。

 悪か、正義かの本質は世界がそれを認めるか認めないかの話である。

 そんな事を考えながら、昼ご飯を作り始める。

 ちなみにムジカはこの9年程でネムの事を『お母さん』と呼ぶようになった。

 流石に『お母さん』と呼ばれるような年齢ではないので、ネムはムジカにやめてほしいと願ったが、上目遣いで可愛らしく『駄目?』とやられた時にはネムの敗北は決まっていた。

 

 更にムジカは中学生くらいの身長ヘ成長しており、ネムは「これ、学生くらいでできちゃったみたいに見られるんじゃ……」と被害妄想をしていた。

 

 

 

 ネムは酷く苦しんでいた。

 満月の夜が近づくほど、ふとした瞬間に意識がとびかけるのだ。満月の真夜中になるとその激痛は想像を超えるものになる。

 己の中で異物が暴れまわる感覚。もし、ネムの武装色の覇気の特性が『あらゆる能力の相殺』で無ければ、すぐに意識を持っていかれる事だっただろう。

 断末魔をウタに聞かせないために、近くの洞窟に引きこもっていたが、小さな物陰がネムを見ていた。

 

 それは満月の夜が近づいてきた時だった。

 

「面倒だなぁ」と自分の部屋から上がり始める月を見ながら、そんな事を考えていると扉にコンコンとノックが発生した。

 勢い良く入ってきたのはウタだった。

 

「お姉ちゃん。昼に私を呼んでたけど何か用?」

「……? いや、私は何も──ッ!」

 

 その時、ネムは油断していた。()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う矛盾に気が付き、その可能性に気がつくべきであった。

 

 左目は血のように紅く染まり、左手と左足は白い毛の獣の姿へ。髪も色素が抜けたように真っ白になり──左手はウタの脇腹を貫通していた。

 

「あ゛ア゛ア……うわァァァ!!!」

 

 ネムは止まりかけた思考を全力で回す。右手で『緊急昏睡』(シャットダウン)と呼んでいる緊急自己回復能力強化ができる技をウタに使おうとしたが、悪魔の実が上手く発動しない。

 ウタを己の手に掛けた事実と満月の夜によって、ネムは意識を持っていきかける。

 

「お前は誰だ! 悪夢(ナイトメア)ではない!」

『そんなものどうだって良いだろう?』

 

 悪夢(ナイトメア)には理性はない。悲しんだりする思考はあってもこんな風に策を練るようなことはしない。

 

「お母さん!」

「来るな!」

 

 騒ぎを聞きつけて入ってきたムジカは、その言葉に一瞬たじろぐ。恐らく、ムジカはこのときの己を一生怨むだろう。

 

 ネムは自分の心臓を刺した。

 業物『白昼夢』。良業物にも黒刀にも至れぬ失敗作。能力は『あらゆる悪魔の実、覇気の効果を無効化する』というもの。それだけ聞けば強いように聞こえると思うが、実際にはそこまで都合の良いものではない。

 確かに覇気を貫通することは出来るが、能力や身体能力による機動力や攻撃力強化は無効化出来ないし、短剣なので使い勝手も悪い。

 故に護身用として持ち歩いていたその刃物をネムは心臓に刺した。

 

『馬鹿……な』

「死ねないと思ったか。家族の絆舐めんな」

 

 ドクドクと血が流れる。ムジカは青ざめた顔で走ってくる。

 

「お母さん! お母さん!」

「……私の可愛い可愛い娘。私の希望」

「お母さん! そんな事を言ってないで止血を……」

「……私の大切な家族」

 

 ムジカは理解した。もう手遅れだと。ネムは良い笑顔で倒れた。

 

「……ハッ! ウタ姉ちゃんは!?」

「この風は〜♪ どこからきたのと〜♪」

 

 ウタは笑顔で歌っていた。

 ムジカは気がつく、ウタの能力が現実に影響していることに──『覚醒』を

 

「ウタちゃ──……分かった」

 

 ウタは笑顔でムジカの言いたいことを否定する。ムジカはウタの『覚醒』ならばネムを救えるのではないかと思ってしまったのだ。それを否定されたムジカはもう、やれることは決まっていた。

 ムジカはピアノの腕やトランペットの足等の楽器を生み出す。そして、楽器を鳴らし始めた。

 

 ──それから何分経っただろう。

 

 ムジカの体感では数時間にも匹敵するような濃密な時間。もう、ウタの目に生気は無い。ムジカには祝福するように光の粒子が纏わりついていた。

 

「──♪ 〜〜♪」

 

 急に歌が変わる。新曲だ。極限まで集中力を高め、音楽の化身たるムジカにとって容易にその歌を完成させた。

 

「……ッ!」

 

 生暖かい肉に抱きつかれる。ネムの肉体だ。勿論、その目に生気はない。だが、力強く抱きしめられたムジカは

 

 ウタが歌い終わるまでずっと演奏していた。

 

 もう、時間の概念すらあやふやになったムジカは……皮肉にも曇りが一切ない夜空に、人のものとは呼べない絶叫を発した。




……時間的にこうする他無かったんですよぉ!
ちなみに、作者にとってバットエンドと呼んでいた物語はウタ、ムジカ、黄猿、その他+全人口の3割が犠牲になった上でネムが……ネタバレになるから言えませんね。

さて、章も名前を変えますが次の話でこのルートは一旦終わります。
……一応、これでも元と比べればハッピーエンドに近いんですよ?
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