Paradise Lost   作:烊々

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 人間と守護女神。
 見た目にはそれほど差異は無い。しかし、両者の"存在の格"というものは隔絶されている。 片や世界の守護者、片や守護されるモノ。両者の天秤が釣り合うことなど有り得ず、本気の守護女神の戦闘において、人間など相手にならないことは勿論、横に立ち共に戦うことすらできない。
 それは当然のことだ。抗いようのない真実だ。
 だけど────

『とぉりゃああぁぁっ!』
『はぁああああぁぁっ!』

 あの子と友達と呼べる関係になったばかりの頃の私は、ただがむしゃらにその肩を並べようとしていた。
 けど、世界の危機が何度か訪れた時、肩を並べていたのは私ではなかった。
 同じゲイムギョウ界の女神であったり、妹である女神候補生であったり、別次元の女神であったり。
 それは、世界を守るための戦いだ。世界の守護者たる女神が力を合わせ、肩を並べて立ち向かうものだ。そこに人間が入る余地はない。それは"当然"のことだ。
 でも、いつから私は、そんな"当然"を受け入れてしまったの?
 私はいつから、がむしゃらに足掻くことをやめてしまったの?

『流石だね、あいちゃん』
『女神だからって、ネプ子ばかりにいいカッコさせないわよ』

 目覚めろ、そして……"私"を……取り戻せ……!



後編

 

 

 

       『Paradise Lost』

 

          後編

 

 

 

 

「……目が覚めた、ですか?」

 

 プラネテューヌの治療室に運び込まれ、治療を受け、回復し意識を取り戻したアイエフが最初に見たものは、目の下を赤く滲ませ、目尻に涙を溜め込んでいる親友コンパの姿だった。

 

「ごめんコンパ。心配かけたわ」

「あいちゃん……あいちゃぁんっ!」

 

 無事に意識を取り戻したアイエフに抱きつくコンパ。

 

「大丈夫、私は大丈夫よ。ありがとうコンパ」

 

 アイエフはコンパを優しく抱きしめ、背中をさする。

 すると、コンパは眠りに落ちた。不眠不休でアイエフの看護をしていたため、疲労が溜まっていたのだ。

 

「申し訳ありませんアイエフさん。私が止めていれば……」

「イストワール様のせいではありません。私がしくじりました」

 

 得意の速さを活かせば逃げ切ることができたかもしれない。それでもアイエフは戦うことを選んだ。そして結果はこの有様であり、アイエフも納得はしているのだ。

 

「それにしても……シェアエネルギーを人間に還元できる兵装ですか……ネプテューヌさんには神次元で何かが起きているのか、向こうの私に連絡しても繋がらず……」

「……ネプ子とネプギアがいない今、プラネテューヌで奴を止められるのは私しかいません」

「事態が事態ですので、他の国の女神様に協力を要請するのは……?」

「女神と候補生の許可なく他の国の女神に協力を要請することはできない、それが国と国のルールでしょう? 緊急事態とはいえ、教会に属する私たちがそのルールを破るわけにはいきませんよ」

「ですが……」

「それに、奴は私が倒します。私が倒さなければいけないんです」

「アイエフさん……」

 

 イストワールはアイエフの目に宿る意思から、プラネテューヌ教会の諜報員という肩書きではなく、それ以上に譲れぬ信念を感じ取った。

 そして何かを決意した様子で、アイエフの目の前に移動する。

 

「わかりました。アイエフさん、もう歩けそうですか?」

「大丈夫です」

「なら、渡したいものがあるのでついてきて下さい。本当は、ネプテューヌさんと一緒に贈るはずのものだったのですが、緊急事態故に、今お渡しします」

 

 イストワールに案内された部屋には、紫色の輝きを放つ二本の短剣が保管されていた。

 

「これは……」

「『双剣・パープルハート』。ネプテューヌさんがアイエフさんのために作り上げたものです」

「ネプ子が……」

「常人には扱えないものですが……ネプテューヌさんは、今のアイエフさんなら問題ない、と言っていました」

「持っても良いですか?」

「勿論」

 

 双剣を手にしたアイエフは、剣から発せられる女神の加護による神聖な力を感じ取ったが、それ以上に親友からの想いを感じ取っていた。

 

「……全く、ネプ子ったら」

 

 この場にいない親友に想いを馳せ、穏やかな笑みを浮かべるアイエフ。

 すると、イストワールの元に教会の衛兵から通信が入った。

 

「どうかしましたか?」

『緊急事態です! 女神のような装備をした何者が、教会に接近しています!』

「……っ! わかりました」

 

 イストワールは通信を切り、頭を抱える。国の最大戦力が不在の状況で、衛兵では歯が立たないであろう敵に対応しなければならない。最悪、犠牲が出てしまう。

 

「イストワール様。私が行きます」

 

 通信を聞いていたアイエフは、即座に戦う意思を示した。

 

「アイエフさん……しかし……」

「奴は私が倒すって言ったじゃないですか。そらに、なぜかわからないんですけど、なんでか、今なら誰にも負けない気がするんです」

「……わかりました。アイエフさん、お願いします」

「はい!」

 

 アイエフは、コートを羽織り、紫の双剣を背中に携え、迎撃へと向かった。

 

 

 

 

「兵装の量産のリソース不足を解決するには、シェアクリスタルをいただくのが手っ取り早いですね。女神がいないうちにいただいてしまいましょうか」

 

 派手な行動は控えたいと思っていた女だったが、ネプテューヌの不在を好機と捉え、教会に正面から侵攻していた。

 

「……ん? おや、またあなたですか」

 

 そこに、アイエフが立ち塞がる。

 

「これはこれはお久しぶりです。殺すつもりはなかったとはいえ、随分と回復が早いですね」

「知り合いに腕のいい看護師がいてね」

「そうですか。無駄だと思いますが、もう一度だけ忠告しておいてあげましょう。そこを退いてください。できればあなたは殺したくない」

「無駄だってわかってるんだったら、答えなんて要らないわよね?」

「はぁ……ですよね。何故そこまで守護女神に肩入れするのですか? 女神に縋らなければ生きられぬ弱者ならまだしも、あなたほどの強者が……」

「あんたの理屈の全てを否定するつもりはないわ。確かに、数十年数百年数千年……そんな果てしない未来まで考えれば、あんたの言う新しい時代は、客観的に見て今よりも良くなる可能性はあるわね……」

 

 アイエフの言葉を聞いた女は、少しだけ表情を明るくする。

 

「ほぅ……! では……!」

 

 そして、説得の余地があると思い、手を差し伸べようとする。

 

「けど、理屈じゃないわ。私があなたとその兵装を気に入らないのは、教会の人間として……とか、諜報員として……とかじゃない」

 

 アイエフの中の激情が滲み出る。女の理屈を聞いた時から、心の中に抱えていた怒りが湧き出す。

 

「一人の人間として、"友達"が世界に要らないなんて言われて、黙ってられるわけないでしょうがッ!」

 

 簡単なことだった。

 『友達を侮辱されたから』、それがアイエフの怒りの理由だった。

 

「私はあの子が守ってきた今の世界と、あの子が作る未来を信じてる! だから、私の親友を脅かすあんたを……ぶっ潰してやるわ‼︎」

 

 アイエフの言葉を聞いた女は、心底呆れた表情へと変わった。

 世界のために動く自分の前に立ち塞がった人間の言葉が、ただの友情、自分にとって無価値なものだったからだ。

 

「愚かな……」

「愚かで結構よ。私は一人の人間だからね、世界について考えるのなんて荷が重いもの」

「……まぁ良いでしょう。あなたには生きている価値がありましたが、私の邪魔をするのなら消えてもらいます」

「消えるのはあんたよ」

「力の差は理解できたと思いますが?」

「あれは練習よ。今度は本番」

「ふっ、言いますね」

 

 女は兵装の出力を上げ、目の前の障害を排除せんとする。

 アイエフも、新たなカタールを抜き、自身の敵を討たんとする。

 

「武器を新調したところで無駄ですよ。あなたの実力は把握しています。そして、私に勝つことが不可能であることも」

「そうかしら? やってみなければわからないわ!」

 

 アイエフは地面を蹴り、女に急速で接近し、短剣を振りかぶる。兵装により上昇した身体能力でなければ、反応できないほどのスピード。

 

「だが、無駄です」

 

 当然、女はアイエフの動きを捉えており、振われた短剣を、以前と同じように受け止めようとする女だったが。

 

「……っ」

 

 繰り出された斬撃の質が以前とは明らかに異なることを察知し、寸前で回避する。

 

「何ですか……その剣は……?」

 

 正面から斬り合えばたとえ身体能力が優っていても技量の差で不利になる、と前回の戦闘から学んでいる女は、兵装のウイングパーツを展開し、空に浮かぶ。

 

「ネプ子……力を貸して……!」

 

 アイエフがそう呟いて短剣を強く握ると、短剣から漏れ出る女神の加護が、アイエフの身体を伝い、背中から小さな光の羽が生える。

 

「私も行くわ……空へ!」

 

 そして、女を目掛け、飛翔する。

 

「まさか……っ」

「飛べるのはもうあんただけじゃないわ!」

「くっ……」

 

 これにより、兵装の優位性が一つ失われた。

 そして、一つの優位性が失われただけで、空いていた戦力差は縮まることになる。

 否、縮まるどころか────

 

「……っ!」

 

 女は、苛立っていた。

 目の前の人間は、人間でありながら女神のように強く気高くあろうとする。

 常識的に考えて、そんなことは出来るはずがない。人間と女神が同等など有り得ない。目指そうとするだけ無意味だ。

 

「……っ! なんなんですかあなたは⁉︎ 女神の強さに縋るわけでもなく、私のように女神を捨てようとするわけでもなく……! 人で有りながら、女神の高みへと近づこうとする! 意味がわからない!」

 

 自分の理解できないものを見せつけられ続け、苛立ちは限界に達し、激情に駆られていた。

 

「だけど! わからないからこそ、わかりました! あなたは……私の敵なのだと‼︎」

「良いわね。さっきまでの気取った感じより、今のあんたの方が私は好きよ」

「黙れッ!」

 

 女の兵装が今までよりも強く激しい輝きを放つ。

 その輝きから、必殺技の予兆を感じ取ったアイエフは、妨害するのではなく、回避するのでもなく、正面から迎え撃とうとする。

 

「……女神も人間も関係なく、強くあろうとすればどこまでも強くなれる。この剣が、あの子の想いが、私にそう教えてくれる」

 

 敗北は糧だった。

 意識を失う最中、自らの原点を見つめ直した。

 雑念は澄み、得た力は身体に馴染んでいく。

 

「消え去るがいいッ! 『フォール・オブ・エデン』ッッッ‼︎」

 

 女から発される、光の奔流。

 以前アイエフがくらったものよりも、強く、激しいエネルギー。

 だが、アイエフは恐れることなく短剣を握り直し、力と想いを振り絞る。

 

「……冥界に送ってあげるわ! 『アポカリプス・ノヴァ』‼︎」

 

 勢いよく振り抜いた短剣から発するエネルギーは、アイエフの趣味により禍々しい光の斬撃へと変貌し、『フォール・オブ・エデン』の光を斬り裂き、消し飛ばす。

 

「……何……ですって……⁉︎」

 

 自らの最高の技が打ち破られた女は、呆然とする。

 必殺技(エグゼドライブ)を打ち出した影響で、兵装のエネルギーは一時的に焼き切れ、次の攻撃を繰り出す余力は残っていない。

 

「終わりよ!」

 

 対するアイエフにとって、今の必殺技(アポカリプス・ノヴァ)は布石に過ぎない。

 必殺技(フォール・オブ・エデン)を打ち破り、その先にいる敵の本体に刃を届けるための。

 

「はぁぁぁあああっ! 『アイフィ・ブレイク』!」

 

 ネプテューヌの必殺技(エグゼドライブ)『ネプテューン・ブレイク』を自分の動き易いやり方にアレンジして繰り出す必殺剣舞『アイフィブレイク』が炸裂した。

 

「う……わぁあああああ!」

 

 兵装は斬り刻まれ、女は地面へと堕ちていく。

 決着が付き、勝者たるアイエフはゆっくりと高度を下げていく。

 

「……いや、我ながら『アイフィ・ブレイク』って技名は無いわ。後で別のを考えましょ。さて……」

 

 そして着々し、地面に仰向けに倒れ込む女の方に目をやる。

 

「もうすぐあんたの身柄はプラネテューヌ教会で預かることになるわ。これであんたの計画もおしまいよ」

「そう……ですか。これで……新たな時代への道は……閉ざされました……」

 

 兵装の残骸と共に倒れ込む女は、弱々しく腕を上げながら嘆く。

 

「人は……戦う力を得るべきだったのに……でも……人はいつまでも……女神の庇護下でしか生きることを許されない……女神に縋らなければ生きてはいけない世界がこれからも続いていくのです……アイエフさん……あなたのせいで」

「……私は、あんたの全てを否定するつもりはないわ。けど、あんたの理想には、まだ時代が到達していない。今まで戦うことをしてこなかった人間たちが、守護女神という光と力を失う代わりに武器を持たされれば、哀しく惨めな戦いの歴史がきっと繰り返されることになるわ。だから、あんたの言う新たな時代が追いつくその時まで、あの子や私が戦い続けるのよ」

 

 女の言葉を聞いても、もうアイエフの意思は揺らぐことはない。

 

「それに、たとえあなたの言う新たな時代が来て、人々から必要とされなくなっても、最期の最期まであの子は人々を守るために戦い続けると思うわ」

「……少し、意地の悪いことを言ってしまいましたね。ごめんなさい」

「いいえ。私があんたを倒したのは、私のエゴだからね」

 

 もしネプテューヌがこの女と対峙した場合、女の理屈に答えを出すことはできただろうか。

 だからこそ、女神としての立場がある親友ではなく、人間である自分のエゴで押し通して止めること、それがアイエフなりの親友への気遣いだった。

 

「そんなこと言ってしまえば、私の理屈もエゴですよ。エゴ同士がぶつかり合って、強かったあなたが勝った、それだけです」

「……」

「結局……私は諦めていたんでしょう。女神のように、力強く、気高く、美しくあることに。でも、あなたは諦めなかった。私が勝てないわけです」

 

 アイエフは、女から女神への複雑な感情を察したが、その詳細や、それに至るまでの女の経歴を記録するのはイストワールの役割だと思い、詮索しないことにした。

 

「人が女神に並ぶほどの力を求める、それがどれだけ過酷な道であろうとも、あなたは突き進むんでしょうね」

「ええ。それでも、私は行くわ」

「そうですか。お気をつけて」

 

 その後、駆けつけた衛兵たちの手によって、女の身柄は確保された。

 

 

 

 

 数日後。

 

「……例の彼女ですが、取調べにも協力的ですし、結局被害にあったのもアイエフさん一人でして、そのアイエフさんが許しているので、近いうちに釈放されると思います」

「そうですか。なら、大丈夫だと思いますよ。たとえまた何かしでかしても、私が止めてみせますから」

「ふふ、そうですか。頼りにしていますよ、アイエフさん」

「はい」

 

 今回の事件についてようやくひと段落つき、女神が不在でありながらも、プラネテューヌ教会は日常に戻っていた。

 

「あば、あばばばばば!」

「い、イストワール様⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎」

 

 急に痙攣しだしたイストワールに、慌てて駆け寄るアイエフ。

 

「だ、だだだ、大丈夫です。こ、これはおそらくくく、別のじじ次元の私からららら着信が来たのでしょうううう」

「と言うことは……」

「……はい、こちら超次元です」

 

 イストワールが、神次元のイストワールと交信し、次元のゲートを開くと、そこからネプテューヌとネプギアが戻ってきた。

 

「たっだいま〜!」

「すみません、遅くなりました」

「いやぁ、タリの女神の力の残滓を吸収してパワーアップした八阿僧祇禍津日神が思いの外強くてさ、手こずっちゃった。神次元だとハイパーシェアクリスタル使えないし」

「倒すのに何日もかかったんだよね……」

 

 ネプテューヌたちの激戦の話を聞いて、神次元で遊んでいると思っていたアイエフとイストワールは気まずそうに俯く。

 

「……ん? あいちゃん」

「どうしたの、ネプ子?」

「なんか、雰囲気変わった? 何かあったの?」

「んー? 別に、なんでも無いわ」

「そっか」

 

 こうして、女神の統治する今の世界の在り方を揺るがす可能性のあった事件は、女神の知らぬところで始まり、女神の知らぬところで、その幕を下ろしたのだった。

 

 

 

 

      

       『Paradise Lost』

 

         -おわり-

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだあいちゃん。あいちゃんに渡したいものがあったんだ」

「え?」

「わたしといーすんから贈り物ってとこかな。いーすん! アレ出してー!」

「そ、それって……」

「ええ、既にもう……ど、どうしましょう……」

「どうしたの二人とも、なんか変だよ……?」

「「じ、実は……」」

 

 

 

「……ええ〜〜〜〜〜〜っ⁉︎」

 

 





 気が向いたらどっかにあとがき的なものを書きます。
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