絵を描くのが好きなウマ娘の非日常   作:アベノハルカズ

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ドロウワールドのヒミツ③
実は、シャーペンより鉛筆派。


仲の良い子たちを参考に

今僕は茂みの中に隠れている。別に追われてるとかそんなんじゃない。一般に開放されてるターフ…というかそこそこ整備された芝生の広場。そこで遊んだり自主練習をしているであろうウマ娘の子たちを観察してスケッチするためだ。スケッチされていると思われたりしないように、彼女たちが自然体でいられるように隠れているのだ。

 

今日のお昼休み、仲のいい友人から絵を描いてほしいと頼まれた。その子とはよく教室で休み時間に一緒になって落描きをする仲だ。その子はとても絵が上手なんだけど、たまに僕に絵の依頼をしてくることがある。他人の描いた絵からでしか接種できない栄養があるとか。分からなくもない気がするけど言い方がちょっと気持ち悪いよ…。

 

さて、そんな友人からの依頼はいわゆるカップリング絵、というやつだ。

まあなんというか、大雑把に言えばアニメや漫画のキャラクター同士がイチャイチャしている絵だ。

 

友人はあらゆる創作物から女の子同士のカップリングを見出して絵を描くことが多い。ネットにもよく絵を上げており。今回僕に依頼してきたのは僕も観ているウマ娘のスポ根ものアニメのカップリング絵だ。ちなみに、僕が依頼されて描いた絵も友人が代理投稿という形で上げられていたりする。もちろん許可は出している。

 

そのアニメはウマ娘のレースにファンタジックな表現を混ぜ込んで、よりダイナミックで熱いレースを描いている。炎を纏ったり辺り一面を岩山にしたり不思議空間を飛び回ったり…アニメならではの表現だなあと思っていたら、なんと実際のレース中にそういったものを見たり感じたりする選手は少なくないそうだ。中には自分の思い描くイメージが見えて力が漲ったりするとか…。意外や意外、僕の通っている学校にも数人ほどそれが見える子が居るとか居ないとか。

 

友人から聞いた話によると、昔から競走ウマ娘がレース中にそういったエフェクト的なものが見えるのは珍しい事ではなかったけど、気迫や集中によりそう見えた気がしたのだろうで片付けられていたらしい。ところが件のアニメが始まってからかなりの数の有名なウマ娘たちが「こんなの見たことある!」と反応したそうだ。元からかなり評判が良かったらしいけどそれにより更に人気が上がったとか。

 

そんな感じで主にレース表現に力を入れているアニメだけど、キャラクター達の友情も熱い。同じ夢を持って同じ学園に入り、仲良くなるけどレースでは勝利を奪い合う関係になってしまう。その葛藤、迷い、対話、決意!現実でもよくある話ではあるけどそれでもグッとくる。王道だ。

 

僕も友人もこのアニメが好きなんだけど、お気に入りのポイントはぜんぜん違う。僕はレース表現。友人はキャラクターの関係性。感想を語り合うとき、お互いの着眼点はほとんど違うけど「わかる~!」と盛り上がる。それほど僕も彼女も夢中なアニメなのだ。

 

そんなわけで友人から依頼を受けた。主人公のウマ娘と、同じチームで主人公の先輩にあたるウマ娘。この二人が恋人つなぎをして見つめあっている絵を描いて欲しいとのこと。

 

しかしここで問題が一つ。この二人、ほとんど接点がなかった気がする。ロクに会話もしていなかったような…?いや、少しはしてたな。友人いわく「それがいいんだよ!」とのことだけど、よく分からないから深くは考えないことにする。以前頼まれて描いたやつでも接点があんまりない組み合わせが多かったし、今更だ。

 

広場に目を向ける。遊具は無く、本当にただの広場って感じだ。見晴らしはいいし、天気もいい。走っている子たちもとてものびのびと楽しそうにしている。キラキラしている。それを手元のスケッチブックにざーっと写し取る。なんというか、茂みに隠れてスケッチしているなんて、まるでというか完全に不審者だ。彼女たちと離れすぎず気づかれず。そんな距離で不審者にとってはうってつけというか、もしかしたらここを縄張りにしている不審者がいたりして…?

 

 

ハア、ハア、ハア、ハア…

 

 

うーん、変な想像をしたせいか、少し寒気がしてきた。なんだか呼吸のような音も聞こえてきたような。

…いや、そんな、まさか。

 

 

はあ、はあ、はあ、じゅるりら。

 

 

 

………じゅるりら!?よだれ!?気のせいじゃない!?っていうか近くに……横に居る!?

あまりの衝撃と危機を感じて身震いする。耳から尻尾の先まで身の毛がよだつ。

 

茂みの中、できるだけ気配を消していた(つもり)なのにこんなに接近されるなんて…!しかもよりにもよって不審者に!早く逃げなきゃ…でも、どんなヤツかは気になる。一目見るだけでも絵のアイデアにはなるかもしれない…!この緊張感は絵に活かせそうだ…!

 

そうと決まれば、見てやるぞ!音のした方を見るんだ!なんだかさっきの「じゅるりら」が可愛らしく聞こえたのも気になるし、何よりどんなヤツなのか気になる。数秒見たら、一目散に逃げればいい。競走ウマ娘には程遠いけど、脚にはそこそこ自信があるんだ、不審者から逃げるなんて訳ないさ!不審者がウマ娘だったときは…考えないようにしておこう。

……いくぞ!

思い切って、音のしたほうに顔を向けた。

 

「あぁ~…尊すぎりゅ…デジたんとしたことが、こんな穴場に気づかなかったとは一生の不覚っ!キラキラウマ娘ちゃんたちのオーラをこんなに近くに感じられるなんてぇ…まるで隣にいるみたい…はぁ~~~…しゅきぃ…」

 

 

なんか可愛いのがいた。マスクとサングラスは不審者のそれだけど、やたら可愛らしい服を着たピンク髪にサイドテール、大きいリボンと属性てんこ盛りで小柄なやたら可愛らしいウマ娘。

 

……アグネスデジタルさんだこれ!?

 

自らもウマ娘でありながら自他共に認めるウマ娘マニア。はたまたアスリートとしても一流で芝とダートの二刀流。戦場を選ばず勇ましく駆ける姿はまさに勇者。あとイベント?で漫画を描いて本を出しているというウワサもあるとか。

 

…漫画?ということはアグネスデジタルさんも絵を描かれる…ということだよね?しかも漫画なら登場人物同士のやりとり?掛け合い?も考える必要があるわけで。

しかもウマ娘マニアの彼女ならきっとあのアニメも観ているはずだ。なにか良いアドバイスを頂けるかもしれない!

そう思って、小さめの声で話しかけてみた。

 

「あの、すみません、アグネスデジタルさん…ですよね?」

 

 

少し、時間が止まったような感覚がした。

話しかけられた側は、わずかに震えながらゆっくりとこちらに顔を向けた。

 

「ご、ごめんなさい急に話しかけて…」

「ヒョエッ」

 

ばたん。倒れた。

倒れた!?慌てて顔を覗き込み、声をかける。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「はっ…!」

 

よかった。何とか大丈夫そうだ。

 

「か…顔が…良すぎる…ぐふぅ」

 

またぐったりしちゃった!?

こんなやり取りが、あと3回ほど続いた。

 

 

「大変お見苦しいとこを見せてしまいました…。」

「いえ、こちらこそ驚かせてしまって…あの、顔を上げて下さい…。」

 

何とか意識を取り戻したアグネスデジタルさん。なぜかこちらに向かって土下座をしている。なんでこんなすごい方に土下座をされているんだろうか。むしろ僕のほうが土下座をしないといけないのでは…?

そんなことを考えつつとりあえず頭を上げていただくよう促す。ようやく上げられたと思ったら、顔を逸らして目線だけちらちらとしている。マスクとサングラスを外したその顔は、とても可愛らしくてまるでお人形さんのようだ。ただ、やたら呼吸が荒い。

 

「あの、大丈夫ですか…?」

「アーッス・・・声も良い…ッ…じゃなくて!大丈夫ですっ!おかげさまでエネルギー満タン!フル充電ですっ!」

「あははは、それならよかった。」

「ン゛ン゛ッ!!」

 

アグネスデジタルさんの顔が今度はキュッとなった。ちょっと面白くなってきちゃった。

最初倒れた時は本当にびっくりしたけど、すぐに復活してはまた倒れて、また復活しての繰り返し。だんだん慣れてきた。たぶんこれが日常茶飯事なんだろうなあ。

 

「すーっ、はーっ、失礼しました、あたし、アグネスデジタルといいますっ!どこにでもいる平凡なウマ娘でぇ…っと、あたしのことはいいんです!あなたの、あなたのお名前を教えて頂けませんかッ!?」

 

あなたのような方がどこにでもいて平凡な訳ないじゃないですか。即座にそんな言葉が口から飛び出そうになったけど頑張って飲み込む。本人がこう仰っているんだ。僕がとやかく言うことじゃない。それよりも名前を聞かれたんだから答えなくちゃ。

 

「ぼ、僕はドロウワールドです。アグネスデジタルさんとお会いできて、本当に光栄です!」

「ヒョエッ!?あ~、いや~、こちらこそ光栄でしゅ…」

 

いやいや、そんな僕なんて、いやいや、あたしこそ、いやいや…なんて応酬がしばらく続いたけど、とりあえずお互い様、みたいな感じで自己紹介は終わった。だいぶ納得いかないけど。

 

「ところで、ドロウさんはなぜここに…?」

「あー、それは…スケッチをしに、です。隠れていたのは、自然体のあの子たちが描きたくて、それで。」

 

腕組みをして、分かる…!とデジタルさん。またしても有名なウマ娘とお近づきになってしまった。少し慣れてきた自分もいて何とも言えない気持ちになるけど、今はそんなことより。

 

「その、デジタルさんも絵を描くと伺ったのですが。」

 

瞬間、デジタルさんの動きが止まる。

 

「まあ、人並み、には、ですかねぇ。」

 

「それと、漫画とか読まれます?その、恋愛系とか。」

 

デジタルさんの額に汗が浮かぶ。触れられたくないことなのかな…?それでも、一応。

 

「僕も絵を描いていまして、それで、友達から頼まれたんですけど、カップリング、ってやつで。でも僕そういうのちょっと分からなくて。デジタルさんは漫画を描いてらっしゃると聞いたことがあるのでよろしければご教授頂けないかな、なんて。」

 

顔を伏せるデジタルさん。場の空気が重くなる。これが歴戦ウマ娘のプレッシャー!?

プレッシャーに押しつぶされないように耐えながら、まっすぐデジタルさんを見つめる。

どれだけ時間が経ったのか。それとも一瞬だったのか。しかし僕にとってはようやく、デジタルさんは顔を上げた。

 

「この不肖アグネスデジタルでよければ、お教え、いたしましょうッ……!」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

やった!これには笑顔を抑えることができなかった。

ばたん。またデジタルさんが倒れた。

 

 

「ドロウさんは人体は問題ないようですので、(というか上手っ!ウマッター後で探してみよっ)…失礼しました。シチュエーションとポーズの組み合わせ、になるかと思います。ちなみに、キャラクターは決まってます?」

「はい。ホースガールズグレイってアニメの、主人公のマロンハットってキャラと、その先輩のデウスバルカってキャラなんですけど、この二人あんまり話とかしてなくて…。」

「えぇ…?…ああ、たぶん顔カプ、ですかね…。」

「かおかぷ?」

「顔が好みだから組み合わせた、とかそんな感じのです。」

「なるほど…。長年の謎が解けた気がします。」

 

そんなこんなでデジタルさんに様々なシチュエーションやポージングを挙げて頂きながらラフを描き始めた。

まずこの二人、接点があんまり無い。ゼロじゃないけどほんとに無い。アニメではそんな感じ。じゃあ、キャラクターとしては?マロン(マロンハット)は食いしん坊で天然気味。一方バルカ先輩(デウスバルカ)はミステリアスだけど行動がなんか変。とにかく変。正直この二人が恋人つなぎで見つめ合ってるとか想像もつかない。マロンが天然を発揮して、バルカ先輩が変なことをして…まあとりあえず過程は端折って、恋人つなぎまでは行ったとしよう。ただぼーっと見つめ合ってそうだな…カップリングとするならほんのり頬を染めるとか。バルカ先輩が頬を染めるの想像つかない…けど、マロンはまあ染めてもおかしくはなさそう…な気がする。となるとお互い向き合って、マロンがちょっと照れて、バルカ先輩はいつものミステリアスな笑みを浮かべたまま、と。

どうでしょうか…?おお、デジタルさんから力強い〇のサインを頂いた。よし、本番だ。

 

大体さっき考えた通りだけど、細部はこれからだ。二人の向き合った顔だから、二人とも横顔…というか斜め顔、と言った感じかな。顔がメインだから、体は胸から上、いわゆるバストアップが最適だろう。そしてメインの顔。マロンは少し照れた感じだから、少し顔を逸らしつつ目は合わせたまんま。みたいな。ちょっと顎を引いて頭を傾けて色っぽく…なんて。一方バルカ先輩はいつものミステリアスな笑みを浮かべて、逸らしたマロンの顔を覗き込むように。マロンよりちょっと背が高いから、少しかがむように。そうするとマロンは少し反る感じに…それで忘れちゃいけない手は恋人つなぎ。繋ぐというか握り合うタイプの。もう片方の手はマロンは胸元できゅっと拳を作る感じで、バルカ先輩はフリーにしてだらんとさせたほうがそれっぽいかな。耳はお互いに向ける感じで。あとは細部を描いて………出来た!

 

…出来たけど、なんかちょっと恥ずかしくなってきちゃった。いつもならともかく、今日はデジタルさんに徹底的なレクチャーをして頂いた。キャラの内面とかシチュエーションとかポージングとか妄想優先でやってみるとか。

今までは何となく今日のように仲の良い子を少し観察して、手は抜いてないけどそれっぽく描いて、それでも喜んでくれていたから良かった。ただ、今日はもっとしっかり描いてみたかった。好きなアニメだったからか。それとも最近有名な方に会えるから無意識にそれを期待していたのか。わからない。

ただ確実なのは、今日描いたのは僕の妄想が詰まっているわけで。それを見せるのがなんだか恥ずかしくて。

いつもの絵も似たような気もするけど、これはなにか違うもので……じゃない!違くないけど、今はデジタルさんだ!絵は完成したんだから、さっさと見せないと!…恥ずかしいけど……いくぞ!

 

 

「…デジタルさん。」

「ひゃ、ひゃい」

 

「…その、出来ましたが、どうでしょうか…?」

 

うぅ、顔があっつい。は、恥ずかしい……

 

「…ご」

「ご?」

「ご馳走でしゅ…!」

 

祈るように手を組んで、目を閉じて、鼻から赤い液体を流しながらデジタルさんは倒れた。

 

「で、デジタルさーーーーーーーん!!」

 

幸い皆帰って静かな広場の片隅から、僕の叫びがこだました。

 

放っておくわけにもいかないので、デジタルさんはトレセンに運んだ。

依頼された絵は、友人に見せた途端熱いハグをされて「友よ、腕を上げたな…」と言われた。まあ、よかった。ありがとう、デジタルさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢のようなひとときでした。

きらきらしてふわふわしたショートの芦毛。

整っていながら親しみやすさを感じさせるご尊顔。

可愛らしさとカッコよさが同居する美声。

そして何より、ころころと表情を変え、人懐っこく笑う愛らしさ!

その上!!あの時見せて頂けた作品は、その時の赤らめた顔と共に脳内で永久保存済!!!

 

後悔すべきは、その直後にあたしは気を失い、なんとドロウさんがあたしをトレセンまで送ってくださったということッ!

 

ウマ娘ちゃんを図らずも辱めてしまった上に!普通に大変なご迷惑をおかけしてしまいましたッ!

これ切腹ものでは?辞世の句詠まなきゃ。いや本当に山ほど菓子折りお送りしなきゃいけない案件じゃん。

でもその為にはドロウさんのことを知らなきゃいけない訳で。ウマッターを探し回っているのは必要なことなんです。

 

…見つからない。あそこまでの実力をお持ちならば、ウマッターに上げていてもおかしくはないはず…ドロウワールドという名前やそれに似たニュアンスの言葉で検索しても見つからない。他の投稿サイトでも同じく。もしかして、ネットをしていない…?あり得ない話じゃないけど…諦めきれない。せめて、あの絵をもう一度見たい…!

 

そうだ、あの絵だ。友達に頼まれたと仰っていた。ネットをやっていなくて、お友達さんに代理投稿をしてもらっているという可能性がある。とすると手がかりは……マロ×バル!!!

あたしでも正直驚いたカプ。その他もろもろで忘れていたけど、これなら…!?お!?…これは…!?

 

 

マロン×バルカ先輩を友達に描いてもらいました!(許可得てます)

 

 

あっっった!!!

あたしはスマホを片手に、拳を天に突き出した。

 

「ありがとう…ドロウさんッ…お友達さんッ…」

 

心の底から湧き出る想いを、小声でも声に出さざるを得ませんでした。

…お友達さんもレベル高っ!エッモ!!速攻でフォローさせていただきました。

 

 

 

 

 

「ドロウさん、か。興味深いねぇ…。」




大変お久しぶりです。
不定期にも程がありすぎますね。
また次回がいつになるのか分かりませんが、よろしくお願いします。

2024/08/03
誤字報告にて「競走バ」を「競走ウマ娘」に変更しました。
誤字報告ありがとうございました!
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