Clock Collector & Pacifist(完結)   作:ファルメール

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第31話 決戦開始

 

 その日は快晴。

 

 雲一つ無い、抜けるような蒼穹が広がっていて、まさに延空木の完成セレモニーの為にあつらえたような天気だった。

 

 既に、地上部分では落成式が開かれていて大沼都知事の他にも各界の著名人が詰め掛けている。

 

 そんな平和の象徴となるべき新電波塔の内部では、物々しい銃器で武装した少女達が集まっていた。

 

 完成した延空木の様子は地上からは勿論の事、ドローンやヘリのカメラからも映像中継されていて、リアルタイムで配信されている。

 

「それにしても、本当にやる気か?」

 

 その映像は、クルミが装着したVRゴーグルにも流れていた。

 

「今更それ言うの?」

 

 肩越しに振り返ったミズキが言う。

 

「確かに、たきなが考えているような作戦を敵が執ってくるとしたらこれしか方法が無いのは分かるが……一歩間違えれば、テロリストの作戦を待たずしてこっちが自爆する羽目にもなりかねないぞ?」

 

「だーかーら。あんたが居るんでしょ?」

 

 このやり取りは既に幾度か繰り返されていたので、ちょっとだけ苛立ったように返すミズキ。

 

「刹那が機密情報と引き替えにクラッキングの事を目零ししてくれるようDAに頼んだのよ? もう追われる立場じゃなくなったんだから、キリキリ働けぃ」

 

「それは分かっている。ボクは勿論ベストは尽くすが……そうじゃなくて根本的に作戦に問題があるんじゃないかって話だ」

 

「しかし、無視する事は出来ない可能性だ」

 

 クルミが座る座席に手を掛けて、ミカが言う。

 

「相手に先手を打たれてからでは遅い。そして機先を制する手は、恐らくこれしかない」

 

「おい、始まるぞ」

 

 クルミが広げたノートパソコンにも、同じ映像が流れていて、いよいよカウントダウンに入った。画面に「5」が大映しになった。

 

「4」

 

「3」

 

「2」

 

「1」

 

「行くぞ……」

 

 タイミングを合わせて、トップハッカーの指が熟達したピアニストのようにキーボードを叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 僅かに時を遡って、延空木内部。

 

 既に潜入しているであろうテロリストの退路を封鎖するように配置されたリコリス達。その中で、サクラが手にするスマホにも同じ映像が流れていた。

 

「先輩……」

 

「うん?」

 

「今更言っても仕方無いっすけど……大丈夫なんすかね、この作戦……」

 

「それこそ今更だろ。もうここまで来たら腹を括れ」

 

 恐らくは自分も感じているだろう「もしかしたら」という感情を押し殺して、フキが返す。

 

「けど……一歩間違えたらあの二人どころか、私ら丸ごと終わりっすよ?」

 

「この作戦にゴーサインを出されたのは司令の判断だ。私達はそれに従うだけ……大体サクラ、お前もリコリスなら立場以前に、殉職も覚悟の上で仕事してんだろ。今更ジタバタしても始まらねぇ。あいつらを信じろ」

 

 語気を強めて、フキは言い切った。

 

「見ろ、あの二人を」

 

 パートナーの指差した先に、サクラが視線を送ると……

 

 たきなは、ライフルを抱えて無言で眠るように落ち着いて瞑想している。

 

 そして王利絵は……

 

 出てもいない汗をしきりに拭い、トランクから取り出したミネラルウォーターをガブガブと飲み干して、所在なさげにうろついては他のリコリスと私語を交わしている。

 

「……」

 

「……あれは悪い例だ」

 

 と、フキ。

 

 いずれにせよもうこの状況で彼女達に出来る事は無い。

 

 全てはこれからこの映像に登場するであろう、ここには居ないたった二人に委ねられたのだ。リコリスの命運も、この国の安全も。

 

 スマホの画面に「1」の数字が大きく表示されて、そして。

 

 いきなり、延空木内部通路の映像が表示された。

 

 その通路には、武装した男達がずらりと警戒態勢で並んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 東京の一千万都民が、今は一様に困惑の渦中にあった。

 

 本来ならこの時間帯は延空木の完成セレモニーが大々的に行われる筈であり、カウントダウンによってその瞬間の感動を全員が分かち合う筈であったのだ。

 

 しかしカウントが0になった瞬間に表示されたのは、延空木内部通路の映像。

 

 重火器によって武装した、どうみても警察官や自衛隊には見えない悪人相の男達。

 

 困惑しているのは一般市民や政治家だけではなかった。

 

 延空木内部のモニターにも同じ映像が流れていて、男達は自分達の姿がリアルタイムで表示されている事に戸惑っているようだ。その中の何人かは、この映像がどこから撮影されているのかとカメラの位置を探している。

 

 だが画面の中で、きょろきょろと彷徨っていた男達の視線は、やがて一方向へと集まっていく。

 

 カツカツとした足音が聞こえて……

 

 そして角を曲がって、二つの人影が姿を見せる。

 

 赤い学生服を着た、二人の少女。

 

 一人はショートカットにした金色が掛かった色素の薄い髪の、快活そうな少女。

 

 もう一人は猫背の長身で、肩甲骨の位置にまで伸びた白い髪をした少女。

 

 千束と、刹那だ。

 

 この状況で、しかもたった二人のリコリスが現れたのは想定からはあまりにも外れていて、テロリスト達も戸惑っているようだった。本来ならば即時発砲する所ではあるが、銃口を向けるだけに留まっている。

 

「あーあ、私も遂に全国デビューかぁ」

 

「女の子なら、一度は憧れた事あるんじゃないの? 女優とか、アイドルに」

 

「まぁねぇ」

 

 世間話のように、軽く言葉を交わしながら二人の少女はくるりとステップを踏んで、男達に向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、阿部さん!! あれ……千束ちゃんと刹那ちゃん……ですよね?」

 

「お、おう……」

 

 錦糸町の街頭モニターにも同じ映像が流れていて、喫茶リコリコの常連客である阿部刑事と三谷刑事が、唖然と見上げていた。

 

 きっと彼等以外にも、十名足らずの人間がこの時間に、同じ感想を抱いているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、行こうか」

 

「えぇ」

 

 千束と刹那は制服の襟に手を掛けて……マントのように脱ぎ捨てる。

 

 サード・セカンドの憧れである赤い制服の下から現れたのは……

 

 千束はフォーマルな赤いドレス。刹那は胸元が大きく開いて、ロングスカートに大胆なスリットが入った白いドレス。

 

 これから社交界にでも繰り出そうかという装いの少女達が持つのは、千束の右手と刹那の両手、合わせて三挺の銃。

 

「4年と3ヶ月と19日振りの、私達のコンビ」

 

「『Distorted.Hearts』の再結成だよ!!」

 

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