どくいも氏から掲示板の投稿で結構な設定爆弾が飛んできて、私は宇宙ネコみたいな顔になりましたよ……。
キャラ達の行動原理……どうしよっか……分からん。分からんからとりあえず、寝よう!
となり停滞しておりました。
まさか修行用ダンジョンがああだったとは、リハクでも読めはしまい。
確かに最初のほうで言及あったけど、あんな大規模だとは思わないじゃん(じゃん)
ルーシー・ウォーカー:穏健派、北米よりきた
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
雑然とした放課後の空気の中、みな帰路に就く。
仲が良いグループごとに、ある人たちは部活へ、ある人たちは寄り道へ、そして小数の人たちは個人で何かを。
私もその少数派の個人である。
私の家はそこまで裕福というわけでもないが、祖母の世代ではそこそこの家だったようだ。没落というほどでもないが裕福でもない。
だが母と祖母は是非とも通ってほしい、と私をこの学校に通わせようとし、私もそれに応えた。
……だが、私ではこの学校のお嬢様方とは合わなかったようだ。
別にいじめられているというわけではない、個々の方々は良い人たちだし、あれこれ気遣ってくださる。
だが、彼女たちの持っているものが私とは違いすぎた。
楽しんだイベント、訪れた場所、参加したパーティー、あった人々。
どれも私では体験することがでない事々。
人は話の合う同士でグループを組む。会話のレベルの違う私ではそのグループに混ざることはとてもできない。
でも両親に文句を言うことは、とてもできない。
金銭的な部分で若干無理をしていると思われる親にこれ以上負担はかけられない。
今思えば、普通の中学校に進学すべきだったのかもしれない。せっかく通っているこの学校で友達もできない私の意味とはいったい……
小学校時代には普通に友達もいた、彼女たちは普通の中学校に進学していったけれども、今どうしているのだろうか。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると曲がり角で人とぶつかってしまった。
「キャ」
ぼんやりとしていた私は何かにぶつかり尻餅を付く。運動神経が微妙な私と違ってぶつかってしまった方は、逆にまるで柱のように微動だにしていなかった。
「あら、大丈夫」
「あ、すいません……」
顔を上げれば、そこにいたのは3年生の東藤先輩だ。その白く美しい髪の毛と冷たい雰囲気、そして女子としてはやや高めな身長から氷姫との異名を持っている方である。ま、まずい……東藤先輩はいろいろな噂が立つお方だ。噂の内容は様々だが、恐ろしい方であるのは衆目の一致するところ。
謝らないとまずいと跳ね起きようとして私はまた転ぶ。
「ご、ごめんなさい、わ、私は大丈夫です!」
「焦ってはだめよ……ほら手を取りなさい」
クスクスと笑いながら手を差し出す東藤先輩。その手を見ながら逡巡する。この手を取るのは失礼か、それとも手を取らないほうが失礼なのか。
意を決してその手を取れば、立ち上がるように引っ張ってくださる。力強く引っ張ってもらうが、その力は父より強いのではないかと思うほどだった。
「ボケっとしているようではだめよ。この学校に通っているのであれば淑女であることを意識なさい」
「は、はい。気を付けます」
「気を付けるのよ、ではごきげんよう」
「ご、ごきげんよう」
東藤先輩が去っていくのを見送る。何人もの方々から挨拶され返していく先輩は輝いている。ちんちくりんの私と違い、身長もあり、出るところが出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるその姿はうらやましい。
嫉妬はよくないとは分かっていても、その思いは抑えられない。神様は平等だと言うが、現実は残酷だ。先輩と私、同級生と私、どれのほどの差があるというのか。
……わかっている、生まれなどによって人は平等ではない、だが平等でないことが不幸であるわけでも無い。同級生も苦労している部分はあるのだろう。グループで人付き合いの苦労を愚痴っているのが聞こえてきたりもする。
胸中の悪しき心を抱える私の足は自然と教会へ向く。この学校には教会が併設されており、夕方までなら誰でも訪れることができる。とはいえ、授業以外で訪れる人は少ない。この日本には熱心な信徒は少ないからだ。
だが今日はその例外だったようだ。中に入れば、礼拝所と椅子がならんでおり普段は人っ子一人いない光景に女性が一人座っているのが見える。その髪色は日本では見られないブラウンだ。女性は眼を閉じ手を組み祈っているように見える。
(このへん描写確認)
着ている服は私と同じこの学校の制服だし、最近転校されてきたアメリカの方かもしれない。彼女は私が扉を開けた音に気付いたのか立ち上がりこちらを振り返る。
「コンニチワ」
「こ、こんにちわ」
日本語で挨拶されてしまった。日本への留学生なのだろうけど、やはり発音は日本人とは違う。お互いに固まっていると、彼女のほうから口を開く。
「あー……」
彼女は何かを言うとして迷っていたが、日本語で会話が難しいのか、英語で話しかけてくる。
『悪いけど英語は使えるかい?』
『少しであれば大丈夫です』
『ステイツでも聞いていたけど日本人は謙虚だね。それだけ話せれば十分じゃない。私はルーシー・ウォーカーだ』「ハジメマシテ」
『私はタエコ・ニノミヤです。よろしくです』
『よろしく、タエコ』
手を差し出してくるのがとてもアメリカの方っぽい。私はその手を握り返す。日本で握手で挨拶するなんて、なんだか奇妙な感じだ。
『ここには祈りに来られたのですか』
『そうさ、この国には教会が少ないからね、学校にいる間に祈っておこうと思ってね』
なんと熱心な方だろうか。授業以外だと私以外にここを利用される方を見たことが無かったのに。やっぱりアメリカの方は宗教に熱心なのかしら。
『あなたのほうこそ熱心じゃないか。日本じゃ祈りを捧げる人はあまり居ないって聞いてたけどね』
『その……』
『言いたくなければいいさ、人には言いたくないこともある。だが神は見ておられる。告解するのもいい』
『あ、ありがとうございます』
言葉はぶっきらぼうなところがあるが優しい人だ。祈りを捧げていたこともあり、私はなんだか初めて会った眼の前のルーシーに親近感を抱いてしまう。
~♪
『おっとすまん、電話がきたようだ。私は失礼するよ』
そう言ってルーシーは携帯電話を取り出しながら教会を出ていく。教会内に沈黙が満ちる。
私は椅子に座り眼を閉じ手を組む。
ああ神様、どうして世の中は不公平に満ちているのでしょうか。苦しんでいるものにあなたの手は私には届かないのでしょうか。
自分本位の祈りは悪いとはわかっている。だがそのように祈らずにはいられない。
周りの皆とくらべてどうして自分はだめなのか。家柄もスタイルも見目も、そして頭だって……みんなずるい。
一頻り祈ったが、神の声は聞こえなかった。私のようなだめな子には神様もあきれているのかもしれない。
「……人の子よ……」
今なにかが聞こえたような気がした。
いや幻聴だったのか……祈りすぎてすっかり辺りは暗くなってきている。そろそろ施錠のために先生が来てしまう。帰らなければ。
そう思いながら席を立ち、扉に向かう。
私の背後に鳥の羽が落ちていることに気づかずに……
・
・
・
・
・
その後も事あるごとに私は教会に足を運び祈っていた。
ルーシーさんとは時々会って、たわいない会話をしていた。会うたびに日本語が上達してきており、今では日常会話は日本人と遜色ないところまで上手くなっている。
そして、彼女はメシア教という分派であり、日本支部に派遣されてきたのだとか。まだ学生の身分だからこの学校に転校してきており、普段は別の、もっとちゃんとした教会に詰めているとのことだ。
「ルーシーさんは神様の声を聞いたことありますか?」
「いや無いなぁ、神の声が聞こえるほどの高僧でもないしね。ただ天使の声を聞いたことはあるよ」
天使様の声を聞いたことあるだなんてすごい! やはり本当に神に仕える方は私とは違う、本当にそう思う。
「すごいなぁ、私なんてなにも……」
心が冷えていくような気がする。
「私の仲間のような敬虔な僕でもなかなかないから気にしないほうがいい」
「じゃあ……私がメシア教に入信すれば聞こえるようになりますか?」
「はは、仲間になるなら歓迎するよ。ただ修行は厳しいし、なによりまずは学校を卒業しようね」
すこし心が軽くなった気がする。誰でも聞こえない、でも聞こえる人もいる。私も修行をすれば聞こえるようになる。
「はい、そのときはよろしくお願いします」
「そうかい、そのときはよろしくな」
ルーシーは手を出してくる。握手ということだろう。この握手は将来の仲間にということなのだろうか。私は腕を掴み返し、そして振る。これは願掛け。
「じゃあ私は失礼するよ、さようならだ」
「ええ、さようなら、また明日」
一人取り残される私。少しばかり神に祈る。神様今日も世の中は不公平に満ち溢れております、どうかアナタの力で世を平穏にしてください。
意味のない祈り、私の我儘。だが、その時自分にとっての奇跡が起きた。
『人の子よ聞こえますか』
えっ?何か聞こえる気がする。もしかして疲れて幻聴が聞こえるようになったのか。
ふと目を開ければステンドグラスを通して降り注ぐ夕日が人の姿を照らす。今は私しかいないはずなのに。
「えっ、どちら様ですか」
『聞こえているようですね、私は天使、パワーの位階を持つもの。あなたの祈りに応じて参上した』
「ほ、本当に天使様なの……?」
えっ嘘、鎧を着込み羽の生えた人?*1が見える。本当に天使様なの?私の祈りが通じた……?
じゃ、じゃあ聞いてみなければ。
「その天使様、どうして世は不公平に満ち溢れているのですか」
『人の子たちが間違えているからです。神の声に耳を傾けない者が増えるのは嘆かわしいことです。ですが安心なさい、いずれ神の名のもとに平穏が訪れます』
心があたたまるような気がした。神様は人を見限っているわけじゃないって。
「そ、それはいつごろになるのでしょうか」
『神に非ざる私ではそれを答えることはできません。ですが、多くの天使と人の子が協力しており、近いうちに訪れるでしょう。貴女も協力してはくださいませんか?』
「わ、わかりました。その……非才の身ですが、精一杯がんばります。」
『ええ、お願い致します。……私が現世に顕在できる時間は少ない。また会いましょう』
そういって天使様は薄っすらと消えていく。自らの目標が立ったとでもいうのだろうか。今までの陰鬱な気分が消えていく。私は足取りも軽くすっきりとした気分で教会を後にする。
それから学校がある日は毎日教会に通い、天使様と言葉を交わす。なんでも北米では神を信じない愚かな人と、人を騙す悪魔のせいでとても大変なことになっているという。テレビのニュースでは出てこない情報だけれども天使様の言うことだからきっと本当。
それにヨーロッパでは大分神を信じる人達だけになっているというし、平穏が訪れる日は近いと信じられる。
『人の子よ、この日本という国ではなかなか理解者が増えません。協力者を作る為、手伝ってくれませんか』
「手伝いはしますけど、何をすればよろしいのですか」
『人をここに連れてきて頂きたい。私が見る所によると白い髪を持った少女が見えます』
白い髪といえばこの学校には一人しか居ない、東藤先輩だ。あの先輩が仲間になってくれれば百人力だろう。私は喜んで請け負う。
「わかりました。多分東藤先輩のことだと思います」
『そのものは新たなるマリアとなる力を秘めている可能性があります。協力いただければ、また一歩、平穏な世が近づくでしょう。頼みましたよ人の子よ』
今日もまた姿が薄れ消えていく天使様。最後に言った言葉を反芻すれば、人を呼んでほしいという。
確かに東藤先輩は不思議な力があるという怪しい噂もあった。人を凍り付かせる魔法を使う魔女だっていう事を言う人もいた。あだ名が氷姫だからっていくらなんでも魔法を使うだなんてちょっとどうかと思っていた。でも天使様が評価するってことは、あの噂は真実だったのかしら。
ただ、私が誘ったとして来てくださるかしら。
・
・
・
・
・
お誘いする手段をあれこれ考えたけれども、自分に思いつく手段があまりなく。手紙を下駄箱に居れることしか思いつかなかった。
周りに人がいらっしゃる東藤先輩に直接話しかけるのは難しいし、なにより学年が違うから出てくるところを待っていれば怪しまれる。
でも手紙でも来るって信じています。だって天使様のお言葉なんですもの。
そして思いは通じた。
教会内の最前列に座っていた私の耳に扉が開く音、そしてコツコツという足音が聞こえる。私は祈りの姿から目を開き、指を解き立ち上がり声を掛ける。
「東藤先輩、来てくださってありがとうございます」
私の声に対し、先輩の返答は冷たいものだった。
「あなたが、二宮さんね……手紙にはいろいろ書いてあったけれども、宗教の勧誘はお断りするわ」
「そ、そんな……」
『人の子よ、彼女の決意は固いようです。……ですが、是非とも協力者になってもらわなければなりません。人の子よそなたの力をもらいますよ』
「そこまでだ。異端の天使め」
私が決意した瞬間、扉が大きな音と共に勢いよく開かれた。
そこにいたのはルーシーさんだが、いつもと服装が違う。いつもの制服ではなく、装飾が施された修道服を着込み、その手には杖が握られている。そしてその目は鋭くこちらを見据えている。
『貴方も同じ神をあがめる信徒でしょうに、何故私と敵対的なのですか?しかし邪魔をするというのならよろしい、神の怒りにて貴殿を滅ぼして進ぜよう』
「神の名をみだりに唱える堕天使めが、滅びるのは貴様だ。
……そこの東藤とか言ったか、ここは戦場になる。早く逃げるんだ」
「まったく、身内の争いは私抜きでやってくださるかしら」
『逃がしませぬよ』
なにかが私から吸い出されるのを感じつつ、私の意識は暗転した。
チャイムの音が鳴り、放課後を知らせてくる。周りの女子達はグループごとに帰宅の途につく。
私は誘われない、日本人達の間に私のような顔立ちは異物だ。転校したての頃はあれこれ聞かれたが、宗教的なお勤めがあるとわかると誘われなくなった。
だが排除しないのはこの学校の生徒達の育ちがいい故だろう。
この学校は、メシア内の裏切り者のせいで召喚されたあのクトゥルフが引き起こした惨事からみればあまりにも平和だ。
あの事件の後、メシアは割れた。過激派といわれる異端の一派はこれを機に世界を浄化せしめんと行動を起こし。
我々穏健派といわれる一派はそれを掣肘しようとしたが力及ばず、この極東の日本に逃れる羽目になった。過激派と言われる一派には、信じがたい事だが大天使も力を貸しているという。これが神の思し召しだとは信じたくはない。あれは大天使の暴走だという人もいるがそれに頷かざるをえない。
そして日本に逃げてきてみれば、日本支部の風下に立たされるのは仕方ないのかもしれないが、どいつもこいつも緩すぎる。
日本支部トップからして穏健派というよりは非戦派のような有様で、これで過激派に対抗できるのか不安だ。トールマン殿がトップに立つのもむべなるかな。
テンプルナイトの幸子殿のほうが力を感じるくらいだ。
日本国内で過激派天使がリクルートの可能性ありということで、私がこの学校に通っているわけだが、懲罰的配置なのか、島流しなのか、休息を与えられたのかも分からない。
分からないまま私は人の流れに逆らい、教会に足を向ける。
この学校はメシア教のものではないが教会が併設されている。おままごとみたいな宗教教育もカリキュラムに含まれていたが、どうしてこのような状態が許されているか分からない。きっと日本だからなのだろう。
教会内に足を踏み入れれば人っ子一人いない。嘆かわしい限りだが、日本人は宗教に熱心ではないと聞く。止められてはいるが、日本人を信徒にすることも考えなければならないのかもしれないな。
人気のない教会の最前列で私は祈る。
神よ、私に過激派なる異端たちと戦う力をお与えください。そしてあなたの言葉で堕落した天使と私達をお導きください。
祈っていれば後ろから扉の開く音がする。誰かが来たのか、それともここを閉める時間になってしまったのか。
振り返ってみれば生徒なのだろう、女子が一人歩いてくる。しかし日本人は若いというか見た目が子供に見えてしょうがない。本当にこれでミドルスクールの生徒なのだろうか不思議だ。
だが見どころのある生徒じゃないか。少なくとも授業以外で教会に足を運ぶ人がいるというだけ嬉しくなる。
「コンニチワ」
うーん、慣れていないせいか滑舌が良くないな。日本で活動する都合、日本語を覚えろとは言われているが、話し言葉だけなら覚えられそうだが文字がF○○Kだぜ。なんだよ三種類の文字を使うとか、マジ理解できない。
挨拶は基本だが、一応伝わってはいるか。だが……うーん、伝えたい言葉が日本語じゃさっぱりでてこないな。しょうがない。
「あー……」『悪いけど英語は使えるかい?』
英語、授業でやってるし少しは通じるだろう。多分、きっと、メイビー
『少しであれば大丈夫です』
おー英語できるとは感心じゃないか。日本人は英語できるやつが少ないとは聞いていたが、やはりこの子は例外か。
『ステイツでも聞いていたけど日本人は謙虚だね。それだけ話せれば十分じゃない。私はルーシー・ウォーカーだ』「ハジメマシテ」
『私はタエコ・ニノミヤです。よろしくです』
『よろしく、タエコ』
ついステイツのノリで手を差し出してしまう。こっちは頭を下げるのが普通なんだが、まあ通じるだろ。そう思ってりゃ意を決したように握り返してくる。
『ここには祈りに来られたのですか』
『そうさ、この国には教会が少ないからね、学校にいる間に祈っておこうと思ってね』
この東京はマシだが、本当に少ない。土地面積あたりの教会数なら、もしかしたら変わらないかもしれないが、ステイツほど立派な教会は少ない。
もちろん祈りに教会の立派さは関係ない。神に祈ることが重要なんだが、ある種の拠点としては使いづらい事甚だしい。
『あなたのほうこそ熱心じゃないか。日本じゃ祈りを捧げる人はあまり居ないって聞いてたけどね』
『その……』
『言いたくなければいいさ、人には言いたくないこともある。だが神は見ておられる。告解するのもいい』
『あ、ありがとうございます』
もしかしたらあたりかもしれないな、この子は。止められていなければメシア教に招きたいくらいだ。だが私達の会話を邪魔する音がポケットの中から響く。
~♪
この音は教会関係か……なにか動きでもあったかな。
『おっとすまん、電話がきたようだ。私は失礼するよ』
そう分かれの言葉を告げながら私は教会を出ていく。そして電話に出れば、聞きたくもない声が聞こえる。
『ルーシーだ』
『マイクだ。ルーシー、その近辺でマグネタイト濃度に変化が現れている。悪魔だった場合は根願寺という日本の担当が対処するが、天使だった場合はおまえさんが対処に当たれ』
『了解した、増援はくるのか?』
『今のところは無い、単独で対処に当たれ。必要と判断した場合はこちらに連絡をよこすんだ』
『アイ、コピー』
本部からの通達か。直電を書けてくる段階で穏やかな話しじゃないとは思っていたが、面倒なことになりそうだ。日本の霊能団体は何をしているんだ。ステイツで聞いた限りじゃ根願寺とかいう団体では無く、ガイア連合とかいうのが実質仕切ってると聞いていたが。ここ東京じゃなにもしてないのか、困ったね。
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それから数日立っても何も出てこなかった。初日は緊張感を持って学校中をうろついていたが何も出てこなかった。二日目も三日目も何も出てこなかった。もう、あれは本部のミスなんじゃないかと思ってきた。とんだ無駄足だ。
だが、教会に足を運べば妙子がいる。毎日会話をしていれば悩みの相談も受ける。神に仕える者の端くれとして告解……いやただの人生相談か……を受ければ、年齢は同じでも日本という温室育ちよりは人生の先輩の私が答えられることもある。
だが、この質問はなかなか答えづらいな。
「ルーシーさんは神様の声を聞いたことありますか?」
「いや無いなぁ、神の声が聞こえるほどの高僧でもないしね。ただ天使の声を聞いたことはあるよ」
私もメシア教徒のはしくれ、契約している天使もいる。地雷付き天使召喚プログラムを技術班が解析、問題部分を削除したものを配布してくれたおかげでさらなる強さを手に入れてはいる。
だが力は必要な時、必要なだけふるうものだ。妙子にはちょっと刺激が強いだろう。
「すごいなぁ、私なんてなにも……」
「私の仲間のような敬虔な僕でもなかなかないから気にしないほうがいい」
「じゃあ……私がメシア教に入信すれば聞こえるようになりますか?」
「はは、仲間になるなら歓迎するよ。ただ修行は厳しいし、なによりまずは学校を卒業しようね」
その清らかな心があればきっと良い信徒になれるだろうさ。調べてみないと分からないだろうが、もしかしたら信仰の力すら振るえるようになるかもしれない。
「はい、そのときはよろしくお願いします」
「そうかい、そのときはよろしくな」
ならば握手だ。前途ある若者に祝福のあらんことを。
「じゃあ私は失礼するよ、さようならだ」
「ええ、さようなら、また明日」
また明日。いい言葉だ。今日と同じ明日が続くことを感じさせてくれる。今のステイツじゃとてもじゃないが言えないことだろう。
出ていく私だったが、後ろで急速にマグネタイトの高まりを感じる。まて、一体何が起こっている。ばれないようにゆっくりとのぞき込めば、そこには天使の姿が薄っすらとだが見え、そして妙子と何か会話をしているようだ。
気配を感じさせないようゆっくりと後ずさりし、ポケットから携帯を取り出しコール。すぐさまでた人間に報告する。
『こちらルーシー、今通っている学校の教会内に天使出現、推定階位パワー、本部側でなにか把握している存在か?』
『ちょっとまってくれ……いや、本部では把握していない。過激派か、それとも自然発生かは不明だ』
『学校の生徒と何かしらの会話を行っていた』
『興味深い行動だ、できるだけ近づいて行動を監視しろ』
くそ、殴り込んでさっさと片付けたいが、この日本じゃ素早い武力行使は少々まずいか……せめて私の装備が使えれば。
『誰か派遣できないか?もしくは私の装備の使用許可をくれ』
『派遣についてはネガティブだ、人が足りん。日本支部の人員はあまりアテにできん。だが、装備の使用許可はしよう。使ったら書類を書いておけよ』
『おーけーわかったよ。ではこれより監視行動を行う』
『健闘を祈る』
健闘を祈るね……私には100万分の祈りが必要だな。あの天使が善なるものであればいいが、過激派の紐付きの場合……場合によっては妙子を処理しなくちゃいけなくなる、気分が悪くてかなわんね。
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・
その後監視を継続しているが、天使の野郎は妙子と話すばかりで何か事を起こすわけではなかった。だが妙子はどんどん元気になっていった。ステイツ時代のやばい薬に手を出したやつのような元気さだが、どう考えてもあの天使が信仰を違えさせ、なにかの目的を吹き込んでるように思えた。だが私はそれについて質問することはなかった。どこからこちらを把握されるかわからないからだ。すまんな妙子、真実を言うことはできん。だが神は許してくださるだろう。
そしてついにその日がきた。妙子が手紙を誰かの下駄箱に入れたのをみた。普通であれば先輩後輩の憧れや、好意からくる微笑ましい行為だったのだろう。だがそれは誰かを死に誘う呪いかもしれない。
下駄箱の主は、3年の東藤春華、私ですら耳にする有名人だが、彼女が天使の琴線に触れる何かを持っているのか、それともただの妙子の呼び出しなのか。
放課後、東藤を追ってみれば教会に足を向ける。今日ほど教会を恐ろしく思える日は無い。普段は神の息吹を感じる場所だが、今は処刑場のように感じる。
中に入ったのを確認した後、私は自らの装備品に身につける。聖別が施された修道服と悪魔召喚プログラムが仕込まれた杖。修行でも戦闘でもあんなに力強く感じていた装備が頼りなく思える。だが行かねばならぬ。
扉に聞き耳を立ててみれば天使の声が聞こえる。
『人の子よ、彼女の決意は固いようです。……ですが、是非とも協力者になってもらわなければなりません。人の子よそなたの力をもらいますよ』
くそ、協力者と書いて道具とでも言いたそうな言い分を聞き、決意を固め扉を開け放つ。
「そこまでだ。異端の天使め」
『貴方も同じ神をあがめる信徒でしょうに、何故私と敵対的なのですか?しかし邪魔をするというのならよろしい、神の怒りにて貴殿を滅ぼして進ぜよう』
「神の名をみだりに唱える堕天使めが、滅びるのは貴様だ。
……そこの東藤とか言ったか、ここは戦場になる早く逃げるんだ」
「まったく、身内の争いは私抜きでやってくださるかしら」
『逃がしませぬよ』
天使は妙子のマグネタイトを吸い、今までの半実態状態から実態にその姿を変える。あまりに強く思える。私でも足止め程度しかできそうにない。そして何故か私の警告を意に介さず東藤は佇んでいる。何をしているんだ早く逃げろと心のなかで叫ぶが、あまりにも平静で逆に私が困惑する。
『さて、顕在化した私を前にその胆力は見事なものです。ですがついてきていただきますよ』
天使は手を差し出す。手を取れということなのだろうが……
「宗教の勧誘はお断り、そう申し上げたはずです……【ムド】!」
東藤の手から呪いが放たれる。見たものを死に誘う気配だ。確かに天使は呪いに弱い、だが何故そんな力を!?
『うおおおおお……』
まとわりつく死の気配に侵されつつある天使。その強烈な呪の気配は天使すら殺せると私の心が言っている……だが、一撃で天使を殺ったのか?
『だ、だがその程度では私を殺すことはできません!教会にいる限り、神の愛につつまれた私を呪い殺すことはできないと知れ!』
呪いを振り払った天使は死をも超越したように感じさせる。あれに人は勝てるのか?私が目を見開いたまま固まっていると東藤はこともなげに言う。
「そこの方、手伝ってくださいますか?少々この天使は硬いようですので」
いや硬いというレベルなのか?
「まて、まさか勝つ気……なのか?こんな高位の天使なんだぞ!」
「殺せるものは殺せる。ここ数年で私が学んだことです……来ます!」
天使パワーが手持ちの槍を振りかぶり、空中を滑るようにこちらに突っ込んでくる。
お互い横っ飛びで避けるものの、教会内の椅子が吹き飛ぶ。私にとっては天の国への直行便となるだろう威力だ。
天使パワーは私の事が眼中にないのか、はたまた向こうを優先しているのか、東藤にのみ攻撃を加えている。
だが東藤もさるもの、致命的なダメージにならないよううまく避けている。だが避けるだけでは勝てない。
ああ、くそ。援護したいがあまりのスピードに手を出しあぐねる。しかし”何か”はしなければならない。私は杖を握りしめ叫ぶ。
「我が契約せし天使エンジェルよ、いまここに参られたし」
杖に仕込まれた悪魔召喚プログラムを通して、私の契約した天使を現世に召喚する。
『求めに応じて参上した、我が契約者よ』
「目の前のあの天使をどうにかする。手伝ってくれ」
『残念だが直接的な攻撃は、彼の者の方が階級が上の為できない。癒しの奇跡を与えるのが精一杯だ、許してくれ』
これだから天使は石頭なんだ。過激派に大天使が多数ついてしまったが故にこちら側の天使は不利な状況に置かれている。裏切ることはないのがマシなところだが、攻撃的な対処がしづらい。こうなれば私が直接やるしかない!
向こう側では東藤が避けきれなかった攻撃を受け吹き飛ぶのが見える。
そこに間髪いれず追撃を仕掛ける天使パワーに対し、私は握りしめた杖を振りぬく。
ガッ
攻撃をそらすことができた代わりに私は吹き飛ばされ壁にぶち当たる。
天使と人間の差というものがよくわかる結果であり、私の臓腑の中の空気が口を通じて吐き出される。つまり一撃でノックアウトされたということだ。
私の天使エンジェルが癒しの奇跡をかけてくれるが、一撃で食らったダメージを癒すのには少々足りない。
かすむ目で見れば東藤は体制を立て直していた。だが見た目にはダメージが蓄積しているようにみえる。増援が必要だが、そんなもんあるのか?私もとんだ貧乏くじだ。本部が気づいて増援をよこしてくれれば……
『そろそろ我々に協力していただけませんか?』
「ごめんなさい、実家の宗教は仏教なの。だからそちらの宗教には入信できませんの」
『さようですか……では申し訳ありませんが、手荒に同行していだきましょう』
突きつけた槍を振りかぶる。その時、扉が勢いよく開く、いや吹き飛ばされ何かが突入してきた。突入してきた何かは男であり、銃を乱射しながら天使パワーに飛びかかる。そして銃の先には銃剣がついており突き刺すつもりか切先を向けている。
だが銃弾も銃剣も天使パワーの持つ盾に阻まれるが、男は盾自体を蹴り飛ばし後方へ跳躍。そして私が気づかなかったもう一つの4つ足が男の上から飛びかかる。
【牙折り】
4つ足はデカい犬であり、天使パワーそのものではなく、手に持つ槍の柄に食いかかりへし折る。
「春華大丈夫か!?」
「ええ大丈夫です、ただ少し遅いですわ玲治さん」
「すまん、さすがに見られないようにここに移動するのは骨が折れた。明日のニュースには出るかもな」
そう言うと持ってきた銃を東藤に投げる。見たこと無い銃だ。M16でもM4でもない、FNCに見えなくもないが……いや今はそんな事を考えている場合じゃない。目の前にいる天使がやばいやつだと警告しなければ。
「おいあんた、どこの部隊だ。そこの彼女と知り合いみたいだが……」
「あー、逆にあんたがどこの人間か気になるんだがね。その服、メシア穏健派か?」
「それを知っているということは根願寺……いやまさかガイア連合か!?」
ガイア連合、東京でも活動していたのか!?ということはそこの東藤はエージェントだったのか?
そして無視された天使パワーが口を突っ込んでくる。
『私を無視しないでいただきたい。邪魔立てするような方には神罰がくだりますよ』
「何が神罰だよ、神の声が聞こえないポンコツのくせに。春華、殺るぞ。小次郎もいいな」
「はい」「ワン!」
『我らを愚弄するとは許せません。我は天使パワー、神罰を執行する!』
《サモン:エンジェル》
【挑発】「こい、罰当たりな天使ども!」
男が天使たちを挑発し、腰に下げた刀を抜刀する。そこからは先程の戦いとは比べ物にならないくらいの殴り合いだった。
男が刀を振り抜けばエンジェルは真っ二つになり、天使パワーをもじわじわと削っていく。男は持っているスキルによって天使パワーの持っていた鎧や盾をじわじわと削り取っていくし、ついてきた犬は恐るべき事に衝撃を発生させ吹き飛ばしたり、素早い動きで翻弄する。フリーになった東藤は集中し魔法を唱える。そしていつの間にかカボチャの化け物(ジャックオーランタンのように見える)が炎をぶつけている。
これがガイア連合の戦い方なのか!?
【チャージ】【コンセントレイト】【ザンマ】【アギラオ】
《怪力乱神》
半ばからへし折られ無惨な姿になった槍だったが、天使パワーの渾身の力で突き出せば、目にも留まらぬ速さで男に突き刺さる。だが……嘘だろ?刺さったままニヤリと笑っているとか、イカレてやがる。
「これで止めだ、俺の女に手を出すやつは死ね」
【暗夜剣】【ブフーラ】
男の刀が霞むように消え、天使パワーが切り刻まれ、たまらずたたらを踏む所で体が凍りついてく。
『わ、私を倒したところでいずれ天の国は来ます。早いか遅いかの違いでしかありません。協力しなかったことをこうか……』
最後まで言い切ること無くマグネタイトの霧と化す。終わった……のか。信じられんものを見た、あの階級の天使を人間が倒すとは。
信じられないものを見、ボケっとしてしまう私に男は声をかけてくる。
「ボケっとしてないで、説明してくれ、ここで何が起きたんだ?俺は……春華に助けてくれって言われて飛んできただけなんだが」
「あっ、ああ。その、いわゆる過激派の天使がそこに倒れてる少女を通して顕在化し、そちらの東藤さんを拉致ろうとしてたようだ」
間抜けな顔だったかもしれない。問われるがまま答えている気がする。このときの私は内容の是非について気が回らなかったんだ。
「過激派天使が東京に出るとか勘弁してくれよ。根願寺にクレームいれておくか」
そう愚痴りながら倒れた妙子に歩み寄り、ピクリとも動かない首に手をあてる。
「げっ、死んでる……。これ、マグネタイト吸い付くされた結果かよ」
嘘だろ。私はあわてて駆け寄り首に手を当てれば、確かに脈がない。心肺蘇生をしなければ。うつ伏せで倒れていた妙子の体をひっくり返し胸を強く押し始める。
「ぼさっと立ってないで手伝って!」
傍らでボケっと立っている男を怒鳴りつける。1秒の2回のペースで胸を圧迫する。そして息を吹き込む。くそ、息を吹き返さない。
「いや、そんなことしなくてもさ、蘇生させればいいじゃないか。ほら【リカーム】」
男の手から漏れ出る光の粒子が、倒れ伏す妙子の体に流れる。天使エンジェルの回復の奇跡と似ているようで違ったスキルに見える。
「ゴホッ、ゴホッゴホッ」
死した人が生き返った……?神の奇跡だ。もしかしてこの男性は聖人だったのか?
私は居住まいを正し、問いかける。
「失礼ですがお名前をうかがっても?」
「んっ?俺の名前「玲治さん、早く行ったほうがいいです」
確かに外が騒がしい。女の園で教職員以外の男の姿は問題になるだろう。だがフルネームくらいは知りたかった。レイジという名前は分かったが名字が……東藤の親戚だろうとあたりを付けるしかないか。
「じゃあ先に帰っているよ。夕食はこっちで作っておくから」
「ええ、お願いいたします。こちらは上手くごまかしておきますね」
【トラポート】
男と犬、そしてランタンが消える。あとに残されたのは教会の内部だった残骸と、3人の女。私がどう本部に説明するか考えていれば東藤が寄ってくる。笑顔の様だが目が笑っていない。
「貴方はメシア教の方でしょう。日本政府とのつながりもありますし、ごまかし、できますわよね?」
言外にやれと圧をかけてくる。ガッデム、これが実力者の圧か。日本国内での暗闘騒ぎは表ざたにできないとはいえ、なんとか恩を着せられないものか。
「あ、ああ、わかったよ。だがこちらが動くんだ、さっきの男性が誰だか教えてもらうぜ」
「必要ですか?、私が知っておりますから、必要になりましたら私に言っていただければ伝えておきますわよ」
だめか。彼の個人情報を渡す気はないという事か。だがあんたがいる限り繋がりは切れない、あきらめんぞ。
「さて、いきましょう。話は合わせてくださいませ」
生き返ったものの意識が朦朧としている妙子を抱きかかえ、東藤の後ろを追いかける。
目の前に積まれた書類を処理するが、一向に底が見えない。この学園祭開催前の書類仕事は本当に地獄めいている。去年、2年生の副会長としてこの地獄に参加していたが、生徒会長としてこの地獄へ臨めばまた違った辛さがある。最終決済を行う立場な為、書類を間違えられない。思ってみなかったプレッシャーが僕にかかる。
そんな地獄に挑む生徒会の人間は4人。書記の大野、会計の飯島さん、副会長の西島君、そして生徒会長の僕こと東藤だ。
大野は生徒会のなり手がいないので僕が引っ張ってきた。元々運動部だったが怪我で引退。内申点は稼げるかってことで書記をやってもらっている。
飯島さんは文系部活と兼任で会計をやってもらっている。自分のところの部活の発言権を確保するため代々人を出そうとするそうだ。いいのかとも思ったが、助かっているから強くは言えない。副会長で2年生の西島君は思いっきり将来のためという、ある種の生臭さがある。だがまあ助かっているし、多分次の生徒会長になるのだろう。
しかし書類は、処理しても処理しても猶我が仕事楽にならざりける、かな。
最近は物騒な世の中を反映して、生徒の泊まり込みによる準備は禁止されている。だがそのせいで最終チェックが前倒しになっており、この書類地獄が発生するというわけだ。
パソコンとメールが使えればいいのだが、公正性という名の新技術反対によってとん挫している。
何年か前なら徹夜で準備して明け方にお互いハイテンションになった生徒会と生徒で書類にサインをしていたそうだ。正直うらやましい。
疲れた頭が連想ゲームを始める。そういや最近会っていない妹は元気だろうか。妹の婚約者の人はこの学校出身だったはず。婚約することを父は最初反対していた割に最近手のひら返したな。父もそうだが、祖父も私に何か隠している気がする。大学受験を控えた年齢になっても子供扱いはやめてほしい。そろそろ結婚すらできる年齢だというのに。彼女ほしいなぁ、いやでも結婚となるとどうせ父や祖父の意向とかいろいろあるんだろうな。
回らない頭の中でどうでもいいことが流れていく。疲れすぎたのか視界が揺れている気がする。
「会長、揺れてませんか?」
副会長の西島君が揺れていると言っている。
「まじで揺れてるじゃんよ」
書記の大野まで言っている。いや揺れ……本当に揺れている!
建屋が小さくガタガタと鳴っている。震度1~2程度か?、そこまで強い揺れではないもののそこそこ長く揺れている気がした。
揺れを感じ始めてから30秒程度で収まった。日本だし地震はあるのだが、とても……とても面倒な事にこの学校は学園祭の準備をしていたということだ。この地震で何かが壊れてたりしないかどうか、今から確認しなければならない。疲れているのに余計な仕事を増やした神様に悪態の一つをつく権利はあると思う。だが僕が指示する前に会計の飯島さんが言ってくる。
「会長は決済書類がまだ残っているし、私は計算が終わっていない。大野と西島君で見回りしてきてくれないか」
「しゃーないね。西島、行くぞ」
「えー大野先輩とですか」
「当たり前だろ、俺と一緒はいやだっていうんかぁ?」
「いや、そうは言いませんけど……」
「じゃあなんだ、まさか夜の校舎が怖いってわけじゃねーだろ?ほら、行くんだよ」
そう言って二人は連れ立って出ていった。
「すまないね、飯島さん」
「いえ、生徒会長もお疲れでしょう……ですが決済の書類が終わっていません。彼らの分はあとでも大丈夫です」
見回りという名の気晴らしを先回りして潰されてしまった。書類は処理するよ飯島さん、だが俺にも休憩が必要じゃないだろうかね。チラッと飯島さんを見てみれば彼女は眼の前の書類をただ処理している。とても言い出しづらい。しょうがなく僕はただ目の前の書類をただただ処理する。
壁掛け時計を見てみれば大野と西島君がでてから30分程度だっている。
「遅いな……」
ぽつりと呟いてみれば飯島さんも反応する。
「どこかで休憩という名のサボりでもしているのではないですかね」
「まあ……時間がかかっているのだろうさ」
きついねぇ。だがそのきつさによって生徒会が引き締まっているのも確かだ。確か良い警官と悪い警官だったか。彼女がケツを叩き、僕がとりなす。それでうまいこと回っている。彼女が進学するのか就職するのかは分からないが、地元に残るなら父さんを通じて就職先を世話したほうがいいかもな。
そうつらつらと考えていると、廊下から走る音が聞こえる。彼らが戻ってきたにしては慌てすぎている。なにか問題が起きたのかな。
「か、会長大変です!」
西島君が扉を勢いよく開き、大声を上げてくる。
「ああ、何か問題があったかい?」
「そんな落ち着いている場合じゃありませんよ。お、大野先輩が」
やり取りしている内にもう一つの……いや複数の音が聞こえてくる。なにか争っている音に聞こえてくる。開け放たれた扉から顔をのぞかせるのは言及された大野だ。
「大野、騒がしいぞ。なにか問題があってもそこまで焦ることじゃないだろう」
「お、おいバカ言ってねえで扉を閉めろ」
大野は慌てている、そして手に持っているのは……消火器?なんでそんなものを。いつの間にか学校に強盗でも入ったのか?
「大野、そういうものを持ってきてはいけないぞ。強盗でも出たわけでもあるまいに」
「ご、強盗よりやべーよあれは……ってああああ」
大野の後ろから生徒が一名顔を出すが、大野に掴みかかる。
「ちょ、君。何をしているんだ、やめたまえ!」
慌てて生徒を引き剥がしにかかるが、やけに力強いぞこいつ。生徒に力いっぱいはまずいかと思っていたが、それどころじゃなさそうなので思いっきり引き剥がし、床に転がす。
「あのねぇ君。この時間に残るのはいは……!?」
顔が……無い。引き剥がして床に転がした生徒は所謂のっぺらぼうだった。制服は着ているし上靴も履いている、髪の毛もある、だがその顔の部分を構成するものが何もない。いや、そんな安いホラー映画みたいなことがあるのか?眼の前の現実をうまく認識できない。実は書類決済に疲れて生徒会室で寝てしまい、夢を見ていると言われたほうがよほど信じられる。
だが転がされた生徒が跳ね起き、僕の首に手を伸ばしてくる。あまりの事態にとっさに反応できない僕に対して首に手をかけて来る。
(く、苦しい……え、ちょっとまってこれまじでやばい……た、たすけて)
のっぺらぼうの手を動かそうとしても鉄でも入ってるかのごとく動かない。助けを求めて薄れゆく意識で周りを見回せば、いつの間にかのっぺらぼうが増えており生徒会の面々を手に掛けようとしていた。
だめか、こんなところで死ぬのか。ああ、もっと世を知りたかったが……無念なり。
景色が暗転する。目の前に巨大な銅鐸らしき存在が居る。もしかしてここがあの世か?だが目の前の存在から声が聞こえてくる。その言葉は何故か僕の心にすっと入り込んでくる。
─我は八百万の神に知恵を授けし思金神、汝が求める知識の泉よりいでし者、この先を見たいと願うなら力を貸そう。─
─さあ、呼ぶがよい、汝のペルソナを─
意味が分からないし、どういうことなんだ。力を貸してくれるというが悪魔の取引というやつだろうか……いや力を貸してくれるというなら借りようじゃないか。この悪夢を消しされるのであれば、悪魔にだって力を借りよう。
【ペルソナ!】
意識が表返る。生徒会室の中で襲われている僕たちの前に心の中の悪魔が出現する。僕の心の一部であるオモイカネから雷撃が放たれ、のっぺらぼうに直撃する。雷に打たれたのっぺらぼうはしばし痙攣した後、煙のように消滅する。
やったか!……いや油断してる場合じゃないみんなも襲われているぞと思い見渡せば、見慣れない悪魔がのっぺらぼうを薙ぎ払っている。もしかしてこれは……力に目覚めたのは僕だけじゃないというやつか……ちょっと残念。
「みんな、大丈夫か?」
「私は大丈夫です。ですがそのこんな非論理的な力、あります?」
「いやいいじゃねえか。なんか漫画みたいでさ。力くれるって言うならもらっておくべきだろ」
「うーん、大丈夫なんですかねこの力。あとから魂とか回収されちゃったりして……?」
皆大丈夫そうだ。だが……これからどうしようか。こうなった原因がなんだか分からないが、解決しなければいけないのか、ただ待ってれば終わるのか。
いや大いなる力には大いなる責任が伴う。父も祖父も似た様な事を言っていた。この地に根付き今まで力を持ってこれたのも、力を適切に振えたからだと。拾った力であろうと現状を解決するのに使おう。終わった後にどうなるかは分からないが、その時はその時だ。
「みんな。この後どうするべきだと思う?」
僕が指示するのではなく、皆の意見を元に判断しなければ。
「さすがによくわからない化け物をなんとかするには荷が勝ちすぎますよ。警察に電話してなんとかしてもらいましょうよ」
西島君が現実的な対応を提示してくる。
「いやさすがに無理じゃねえか、ノッペラボウが襲ってくるから助けてと言っても悪戯電話としか扱ってくれないんじゃねーか」
大野は懸念を示してくる。
「会長、残念ながらここは圏外の様です」
そして飯島さんは現実を突き付けてくる。いやそんな馬鹿なと思い自分の携帯を取り出してみれば無常にも圏外の表示。試しに110番に掛けてみても不通。
この事態を引き起こした奴がいるとすれば、簡単には終わらさせてくれないらしい。
「電話はだめみたいだが……今日は宿直の先生がいるはずだし、警備会社の人も見回りにくるはずだ。とにかくここから移動しよう」
みな不承不承うなずく。目の前の書類に別れを告げ僕たちは生徒会室を出る。終わった後に続きをやらなければならないのは億劫だが、さあ僕たちの戦いはこれからだ!……
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……とはならなかった。
一言でいえば学校内は迷路と化しており、普段なら5分もあれば行けるはずの教職員室には1時間たってもたどりつけていなかった。時々接触するモンスター達を倒しながら移動していた僕たちは途中で発見した休憩フロアでジュースを飲んでいる。
「しかしなんなんですかね、この自販機。この訳の分からない事態でも動いてるし。いつの間にか回復薬なんてラインナップに並んでるし」
「銘板見てみたらガイアグループ製じゃねーか、やっぱ怪しいなぁあの企業」
「ガイアポイントも使えるみたいだし、回復薬一本買ってみたらどう?」
「おっ、飯島さんそういうの信じる質なん?」
「こんな状況なんだから、試せることは何でも試してみるってことよ」
ワイワイやってるのを横目で見ながら考える。妹の婚約者の六道玲治さんがガイアグループ関係者だったはず。そして父と祖父も関係を強化していた……この符号が示すことはガチのオカルト組織だったということか。この世は一般人が認識できないオカルトが実際に存在しており、その対策の為に父も祖父も関係を結んでいる……考えすぎかな。
「なあ東藤の家、ガイアグループとなんか関係なかったっけ?」
「あー、聞いたことありますね。うちの県のジュネス出店に絡んでなんかしてるって新聞記事を読んだ気がします。」
ぼんやり考えていると横から質問がくる。確かに関係はあるが、僕はあまり知らないんだ。
「ああ……父と祖父がそれなりに親しくしてるみたいだが、僕はパーティーで挨拶したくらいだよ」
「おー、さすが県下の名門はちがいますな。機会があったら聞いといてくださいよ。この自販機はいったいなんなんだって」
大野が茶化してくる。まあ僕たちが生き残ってここを脱出し、機会があれば聞いてみるさ。
「機会があれば聞いておくよ。それよりそろそろ出発しようか」
立ち上がり、ゴミ箱に飲み干した缶を放り込む。そういやこのゴミはどこへいくのだろうか。
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「うおおおおおおおおおお」
僕は今巨人に追いかけられている。
休憩後彷徨い歩いて教職員室を発見したもののそこには誰も居なかった。先生がいた形跡はあるのだが、その姿は見当たらなかった。肩を落としつつ他を探してみようということで体育館に行ってみた。いや体育館にいくまでにもあれこれあったのだがここでは割愛しよう。重要なのは体育館に行ってみたら、ノッペラボウの生徒たちが整列しているということと、それが集まって巨大な人間?と化し襲ってきたことだ。
ゲームのボス戦のように最初は抵抗を試みたのだが、道中で出たモンスターとは実力差がありすぎた。ゲームなら敗北前提のボスなのかもしれないが、一個しかない命でそれを試す気になれなかった僕らは逃げ出した。そしてそっとしておいてくれなかったその巨人と追いかけっこをしているとわけだ。
途中、ばらけようということで曲がり角で直進と曲がるのに別れたり、部屋に飛び込んだりでばらばらとなった。どうして僕を最後まで追いかけてくるのか分からないが、ほかのみんなは助かったと思いたい。
なんとか引き離し、曲がり角を曲がったところで声がする。
「会長!こっちだ」
この声は大野の声か!
曲がった先の部屋から大野が顔を出しており、手招きする。僕はその部屋に滑り込むように入り込み。その部屋から続く小部屋に隠れた。
部屋の外からは巨人が歩く音が聞こえてる。扉を開く音が聞こえ、中に入ってきたのか部屋の中を動き回っている。おお神様、いるのであればこの悪夢をどうにかしてください。
苦しい時の神頼みだが、縋るものは神しかないのであれば誰でも敬虔になろうというものだ。
祈りが通じたのか足音が遠ざかっていく。助かったか……
「会長、助かったな……いったいなんなんだろうな、あの巨人」
「さっぱりだよ。覚めるなら早くこの悪夢が覚めてほしいよ……」
「とびっきりな悪夢だな。二度と寝たくならないくらいのさ」
そうだな。終わる気配のない悪夢は勘弁だな。そう思いながら扉を開く……
……と、目の前に巨人が居た。
う、嘘だろ!?そう思う間もなく巨大な手で吹き飛ばされる。
い、痛い……骨が折れたのか、立ち上がる力がでない。近づいてくる巨人に対し大野が立ち向かおうとしている。
「てめえの相手はこの俺だ!」
教室にある椅子を持ち殴りかかっている、が大野も吹き飛ばされる。くそ、ここで人生終了とはな。せめて辞世の句を詠むくらいの時間が欲しいと思いながら歩いてくる巨人を見る。
巨人が腕を振り上げるのをボケっと見ているほかなかった。あれが振り下ろされる時が終わりの時か。人生最後に見るのが化け物の腕とはなかなか冴えてないな。
だがその腕が振り下ろされることなく、巨人が吹っ飛んだ……なんで?
「ふー、間に合ったセーフ」
20歳くらいの見たことのある男性が立っている。妹の婚約者殿じゃないか、なんでこんなところにいるのか。
「大丈夫か?、あー……お
【ディア】
彼が僕に手をかざすと魔法を発動させる。すごい、僕たちはペルソナを通して発動する魔法をその身一つで発動できるのか。
「え、ええ。助かりました。でも一体何故貴方がここに?東京に住んでらっしゃいますよね」
「この学校で前に一度問題が起きたからね、一応何かあったときに分かるような状態にしておいたのさ」
マジか。なんでそんなことができるのかはこの際置いておこう。生き延びられれば後でゆっくり話が聞ける。今は吹っ飛ばされた大野だ。
「大野、大丈夫か」
「おー、なんとかな」
ひっくり返った大野は返事をし、ふらふらと立ち上がる。
「いや死ぬかと思ったぜ。会長も大丈夫だったか?そんで、助けてくれたその人は一体誰なんだ?知り合いか?」
「ああ、その、妹の婚約者だ」
「婚約者!? うわー、旧家だとまじでそういうのあるんだ。びっくりだぜ。えーと助けていただきありがとうございます」
そういって大野は頭を下げる。だが六道さんは訝しげな顔で何かのアイテムを使っている。
一体何を使っているんだろうか。大野になにかあるのだろうか。
「その……どうしたんですか?」
「あっ、いや。大野君とかいったね」六道さんの腕がぶれ……大野の首が飛んだ。「貴様何者だ」
えっ、なんで、どうして???大野の首が飛ばなければならないんだ。もしかしてこの人も敵だったのか!?
「えっ、う、嘘」
大野の首から大量の血が……いや血が流れていない?
「ちょっ、どういうことなんですか、大野は一体どうしたっていうんですか!」
「落ち着いてくれお
六道さんは僕を落ち着かせようとするがこれが落ち着いていられるか。友人の首が飛んだと思ったら血が無い人間になっているんだぞ。
「いやーひどいなぁ。舞台袖から出てきて劇をめちゃくちゃにするのはやめてくれないか」
そうだ、ひど……な、生首が喋った!?
「え、あ、どういうこと?」
首無しの大野だったものが立ち上がり、転がった首を拾い上げる。
「物語なんだからピンチになったその子に、仲間が間一髪間に合う流れでしょ?他の僕がいい感じにするはずだったのに、そっちもやられちゃった。空気読むのが日本人でしょ」
「何言ってんだよ。GMだかKPだかしらんが、そういうのはもっと他の所、他のやつでやれ」
やばい、何を言っているのか分からない。今日はわからないことだらけだ。ただ一つ分かることは目の間の大野に化けたやつは相当強く、そして性格が悪いってことだ。そして分かれた皆はどうなったんだ。
「大野をどこへやった!」
「あー君の友達かい?それぞれ成長イベントを用意しておいたんだけどね、みーんなそこの子に台無しにされちゃったよ」
頭のない体が肩をすくめるのは奇妙で気味が悪い。
「せ、成長イベントってなんだよ。僕たちを何だと思ってるんだ」
「何って、キャラクター?いや、感謝して欲しいくらいなんだけどね。多分これから大変だよぉ。ここで成長しておけばって思うじゃないかなぁ」
ニタニタ笑う顔に嫌悪感がはしる。もういいこいつは生かしておいてはいけない。
「うるさい。死ね!」
【ジオンガ】
雷鳴が走り、大野の体をしたものが焼け焦げる。肉が焼ける匂いがあたりに漂う。少なくとも目の前の存在は肉を持っているらしい。
「あーあ、友達を殺すなんてひどいことだ。たすけてくれよ、会長!」
最後に大野の声真似をし、更にこちらを不快にする。そこに六道さんが追撃の攻撃をしかけバラバラとなった。
「その、ありがとうございました。友達のことは……」
後ろで扉の開く音が聞こえる。
「お、東藤も生きてたか」「会長ー、無事だったんですね」「会長、お体のほうは大丈夫ですか?」「兄さん、大丈夫でしたか?」
よかった3人共生きていた。そして連れてきたのは……最近会ってない妹の春華じゃないか。
「ああ、僕は大丈夫さ。こちらの六道さんのお陰でね」
今日は一体何の日なんだ。妙な事が起こり、妙な力を得て、妙なやつがでてくる。ただ皆で生き残られたのは僥倖かもしれない。
「どーも、六道です。一応ここのOBだ。少し待っててくれ。異界を解放してくる。いくよ春華」
「はい」
六道さんと春華は出ていく。よくわからないが強そうな二人だ任せるに限る。僕は疲れたよ……
「その、会長。今の方はどんな方なんですか?」
「さっき話した妹の婚約者さ。そして君たちと一緒に来たのが僕の妹さ」
「うへー、あの子が妹さんなんか。いやマジで強かったぞ。群れででてきた敵を一発で氷漬けにしてたからな。美人だけどめっちゃ怖いわ」
「そうね、少なくとも私達よりはずっと強い。私達は力をもって少々気が大きくなっていたのかも知れませんね」
30分ほどで異界?は解決し、宿直の先生に不思議がられた。先生の意識だと別に学校はなんともなかったらしい。そのまま帰ろうとしたが、終わっていない書類を片付けるというなんとも締まらない終わり方だった。
その後のこと?確かにヤツの言う通りすごい苦労をすることにはなった。ただペルソナ使いというのは僕ら以外にもそこそこいて、助力を得ることで生き残ることはできたと言っておくよ。
私はお嬢様学校の中を知らないので、脳内にマリみてが侵食して来る人間です。
実際はどうなんですかね?女子高は男の目がないからひどいとも聞きますが。
こんなガバ文章でも書くには時間がかかるんです……筆早い人はどうやって脳内を出力しているのやら。
そして一昔(もっと?)前のラノベ風にしかならねえ……
次は掲示板だからもっと早いはず