書き終わって思ったのは、今回の話冗長で長すぎやねんということです、申し訳ない。
アドリー・クラーク:地元カルフォルニア周辺で戦うデビルハンターの女性、アギ系使い
旧合衆国、カルフォルニア州の僻地、なんで私はこんなところにいるんだろうねぇ。どこからか、『合衆国は滅んでいない!俺たちミニットマンが居る限り!』とか聞こえそうだけど無視だ無視。
いや分かっている、この地域にゾンビの大群が迫ってきており、メシア教の連中、所謂穏健派の連中が戦える奴を募集しているからなんだけどさ。
ゾンビ映画だったら、地元民の英雄的な行動、あるいは騎兵隊が登場して撃退できるだろうけど、この滅茶苦茶になった世界じゃ一般人じゃ大したことができやしない。いや一体や二体程度だったら銃で倒せるかもしれないが、聞いた話じゃ
他の悪魔と違って、ゾンビだったら一般人でも認識できるし攻撃でき、そして倒すこともできなくもない。そして、さらに運がよければ私達みたいに覚醒し、悪魔との戦いの戦列に加われるかもしれない。
でも、武装した
地元のメシア教が音頭を取って、集められるだけの覚醒者達が、このメシア教の基地に集められている……らしい。ちらほら見たことある顔がいるし、デビルハントで一緒に仕事をしたやつもいる。
”雷の”ジョンに、デビルハンター達を率いている”ママ”ビューティー、”無口の”スミス、そして”拝み屋”ポール。
みんな高Lv、高ハンターランク達で背中を任せられるほど信用できるかはおいておいて、強いという意味では誰からも謗られない実力者達だ。
ただ全員来ているわけではなさそうだ、この辺の強者で何人か見ない奴がいる。仕事が忙しいのか、地元を守っているのかはわからないけど、来ない理由が有るのだろう。
この部屋に案内されるまでに通ってきた場所に迷彩服の連中がいたけど、あれは軍の連中なんだろうか。悪魔溢れる今の世界じゃ、鍛えられた軍人といっても、覚醒しなきゃ悪魔を見えることも倒すこともできない。結構な数の軍人達がなすすべもなく倒れていったと聞いている、かわいそうなこと。
日本駐留の連中は例外らしい。日本の対霊組織、”ガイア連合”との繋がりを作ったとかで、一部装備を回してもらって悪魔と戦う力を手に入れた……らしい。詳しくは聞こえてこないけど、デモニカスーツでも手に入れたのかね、羨ましいかぎりさ。
”ガイア連合”、その組織はメシア教の次に無視できない存在だ。なにせ私や周りにいる覚醒者達だって”ガイア連合”が提供しているDDSネットに登録し、仕事の斡旋や情報交換ができ、さらに動画配信やゲームなんていう娯楽まで供給されている。私が持っているハンターランクだって、DDSネット上の評価だ。これの数値でどこまで仕事をやってきたか、どれだけ生き残れたが分かるんだ。高ければ高いほど周囲から評価されるし、どの程度の難易度な仕事ができるかの目安ともなる。これを使ってない奴はモグリかメシアの連中くらいだ……いやメシアの連中もこっそり使ってるって噂はある。
世界が滅ぶ前のビデオゲーム内の冒険者ギルドみたいな存在だって私たちは噂している。ハンターランク〇〇だって?じゃあこの仕事ができるねって。そして
そんなどえらい”ガイア連合”だが、不満はまあある。
いや分かってる、私達が使ってるレベルがDレベルっていうガイア連合の基準とは違ったものだってのはさ。でもさ……みんなこっちを使ってるし、こっちが本物でいいんじゃない?
さて、そんなことを考えながら待機していれば、部屋に偉そうな坊さんが入ってくる。ついで数人の付き人と、迷彩服を着たがっしりした体格の男。迷彩服の方は軍のお偉いさんに見える。
「おはよう皆さん、そして依頼を受けていただきありがとうございます。さて、皆様への依頼内容にも書いてありましたが、この地域へ大量のゾンビが流れてきております。地域の安全の為にも皆さま方にはその対処の手伝いをお願いしたい」
そう言い終えると、お偉いさんは我々をぐるりと見まわし言葉を続ける。
「我々による偵察によれば、ゾンビの総数は概算ですが
小さなざわめきが部屋を支配する。
分かっているさ、めちゃくちゃ多いゾンビをそのままにしておけば、基地の先にある私が住んでいる地域も蹂躙されちまう。問題はなるべく遠くで対処しておきたいからね。
「では具体的な事は、こちらにいるジェームズに説明頂きます」
後ろに控えていたメシア教の服を来た男が前に出る。
「初めまして、今回の作戦に対する総司令官のジェームズです。今回の作戦を説明させていただきます。まずゾンビはこの基地より東方から流れてきております。その為、基地東側を正面とし北と南を側面としそれぞれに戦力を配置する予定です。
正面に我々メシア教の戦力の大部分、協力いただく米軍、そして皆様方の大部分がここに配置されます。指揮官は……こちらのダニエルとなります」
後ろにいるメシア教の服を着た人間が会釈する。彼がダニエルか。
「そして北と南の側面ですが、我々から指揮官として1名と、皆様の一部、そして協力いただく民兵の方々、そしてガイア連合からの協力者となります」
ガイア連合から戦力が派遣されてくる?あそこの戦力は強いとも実はそうでもないとも聞くが、私も知っている狩人殿と比べてどうなのだろうか。あの人ほど強く、かっこいい男を知らない。
他の人も戦力について疑問に思ったのか手を挙げる奴がいる……あれはキッドか。
「ガイア連合から人が来るって事ですけど、そいつはどんな奴で何人くるんですか?んで、まだ来てないので?」
確かに気になる話ではある。他の奴も確かに気になるなって顔をしている。
「狩人殿からの紹介で2チーム来るとのことだ。
代表者の名前は、あー……『レイジ・ロクドウ』と『タカシ・マルヤマ』だそうだ。
それぞれの実力に関しては、狩人殿曰く「結構強い」との事だ。各自話を聞くか、アナライズでもしてほしい。
そしてまだ来てないのは、こちらと日本では時差がある為だ。こちらの午後3時過ぎにくる予定だ」
「州内を移動中ってことですか?」
「いや、テレポートしてくるそうだ」
ワオ……ハイレベル術者の中にはテレポートが使える人がいるとは聞いたけど、ガイア連合、流石ね。
室内に小声でささやきあう声が広がる。高レベル且つテレポート使いとか、繋がりを作れれば一発逆転の日本移住まで狙えるのだから色めき立つか。日本人の名前は男なのか女なのかさっぱりわからないけど、男だったら狙ってみようかしら……
「さて、他にも米軍の砲兵部隊がおり、これは方面指揮官の要請で砲撃を行う予定だ。状況によっては砲撃を行えない時もあるが、理解してほしい」
「砲兵さんがいるなら、最初に吹っ飛ばせるだけ吹っ飛ばした方がいいんじゃないの?」
私が疑問を呈する。できるだけ敵は事前に減らしてほしいし、態々ピンチにならなくてもいいのにね。
「あー、アドリーさんだったかな。それについてお答えするとだな、悪魔に対して普通の砲撃が役に立たないのは貴方のような覚醒者なら理解していると思う。だから役に立たなくなった兵器である砲も砲弾も新規生産が無いんだ。今回の為に各地にあった軍の倉庫から引っ張り出してもらっている。
軍の工廠や軍事企業ももう駄目な状況で、新規の供給が無く改善の見込みもない。だからそこまで砲弾の集積は行われていない。
全力攻撃をしたら半日持たないだろう。だから指揮官が判断した危険と思われる状況でのみ射撃する予定だ」
あー、確かに悪魔は”認識”して攻撃しなくちゃダメージは通らない。間接攻撃はお役御免だったからか……
「分かったわ、回答ありがとう」
「では、配置を発表する。まず北側の指揮官は、この……ジャックとなる」
男が一人前に出てくる。スラブ系なのか、厳つい顔をした男だ。
「ジャック、ジャック・J・ジョンソンだ。よろしく頼む」
「このジャックの下で戦ってもらうのは……キッド・アストリー、アドリー・クラーク…………
そして、ガイア連合の『レイジ・ロクドウ』となる」
あー、私は北側か……生き残れるといいんだけど……メシアンの指揮官とガイア連合の人次第かしらねぇ。
ダニエルが引き続き南側の面子を上げていくが、私は聞き流す。
「……以上となる。名前を呼ばれなかった人は正面担当だ、皆待機所に移動してくれ。指揮官は集合だ。以上解散!」
みな席を立ち、自分の装備を持ってぞろぞろ移動を開始する。
・
・
・
・
・
北方面の待機場所は、出入り口近くの部屋だった。
私達は、そのまま待機となった。北側に配置された霊能力者は、私『アドリー・クラーク』、『キッド・アストリー』、『ミハエル・ステディ』だった。お互い自己紹介と能力紹介をしたが、お互い隠し札くらいもってると思う。背中を預けるくらい信頼しないとすべては開示できない。能力を見切られたら死ぬ可能性があがってしまうから。
私は
Lvはそれぞれ、私48、キッド29、ミハエル35。アナライズすればバレるから、レベルの数値は本当だとは思う。この数字は、この辺ならそれなりのツワモノ達ってことになる。
自己紹介してからは待機だ。指揮官として紹介されたジャックは来ないし、民兵達は人数がいるからか他の部屋にいるらしく暇だ。
キッドは自分のスマフォからDDSネットにアクセスして何か見ているし、ミハエルは目を閉じて休んでいる。私は自分の銃のメンテ。いやメンテくらいしかやることが無いんだ。DDSネットで動画を見るにしても
そんなことを考えていれば扉を開ける音が聞こえ、誰かが入ってくる。ばらした銃から目を離し顔を上げれば、指揮官のジャックと、ベレー帽を被った初老の白人男性、そしてアジア系の顔をした若い男女と大型犬が入ってくる。
二人の男女からして相当な実力者に見える。かつて会った事のある狩人殿の時もそうだが、高Lvな人間からは”圧”というか”存在感”を感じるんだ。
男の方は
女のほうは男とは逆に美女、いや美少女に見える。
いくら能力を持っているとは言っても、子供を戦場に連れてくるなと思うべきか、実力者は一人でも欲しかったと喜ぶべきか。
そして犬だ。犬種はわからないが物理的にでかい。昔、家で飼ってたフォックスハウンドよりでかく、立ち上がれば人間並みか。しかも覚醒しているのだろう、”圧”も感じる。
この部屋にいるアメリカ人よりもこの犬畜生のほうが強く感じる……むぅ。
「遅くなってすまなかった。こちら
「ミラーだ、よろしく頼む」
「そしてこちらが今回、ガイア連合から派遣されてきたレイジ殿だ」
「日本から来た、あー、レイジ・ロクドウだ、よろしくおねがいします」
それぞれが挨拶をする。ミラーからは微かなカルフォルニア訛りを感じるから、地元出身なんだろう。もしかしたら元軍人で、退役後地元の民兵団体にいたのかもしれないな。
そして男の方は下手くそというか、典型的日本人英語だ。LとRの区別のついてなさは笑えて来るぐらいだし、単語のチョイスが古臭く感じる。
「なあレイジ、あんたは強いのか?」
おっと、キッドのやつがいちゃもんを付け始めたぞ。戦いが始まる前にもめ事は勘弁してほしい……いや、キッドの犠牲で目の前の男の実力が知れるかもしれないから悪くはないのか?
「強さは相対的な話だろう?何と比べてかな」
「そういう学者みたいな話じゃなくてさ、おまえさんが俺たちと肩を並べて戦えるかって話さ」
「そいつを証明するには、何が必要かな?」
もめ事が起きているはずなのに、この場にいる面子は私も含めて誰も止めない。レイジの実力を知りたがっているのか、面倒事には関わりたくないのか……はたまた他人事なのか。
「たった一つシンプルな話があるだろが……なっ!」
言うが早いかキッドは、傍に置いてあった自分の金属バットを取ると思い切りレイジに殴りかかった。その武器は帯電し、あれがキッドの持つ必殺技
「あっ、あっ……」
バットを握った手首だけが宙を舞い、壁にべちょりという不快な音と共に当たり、手首からバットが落ちる。
カランカラン
そこには自分の腕が無いことを認められない顔をしたキッドと、困った顔をしならがも、私が認識できない速度で刀を振りぬききっていたレイジが居た。
いつの間に刀を抜いていた?
私達覚醒者達の戦闘速度も非覚醒者に比べればなかなかに早い。いうなればマー〇ルヒーローたちの戦闘くらいには早いはずだが……ガイア連合最高クラスの能力者*1の力はヤバイわね。
「くそがぁぁ、いてえぇぇ」
あっ、まずいわね。手首が吹っ飛んだキッドを治療しないと。この基地なら多分
「まったく、殺意込みで殴りかかられると、体が自動で動くからな……」
いつの間にか壁に飛んで行ったキッドの手首を回収したレイジが傍らにおり、その手首を元あった場所にくっつけようとする。
いや、人間は手首を元あった場所につければくっつくわけじゃないんだけれども……
【ディア】
レイジが手首の切れた部分を手で包み、魔法を唱えればそこには元通りになった手首が見える。人体切断ショーのごとく、最初から切れていなかったように元通りに見える。切断された体を元に戻すのは簡単にはいかないと聞いていたけれど、メシアの連中が適当な事を吹聴したのか、目の前の男が相当な回復術の使い手なのか。
どちらにせよ目の前の男は強い。
ジャックにちらりと目を向ければ驚愕をその顔に浮かべている。さすがにこの実力はガイア連合と仲の良い*2メシア教側としても驚くほどだったのか。
「こんな世の中だ、相手の実力を確認するのは止めないが、せめてアナライズでもしてからにしたほうがいい。君だって端末を持っているだろう?」
気にするところはそこではないだろう。いや相手の実力を確かめずに殴りかかるのは愚か者のやることだ、普通だったら殺されても文句はいえないというのにどうして相手を気にするのか。 平和な日本にいると、そんな風になるのかね。
「あ、ああ……」
「まあこれをやるから、取れそうになったら飲むといい」
レイジがポケットから取り出したのは……
「おっほん、我々はゾンビから人々を守る為にここにいる。攻撃を向ける先はゾンビにしてほしい」
ジャックが強引に話題を転換しようとしている。確かに武器を向ける先はゾンビにしておいたほうがいいけれど、止める間も無く殴りかかったからねぇ。
「皆がそろっているから、この方面の作戦を説明する」
ジャックが端っこにあるホワイトボードを持ってくる。そこには周囲の地図が掛かれており、基地のほかに何らかの拠点が書き込まれている。
「この基地から1kmほど先のここ、ここ、ここに、三軒の元農場の建屋があり、それらをできうる限り手を加えた抵抗拠点にしている。アドリー、キッド、ミハエル。君たちはこの三軒に分散配置するから、配置された人員と共にできうるかぎりゾンビを倒してくれ」
「配置される人達はどんな人材で何人かな」
「
ミハエルが疑問をぶつければ、ミラーが答えを返す。10人の兵士と一緒に戦うとなると、私も基本
「民兵に覚醒者はいるのかい」
「いない。だから出ないとは思うが非覚醒者では認識できない悪魔が出た場合は注意してくれ」
「ついでに言うと、メシア教の悪魔避けの聖別を掛けているから悪魔は入ってこれない。ただゾンビと高位悪魔は無視するということだけは覚えておいてくれ」
キッドが手首を摩りながら質問をすれば、ミラーが否定し、ジャックが補足をする。確かに民兵に覚醒者がいれば楽なんだろうが、覚醒していれば私達みたいな仕事をしているだろうな。
「私達は何をすればいいのかな」
「あー、レイジは遊撃を行ってもらう。ここと拠点に有線電話が敷設されているから、前線からのヘルプコールに応じて助けに行ってもらったり。拠点より先にいって数を減らしてもらう事を考えている。基本私の指示で動いてほしい」
「分かった」
「その……君たちはパーティーで一緒のほうが良いのか?」
「いや、敵が弱ければ単独で動かしても問題無い」
「君の言う強い弱いというのはどの程度の事を言うのかな。先ほどの腕前を見ると、なかなか基準が分かりづらいのだ」
確かにレイジの言う”強い”ってのはどの程度なのかね。私が瞬きする間にここにいる全員を切り捨てられそうな実力を持つ人間の言う強い。なんだか世界を滅ぼせそうな悪魔の話なのか。
『あー、狩人ニキはなんも言ってないのか……どうっすかな』
『玲治さん、Lv30程度でよろしいのではなくて』
「レベル30を越えてきたら強いに入ると考えている」
後ろの女の子と日本語で言葉を交わした後Lv30と答えたけど、Lv30ってそんなに強かったかしら。弱くは無いけれど、強くもないはず。私だってLv48あるし、ガイア連合の基準が良くわからないわね。
『玲治さん、レベルとDレベルの違いを強調したほうが良いかと』
『あー、そうかぁ。外だとDレベルなんだよなぁ、何考えて使ってるのか分からないけど……ありがとう春華さん』
「訂正する。君たちの使うDレベルで100越えだ」
うへぇ、訂正。やっぱりガイア連合の能力者の基準はおかしい。Lv100越えなんて神様みたいなもんじゃないの。私だったら逃げる一択。私はそんな悪魔を相手どろうとは思わないけど、勝てないと言わないから彼のパーティーなら勝てるってことかしらね。
「そうか……分かった。偵察班からの情報によれば通常のゾンビはLv3~10、変位種として大小が確認され、これはLv15前後という話だ」
「それはDレベルでかい?」
「ん、ああ、そうだ。すまないがここでは基本Dレベルで話させてもらう」
「OK、分かった」
Dレベルで15程度ならよほどの特殊能力を持っていなければ私達でもなんとかなりそうね。
「話が前後して申し訳ないが、お互いの自己紹介といこう。皆お互いの情報を知っておいたほうがいい。特に生きるか死ぬかの状況ではね……
ではまずは私から、ジャック・J・ジョンソンだ。レベルは43、見ての通りメシア教のテンプルナイト。
「まじかよ……そんななりして魔法使い系なのか!?」
キッドが驚いているが私も驚きだよ。マッチョマンな体な癖して魔法メインなんてね。フェイクの可能性は……さすがにこの場では嘘はつかないか。
「元軍人でね。今でも体は鍛えているが、覚醒者としては魔のステータスがメインで伸びているよ」
「はー……そうかい。まあ、次は俺キッド・アストリー、元学生で今はデビルハンターをやってる。レベルは29、見ての通り近接系だ。武器に電撃を纏わせる必殺技が使える……そこのレイジには通じなかったがな」
「私はミハエル・ステディ、普段は拝み屋時々デビルハンター。Lvは35、使える魔法はハマとザン。あとは……この槍さ」
二人が自己紹介したから次は私か。さてどこまで言うか……
「私はアドリー・クラーク、レベルは48。デビルハンターをやっている火炎使いさ。魔法メインだから、この……銃はお守りみたいなもんだけど、メシア教特製の銃弾はよく効くわよ」
そう言って、腰に下げているハンドガンを抜く。こいつの出番が来るまで追い込まれたことは今まで数えるほどだったけれど、今回ばかりはどうなることやら。メシア印の弾を支給してくれればいいんだけど、さすがに拳銃弾まで聖別するほど余裕はなさそうだ。
そして、皆が見つめるレイジ…いやレイジ達はどんな自己紹介をしてくれるのか。本人以外にも控えている少女や犬も興味深いもんだ。
「俺は、あー、レイジ・ロクドウだ。ガイア連合所属のデビルハンター?をやってる。レベルは、えーと、君たちの言うDレベルだと165くらいかな?」
はぁ?レベル165だと。
「えっ?」
「そ、その疑うわけじゃないんだが、アナライズさせてもらっても?」
「ええ、どうぞ」
その言葉に皆自分の端末からアナライズアプリを起動し、ターゲット、測定、そして結果はエラー。まじかぁ、少なくともLv100以上は本当だったか。狩人殿が紹介するだけあるか……これは生き残れるかな?
他の連中も自分の端末から顔を上げ目ん玉見開いている。まあ100とはいわず二桁後半の人すら殆ど見たことないから、みんなビビる、私もビビる。
「あ、あのさっきはすいませんでした」
キッドが殊勝な態度で謝っているが、まあそうだよな。自分より強いのはわかったけれど、どんだけ強いかは分からなかったし、ガイア連合の言う分類で神様クラスの強さともなれば自分どころか地域すら滅ぼせそうな奴に攻撃したとなればねぇ。
「んっ、ああ、別にいいよ。で、得物は見ての通り日本刀を用いた近接攻撃、あとは回復と補助スキルかな。残念ながら遠距離攻撃手段は投げナイフか銃くらいしか無い。だからまあジャック君はそのつもりで扱ってくれ」
「そ、そうっすか……」
「で、俺のパーティーだが─」
「私の名前はハルカ・ロクドウ、よろしくお願いいたします。レイジと同じくデビルハンターを生業とし、魔法……主に氷結と電撃を使います。レベルは149となります」
こっちもレベル高いな。まあ
「そいてこの子、コジロウは見ての通りイヌガミ。Lvは122、この爪での近接と風を起こした素早い戦いをこなせます。よね、コジロウ」
「ワン」
犬じゃなくて契約悪魔の一種なのか……知り合いで悪魔と契約してるやつはいるし、なんなら私だって条件が合うならDDSネットで契約したいくらいだが、さすがに122はなぁ……
「最後にミラー・ウッドだ。儂は非覚醒者だ、通常のゾンビ相手ならともかく変異種といったか、そういうのにはあまり期待しないでくれ。これはうちの兵隊達も一緒だ」
「これで全員自己紹介は終わったな。ゾンビ達との接触予想時刻は明日の12時前後だ。明日の10時までにそれぞれの拠点に移動してもらう。だがら今晩は早めに休んで備えてくれ」
時計を見てみればもう6時、そろそろ日が沈む。明日からは長い一日になりそうだし、夕飯食って早めに寝るかね。あーあまた麦粥か、たまには肉が腹いっぱい食いたいねぇ。この国がめちゃくちゃになる前はいくらでも買えたのに、今じゃ鶏肉すら高級品、やるせないねぇ。
「あー、一点いいかな?」
レイジが手を上げて発言を求める。何か見落としでもあったか。
「アメリカって、BBQ文化あるじゃないか」
親父がよく仲間を集めてやってたねぇ。ただ今言う事なんだろうか、今はなきアメリカ文化がどうしたっていうのやら?
「いや、
はっ?肉があるだと……!?最後に食ってからどれくらいたったか。あ、いかんよだれが。
「そ、その、どの程度もってきているのかな?」
やばいな、ジャックのやつもメシアンとして冷静そうな
「後ろのクーラーボックスに、ええと、
「やはりガイア連合は最高じゃな」
「マジGOD」
「メシア教としてはその言葉は看過できないが……牛肉をいただけるなんて尊者に推薦したいくらいだ」
あーあ、みんな牛肉に目が眩んでるよ。でも私も……食べたい!
「まあ、俺たちに2~3ポンド分食わせてくれるなら他はどうぞ」
この仕事受けてよかった、この瞬間はそう思ったね。
「なあ、キッド」
「なんでしょう、アドリーさん」
「BBQの準備、取り掛かかれるよね?」
「ふっ、もちろんさ」
その後どうしたかって?北方面の兵士達も集めてBBQよ。嘗てあったBBQの道具なんてないから、ドラム缶をぶった切ったものなんかで調理器具をでっち上げ、味付けもみんなが隠し持っていたあれこれで使って食べたさ。ものすごく……美味しかったです……。もう少し赤身だったらよかったんだけど、贅沢は言うまい。食べられるだけでここは天国さ。
「ああ、美味しい。生きててよかった。ありがとうレイジ!」
「ああ、美味しかったなら良かったよ……」
『ちょっと涙ですぎじゃね、アメリカそんなやべーのかよ』
「ミスターレイジにかんぱーい!」「ありがとな兄ちゃん」「ガイア連合に乾杯!」
目を向けてみれば民兵のおっちゃん達が、どっかから出してきた酒を飲んでいる。まあ肉を持ってきた人に乾杯する気持ちは十二分に分かるけど、明日戦いだって言うのに大丈夫かね。いや、今は目の前の肉に集中しなければ。
「まったく、民兵の連中は」
どこかに姿を消していたジャックが戻ってきて文句を言っているが、まあまあ君も食いなよってね。
「おー、ジャック殿も食いなよ。明日に備えて英気を養おうぜ」
酒を分けてもらった酔っ払った様子のキッドがジャックに絡んでいる。鬱陶しがっているが、肉には手を出しているから食い気はあるんだろう。ちゃんと神に祈ってから食べ始めるのがメシア教の人間だねぇ。
世界が終わっても変わらない星空の下。肉を食べた満足感からか明日も生き残れそうに思えてきた。
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「きたわね」
「準備は十分、いつでも撃てるぜ」
肉を十二分に食べた次の日、私たちは基地前方の抵抗拠点に来た。肉眼でも見える距離までゾンビの群れが近づいてきている。ジャックのやつは拠点から先に偵察拠点を作っていたようで、そこにいた偵察員がゾンビの来襲を私達に伝え、そして基地に撤収していった。こっちに流れてきているのは全体の1~2割だそうだが、数が少ないとは思えないほどゾンビまみれだ。
「打ち合わせ通り、みんなが射撃する。ゾンビが多そうな所に私が
「分かってるさ。それに補強したこの建屋はそう簡単に破れはしねーよ」
ほんと、そうだといいんだけどね。話にあった変異種がどの程度の実力かによって私達の生き死にが決まる。
思案してるうちにもゾンビはどんどん近づいてくる。予め決めていた射撃線まであと100ヤード……50ヤード……10ヤード……今!
「射撃開始!」
ドドドドド
流石にM2重機関銃まであると射撃音が豪快だ。射撃音に気づいたゾンビ共がこちらに疾走を開始するが、かつて人であった物から、かつて肉体であったものに変わっていく。
「リロード!」
民兵たちが、マガジン分を打ち尽くし、弾倉を交換するタイミングで弾幕が弱まる。私の出番が来たという事を認識し、意識を体内のマグネタイトに集中する。
「焼き尽くせ!【マハラギ】」
眼前に火炎が立ち上り、ゾンビ共が巻き込まれる。鼻のひん曲がりそうな臭いが立ち込めるが顔には出さない。だが、昨日食った肉が腹から帰ってきそうだ。
「ヒュー やるねぇ」
「いいから射撃を再開して。魔法は連打できないんだから」
「あいよ」
射撃音が再開され、ゾンビ達が拠点に到達する前に倒れていく。さて……あと何時間私たちは耐えればいいのか。
日が傾くまで断続的に襲い掛かるゾンビ共を倒していった。ほとんどは拠点に到達することなく倒せていたし、拠点の間を抜けて基地に流れるゾンビも少なかった……と思う。一応文句は飛んできてないから大丈夫だったと思いたいし、これ以上倒すにはもっと人数が必要だ。
マナ切れが近いのかボケっとする頭でゾンビ達が来る方向を見ていると、今度の連中のなかに一風変わった姿が見える。
民兵たちも気づいたのか、双眼鏡を除いていた一人がわめきたてる。
「お、おい、話にあったデブと……それから小さいのも見えるぞ!」
ああ糞、レベル15のやつらか。一桁のゾンビ共でもこうも数が多いとやばいのに、混じったら対処できるのか。拠点のスリットから前方を見てみれば、あいも変わらず多いゾンビの中でひときわデカい、いやデブなゾンビが居る。
「まず私があいつを中心に焼き払うから、生き残ったらみんなで集中攻撃よ」
「わかった。よし、みんな!火炎の後にあのデブに集中攻撃だぞ!」
建屋各地から同意の声がする。
なるべくゾンビの集団を巻き込むように狙いすまし……今だ!
「焼き尽くせ!【マハラギ】」
デブを中心に今回の集団の半分くらいが燃える。だが……マハラギでは焼ききれないか。
「目標、前方のデブ!射撃開始!」
甲高い射撃音が響き、デブに被弾が集中する。流石に弾をたらふく喰らえば倒れる、と思いきや体が震えると体がハジケ飛び、内部から緑色の体液が飛び散る。どう見ても食らったらただでは済まなそうな液体だ。こういうのもあるから悪魔は遠距離で殺しておきたいんだ。
「あいつの体液には気をつけろよ。悪魔特性の体液だ、食らったら苦しむだけじゃすまないかもしれないぞ」
「うへぇ、そいつはぞっとしねえな」
軽口を叩きながらもどんどんゾンビが減っていく。ちらりと時計を見れば大分夜も更けてきている。ゾンビ共は生きていないから平気だろうが、私達には睡眠が必要だ。いい加減途切れないものか、黒幕がいるなら相当に性格が悪いぞ。
見える範囲の最後のゾンビが倒れる。これで一休みできるといいんだが、どうかな。
「これで終わりかい?」
「いや、遠くに動くものがある、あれがゾンビなら終業時間はまだ先ってことだ」
「全然見えないぞ、本当に居るのか?」
「しゃーない、こいつを使うか」
そうすると腰に下げた拳銃、それも相当ぶっといやつを、前では無く上に受けて引き金を引く。銃口から何かが空に飛び、そして光が満ちる。照明弾に照らされた、嘗て農地だった大地にはゾンビが蠢いている。あいかわらずの大量のゾンビの中に、先程のデブと小さいやつが私が見える範囲に10体ずつ居る。
これは……まずいわね。こうなれば
「こちら本部」
「こちらは、えーと、アドリー。ガイア連合の人を寄越して。レベル15のデブとチビゾンビが10体以上迫っている。無傷で守り切れないわ」
「分かった……ちょっとまってくれ調整する」
早く人を派遣してよ、こっちは死ぬかもしれないんだから。
「君のところにはレイジを派遣する。ETAまで5分。オーバー」
「ちょっと?ETAって何? もしもし?もしもし?」
ああ、くそ切りやがった。ジャックの奴、メシア教では無く軍人としての通信をしてるようだが、私達は素人だっていうのに!
「まったく、ETAって何よ」
「そりゃ到着時刻ってやつだよ。で、何分って言ってたんだい」
「5分よ」
「おーう、やっぱり覚醒者ってやつは早いんだな……、そろそろ射撃線までゾンビ共がくるぞ」
「私ができるだけ焼くから、デブとチビに集中して」
「おーけー」
ゾンビ共のほうを見やれば、覚醒者としての目が、光が届かない後方から来ているゾンビ達をとらえる。暗い闇の中に、デブとチビのお代わりが見え、うんざりする。
魔法で焼き、撃ち、防衛する。人生で一番長い5分間だった。
さすがにゾンビ共の量が多すぎるし、やばそうなデブとチビに射撃が集中しているから、撃ち漏らしたゾンビが建屋まで到達し始めた。
「まだなの!」
「後1分だよ、お嬢さん。いいからはよ魔法を撃つなりしてなんとかしてくれ」
さすがに建屋の外壁を叩くゾンビ共は無視できないし、民兵たちは他を優先しているから私が駆除するしかない。腰に下げた拳銃を引き抜き発砲。ゾンビ共は面白いように倒れていくが、予備弾倉を持ってきていないため、1マガジンで看板だ。
さらに建屋にとりつこうとするゾンビに、慣れない近接戦闘を決意した時、目の前で”暴力”が発生した。
【ヒートウェイブ】
一発のスキルと共に、見える右半分のゾンビが両断された。私と10人の民兵で時間をかけて行った攻撃を、ものの一発で成したのだ。
なんだかひどく馬鹿にされたような気分だ。今日一日がんばったのはなんだったのか。
レイジが歩けばゾンビが両断されていく。まるでモーセが海を割ったかのように、ゾンビが倒れ伏す。そして倒れたゾンビ達はマグネタイトの霧と化し世界に返っていく。
私はそれをボケっとしながら見ていた。普段の私であればそんなことはしない、油断すれば死ぬのがこの業界だからだ。だがその時は疲労と
「周辺のゾンビは駆除したが……ボケっとして大丈夫か?」
ボケっとしていたのはどの程度の時間だったのか、いつの間にかレイジが建屋に近づいてくる。気づけば付近にあれだけいたゾンビ共は見えなくなっていた。
「あ、ああ、大丈夫」
「流石に多かったかね……けが人はいるか?」
「問題ない」「大丈夫だ」「もっと早くきてくれよ」
建屋内の方々から声がする。今のところ全員生きているみたいで安心だが、明日以降私たちは耐えられるのかね。今日と同じような数と質ならいいが、強い奴が増えたら耐えられないんじゃないのかね。
「ちょっと先から見たところ、次のゾンビまで間があるから今のうちに補給をしたほうがいい。後、これを置いていくからいざという時は使ってくれ」
レイジは私たちに次までの時間があることを告げると同時に、ポケットからアイテムを出し机に置く。一体なんだろうかと疲れた頭で見やると、
「え、
「【傷薬】なんだから気にするほどじゃないだろ?、ああ、あと君にはこれもだ」
そういうと、見たことのないアイテムを渡してくる。かなり強い霊力を感じるがこれはいったい。
「なんだいこれは」
「【チャクラポット】、
「じゃあ俺は戻ってこいと言われてるから戻ります。がんばってね」
そういうとレイジは建屋から基地へ戻っていった。明日以降どうなるかはわからないが、今はとにかく寝たい。
「私は寝るわ……」
「こっちで補給と修理はしておくから奥で寝とけ。ゾンビ共がきたらたたき起こすからな」
私はベッドが残っていた奥の部屋に入ると倒れるように眠りについた。
・
・
・
・
・
二日目もまた酷かった。一日目に勝るとも劣らない酷さだが、ある意味その程度で済んでいたと言える。
レイジたちを私たちがいる建屋よりさらに前に派遣し、数を減らす策に切り替えたと、朝の連絡で言われていたからだ。ただ逆に言えば昨日の様にヘルプコールをしても駆けつけることは不可能という意味でもある。何せ連絡する手段がない、世界がこうなる前だったら携帯でも無線でも使えたんだろうが、こうなった世界で使えるそれらは貴重品だ。
ゾンビ共の切れ目なのか、補給に帰るレイジのチームが時々寄って、あれこれ情報を教えてくれる。次にゾンビがくるまでの大まかな時間や、新たな敵なんかをね。
二日目昼から、新種のマッチョ型ゾンビも現れたって聞いてうんざりした。デブとチビでも辛いのにさらに新種かと、しかもレベルは40~50ときた。
マッチョな新型ゾンビなんて来てほしくないという気持ちとは裏腹に、漏れてきた一体が私達の拠点に現れてしまった。
油断があったのかそいつへの対応を対応を誤り、デブなどと同じ対応をしてしまったのが運の尽き、私の
ドゴーン!
「糞がぁ」
ゾンビを挟んで反対側にいた民兵が持っていた、グレネードを発射する。
馬鹿、巻き込まれるだろ!
慌てて伏せれば、弾は見事に着弾、そして爆発し周りに破壊を振りく。ついで、周りに広がる衝撃波が埃を巻き上げ、ゾンビの姿を隠す。
倒すのはいいけど巻き込まないでくれ、薬でも決めてるのかこの民兵は。
「はっはー、ざまーみやがれ!」
テンションの高い民兵をよそに、煙の中から巨体が飛び出し、民兵の首を掴み……放り投げる。
非覚醒者の攻撃は通らないとみるしかない。つまり……私が倒すしかない!
「
体の中から何かが削れるような気がするが、私の本気の炎を呼び出し、焼き尽くす!
ゾンビの体を炎の竜巻が覆いつくす。1秒か10秒か1分か、永劫の時が流れたような感覚の後、ゾンビが倒れ伏し、そしてマグネタイトとなり消えていく。
「はぁ……はぁ……」
気づけば銃声も消えており、ゾンビを倒しきったか、みんな死んだのか。分からないが……とりあえず疲れた……
私は地面に仰向けに倒れ、ボケっと天井を見る。今日で終わりにならないかしらね。
気づけば生き残った民兵が集まってきており、倒れた者を救助しようとしていた。
「こいつは首が折れているな……だめだな」
「こっちは息があるけど骨が何本か折れてるぞ」
「痛え、痛み止めをくれよ。ああーーー、くそったれのゾンビ共め!」
「担架あったか?」
「おい、あんたも大丈夫か」
転がっている私の視界に影がさし、誰かの顔が私を見下ろしている。
「ええ、大丈夫……でも疲れたわ」
「あきらめた奴から死ぬぞ。ほら、掴まれ」
手を掴み、体を起こす。机の上に置きっぱなしのアイテムたちが見える。ああ、そうか、もう使ってしまおう。
レイジが【チャクラポット】と言っていたアイテムを取り、コップがないから注ぎ口に直接口をつける。崩壊してしまった世界だ、はしたないなどと注意する奴もいないだろう。
並んでいる【傷薬】も私達以外の非覚醒者にも効くかしら……。普段だったら勿体ないけど、貰い物だし、この際、人が減るのがまずいから使ってみよう。
「あー、生き返る……。
そこの人、
「はあ!?、死にかけのやつが飲み物で回復するとかあるの?」
「いいから」
骨を折って痛みにのたうち回っている奴に飲ませれば、叫び声が止まる。覚醒者のみに効くかと思ったけれども、一般人にも効くのねぇ……うちの国の保険じゃ支払いは難しそうな高級薬だけれども、
ジリリリリリ
有線電話が鳴っている。民兵たちは負傷者の手当や建屋の応急措置に忙しそうなので私がでる。
「
「こちら
「大丈夫なの?こちらは壊れたけど直せばまだいけそうだけれど」
「他2拠点はもうボロボロということだ。君のところにゾンビが集中すると耐えられないと判断した」
キッドは近接だからあのマッチョが来たら相当きつかったのかしらね。ただミハエルのほうはどうしてだろうか、範囲攻撃を持っていなかったせいか、それともMP切れかしら。
「わかったわ。皆に言ってこれから帰るわ」
「お願いする。
相変わらずメシア教のテンプルナイトだっていうのに
・
・
・
・
・
朝日が上がり、日の光に照らされ蠢くゾンビたちが見える。私達は基地の外壁上から北側を見ている。
「では頼むぞレイジ、ハルカ、コジロウ」
「分かった」
そう言ってレイジ達は基地外壁から飛び降り、ゾンビ共に突っ込んでいく。今日の作戦としては、昨日と似たような感じで、レイジ達を基地前方地域で暴れてもらい残った敵を、残った基地配置の人員で倒す事となった。他方面も似たようなもので、覚醒者、非覚醒者問わず数割が死亡し、残存人員で基地前面で防御するようだ。
キッドの奴は死んだ。さすがにただのゾンビだけなら兎も角、あの変異種達が混ざった群れでは対応出来なかったようだ。一緒に居た民兵たちと共に哀れゾンビ共に食われ死んだと、そこに派遣されたハルカが言っていた。体の一部しか見つからなかったと。こんな仕事をしているんだ、死ぬこともある。でも、まあ一緒に仕事をしたやつが死ぬのはちょっとセンチメンタルな気持ちになるわね。
「ねえジャック、いつまで戦えばいいのかしら」
「それについてははっきりしたことは言えないが、多分、今日で終わりだろう」
それはゾンビ共の数が終わるのか、それとも今回の原因が解決するのか、明日以降は耐えきれない状況なのか。まあ私は仕事を受けた以上戦うだけだが、でもさすがに追加のボーナスは欲しいわね。聞いていた以上に辛いもの。
ゾンビ共を眺めていれば、レイジたちが暴れ始めたのか離れた場所で爆発音がしはじめる。ゾンビ達の体が宙を舞ったり、凍りついたりしていく。だが、ゾンビの津波を前に高Lvデビルハンターが暴れていると言っても漏れてくるゾンビはいるようで、私達の眼前にもちらほら現れる。ジャックが拡声器を手にし、射撃の開始時間を測る。
「射撃開始」
ドドドドドド!
どこから持ってきたのか、古い映画で見た様な
「アドリー、君は範囲攻撃で削ってくれ。変異種がきたらそいつらを中心に。ミハエル、君は抜けてきた変異種に対して破魔魔法を撃ってくれ」
「わかったわ」「了解したよ」
そこからの6時間─お昼すぎくらい─まではなんとか敵を倒しきれた。危ういところもあったが、指揮官のジャックまでもが前線に出て
ドシン、ドシン
「ねえ、何かでかい音が聞こえるんだけれども……もしかして新人かしら」
「巨大ロボットはガイア連合にしか存在しないと思っていたのだがね」
「おい、ジャック。あんたもそんなジョーク言うのかい」
私の軽口に、ジャックがジョークを返し、ミハエルが突っ込む。
レイジとハルカが戦闘をしながら徐々に引いて来ているのが見える。おいおい、勘弁してよ、あの人たちですら勝てないんじゃ私達じゃどうにもならないじゃないの。
近づくにつれ、ゾンビの姿がはっきりと見えてくる。昨日見たマッチョゾンビより横にも縦にもでかくなっている。他のゾンビとは違い、その姿形は手足を持っているが、顔が人間というよりはゴリラともライオンともつかないような形をしている。すくなくとも弱くは見えない。
レイジは周りの通常ゾンビも切り刻みながらもこちらに近づいてくる。私たちも援護したほうがいいのかしら?
「ジャック、援護射撃はしなくていいの?」
「あ、ああ。目標、あのデカブツ!射撃開始!」
ジャックも新手にはさすがに驚いたようで、
多数の弾が吸い込まれるようにデカブツに当たるが、一旦めり込んだ弾がそのままはじき出される。今まで何体もの悪魔と戦ってきたし、攻撃が効きづらい悪魔と相対したことはあれど効かないことは無かった。
あれはもしかして所謂【物理無効】というやつだろうか……【物理半減】までは戦ったことがあったが、無効までいくと気合入れた魔法で倒すか……いや無効の場合、魔法への耐性もどの程度あるか分かったもんじゃないな。
『ハルカ!、アナライズするから少し足止めしてくれ!』
『分かりました、極寒よ来たれ!【ブフダイン】』
ハルカが高レベル魔法と思わしき何かを唱えれば、巨大ゾンビが足元から凍り付く。レイジはポケットから何かを取り出し使用するが、ここからは何をしているのかさっぱりだ。だが、何かが起こったのか、理解したのか、レイジは巨大ゾンビの射程外に陣取り静止する。敵を前にして刀を構え静止した。彼の周りの空間だけは、騒音響く戦場において静まり返ったように見える。
【チャージ】【暗夜剣】
静から動への移り変わりは一瞬。
「やっふーー」「Yeeaaa!」「やったぜ!」
巨体が消えると民兵たちが次々に歓喜の雄たけびを上げる。レイジはいつの間にか私達の近くまで寄って来て、ジャックに対して話しかける。
「ジャック、報告だ。さっきのデカいゾンビだが、【物理無効】と【破魔無効】を持っている。通常攻撃は効かないし、君たちメシアの
んん?物理無効なのにレイジの攻撃は通ったように見えるのだが。
「その、君を疑うわけではないんだが、その情報はどのように知ったんだ?」
「ん? 使い捨てアナライズを使用しただけだが……そうか、あなた方のアナライズでは見れないか」
「使い捨てアイテムなら私にも使わせ「伝令!」
レイジとジャックの会話の最中、誰かが駆け込んでくる。
「はぁ、はぁ、ジャック殿、よろしいでしょうか!」
「ああ、皆すまない」
そう言って端の方へ行き、小声で会話をしている。私たちには聞かせられない何かなのだろうか。
「ねえ、レイジ。さっきの話だけれども、あのデカブツが弱点呪殺ってのは本当なのかい?」
「そうだ、物理無効ついているから、アドリーの
1200か……数値と示されると高いのか低いのか……多分高いのだろう。私の
「レイジ、悪い話だ」
私たちが天を仰いでいると、話が終わったジャックが割り込んでくる。しかも悪い話ときた。
「東の基地正面が相当まずい状況だ。誰かを派遣しなければならない。すまないが、行ってくれるか」
「指揮官は貴方だ、指揮には従うよ」
顔色を悪くしたジャックがすまなそうに言うと、レイジは肩をすくめて従った。つまり、私達のところも相当ピンチが予想されるわけね。
『春華、ここは頼んだ。君の
『分かりました……お気をつけて』
「では、案内してくれ」
レイジは伝令に来たメシア教の人間について出ていった。部屋を出る際に一瞬ハルカと目を合わせていた。心と心が通じる間柄は羨ましいね。彼方を見てみればゾンビの姿が見え始めている。休憩時間が終わり、戦闘の時間が帰ってくる。
「ハルカ、よろしく頼むわよ」
「足を引っ張らないでくださいましね」
ハルカはニッコリ笑いながら毒を吐く。こいつ……レイジ以外には冷たいやつか、可愛くないね。
その後、迫りくるゾンビ共を千切っては投げ千切っては投げ……を主にハルカとコジロウっていう犬がやりました。ハルカが広大な範囲でゾンビを凍らせ、私は火炎で漏れてきたのを更に減らし、民兵が銃撃で城壁前で撃ち殺す。時々もれてくる変異種はミハエルの
ハルカが
黒い穴を見ると、離れて見ているだけの私の背中に冷たいものが走る。手はデカブツの体に纏わりつき、そして穴に引き込もうとしているように見える。
黒き手に纏わりつかれているデカブツが膝をつく、物理的なダメージを負っているように見えないが、存在するということ自体が否定されてるのかもしれない。
「見ていると、引き込まれますわよ」
はっとすれば、いつの間にかハルカが横に来て私の肩に手を置いていた。高Lvの魔法は離れていても影響力を及ぼすのか……こんな子供と自分の差にいやになるわね。
断続した戦闘を繰り返していれば、気づけば日が沈みかけている。途中水分補給した程度でとても腹が減った。レイジが持ってきた肉でBBQしたのが何年も前のように感じる。あれは美味かった、久々に合衆国の文化を堪能できた。
「いつまで耐えればいいのよ……」
「まったくだ」
私が小声で愚痴れば、近くにいたミハエルが答える。本当にいつまで戦えばいいのか、ヴァルハラみたいに永遠に戦い続ける世界にいつのまにか捕らわれてしまったのか。そんな考えにとらわれる。ハルカを見やれば涼しい顔で犬を撫でている。東正面に派遣されたレイジはうまくやっているのかね。
「休憩しているところ悪いが、次が来た」
ジャックの言葉で、前を見やればゾンビ共のお代わりが私たちのいる基地へ移動してきているのが見える。
デブにチビ、マッチョにデカブツ、崩壊前のアメリカ在住の人種みたいに
「ねえ、ジャック。これが終末のラッパが鳴らされた光景なのかしらね」
「
そういう意味合いではないんだけれども……ハルカが居てなお生き残れるか怪しい状況だが、死なないように精一杯努力するしかない、審判の日に生き返れるようにね。
ジャックが射撃開始の間を測り始め、私、ミハエル、ハルカは集中し魔法を放てるようにする。
「射撃……」
開始の合図を放とうとした瞬間、ゾンビ共が静止した。固まったゾンビを前に私達も民兵達も固まる。何が起こった?
一拍の後、ゾンビ達がマグネタイトに返っていく。一体や二体では無く、見渡す限りのゾンビ達が消えていく。
さらに一拍の後、歓声が爆発した。
皆が喜びを叫ぶ中、私は逆に冷静になる。終わった……のかしらね。誰が何をしたのかわからないけれど、今はただ生き残ったことを喜ぼう。
・
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その後、総指揮官から正式に戦いが終わったと連絡が来た。私達は砲兵が布陣していた中庭に集められ、食事が振る舞われた。食事をとれていなかった私は腹に詰め込んだ。味はまあ、今のこの国では最上級だったかもしれないが、レイジの持ってきた肉が恋しかった。
レイジを含むガイア連合の人達はいつの間にか姿を消していた。ジャックに聞いてみれば戦闘が終わった後早々に帰ったそうだ。
飯を食べ終わったあたりで今回の騒動に関して、解決したのが狩人殿であることが発表され、次いで狩人殿をメシア教の
すべてが終わり報酬を受け取ればまた日常が帰ってくる。つまり、悪魔を狩って金を稼ぐ生活ということだ。ジェットコースターみたいな戦いだったが、生きてりゃまたレイジに会えるか、会えたら感謝の気持ちを伝えないと。そんなことを帰路の最中、空を見上げて思った。
D-Day -7日
「だから言っているではないか!我々だけでも撃退できると!」
「何を言うか、ゾンビ共の数は100万を数えるというのだぞ。そこらで発生する量とは違うのだ。飲まれてしまうではないか!」
二人の男が激論を交わし、その周りの参加者たちが冷ややかな目で見ている。ここはメシア教基地、その会議室だ。
議題は東方で発生したゾンビ津波に対しての対策。偵察部隊の情報ではゾンビ共の足はひどく遅く、到達予想は7日±1日程度ということだ。
我々メシア教は信徒たちの安寧の為、テンプルナイトという実働戦力を持っており、その武を使い、
一人は
もう一人は、確実を期すため地元の霊能力者や米軍、そしてガイア連合や他宗教にも助力を仰ごうと言う。戦力が増えれば増えるほど確実だろう。しかし、我々の存在感は薄まってしまう。薄まった結果、この世界の中での立ち位置がひどく不利な立場になってしまえば元も子もない。特に、今の我々は
「悪魔はゾンビなのだから、一般信徒達の助力だってあてにできるのだ。戦力は足りている」
「彼らを守る為にテンプルナイトは存在するのだ、そんな者達を動員するなど言語道断だ」
皆どこかで妥協してほしいと思いつつも飛び火を恐れているので何も言わない。議長も沈黙を保っており、意見を戦わせるのを傍観している。
「臆したか貴様!」
「何を言うか!?」
ヒートアップした二人が席を立ち、今にも掴み掛らん形相を向けあう。
「いい加減にしたまえ」
さすがに議長が止めに掛かる。これも政治なのかもしれない。意見を戦わせている二人は出世を争っており、自分を中心に物事を解決したいのであろうが、意見を戦わせるが結論が出ないことを持って、議長が結論をだし、それに文句をつけられないように立ちまわっている。
「君たちが意見のすり合わせができないのであれば私の方で決定する。米軍と地元民兵達の協力を仰ぐ、そして地元覚醒者達の募集も合わせて行う。また、狩人殿が協力を申し出てくれた、彼を通じて戦力を求める。幸い、数人心当たりがあるそうだ」
狩人殿を通じて助力を乞うことで、ガイア連合の力を借りるが、我々がなるべく風下に立たない動きをするということか。
「作戦についてはジェームズ司教を代表者とし立案し、数日以内に皆に通達することとする。以上だ、解散」
私が軍人だった時は、我の最大戦力を彼にぶつける為にあれこれやっていたが、上層部が政治的な問題で戦力を制限するのを自分の目でみたくはなかった。だが文句は言えない、私が所属する組織であるのだから。私が新兵だったころ、ベトナムで戦った古参兵殿が言っていた、「政治家共が糞だと勝てる戦争も勝てなくなる」。
その事をふと思い出し、目の前の状況が同じようになりませんように。三々五々持ち場に戻っていく流れにのりながら、そんなことを考える。
・
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・
D-Day -2日
数日後、ジェームズ司教に呼び出される。単独なのか、聞いていないだけで他にもいるのか、緊張しながら部屋のドアをノックする。
「ジャック・J・ジョンソンです」
「入ってくれ」
中にはジェームズ殿一人、彼の前の机には紙が広げられている。多分愉快な話ではないのだろう、気を引き締めて中に入る。
「よく来てくれた、座ってくれ」
机の反対側の椅子を指されたので座る。こいつは長くなるのかもしれん。
「さて、あまり時間も無いから単刀直入にいく。今回のゾンビ津波に際して、君は北側の指揮官になって貰う」
指揮官ね……私以外にもできそうな人間はいるが私が選ばれる理由が分からないな。もしかして単独で抑えろというわけでもあるまいな。
「はい、戦力としてはどの程度割り当てられますか?」
「民兵を80人ほど、地元デビルハンターから3人、後はガイア連合から来てくれる1チームだ。情報はこれに纏めてあるから目を通してくれ」
「狩人殿はさすがですな」
「ああ、そうだな……」
書類に目を通せば、民兵80名の氏名と年齢が乗っており、軍に居た事がある場合は所属と最終階級が記載されていた。35名の元軍人で、内訳は陸軍15名、海兵隊10名、海軍6名、空軍4名だった。この中で歩兵として使えそうなのは、陸軍の10名、海兵隊の10名程度か。
「民兵では小銃訓練などはしているか、聞いておりますか?」
「訓練はしていたと聞いているが、どの程度か確認するすべは無い。少なくとも味方撃ちしない程度と考えて運用するしかあるまい」
非覚醒者のあてにならないほぼ民間人がどこまで使えるか……ただのゾンビなら銃を使えればなんとかいけるか。ページをめくりデビルハンター達の書類に目を通す。アドリー・クラーク、ミハエル・ステディ、キッド・アストリーね。それぞれについて簡易的な情報はあるが、火炎使い、破魔使い、近接程度の情報か……どう配置したものか。
「この三人は、私の傘下ということでよろしいですか」
「ああ、そうなる」
一時的な配置と総司令部から貸与された部隊かどうかで動かし方が変わる。今回は私が使える手ごまであることが分かればそれでいい。願わくば、使える覚醒者であってくれ。
最後のページを捲ってみれば私のところに来るガイア連合の人間、レイジ・ロクドウとその仲間、ハルカ・ロクドウ、コジロウが記載されている。名字が同じということは兄妹か?しかし能力についての記載がないが……
「狩人殿曰く、結構強いとのことだ」
最後のページを睨んでいるのを気取られたか、能力についてそんなことを言われる。定量化できない事を言われてもな、せめてレベルで言ってほしいところだ。
「レベルについての情報は無いのですか、その……結構という話はどうにも判断つきづらいのです」
「そうだな……私が聞いている所によれば30は超えているとのことだ」
「30ですか……そこまで高く……いや、ガイア連合の基準ということですか」
ジェームズ殿が頷く
最近Dレベルばかりだからレベルという概念が麻痺していたようだ。ガイア連合であれば、彼らの基準になるのは道理。だが、Dレベルで考えれば100以上か……人格者であればよいが、違った場合止めるすべがないぞ。
「私の”友人”のルーシーはね、そのレイジ氏の事を聖人だと言っていたよ。蘇生の奇跡が使える……とね」
ルーシーとは、日本支部に行ったルーシー・ウォーカーか?
「故に実力については気にしなくていい……さて戦力は理解したな。ここから戦闘方針を伝える」
ジェームズは椅子から立ち上がり、近くにあったホワイトボードを引き寄せ周辺の簡易地図を描き始める。
「まず、この基地がプルートとその配下への備え兼盾として建設されたのは知っての通りだ。農耕地帯だったた為付近には放棄された農場が点在している。北側の三か所の元農場を抵抗拠点として工兵の力を借りて作り変えた、ここを適切に使いたまえ」
「間取りの情報はありますか」
「工兵部隊に任せている。自分の目で確認し、人員配置を決めてくれ」
丸投げというべきか、フリーハンドを与えてくれているというか、私にとってはやりやすいか。
「他の所はどの程度の戦力配置となりますか」
「南側も君と同程度、そして東正面は残りすべてが配置される」
「東側にはガイア連合から誰が来られるのですか、場合によっては交代の可能性も……」
「東正面にはガイア連合からの方は居ない」
「えっ」
思わずジェームズの顔を見てみれば、彼は困ったような顔をしている。まるで聞いてくれるなと言わんばかりだ。ああ、つまりこれも政治というやつか。東側正面は一般信徒達の区画に近い、ガイア連合からの増援を目立たせる訳にはいかないということか。
「そうですか……狩人殿はどうされるのですか」
「狩人殿は今回の原因を解決する為に、明日ガイア連合からの人を迎えた後旅立つとのことだ」
「彼が解決していただければ……何日かかると?」
「戦闘開始から48~60時間程度だそうだ。この情報は皆に言わないでくれ、変に希望を抱かせたく無い。何せ本当かどうかもわからないからな」
「分かりました」
「さて、君に今回の戦闘に関する基本方針を伝える。なるべくガイア連合の方を前に出さないでくれ。彼はメシア教徒でもなければ地元民でもない。何かあって
関係を悪化させないという名目で目立たせるなということか、簡単に言ってくれる。ゾンビ共が情報通りであれば手持ちの兵力で耐えられるだろう。今回の原因が何かは分からないが、作為的に引き起こされたものであれば原因となった何かがあれこれ手を加えてくるだろう。そんな状況でゾンビだからいいものの、非覚醒者とそこまで強くない地元覚醒者、戦力として宛にするなと釘を刺されたガイア連合の人員、この状態でどこまで戦えるか。安心材料としては、地元の連中は死なせるなと言われていないことだけだろう。
「以上だ、疑問がなければ直ちにかかってくれ。ああ、それとガイア連合の方は明日午後3時にテレポートしてくるそうだ。2時半ごろには待機してくれ」
「了解しました。直ちにかかります」
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D-Day -1日
拠点の確認を行い、民兵指揮官─ミラーと名乗った─と会い状況を確認し、人員の配置を相談。その後遅い夕食を取りながら装備品と糧食の手配書作成を行う。
夕食はパンと魚入シチュー。魚は嫌いではないが、偶には肉が食べたい。この国……いや世界が崩壊した後食べた記憶がない。
民兵たちは自前の銃は持ってくるが、弾については心許ないとのことでこちらで手配する。聖別されていない通常弾ならそれなりに備えてはいるから快く支給してくれた。だがいざというときの聖別された弾丸が欲しかったが、正面に全部持っていくらしい、フ○○ク。
ついでに余っている機関銃類を確認すれば何挺かあるらしいので押さえておく。正面部隊で銃を使うのは主に軍らしく、自前の弾薬類を確保しているそうだ。
手配を終え寝床に戻る。指揮官なんてやるもんじゃない、軍人時代は上官の陰口を叩いたものだが今は尊敬できる。紙の戦いをこなしながら俺たちを率いるのは大変だったろうにな。それに……宗教組織の中ですら紙の戦いがあるとは思わなかったよ。
日の出とともに起床し、朝の礼拝と朝食。正直そんな場合ではないと思うのだが、そんなことはおくびにも出さない。主も天使様も信じているが、人が織りなす宗教組織ということは、ルールによって統制される。ただ主と天使様を信じるだけで動いているわけではないということで、なんとも堅苦しいことよ。
その後ミラーと会い、書類を渡し装備品の受け取りを頼む。民兵の配置については事前に打ち合わせているため、自分たちで展開してもらう。
昼前に地元デビルハンターと軍、メシア教の全体顔合わせに出席。おえらいさんの話はいつも長いが、指揮官のジェームズ殿は短くて助かる。天使様ですら高位になると説教が長くなるのは一体なんなのか。
「では、配置を発表する。まず北側の指揮官は、この……ジャックとなる」
「ジャック、ジャック・J・ジョンソンだ。よろしく頼む」
発表と同時に席を立ち、軽く会釈をする。
「このジャックの下で戦ってもらうのは……キッド・アストリー、アドリー・クラーク…………
そして、ガイア連合の『レイジ・ロクドウ』となる」
レイジ・ロクドウとやらは一体どんな人物なのか。疑問を胸中にしまい込み人員配置の発表を聞き流す。
「……以上となる。名前を呼ばれなかった人は正面担当だ、皆待機所に移動してくれ。指揮官は集合だ。以上解散!」
皆が解散し、それぞれの持場に散っていく中、私達指揮官となってしまった面子は逆に集まる。これから戦闘前の最終打合せとなるが、何が通達されるのか。
「さて諸君、ゾンビは審判の日まで眠りについておくべきだが、理に反しこの地を闊歩している。我々の使命はゾンビへ速やかに安らぎを与え、理を正す事だ。
この後、狩人殿がこの基地へ来られガイア連合からの来援を迎え入れた後、偽りの命を吹き込んだ原因を突き止め、解決する為出発する。
我々の前に真なるメシアが現れるまで、諸君らの信仰に期待する」
あれこれ手配を済ませ、時間ぎりぎりになんとか待機所に滑り込む。いつの間にか来ていた狩人殿は
「よお、君が今回
「此方こそよろしくお願い致します。狩人殿のご紹介ですし、大変心強いかぎりです」
狩人殿がいきなり私に会話を振ってくるが、笑顔で対応する。大司教殿、余計な事はいうんじゃねーぞという顔でこちらを見ないでくれませんかね。
「あー、レイジとタカシどっちが君の傘下に入るんだい」
「レイジ殿のほうになります」
「レイジの奴は近接系だが継戦能力は高い、ゾンビに放り込んでも耐えきるから、こき使ってでもゾンビを押しとどめてくれよ」
「ええ、おまかせください」
まあ実際はそういうわけにもいかないのです、ゾンビ次第ですよ狩人殿。指示がありますので、簡単に投入はね……
内心を隠しながら対応していれば、狩人殿は南側指揮官にも挨拶する為か離れていく。やはり強者はいるだけで圧を感じる。ついでに、顔が笑っていない上役が後ろにいると背中の冷や汗が止まらん。
『いやー来てもらってすまんな二人とも』
『いえ、仕事ですから』
『ゾンビぶっ殺すだけであんな報酬もらえるなら、誰でもやるっしょ』
『玲治はあっちのでかい奴、ジャックの下についてくれ。で、啓史はそっちの奴が指揮官な。俺は原因解決してくるからここは任せたぞ』
『分かりました、お気をつけて』『ういーっす』
『ああ、お前らも気をつけてな』
狩人殿が着た二チームを受け入れ日本語で何事かを会話している。朗らかなやり取りだから悪い内容ではないのだろう。私もこの事件が終わったら日本語講習を受けるべきだろうか。
「貴方がジャックかな。私はレイジ・ロクドウだ、よろしく頼む」
「こちらこそ、私はジャック・J・ジョンソン、テンプルナイトにて信仰に生きるものです」
彼と握手し、仲間を紹介してもらう。
『私はハルカ・ロクドウ、そしてこちらはコジロウです』
『ワォン!』
さりげなく薬指を見てみればおそろいの指輪をしている。つまり……夫婦なのか……?気になるが、今はその時ではないな。
「ではついてきてください。我々の待機場所に案内いたします。
そこで、配置された人達との自己紹介と作戦の説明を行います」
「わかりました」
少し安心できた。少なくとも私の指示にはしたがってくれそうだ。強さと人格は比例しない。性格的には糞ったれだが霊的には非常に強い可能性があるのが霊能力者の厄介なところだ。考えてみれば
その後は待機場所での相互の紹介と作戦の説明を行った。ただまあ、いきなりキッド君が殴りかかると思わなかったし、反撃から手が飛ぶとも思わなかった。もっと血の気の多い人同士であれば殺し合いに移行してしまうだろうからすごいヒヤヒヤした。そして
信徒と地元の方々を守る前に仲間割れで全滅はゾッとしないが、その後に聞いたレイジ殿のレベルを聞けば、この人を止めるには上位天使様の御出座しを乞うくらいしか無さそうで胃が痛い。我々方には
まあ、天使様がでてくださるなら他組織の助力なぞ借りはしないか。
「そ、その疑うわけじゃないんだが、アナライズさせてもらっても?」
「ええ、どうぞ」
皆がアナライズアプリを起動し測定結果少なくとも100は超えていることが分かった故かキッド君も大人しくなって良かった。若気の至りで世界……とは言わないが、この基地は壊れてほしくない……南側も大丈夫だろうか。
私がLv43、キッド君Lv29、ミハエル殿Lv35、アドリーさんがLv48。ただのゾンビの群れであればこれで十分だろうが、今度のはゾンビの津波。普段戦う悪魔とは数が比べ物にならない。だからLv165、149、122の増援はありがたいが、問題は上から言われている目立たせるなという事だけか。
「あー、一点いいかな?、アメリカって、BBQ文化あるじゃないか。
一つあったサプライズとしてはレイジ殿が
味?もちろん美味しかったさ。次に食べられる時が来るかは解らない味、感謝の味、心が満たされる味。やはりメシア教徒であるとしても、私はアメリカ人だったのだとこの時思った。
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D-Day 当日
次の日、朝の礼拝後最終的な拠点と装備に問題無いことを確認した。拠点に配置された以外のメンバーでガイア連合の人達とミラー殿には、壁上に作られた簡易司令部に詰めてもらった。また、その他民兵達は簡易的に作ったバリケード等に配置した。
「ミラー殿、民兵の皆さんは問題ありませんか」
「拠点に行った連中も意気軒昂、問題はないよ」
「そうですか」
ちゃんと戦ってくれれば言うことは無いが、ゾンビにビビって士気崩壊はやめてくれよ。指揮官としてはそこに配置されたデビルハンターが一番貴重なんだと思うが口には出せない。もちろん皆生き残れるのが一番だが、それは難しいことは理解している。主が直接降臨していただくくらいの奇跡が必要だろう。
「レイジ殿のチームは最初は待機ですので、お願いたしますね」
「了解しているが……いいのか?俺たちが前線で暴れればそれだけ楽だと思うが」
「いえ、いいのです。今回の戦いは戦闘幅が広い、戦闘の重点に派遣したいと考えております」
「そうか。じゃあ待機するよ」
そう言うと犬をあやし始めた。問題なければ最後まで待機していてほしいくらいなんですが、多分強い変異種が現れるだろうから、そこに行ってもらうことになりますよ。
ゾンビ達は全部が一塊ではないようで、接触開始からしばらくは何も連絡が無かった。頼りがないのは良い便り、前線では順調に戦えているのだろう。
一度キッド君のいる拠点から弾薬補充要請がきたくらいで、恐れていた事は起こらなかった。
状況が動いたのは夜半、まずミハエル殿、ついでキッド君、アドリーさんの所からヘルプコールが来たことだ。どこも、デブなゾンビが大量に現れたと訴えかけてきていた。
「すまんが三拠点とも危ないそうだ。行ってくれるかね」
「誰をどこに派遣するんだ?あー、速度だとコジロウ、俺、ハルカの順番だからその点で判断してくれ」
ここからの距離にそこまで違いがないが、一番遠いキッド君のところに犬の……コジロウ君を派遣。次いでアドリーさんのところにレイジ殿を、最後にミハエルが一番近いからハルカさんを派遣する。実力を把握しておきたかったが戦わせれば目立ってしまうから……失敗だったか?
「ではその通り頼みます」
「了解ちょっと行ってくる」「ワォン」
レイジ殿とコジロウ殿が壁から踏み出し出撃していく。少し遅れてハルカ殿が壁際に立ち、意味深な投げかけをしてくる。
「私達をそこまで邪険にしなくてもいいのではなくて?それとも……過激派の紐付きでいらっしゃる?」
怪しまれているか……普通であれば強いものを前面に出すのだろうが、我々にも言えない理由があるのですよ御嬢さん。
「でしたら、もっと無駄に消耗するように配置しますよ」
「ええ、最後に後ろからグサリとならないようお願い致しますわ」
そう言い残すと飛び降りていった。ふう、やはり指揮官なんてやるものではないな。特に身内ではなく外部の者を使わざるを得ない時には。
戻ってきたレイジ殿によれば暫くゾンビは来ないとのことで、それを信じ損害のまとめを開始する。今日の人的損害は0、だが弾薬は大量、そして幾許かの拠点の修理部材。補給用の書類をまとめ提出し、補給を受ける。基地に配置され、初日は対して消耗していない民兵たちに運ばせるのと同時に修理を行ってもらう。
今日と同じ程度の敵が来ると判断し、レイジ殿には明日からは拠点の更に前で暴れてもらうことにする。敵を減らし拠点が耐えられるほどにしつつ、あまり目立たない事を祈る。範囲攻撃であれば見えてしまうかもしれないが、戦闘に集中して覚えてなければいいんだが。
「レイジ殿、明日は前に出ていただきたい」
「了解。で、どのへんにいけばいいのかな」
「私としてはこの……付近と考えております。ある程度数を減らしていただければ拠点は耐えられると考えております」
「分かった……こちらの判断で優先して潰すゾンビを判断して良いか?」
「ええ、お願いします」
ふー、拒否されなくてよかった。強い人間を指揮する苦労を上が味わってほしい。軍で言えば階級が上の人間を指揮下に入れるようなものだ。まあ、もう遅い時間、拠点に配置されていた連中に寝てもらい明日に備える。手配が終われば夜の遅い時間、ようやく一眠りできるかという時間だが、レイジ殿は全然平気そうである。
「レイジ殿は眠くならないのですか、あまり明日に堪えるのは簡便してほしいのですが」
「んー、あまり動いてないからね。3日連続戦闘などに比べれば大したことはないさ。でも心配というなら寝ておくよ」
そう言うと椅子に座りながら目を閉じる、隣のハルカ殿はレイジ殿に凭れ掛かっている。仲が良いのは羨ましいことだ。歩哨はいるから私も一眠りしないと、と思いつつ目を瞑れば直ぐ様眠りに落ちる。
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D-Day +1日
二日目は、一日目と同程度と信じたかった気持ちを一蹴された。一日目はほぼ無かった基地外壁までゾンビがちらほら到達していた。つまり、ガイア連合の強者が減らし、拠点で受け止めていてもすべてを潰せず漏れてきているということだ。暗澹たる気持ちになるが、顔には出さない。指揮官が不安な気持ちに成ってしまえばすべてが崩壊してしまう。
ゾンビの切れ目で帰ってくるレイジ殿達からの情報では、さらなる変異種が確認されたとの報告が入る。DLvで40~50ということで、伝令を本部に走らせた。基地内通話もあるが、飽和しており使い物にならない。軍と同じく専用線を敷設するべきなんだろうが、ないものねだりか。
幸いそのさらなる変異種─レイジ殿はマッチョと読んでいた─は破魔弱点ということで、この基地まできたのであれば私が前に立つしか無い。幸いマッチョ型は一体しか来なかった。壁の一部の破損と引き換えに私がマグネタイトに帰したがあれが二桁襲ってくるとなると厳しいだろう。
夜になり、更にゾンビの攻撃は激化した。私がいるこの壁まで到達するゾンビの数、質共に増加した。拠点からの連絡はないものの、この分では全滅している可能性も考慮しなければならないな。そんな事を考えてみればもどってきたハルカ嬢から、キッドの拠点が蹂躙され、全員死亡したとの報告がきた。
「それではキッド君の拠点は……」
「ええ、私が寄ったときには全員死んでいたようです。キッドさんに至ってはゾンビに貪りつくされていたようで、彼の腕らしきものしか見当たりませんでした」
だめだったか……、他拠点はどうだろうか、場合によってはすべて引き上げさせてここで防御しかないか。とりあえず他拠点が生きているか連絡しなければ。有線電話を回し、まずはミハエルへ電話をかける。
「こちら本部……いやジャックだ」
「こちらミハエル、どうしたかね」
「ああ、生きていたか。そちらの状況はどうか」
「ゾンビ共の数が多いな。私が
拠点によらなければ民兵たちは一溜まりもないし、そこまで補修物資はないから壁で耐えるしか無さそうだ。最悪レイジ殿達に大暴れしてもらい、彼らだけでも生きてもらうか……
「他2拠点も大分ぼろぼろのようだ。耐えきれそうにないと判断した、君には壁まで引いてほしい」
「そうか状況は……分かった、死亡者を埋葬したら下がることにする」
「了解、終わり」
電話をしていればレイジ殿も戻ってくる。いつの間にかコジロウも居た。
「レイジ殿、現状どうだね」
「昨夜と同じくしばらくゾンビは来ないと思う。そして、あー、アドリーさんのところも中々ボロボロのようだから明日はまずいかもな」
引き上げさせないとまずそうだ。アドリーの所にもこちらから連絡しないとだが、生きているといいのだが……鳴らしてもなかなか出ないが、もしかして殺られたか?
「もしもし」
とりあえず生きてはいるか。
「こちら本部……いや、ジャックだ。レイジ殿によればしばらくゾンビの襲撃は無いそうだ。その前哨拠点は放棄するから基地に引いてくれ」
「大丈夫なの?こちらは壊れたけど直せばまだいけそうだけれど」
「他2拠点はもうボロボロということだ。君のところにゾンビが集中すると耐えられないと判断した」
「わかったわ。皆に言ってこれから帰るわ」
「お願いする。終わり」
キッドや民兵達の死を伝えるのは戻ってきてからか。軍でもそうだったが、死者のことは伝えるのも伝えられるのも堪えるな。
戻ってきたアドリーとミハエルにキッドの死と拠点の壊滅を伝える。二人共気落ちしていたがさすがにそれで崩れるほどではなかった。デビルハンターの仕事をやってるだけはあるか。むしろ民兵連中のほうが悲しみを抑えきれなそうであった。
明日の作戦、ガイア連合の人々に放棄拠点とこことの間で戦闘してもらい、あとは来たのをすべて倒すという作戦とも言えない作戦を説明。ミラーに、明日の人員配置を投げ、糧食の手配をすればもう深夜。24時間営業をしないだけゾンビ共はましかもしれないなと思いつつ気絶するように寝た。
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D-Day +2日
「では頼むぞレイジ殿、ハルカ殿、コジロウ殿」
そう行って送り出したものの心配のタネだらけだ。別に彼らの実力について疑義は無い。ゾンビがいくら強くなろうとも世界を滅ぼすレベルにはならないだろう。故に彼らは鼻歌交じりでこの状況を切り抜けられるだろう。だが我らにそんな余裕は無い、主の元に召されるか、地にて生き続けられるか、まるで解らない。
彼らの戦闘はここからでも見えるのだろう。そしてこの場にいる人々は思うのだろう、『メシア教よりもガイア連合のほうが頼りになる』と。
ああ、ガイア連合が我らと信仰を同じくしてくれれば……漏れ伝わってくる日本からの話では、彼らは信仰を強制されるのが嫌いなようで、勧誘はかなり控えめだそうな。とても惜しいが、虎の尾を踏んでご破産よりはましか。
「ねえジャック、いつまで戦えばいいのかしら」
「それについてははっきりしたことは言えないが、多分、今日で終わりだろう」
そう、狩人殿が成功すれば今日で終わるだろう。さて、今日の仕事を始めるとしよう。持ってきた拡声器で直接指示を飛ばす。
「射撃開始」
願わくば、今日も耐えられますように。
レイジ殿のチームが前方へ突っ込んで行き、しばし時が過ぎた。ゾンビ達がぽつぽつと見られるようになってきた。レイジ殿が選んで倒している為か、壁まで到達するゾンビは通常ゾンビばかり、我々の通常火力でなんとかなりそうではあるが、ここは二人の霊能力者にも指示を与えておくか……
「アドリー、君は範囲攻撃で削ってくれ。変異種がきたらそいつらを中心に。ミハエル、君は抜けてきた変異種に対して破魔魔法を撃ってくれ」
「わかったわ」「了解したよ」
さて、戦力配置はこれでいいのか、迷いは尽きない。悪魔を前にただ武を振るうだけのなんとシンプルだったことか。
戦闘はある程度想定通りに進んだ。徐々にゾンビ共が増えてきたものの、変異種の割合はそれほどでもなかった。遠方の大きなゾンビが空を飛んだり、広大な範囲が凍り付いたりする戦闘からは目をそらす。結局当初の目標である、ガイア連合の方々を目立たせないはあまり上手くいかない。
(不本意な)活躍を遠い目で見ていられたのもそう長い時間では無かった。ゾンビの変異種の量が増えてきて、私自体が前線に出ざるを得なくなったからだ。
弱点が破魔で良かった、私でも対処できるから。そう考えていられたのも地響きが聞こえるまでだった。
大きく、そして醜悪な相貌をした悪魔のようなゾンビが地響きをたてながらこちらに歩いてくる。
「ねえ、何かでかい音が聞こえるんだけれども……もしかして新人かしら」
「巨大ロボットはガイア連合にしか存在しないと思っていたのだがね」
日本支部からの情報で、ガイア連合がガーディアンロボを持っているという真偽不明な情報がある。高位天使様に匹敵する実力を備えた存在を支部に配置しているとか。存在するなら今まさに必要といえるだろう。
「おい、ジャック。あんたもそんなジョーク言うのかい」
ジョークならよかったのだろうが多分本当に存在するだろう、彼らは底が知れないゆえに。
「ジャック、援護射撃はしなくていいの?」
「あ、ああ。目標、あのデカブツ!射撃開始!」
いかん。余りの存在にしばし正気を失ってしまったが、慌てて射撃開始の合図を送るも、民兵が放つ銃弾が効いている様に見えない。
『ハルカ!、アナライズするから少し足止めしてくれ!』
『分かりました、極寒よ来たれ!【ブフダイン】』
巨大なゾンビを攻撃しながら引いてきたレイジ殿たちが日本語でなにごとか意見を交わすと、ハルカが凍り付かせ、その前に佇み気合を入れたレイジ殿が一閃すれば巨体が二つに分かれ、消えてゆく。
「やっふーー」「Yeeaaa!」「やったぜ!」
皆歓喜の雄たけびを上げているが私はそうはならなかった。存在感からすれば相当に高位な悪魔だ。あれに破魔魔法が効くのであれば押しとどめられるが無理であればどうする……彼らのみが倒せる存在がでてきた場合、この地でのメシア教の存在価値が揺らいでしまう。
「ジャック、報告だ。さっきのデカいゾンビだが、【物理無効】と【破魔無効】を持っている。通常攻撃は効かないし、君たちメシアの破魔もだめだ。他の属性攻撃で攻撃するか、弱点の【呪殺魔法】を使用してくれ」
物理無効。その存在は知っていたが現実に存在を告げられるのはやめていただきたい。
「その、君を疑うわけではないんだが、その情報はどのように知ったんだ?」
「ん? 使い捨てアナライズを使用しただけだが……そうか、あなた方のアナライズでは見れないか」
アイテムであれば私も使い確認することはできるが……分けていただくことはできないだろうか。
「使い捨てアイテムなら私にも使わせ「伝令!」」
突然飛び込んでくる伝令を名乗る存在。服は
「はぁ、はぁ、ジャック殿、よろしいでしょうか!」
「ああ、皆すまない」
我々は皆と少し離れて会話を行う。心なしかお互い声が小さくなる。
「何が起こったのだね」
「中央部隊が壊滅しかけており、増援を要請しにきました!35フィートはありそうな巨大なゾンビに大苦戦しており、テンプルナイトも天使様も倒れ伏しております」
「状況は分かった……」
状況は最悪だ。中央には我らの主力が配置されている。こちらからは……レイジ殿に行ってもらうしか無いか。単独で戦え、そして回復できる人材でなければ難しいし、逆にパーティーで行かれてしまえばここが終わってしまう。私は意を決してレイジ殿に話しかける。
「レイジ殿、悪い話だ。東の基地正面が相当まずい状況だ。誰かを派遣しなければならない。すまないが、行ってくれるか」
「指揮官は貴方だ、指揮には従うよ」
拒否されたらどうしようかと考えていたが受け入れてくれて助かった。だが……後ろのハルカ嬢の顔は目が笑っていない。これは相当な怒りなのかもしれないな。終わった後の私の命が心配になるか……
『春華、ここは頼んだ。君の
『分かりました……お気をつけて』
「では、案内してくれ」
レイジ殿は伝令にきた若者について行った。中央の者たちへ主と天使様のご加護がありますように、そして私にも。
「ハルカ、よろしく頼むわよ」
「足を引っ張らないでくださいましね」
ハルカ嬢にアドリーが話しかけるが、空気が相当冷ややかだ。戦闘前にそういうのはやめてくれないだろうか。周りの士気まで下がってしまう。
だが注意は難しい。目の前に展開されている広範囲の凍結、その範囲は小都市ならすべてを氷漬けとすることも可能に見える。塩の柱ならぬ氷の柱、主の命を受けた天使様が振るった力に近いものを持つ者は、果たして人と言えるのか。
一体の巨人に対し、ハルカが呪殺魔法を唱える。巨人の足元にできた、見ただけで正気を削られそうな手が飛び出る暗がりは、地獄への門に相似しているかのようだ。ゾンビに対し必死に唱える自分の破魔魔法がひどくちっぽけなものに思えてくる。
呆けているアドリーにハルカが何事か話しかけているが、飲まれかけているのかもしてない。
私を含めた皆が必死に戦っている。つまり指揮官みずから必死に戦うということは、戦線は崩壊しかけているということだ。今は薄氷の勝利を積み重ねているがどこかが綻べば皆死ぬだろう。
「いつまで耐えればいいのよ……」
「まったくだ」
二人が言う通り、いつまで戦うのだろうか。実はここが地獄で、我々は主が降臨するまで戦い続けるのだろうかという邪念が浮かび、新手のゾンビが姿を現す。
「休憩しているところ悪いが、次が来た」
「ねえ、ジャック。これが終末のラッパが鳴らされた光景なのかしらね」
「
終末の一歩前かもしれないがね。
「射撃……」
私が射撃開始を叫ぼうとしたが、ゾンビが静止した。何かが起こっている、だが何によって?
一拍の後、すべてのゾンビ達がマグネタイトに返っていく。
歓声が上がる中、私は心中で嘆息した。狩人殿がやってくれたのだろうが、これでガイア連合の存在感はアメリカ大陸ですら強くなるだろう。彼らはここに強力な戦力を送り込めるのだ、信仰にうるさい我らと彼ら、一般の民衆がどちらをみるのか……明白だろう。
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D-Day +5日
「では、今回の損害となりますが……」
ゾンビが滅びたのは、狩人殿が騒動の原因を取り除いたためであるのは、帰ってきた当人から聞かされた。だがゾンビ共からこの基地及び周辺を防衛するために失われたものは多い。
「まず、テンプルナイトから主の御許に召された人員が10名、協力頂いた霊能力者から5名、連邦軍から55名、民兵から13名となります。まずは、彼らの魂に祈りを」
「主よ、御許に召された人々に、永遠の安らぎを与え、あなたの光の中で憩わせてください」
皆が死した人たちの魂の安息を祈る。多くの人が亡くなったが凶悪なる悪魔の群れに襲撃されたとして、この損害は許容しうる範囲か?どうだろうか。ただ、ガイア連合の方々が居なければ、今こうしている我らも主のもとにいるであろう事は確かだ。
「また、天使様方も大多数がそのお体を維持できずお帰りになっている状態です」
各所からうめき声が上がる。我ら、所謂穏健派に協力的な天使様で且つ戦闘を行っていただける方は少ない。その大多数が戦線離脱となってしまい、再召喚には時間がかかるだろう。その間に信仰を違えた者達や他悪魔に襲撃された場合など考えたくもない。
「戦力の立て直しの為、他支部から一時的にテンプルナイト派遣の打診を行っております」
他からの増援を当てにしたいところであるが、現状余力があるのが
もしや……日本支部が戦力の出し渋りをするのは、唯の穏健と言う名の引き籠もりなどでは無く、戦力の温存から恩の売り時を測っていたのか?多少表にでてくるようになってきた、日本支部のサチコというテンプルナイト、テンプルナイトらしからぬ振る舞いをしていたが……偽装だったのかもしれないな。日本人はアルカイックスマイルで煙に巻くタイプかと思っていたが、そのような人間も居たのかと驚くべき事よ。
「幸いにも一般信徒に被害が無かったことのは幸いでした。引き続き基地機能復旧と民心の慰撫を図っていきます」
報告は続き、基地機能の立て直しやテンプルナイトの配置について発表があった。大きな事件はあったが、終わればまた悪魔との戦いが帰ってくる。
「最後に、執行部は狩人殿に
拍手が起こる。ガイア連合では無く、狩人殿個人を列聖することにより、対外的には我ら側であるとアピールしつつ、文句を言われた場合は宗教としての感謝の証ということでバランスを取るのだろう。多分狩人殿自身は興味が無いだろう、何せ事件後に引き止めてもすぐ旅立ったのだから。ただ、一般信徒や事情に詳しくない一般人へは効くだろう。不安定な状況を少しでも打開するための手立てだが、どう転ぶかな。
結局のところ、信仰を違えた者達とガイア連合の戦いが主となり、我らは盤外のコマとしてなんとか生き残ろうとするのだろう。メシアの降臨を祈りつつ日々を生きるか……
これからどうなるのか、我々は何処に行くのか……、主と天使様よ、我らをお導きください。
列聖の場合の呼び名は以下と考え、聖人は単純に特の高い人間を指す言葉としております。
尊者⇒福者⇒聖者
そして今回の話を書いて思ったこと
1.ドクイモ氏の原作で、幸子がいつの間にか穏健派代表になってたから、これくらい政治的ムーブするんじゃないか
2.狩人殿を勝手に動かしたのでクレームついたら変えるかも
3.メシア教の生活、驚くほど分からない
次は掲示板だしそんなにかからないといいな……