カオ転三次 カオス転生の片隅で   作:FakePusai

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終末にて東京崩壊後、数カ月後くらい。
自衛隊描写は適当です。

斎藤 一(さいとう はじめ):自衛官、隊舎内で生活がほぼ完結しているため、世界の変容が良く分かっていない一般人(非覚醒者)
森 誠人(もり まこと):デビルハンター、Lv2 低Lv向けの仕事をしながら生きている一般的ハンター
悪魔召喚プログラムを持っているものの低Lv且つマグもマッカも少ないため契約悪魔0


終末後③(斎藤 一 、 森 誠人)

斎藤 一

20XF年XX月XX日

G県 自衛隊駐屯地

 

「本日も体力錬成を行う!、駆け足10キロ!、よーーい!」

 

「きょーどほちょーほちょー」

 

 自衛隊駐屯地に汗臭い男どもの声が響く。

 

 むさくるしい男共が足並み揃えて走り始める。自衛隊にとって駆け足(ランニング)なんて日課のようなもの……だった。だが今じゃ違う。

 

 俺の名前は斎藤一、階級は陸士長。別に幕末で暴れた人間とは関係はない。先輩や幹部の一部からは『刀とか使えるんか?』といじられる面倒な名前である。中学高校と野球部だったし剣道もやってない、牙突なんざできねーし、なんなら名字が同じだけで縁も所縁もない。

 

 なんで余計な考えをしながら走っているかといえば、余りの負荷にめげそうだからだ。

 

 迷彩服を着て小銃から鉄帽、防弾チョッキを身に纏い、止めに背嚢を背負いながら走る。もちろんすべて中身入り、水筒だって吊るしている。どっかに派遣されるの?みたいなマジなフル装備で駆け足(ランニング)をさせられているからだ。

 

 昔は戦闘服に帽子程度だったし、なんならジャー戦*1でもよかった。

 

 最近は小銃射撃訓練も碌にせず、駆け足筋トレの毎日だ。運幹の連中も世界がいかれたからか、どうかしたのかもれん。

 

 隊付の陸曹も同じ装備をしながら駆け足しているから文句も言いづらい。だがこんな体力錬成するなんざ、空挺かレンジャーの連中くらいなのに、俺達普通科ナンバー中隊にまで過酷な訓練をするとかどうかしている。

 

 一応理由は説明されている。強力な新装備が支給されるが重量が半端なく、これを装備し戦う為に俺達に体力をつけさせているのだと。そしてその新装備で戦う敵は外国とかじゃなくて”悪魔”だと。

 

 「はっ、はっ、はっ」

 

 いやー、聞いた時は幹部の頭がおかしくなったのかと思ったね。私語厳禁の講堂内がめっちゃざわついんだからそのインパクトたるや。そこから市ヶ谷(防衛庁)と連絡が取れない事、他県にいる連隊、師団とも連絡ができず、しばらく師団単独で行動すると来た。

 

 あれこれ訓示された後解散したが、隊舎内じゃこれからどうなるのか不安になった連中の会話がそこかしこで交わされたし、俺も不安だった。

 そうしたら派遣準備の命令が下りてきたわけだ。

 

 県知事からの要請で(電話が死んでいるから人が直接派遣されてきたらしい)、災派(災害派遣)で民間人救助に出動した。正体不明の凶悪生物が県内に出没(後から考えれば悪魔の事なんだろうが)したため、非安全地域住民を安全地域に避難させるのが俺達へ与えられた任務だった。

 

 ただ珍しい民間人が同道した。

 国や県の役人が対象地域との折衝で同道したり、地元住民の案内で部隊を展開することは過去にもあった。だがコスプレ染みた服装の人間が、県の役人と一緒に来るとは思わなかった。

 

 警衛にいるダチは、車を検めたときビビったらしい。なにせ物騒な武器を所持(変な銃や刀とか)してコスプレ染みた服装で人が乗っていて、思わず司令(警衛司令)に確認したとか。そうしたら幹部(警衛幹部)から聞いているから通してやれときて、再度ビビったとか。

 駐屯地に武装した民間人が侵入とか事案としか思えないが……、まあ最初から上の方(上級幹部)は情報を持っていたんだろうなって察したよ。

 

 「あと半分、気合をいれろぉおお!」

 『うおおおお』

 

 「おー」なんだか「うー」なんだかよくわからない叫び声を上げ俺達は走る。俺は小銃だけだからまだマシだが、砲手なんかは小銃に加えて10kg越えのハチヨン(カールグスタフ)まで担いでいて死にそうだ。俺だって体を意識してしまえば、悲鳴を上げている体の各部を無視できない。

 

 いかん、なにか考えないと倒れる。

 

 で、えーと、そうだ、俺達が村とか町に派遣され、割り当て区域の一軒一軒を回って住民を確認、回収している間、コスプレ連中はどこかに散っていった。

 

 悪魔と呼ばれる連中から住民と俺達を守る為だったんだろう。

 

 俺は見ていないが、別の地域へ展開した部隊は、炎の荒れ狂う様や、なにかが破壊される音と共に、コスプレ連中の一人を見たらしい。

 

 つまりアイツらは糞強いスーパーマンだったと。

 俺はいつのまにかドラ〇ンボ〇ルの世界に紛れ込んでいたみたいだ。人がそんなに強くなれるなら兵器はいらねえ、が、まあ連隊の兵器の内、結構な装備が動かなくなってるらしいから、どうしようもねえけどな。

 

 下は無線機や01式から、上は指揮通信車まで何故か動かなくなっている中、整備の連中(支援中隊)が順繰りに弄ったらしいジープ(1/2tトラック)コーキ(高機動車)三トン半(3 1/2tトラック)は動かせている。

 

 ついでにいえば、隊舎内のテレビなんかの電子機器も大半死んでしまった。俺達隊員がもっている携帯も半分くらい死んだし、電子機器関係はだめなのかしれん。

 

 そろそろ買い替えようとは思っていた俺の携帯も、うんともすんとも言わなくなり、動かなくなった携帯を前に悲観にくれたぜ。

 よくわからん妖精が壊したのなら弁済してほしいわ。

 

 で、うちの駐屯地は割とでかくて、師団司令部や航空団、戦車大隊まで同居している。この同居していたヘリや戦車の連中の装備も、ぜーんぶ動かなくなったとかで、まじご愁傷様だ。

 

 他県の部隊とは連絡が取れないから戦力は欠まみれで、師団全力とはいかないようだし、将来が見えない部分がある。

 

 装備関係は、県内の別の場所にいる支援大隊の連中の力でなんとかならんかね。怪獣……いや悪魔か?、と戦うなら戦車とかヘリ(うちのヘリ団に対戦車ヘリはないが)とかないと人間じゃどーにもならん。

 

「おーし!、ゴールだ、よくやった!」

 

「はー……はー……」

 

 地面に倒れこむ。同じ部隊の連中もほとんどが倒れ伏している。

 

「一ヵ月前は中隊の半分が脱落した!」

 

 陸曹が俺達を睥睨しながら一旦声を切る。俺達と同じ装備を身に纏いながら倒れもしねーのはマジゴリラ。

 

「だが、今回の脱落者は3名だ!これは大いなる進歩だ!」

 

 進歩ね、進歩。もうちょっと飯食わせてくれればよくなるとおもうんですがね。

 

 糧食に回された奴曰く、上からの補給もないし物を買おうとしても大変だとかで業務隊の会計は頭を痛めているらしい。そりゃ飯の質も下がるし、戦わずして全滅するんじゃねーか?

 

「20分休憩後、営庭集合!」

 

「了解」

 

 皆疲れ果てているので力なく返事をする。普段ならしばかれそうだが、さすがに向こうも死屍累々なのが分かっているから指導も無い。

 

 「あー、これからどうなるやら」

 

 空を仰ぎながらそんなことを思う。

 


 

 そっから三か月経ったが、もう驚きの連続だった。どっかの外国が攻めてきたと聞いた方がまだマシなくらいの驚きだ。

 

 まず、うちの師団が中央との連絡を回復するまでとという前提条件ながら、ガイア連合なる団体の、県に設置された支部の傘下に収まることが発表された。

 ガイア連合は俺達でも知ってる巨大企業。CMを見ない日がないくらいな企業だが、自衛隊が民間企業傘下になることに俺達も驚いた。

 講堂がざわついたし、良くないのだが俺も横の同僚とささやきあった。

 

「いや、うっそだろ……親方日の丸(公務員)が民間企業の下につくとか……ありえねえやん」

 

「なんかシャバがやばいって聞くけど……いや流石に民間企業の下はねえわ。

 むしろ俺達が接収するしかねえだろ」

 

「お前、さすがに民間資産接収を永田町(政府)市ヶ谷(防衛庁)の命令がないのにやるのはまじーだろ」

 

 そこに三人目が参戦する。

 

「まてまて二人とも、あっちを見てみろよ、幹部の連中、なんかあきらめ顔だぜ」

 

「げー、受け入れてんのかよ」

 

 幹部の連中は疲れた顔をしており、一般隊員が驚きや困惑の顔をしているのを他所に、微動だにしない。俺から見ても諦観のようなものを感じるくらいだ。

 

「で、これからどうするよ、首にはならないみたいだが」

 

「さすがに身の振り方考えなきゃだし、実家に連絡してみっかな……」

 

「お前のところ自営業だったっけか」

 

「まあな……」

 

 そんな会話をした数日後、奴は辞めていった。そして営内でもそこそこな人数を見なくなった。

 

 だが数週間から1か月くらいで、何故か半分くらいが出戻っていた。問いただしてみれば、どうもシャバ(世の中)は俺達の知っている以上に滅茶苦茶になっているらしく、県内で人間が生きていける地域が限られていて、結界なるものが張られた地域以外じゃ安心して暮らせないとか(聞いて漫画かよと思った)。

 

「あれ、お前辞めたんじゃなかったっけ?」

 

「ああ……なんか相談したら復帰できたわ」

 

いや相談したからって復帰はできんだろ。

 

「なに、1科長の弱みでも握ってんの?」

 

「いや特にないけど……書類を(防衛庁)に上げてないか、人手足りないんだろ。

 そんなことよりシャバはまじやべーわ。俺が辞める前に悪魔がどうとか言ってたけど、まじでおるし」

 

「はぁ?、電磁波でもくらったんか?頭にホイル巻いとけよ」

 

「そんなんで、あの糞がどうにかなるならやってるよ。つーかガイアグループ、まじやばやで」

 

「なに、世界征服でもしたんか?」

 

「ある意味そうじゃね。ガイアグループいないと人は生きていけないぜ」

 

 何言ってんだこいつ。

 

「何いってんだって顔してるけどよ、まあ長くなるが聞けよ」

 

 で、詳しく聞いてみればシャバ(世間)じゃ仕事も碌に無いし、自分の故郷が結界内になければ失われたも同然のようで、食っていくため復帰できないか相談したらできたと。

 普通はできないんだろうが、1部長と1科長が相談の上、退職の書類を無かったことにしたらしい。仕事していなかった期間は、やむを得ない理由で休んでいた扱いにしたとかなんとか。

 

 後は、前々から言われていた新装備が支給された。言われていた通り糞重いヘルメット型の鉄帽で、被れば俺達でも悪魔なる存在が見えるようになった(普通は覚醒者しか見えないらしい)*2

 被りながら支給された新弾薬で悪魔を撃てば、低級の悪魔(Lv1~3くらいとか)なら俺達でも倒せるようになり、所謂霊能力者しか戦えない状態よりマシになった……らしい。

 

 俺も低級悪魔と呼ばれる存在の駆除に出動したが、あいつらくっそ素早い。しかも力も強くて、突撃をくらった隊員は吹っ飛ばされて転がっていき、衛生に引っ張られていった。あとから聞いたら肋骨と腕を骨折していたと。

 

 俺達普通科は霊能力者よりは人数が多いから、雑魚の相手は俺達がやることになり、強い連中はよりヤバイ所へ派遣されるそうだ。あれで弱いなら、強い悪魔とか俺達が相対したら漫画のモブよりひでえことになりそう。

 

 ただ、自衛隊員(今じゃ元か)でも選抜された連中は【デモニカ】なる全身鎧を纏い、さらなる力を手に入れたとか。この装備は霊能力者と同じような力を得られるスーパーな装備らしい。そしてなんと、この装備を纏うとレベルを上げることができるらしい……そうレベルだ。

 

 ゲームかよと思うような単語が飛び交うこの時代、頭おかしくなりそう。

 そりゃ古参陸曹みたいなおっさん達より理解できるが現実感が無い。

 

 だってレベルだぜ?

 世界がゲーム化するとか、一昔前だったら鼻で笑いとばす話だ。

 

 だが、受け入れなければならない現実、辛い。

 

 

 

 変わったことと言えば他にもある。

 

 まず飯が改善した。

 

「なんだか今日の米、光り輝いてるように見えねえ?」

 

「いや、そんなこと……ほんまや!」

 

「味も……なんかうまくね?」

 

「うお、なんだろ新米?うちにそんな金あったんか」

 

「はー、銀シャリ様じゃー」

 

「昭和かよwww」

 

 前は古米だか古古米だかの米を食っていたが、どうもガイア連合から買った新米らしい。ついでに小麦も潤沢に供給されるらしく、いろいろレパートリーが増えた(限度はあるが)。ただ糧食班長によれば、すべてが改善したわけではないらしい。

 

 全体的に肉が増え逆に魚が減った。魚好きのやつは嘆いていたが、俺にとっては大歓迎。出にくくなった食品もあるが、量的には改善したから概ね歓迎されている。

 

 それに増加食も着くようになった。インスタント食や缶詰の詰め合わせみたいなものだが、割とうれしい変化だ。カップ麺のほうがお手軽でいいが、食えないよりは何倍もマシだ。

 

 飯の変化といえば隊舎の酒保(売店)がガイアグループ系のコンビニになった。俺達隊員はひさびさのアイスなんかの甘味を食べるくらいだったが、どうも営外(シャバ)じゃ買えないような品揃えらしく、家族持ちの陸曹や幹部が買い物をしている光景を見る。

 

 俺達が新装備を受領して訓練や任務についていたが、装備が全てだめになった航空(ヘリ)や機甲の連中もいつのまにか新装備を受領していた。

 詳しくはさっぱりだが、機甲や航空(ヘリ)の連中が喜んでいたのは見たし、聞いた。数は少ないらしいが無いより何倍もマシだとさ。

 

 新装備があれこれ入ってきて、俺達普通科もそのうち全員がデモニカなる装備を身に着けるかと思っていたが、全員が装備できるほどの数は無いらしく、俺を含む大多数の隊員は重たいヘルメットを被り、悪魔を銃で撃つだけだそうだ。一応ハチヨン(カールグスタフ)用の新弾薬で属性効果付きの攻撃(ゲームくさい)ができるようになったり、迫部隊が解体されてMATを装備(これも属性効果付きらしい)する火力小隊が作られたりしている。

 

 小銃射撃訓練も再開し、やたらすばやい目標を狙う訓練が増えた。俺も現場にでるまで理解できなかったが、悪魔なる存在は低レベルでもやたら素早いから、目標に弾を当てる為、こんな訓練になったんだなって分かった。

 

 うちの師団だけかもしれないが、特技(MOS)も増えた。【対霊知識】、【対霊戦技】、【対霊機工】、etcのオカルト的なものが増え、これを保有していないと現場にでれなくなった。

 どうも理解して無い奴がやられて殉職したらしく、さすがに最低限の知識や技能がないとまずいと言う事になったらしい。

 

 新しい事ばかりだから、徐々に訓練にフィードバックされていっているみたいで、先週と今週で訓練内容が違うみたいな事が多い。

 だがまあ、訓練学校でもないから限界があるかもしれん。

 

 これからどうなるかわからんが、食っていけるからしばらくは居るつもりだ。本当だったら俺の年齢だと曹候補にでもいかないといけないのだろうが、ルートも無い。

 幹部からは階級の呼称も変わるかもしれないという話もあるが、仕事する奴を止めさせる気はないみたいだからしばらくは自衛隊……いや防衛隊?に居ると思う。

 

森 誠人

20XF年XX月XX日

G県 ホテル

 

 ポケットから取り出した煙草に火を付け、口にくわえる。

 

 深く深く吸い込み、吐き出す。

 

 口から吐き出された紫煙が半開きになった窓から外に吸い出され、ついで端に置かれた空気清浄機の稼働音が大きくなる。

 

 私の名前は森 誠人(もり まこと)、ガイア連合傘下のハンター協会に所属している唯の霊能力者だ。

 

 そして私が居るここは県内のホテル。

 なんでこんな所に居るかと言えば、お偉いさん達が開く交流会の開催中だからだ。正直この面倒な催しに参加するのは迷ったが、依頼を受けるにしてもお偉いさんとの知己を得ていれば仕事が進めやすくなる、そんな気持ちで参加したが……

 

 離れた会場は扉が開け放たれており、ここからも内部が見える。そこにいる連中は、人の顔をした魑魅魍魎だ。

 

 この県……いや支部内の有力者を中心に交流が続いているの見え、離れているここへも人の声がさざ波のように漂ってくる。

 シェルターのトップやその名代、霊能力団体のトップ、神から意を受けた信徒(多神連合系)、支部防衛隊幹部、どいつも一廉の人物だろう。そしてその中心に居るのは六道夫妻。ガイア連合の幹部*3であり、私などでは足元にも及ばない霊能力者達だ。

 旦那の玲治殿が支部長として現在君臨しているわけだが、その姿形は立場に反して、なんというか普通だ。霊能力者という存在は、見た目でないのは分かっている。見た目が子供でも大人でも年寄りでも、強い奴は強く、弱い奴は弱い。

 

 だが大抵の実力を備えた人物は、その能力に応じた……なんというか覇気を纏っていたように思える。

 その点、六道玲治支部長の見た目は普通だ。纏っている高級スーツは、着こなしているというよりスーツに着られているといった塩梅に見える。

 だが、隣にいる奥様のほうは逆にその存在感を強烈に放っている。髪を結い上げ、染み一つ無い白い肌に映える、金銀の刺繍入り黒いドレスを着こなしているし、身に纏うアクセサリも計算されつくしているのか、その姿を引き立てている。女性にしては高めの身長と併せて、王侯貴族のパーティーに居てもおかしくない美しさだ。(別にそういう催しに行ったことがあるわけでは無い、イメージだ)

 

 ”普通の目”で見れば、支部長はいいところのお嬢さんを捕まえた、場慣れしていない男に見える。

 

 だが……半分ほどになった煙草から灰を落とし、残り半分を惜しみながら口一杯に吸い込み、吐き出す。

 

 自分の口から吐き出され、ゆらゆらと漂う紫煙をボケっと見ながら思う。

 

 ”霊的な目”で見れば、それはハッキリと異なる。

 

 あれは太陽だ。私の体中にあると思われる、霊的なものを感知する器官では捉えきれないほどで強大で輝いており、じっと観測してしまえば忽ち焼き尽くされてしまうだろうほどの存在。

 人が太陽を望遠鏡で見てしまえば目が焼かれるように、霊的な高位存在もまた低位な存在を焼き尽くすのだろう。

 

 彼がその身に纏っているものも大概だ。服装こそ高級な仕立てのパーティー用スーツだが、彼が腰に下げている場にそぐわない日本刀は、鞘に納まっているのにも関わらずはっきりとその霊的な力を認識できる。

 あれなら、あの刀があるだけで低級の悪魔はその存在を保てないのではないか?、そう思わせるほどの業物だ。きっと高位存在同士の殺し合いには、ああいったものが必要なのだろう。

 

 まるで神話だな。

 

 ガイア連合は新たな神話になりつつある。崩壊した世界で秩序を再構築し人々に施しを与えている。

 

 だが何を考えているのかは分からない。唯の善意ではあるまいが、その真意が分からない。王様に成りたいだけならもっと小規模でいいだろうに、関係ない連中にまで援助を行っているように見える。

 

 紫煙をくゆらせながらそんなことを考えていれば、煙草の火はフィルターの直近まできている。惜しみながら終わった煙草を傍にある灰皿に押し付け、もう一本吸うべきか思案する。

  

 ガイア連合は流通を改善しているが、嗜好品の中には手に入りづらくなったものもある。その一つが煙草だ。酒のほうは割と潤沢に供給されている一方、煙草は初期の流通在庫が無くなった後は高根の花だ。南米流れの大麻のほうがまだ見るくらいだ(一応ご禁制品だが)

 

 一部では北米から流れてきた煙草の葉を自分で刻み、パイプかキセルで吸う奴もいるとか。

 だが私は紙巻煙草が手に入る限りこっちを吸い続けたい。刻み煙草は面倒だし、なにより濃すぎる。

 

 もう少し落ち着かなければ会場に戻れないなと心に言い訳しつつ、新しい煙草を取り出し火を付ける。そして煙を肺一杯に吸い込む。

 

 ふー……うまい。

 

 二本目の煙草を吸いつつ、落ち着きつつある頭で考える。そろそろ、荷物回収の仕事を再開すべきかと。

 

 結界外に残された荷物を回収してきてほしいという依頼は割とある。依頼人の家などから荷物を回収し、ついでにスーパーやコンビニに残された煙草を回収する。依頼人は喜び、私にも役得がある。報酬は安いが、私のレベルではそう難しい依頼はこなせない。背伸びして依頼を受け、帰らぬ人間になってもつまらない。

 

 煙草を吸いつつ、口から吐き出される煙のように自分の中のストレスが抜けていく様を感じながら、そんな皮算用する。

 

 だが、突如叩きつけられる冷気に、気持ち良い心地も吹き飛んでしまう。

 

 これは……ただの冷気では無い、魔力的な冷たさだ。

 

 「なんなんだよいったい」

 

 つい愚痴がこぼれる。冷気の出元と思われる会場内を見やれば、非霊能力者達は普通にしている。逆に一部の霊能力者は冷気を感じているのか肌を摩ったりしている。私と同じような低レベルの者はあからさまに震えてすらいる。

 

 冷気の中心は六道春華夫人。その目の前で起こっている事は、旦那に対してどっかのお偉いさんと思わしき男が若い女を紹介している光景だ。

 

 「はー……」

 

 ため息がこぼれる。

 旦那へ女を紹介からするからと嫉妬し、漏れ出る冷気が俺達を凍えさせているのだ。

 

 勘弁してほしい。旦那はソファーでもベッドの上でもいいから奥さんを躾けて欲しい。女の紹介ごときで一々切れていたら俺達みたいな連中が持たない。

 

 仕切り直しに一服吸い込むが、数口吸うだけで二本目もフィルターまで吸いきってしまった。名残惜しみつつ灰皿に押し付け、会場に戻るか三本目を吸うか迷っている時……事件が起こった。

 

 「キャー」とも「うぉぉお」ともつかない叫び声が会場内から響く。同時に霊的な力も会場内からあふれ出す。その力はまるで洪水の如し。

 すわ悪魔の襲撃かと身構え、上着の中に吊るしている対霊銃(ガイア連合製、下級品)に手を伸ばす。

 

 警戒しつつ会場を見やれば、支部長がさきほど紹介されていたのと異なる女性に刀を突き立てている光景があった。

 

 この光景を見て最初に思ったの事は、どこかの敵対勢力に操られた奴が紛れ込んだか?だった。

 よくあるのだ、霊的抵抗力の低い一般人を洗脳し、結界内に紛れ込ませて何かをしようとするやから(悪魔)は。我々のような霊能力者は大抵【アナライズ】を持っているから、調べてみればすぐバレる、しかしその網は完璧では無く、相手も一人でも通れば儲けものとばかりにやるから油断はできない。今回もそのような人間が支部長に”何か”をしようとして逆に殺られたのだと思った。

 

 遺体は回収され、調べられるのだろう、まったく馬鹿な奴もいたものだ。

 

 だがこの時起きたのは、私が思ったのと異なるものだった。

 六道支部長が刀を遺体から引き抜き、何かを唱えれば光の奔流が巻き起こる。

 

 離れていても感じるその暖かな光は、地面に横たわっている遺体に降り注いでいく。そして遺体そのものがが発光を始め、ついで上空から小さな光球がふわりと降りてきて、遺体の、丁度心臓のあたりに溶けていく。

 

 そして遺体だったモノは人に戻る。

 

 これは……一部の高位霊能力者しか行使できないという蘇生の秘儀!

 

 あのメシア教ですら行使できる人材が貴重と言われる秘儀をこの目で見ることができるとは……メシア教に聖人認定されたという噂は眉唾だと思っていたが、実際に見てしまえば否定できる要素は無いな。

 

 生き返った女性は茫然としていたが、外からやってきた警備に拘束され、会場内から連れ出されていく。

 

 会場内のざわつきは収まらない。

 支部長も奥様や知り合いと思しき人間と何事か話している。

 

 あんな事が起きてしまえばパーティーどころの話ではないが、あまり人前に出てこない支部長との会話のチャンスを逃すまいと考えているのか、お偉いさんたちはやや引き攣った顔で会話を再開し、支部長を伺っている。

 

 だが一部の人間は会場から出てどこかへ足早に過ぎ去っていき、その中の一人が私の居る喫煙スペースにやってくる。

 

 知っている顔だ。

 

 霊能力者としては私よりも格上だが、共にガイア連合の煙草供給に愚痴をこぼした仲である。

 

 こいつに話を聞いてから会場に戻るか、それともすぐに戻るか……

 

 話を聞いてからでいいなと、煙草を吸う言い訳にしつつ三本目を取り出し、火を付けながら、相手が煙草に火を付け一口吸うまで待った。

 

 「なあ、あんた会場内にいたよな。いったい何が起こったんだ?」

 

 「はー……、なんだ会場に居なかったのか? 

 まあ、そうだな、なんというか……。

 どっかのシェルターのトップが、自分の娘を支部長に売り込みに来たのは見てたか?」

 

 うまそうに煙草を吸い、ついで紫煙を吐き出しつつ答えてくれた。

 

 「まあ、それはここから見てたよ。夫人が半ギレして、こっちまで冷気が漏れてきた」

 

 「あれが半ギレなもんかよ。

 ちょっとイラっとしたくらいだな。本当に半ギレなら俺達はあの娘さんごと凍り付いてるよ」

 

 聞きたかった事ではないが、それでも驚くべき話だ。皆を凍えさせるのが少しイラっとしたくらいの話だと……?それなら本当にキレたら世界が凍り付くとでも言うのか?

 

 「まー夫人の話はいいや。で、紹介して一応表面上は和やかに会話してたんだけど、途中でどっかのアホ女が割り込んできてよ。支部長に向かってさ『もっと難民を受け入れろ』とか、『こんなパーティーするならその資源を下々の物に出せ』とか言ってきてよ。支部長は苦笑しながらそういうのは自分でやってほしいとか答えてたのよ」

 

 「はぁ……、何考えてるんですかね、その女」

 

 呆れた女だな。ガイア連合によって生かされている状態なのに文句を言うとはね。確かにやりたかったら自分でやれというのは正しい。なにせ今ここの支部とその傘下のシェルターは支部長のポケットマネーで回していると聞いている。確かに私も伝聞でしかないからどこまで本当かは分からない。だが私はガイア連合に見捨てられ、悪魔はびこる荒野に放置されれば何日生きられるか分からん。

 

 「わかんねーよ、マジで。

 で、ああだこうだ言い合って最後によ、『家柄だけの女を侍らせているからダメなのよ!』とかだったかな、捨て台詞っぽい事を言い放ったら、刀が生えてたわけよ」

 

 「言ってることも理解不能じゃないですか、その女。なんですかね、私を選べとでも言いたいんですかね。

 それと、刀が生えるってどういうことです?体内から攻撃みたいのは聞いたことありますけど、支部長がそういうスキルでも持ってるんですか?」

 

 女の正体は一体なんなのか理解不能だし、このパーティーへ招待されたかも怪しくなってきたな。

 良い人風の言葉を放ちつつ人にマウント取る人間は終末前には結構いた、だがこんな情勢になっても同じような事をするなら不治の病だ。それに最期の言葉だけ聞くなら遠回りに私を選べと言いたかったのかもしれないが、選ぶ理由が一かけらも無いな。

 

 霊的な実力者でしかまともに生きられないこの時代、せめて覚醒してから言うべきだったな……まあ、それでも夫人ほどの実力に成れそうもないが。

 

 「刀が生えたっていうのはよ、俺の実力じゃ支部長の動きがガチで見えなかったのよ。普通動作には予備動作つーか、動き始めはゆっくりで段々早くなるもんだだろ?でもコマ落ち見たいによ、1コマで動作が終わってたのよ」

 

 そう言うと煙草を咥え、美味そうに長々と吸い、そして紫煙を吐き出す。

 

 高位悪魔との戦いではそんな速度が求められるのか、それともうちの支部長が特別なのか。

 

 「で、女の正体だが……全く分からん」

 

 「どっかの勢力の手駒じゃないんです?」

 

 普通なら、どこかの勢力が潜り込ませた人間だと思うのだが。

 

 「いや、誰も分かって無さそうだったぞ。逆にだから止められなかったのかもな」

 

 確かに他の勢力の足を引っ張る為、邪魔をしないでおこうと全員が考えたのであればそうなるかもしれないが……

 

 「まー、連れてかれたし取り調べでもするんじゃないかな。そのうち分かるか……それとも闇に葬られるか」

 

 「そうですね、公表できる話ならそのうち回ってくるでしょうね」

 

 私も煙草を吸いつつ答える。どっかの悪魔の手引きという分かりやすい話であれば公表されるだろうが、支部内での暗闘ならこれっきりか。むしろシェルターへの対応を見たほうがいいかもしれん。ペナルティーなどがあるならば、その勢力の依頼はしばらく受けない方がいいだろう。

 

 「まーそれより支部長の力の一端を見れたから得だったかなって。そこだけはあのアホ女に感謝してもいいかもな」

 

 苦笑しながらそんな事を言い放つ。

 

 確かに強い強いとは聞いているが、どれほど強いかは我々のような下っ端にはなかなか分からないからな。蘇生の秘儀を使えるというだけで、強いということは十二分に分かる。もちろん【反魂香】というとても高価な蘇生アイテム(これだけでガイア連合が尋常な存在で無い事が分かる)はある。だが、私の稼ぎじゃとても買えないくらいの高価な代物だ。

 

 「人の身で生死を自在に操れるとか、実は神様なんですかね」

 

 「ハハ、ガチの神様連中が気を悪くするからデカい声じゃ言うなよ」

 

 「おっと、これは失礼」

 

 苦笑しつつも注意してくれる。

 神様が実際に存在するこの時代、揶揄すれば人の身では太刀打ちできない。

 心証を損ねても得は無いが、例外が居るならガイア連合くらいだろう。彼らは人でありながら神仏を滅ぼせるほどの集団だ。

 

 「じゃあ俺は帰るから、お前さんも気を付けてな。会場内の空気はひっえひえだからな」

 

 そう言って吸いきった煙草を灰皿に押し付け、彼は帰っていった。

 

 空気が冷えている会場内と外を見比べ迷ったが、私も帰る事にした。そんな空気の場所に居たくないし、人が減って下っ端な私が注目されるかもしれない。そんなのは勘弁願いたいという気持ちで会場を後にした。目立つということが良い事がどうかは時と場合による。鳥も鳴かずば撃たれまいとね。

 

 

 数日たってもあの女の情報は出てこなかった。表に出せないような黒い案件だったのか、表にだせないようなしょうもない話だったのか。世の中には分からない方が良い事が多くある。それも終末後なら特に。

 

 君子危うきに近寄らず、それを実践できているから私はまだ生きている、そう考えたい。

 

*1
下がジャージで、上が戦闘服な恰好

*2
注、オリジナルアイテム

*3
彼がそう思っているだけ、支部長ってそこまですごい幹部では無い気がする




◯悪魔が見えるヘルメット
 未覚醒者でも悪魔を見ることができないか研究した結果生まれた装備品
 政治家など向けとして研究されたが当初の重量が50kgほどとなっており、まともにかぶれなかった。それに、ただ見せるだけならデモニカスーツでも着せればいいのである。
 終末前後では重量10kgまでダイエットでき、またショタおじの力を借りなくても作成可能なのがポイント。
 だがデモニカスーツと違ってレベルが無いため、特に意味がないと放ったらかしになっていたのを六道が購入。
 自衛官に配布し、安い対オカルト弾を組み合わせて最低限の自衛能力を持たせた。(具体的にはLv0.1~3 くらいの悪魔を倒せる可能性あり)


なんか艦これのイベントやってたりコーラル決めてたり凱旋門がんばってたら日々が過ぎさっていましたね……
書いたのがもったいないので投稿、本家様も新作キメたり、カオ転書いてくれたりしてますしね。

他にもある中途半端に書いたものを仕上げて投稿したい……
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