妹が突然魔法少女になった転生者(退魔師)の話。 作:こーす
百合要素はありません。
この世界の裏側には、“魔”と呼ばれる存在がいて、中でも人に害なし悪しき存在を“妖魔”と呼んだ。
そんな妖魔と人知れず、太古の昔から戦ってきた存在が“退魔師”。
現代においても、その争いは続いており人々が平穏な日常を謳歌する裏側で、日夜戦いが続いていた。
そんな少年漫画のような世界が、俺の転生した世界である。
そう、俺は転生者だ。ある時気がついたら死んでいて、ある時気がついたら前世の記憶を持ったまま転生していた、ごくごくありふれた転生者。
まぁ、転生がありふれているのは創作の中の話なわけだが、そもそも転生先も創作みたいな世界だったわけで、今更だろう。
最初のうち、俺は普通の現代世界に転生したと思っていた。なにせ、表向きは普通に何もない世界なんだから。両親も普通……と言われると一部疑問は残るが、少なくとも一般の中流家庭に生まれた俺は、普通に育ち、そしてある時この世界の裏側の事件に巻き込まれたのだ。
結果、色々あって転生者らしく俺は退魔師になった。一度死んで転生したことが、“魔”と相性が良かったのか退魔師としての才能があった俺は、その世界でそこそこ活躍し――
気がつけば、世界は平和になっていた。
数千年に及ぶ妖魔との戦いに決着がついたのである。いやぁすごかったね、特に最終決戦。この世界の最強退魔師と最強妖魔たちが揃い踏み、普通にその中へ打ち込まれた俺は生き残るのに必死だったが。
それでも何とか生き残ることができたわけだ。
チートさまさまである。アレがなかったら生き残れなかったね。
そもそもチートがなかったら巻き込まれてない? うん……
ともかく、そうして世界が平和になったのが今から数年前。
俺は青春の殆どを退魔の世界に捧げ、現在では退魔の世界で手に職をつけている。多分、このまま死ぬまで退魔師――退治する“魔”がいなくなったことで、この世界に退魔師という存在はいなくなったけども魔にかかわる人間の呼び方は昔から退魔師だったので変わらなかった――を続けるんだろうなと思いつつ。
なお、そのことを俺は家族に話していない。
いやそうだろう、まず何よりそんな事言っても信じてもらえない。ついでにいうと、退魔師の存在を一般人に明かすことはご法度だ。もし知られたら、退魔の術で記憶を操作して忘れてもらうことになっている。
おかげで今の俺は、骨董商かなにかだと思われている。だって部屋に無数の退魔グッズや呪物が眠っていますからね。
退魔の仕事が終わっても、妖魔がこの世界に遺した爪痕は消えていない。今の俺の仕事は、そんな妖魔の爪痕――つまり呪具と呼ばれるオカルトアイテムから、呪いの力を引き剥がすことだ。
一般人にしてみれば、古臭い骨董品を扱っているようにしか見えないだろう。まぁ、別に本当のことを話したいわけじゃないから、それで問題ないのだけど。
後、この仕事は在宅かつ自分のペースでできるのがいい。自由な時間を持てる社会人っていうのは、前世の頃の俺の憧れだったのだ。
もう毎月残業三十時間越えも、休日出勤もこりごりだよ。え? ブラックだけどそこまでじゃない? そう……
まぁ、命がけの世界を生き抜いたご褒美と考えれば、今の生活は決して悪いものではない。
と、思っていたある日のことだった。
俺の過ごす街に、濃密な“魔”の気配が発生したのは。
ありえないことだった。
これほどの魔の気配が発生するのは、普通ありえない。規模から言ってそれは妖魔の中でも最上級とされる“天魔”クラスの魔の力だ。
この世から妖魔の根絶に成功した今、そんなものが出現することはありえない。
当然ながら、現場に一番近い退魔師である俺は、出撃を余儀なくされた。数年ぶりの実戦、勘が鈍っていると言わざるを得ないが、つべこべ言っている暇はないだろう。
退魔師としての矜持。平和を守るものとしての責務。
何より――この街に住む、両親と、そして“妹”を守るために――
誰だ今、つまり実家ぐらしなんですねって言ったやつ。
『――わかった、なるよ。皆を――大切な人を守る、魔法少女に!』
おっとり刀で駆けつけた先で俺が見たのは、覚悟に満ちた表情でそう宣言する俺の
『魔法少女まなつ。街も守って、世界も守る!』
パジャマ姿から、ひらひらしたスカート姿の“魔法少女”に変身する俺の妹“志度野まなつ”――の姿だった。
●○
魔法少女。
そんなものは退魔の世界には存在しない。
普通にファンタジーの存在だ。ただ、不思議なことに魔法少女の操る力は“魔”の力だった。
もちろん、魔の力は人間にも操ることのできる力だ。でないと退魔師は妖魔に対抗できない。だとすると、俺の妹は退魔師とは違う方法で、魔の力を操っていると考えるのが普通だ。
オタク知識から推測すると、すなわちそれは“魔力”ではないだろうか。魔の力と何が違うのかといえば、それは結局のところ“呼び方”だけだ。だってそうとしか言えないんだもの、俺の目(霊視アイズ)にはバッチリ妹が魔の力でもって、魔の力を操る怪物を退治する姿が写っているのだから。
結論から言って、妹は俺たち退魔師とは違う存在から戦う力を手に入れて、俺たち退魔師が知らない存在と戦っているということだ。
妖魔というのはその名前のイメージから外れない程度に、この世界に根付いた怪物である。
たとえば日本であれば河童や天狗といった妖怪と呼ばれる存在。西洋で言えばゴブリンなどの妖精と呼ばれる存在の根本は妖魔である。
対して、目の前の怪物はそういった特性に合致しない怪物である。というか、どう見ても車だった。車が変形して猛獣になったかのような怪物。察するに、変身しているのか?
対する妹は、空を軽快に飛び回り、無数の光の球をそいつにぶつけている。手数、威力、どれを取っても一級品。退魔師としても即戦力クラスの動きである。
これはあれだな、主人公補正、もしくは才能ってやつだろう。俺も転生の影響で魔の力の総量だけは多かったが、こっちは間違いなく天然物だ。
それと同時に、魔法少女の特性によるものもあるだろう。
というのも、退魔師が得意とするのはこういった直接的な破壊ではなく、搦手だ。結界を貼ったり、妖魔を呪文で弱体化させたり。そういった能力に秀でるのが退魔師である。
直接戦闘の際はもっぱら武器に魔の力を付与することで戦う。退魔師の技術体系で、光の弾丸を生み出すのは結構難易度が高いのだ。
どちらが上かという比較は難しいが、妖魔との戦いにおいてはそういった搦手が有効だが、対人相手には直接的な手段のほうが有効だろう。
ふーむ、魔法少女は人間を相手にする存在なのか? その割に、相手をしているのは車の形をした怪物。それに妹の隣には――
……などと考えているうちに、戦闘はさっさと終了した。
そりゃあ初変身のうちからそんな苦戦していたら後が思いやられる。
俺が介入するという選択肢もあったが、今はやめておいた。なぜって、妹の記憶を操作したい兄がどこにいる? 俺としては、このまま妹が事件を解決して普通の女の子に戻るのが最善なのである。
なので、俺の介入が必要になりそうなタイミングが来るまでは、このままこっそり様子を伺いつつ裏で情報を集めることを優先することにした。
退魔省の連中も、俺が責任を持つといえば納得してくれるはずだ。
ともあれ、妹が魔法少女になって最初の戦闘は無事に終了した。
変身を解除した後の妹に不調らしきものは見られず、ひとまずは安心といったところ。
ああ、しかしそれにしても――
ついには、魔法少女なんていうヘンなモノにすら好かれてしまった。
いつかはこんな日が来るのではないかという気もしていたが、ついに来てしまったということだろう。
いや、この場合。
あいつを好いたのは、あいつを魔法少女にした――
あいつの隣に浮かんでいた“如何にもマスコットです”と言わんばかりの、妖精少女の方かもしれないな。
●○
――私のお兄ちゃんは変な人です。
あ、挨拶が先でした。はじめまして、私は志度野まなつ。小学六年生の女の子です。
ええっと、説明すると、私にはお兄ちゃんがいます。
私より十歳以上年上の、大人のお兄ちゃんです。
そんなお兄ちゃんの何が変か。まず、お兄ちゃんはいつも家にいます。……いえ、家にいるのは変じゃないです。世の中にはそういう人がいるっていうのは私も知っていますし、何よりお兄ちゃんは家でできる仕事をしているだけですし。
ただ、その仕事というのが変なのです。
お兄ちゃんの部屋には、変なものがいっぱいあります。多分、一番変なのは部屋の中央に置かれている御札をべったべたに貼り付けまくった女の子のお人形です。他にも、顔のコワイ真っ黒な招き猫とか、それ本物じゃないよね? っていう感じの日本刀が飾ってあったりします。
ちなみに、日本刀を見せてもらったら刃がありませんでした。本物偽物どころの話じゃなかったです。
お兄ちゃんは、それを管理したりするのが仕事だと言っていました。パパとママはそれを骨董商かなにかかと思っているようですが、私は違います。
きっとお兄ちゃんは、悪い幽霊さんを破ー! って倒す正義の味方なんだと思います。そのほうがかっこいいので、私はそう思うことにしています。
そんな変なお兄ちゃんですが、
何と言っても、お兄ちゃんは変な人ですが、昔からしっかりものさんでした。まるで、大人みたいな考え方がいつもできているみたいで、周りから頼られることは多かったみたいです。
そこに加えて、変なもの――部屋においてあるもの――に対する知識がすごくって、私にもいつも部屋にあるものの変なエピソードを教えてくれます。
そういうところが、いわゆるちゅうにびょーな女の子にビシっと刺さっちゃうみたい。お兄ちゃん、顔は普通……すっっごく普通なんですが――アニメとか見てると、いっつもお兄ちゃんみたいな顔の男の子が主人公だなって思うくらい――普通なんですが、不思議な子にとってはむしろそういうのがいいらしいです。
本物っぽいとかなんとか。
本物ってなんでしょう……
とにかく、お兄ちゃんは昔からそういう女の子に好かれやすくって、よく告白されてたらしいです。まぁ、そのうち八割くらいは何言ってるかわからなくてそもそも告白だって解ってなかったみたいですが。
で、お兄ちゃんは仕事で忙しいパパとママの代わりによくうちの小学校に授業参観に来るので、そうなると、まぁ、はい。
大人の変な人に憧れる女の子が、お兄ちゃんを好きになっちゃうみたいです。
私、これでも学校では校舎裏にお手紙で呼ばれる数が一番なんです。モッテモテーって友達はからかいますが、残念ながらそれは全部女の子、お兄ちゃんを紹介して欲しいって不思議っ子ばかりです。
そりゃそうですよね、今の時代校舎裏にお手紙で呼び出す子が、普通なわけないのです。
初めて呼び出されてお兄ちゃんを紹介して欲しいって言われた時は、流石にお兄ちゃんに八つ当たりしましたが。ごめんなさいお兄ちゃん。
ともかく、そんなお兄ちゃんですが、兄妹仲は別に悪くないので、朝に顔を合わせたら挨拶をします。
「おはよー、お兄ちゃん」
「ああおはようまなつ、昨日はよく眠れたか?」
……ドキッ。
私、少しびっくりしちゃいました。そんなに眠そうだったかな? 自覚はないんですけど。
「もう、いきなり何言ってるの? ちゃんとよく眠れたよ」
「いいか? 睡眠時間っていうのは大事なんだぞ? 眠れる時に眠らないと、全然眠れないんだから」
「寝てるってば、むしろお兄ちゃんこそ寝不足なんじゃないの? 生活改めないとだめだよ?」
というか、お兄ちゃんにだけは言われたくありません。
私が小さいころはいつだって眠そうにしてて、今だってたまにお昼ごろになるまで起きてこないことだってよくあるのに。
「実体験だからこそ、説得力があるんだよ。はぁ、俺は朝飯たべたらもう一回寝る」
「そういう自由なところが羨ましい妹さんだよぉー」
なんて言葉を交わしつつ、お兄ちゃんはあくび一つこぼしつつ去っていきました。
……ふぅ、ホット一息。
まさか普段は寝起きおそおそのお兄ちゃんが普通に起きてきて、あんなこと言ってくるなんて。まるで見透かされているみたいで落ち着きません。
――そう、昨日。
私、魔法少女になったんです。
その経緯は色々ありすぎたので、また今度話すとして――
『……シフルちゃん?』
私は、隣にふわふわ浮いている、小さな女の子に声をかけます。
ふわふわなぴんく髪が特徴的な、手のひらサイズの女の子。シフルちゃん。
本人は由緒正しきフェアリー一族の末裔なんて言っていましたけれど、この子こそが私を魔法少女にしてくれた子なんですけど。
『――――』
さっきから、反応がありません。
今、私はシフルちゃんの心に魔法で直接呼びかけているので、聞こえていないはずがないんですが。
『いきなりあんなこと言われて、びっくりしちゃったね。アレ、私のお兄ちゃんなの。変な人でしょ』
『――――』
『えっと、言ってた通り魔法で姿を隠してるから、普通の人にはバレないんだよね? ……お兄ちゃん、気付いてないみたいだったし、よかった』
『――――』
ううん、全然返事がない。
これはいよいよ変だぞ、っていうか廊下で一人ぼうっとしてる私も変だぞ? と思い至り、お兄ちゃんが戻ってきて怪しまないうちにシフルちゃんと台所に向かおうとして、
『――――――――
「ふぇ……?」
おもわず、声がでちゃいました。
さっと周囲確認。よかった、誰もいない。
いやまぁ、パパとママはもう仕事で家にいないので、いるとしたらお兄ちゃんだけなんですけど。
っていうか、かっこいい?
それって、もしかして。
『あああああ、あのまなつちゃん!!!!!』
『わああああ、くいつき!!!!!』
いきなり大声で心に呼びかけられるもので、私もびっくりしちゃいました。声に出さなかったのは、頑張ったぞ私。
『あ、ああ、ああの、あの方! あの殿方!!』
『お、お兄ちゃんのこと!?』
やっぱり!
そんな気はしてたけど、やっぱり――
『あんなかっこいい殿方が、まなつちゃんのお兄様なんですの!?』
『そ、そうだよ?』
――見れば、シフルちゃんの顔は。
さながら、恋する乙女のようで。
『あんなイケメンな殿方、初めてみましたの!』
『……私達的には、本当に普通の顔だよ?』
『私達の美的センスでは、あの方が世界で一番の美形なのですわ!』
わわわ。
異文化交流。
そういうことってあるんですねぇ……なんて。
ちょっと現実逃避。
『……お兄ちゃんは変な人だけど、魔法少女じゃないから、声かけちゃダメだよ』
『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………』
『その壮絶な顔と沈黙やめて!?』
――ああ、やっぱり。
お兄ちゃんは変な人に好かれやすいです。
……いえ、
お兄ちゃんは
あふぅ。