妹が突然魔法少女になった転生者(退魔師)の話。 作:こーす
シスコンは世界を救った。
それはもはや退魔世界の常識だ。
しかし、実際のところ“彼”にそんな気は一切ない。
偶然。そう、全ては偶然によるものなのだ。
様々な偶然の末に、たまたま世界を救った動機が妹を助けるためと勘違いされた。
なぜそんなことになったのか? 答えは、とても単純。あまりにも単純すぎる事実だ。
かつて起きた退魔師と妖魔の最終決戦。その場に居合わせたものならば誰もが知っている。彼は妖魔たちの親玉を倒して世界を救った。
そこに退魔世界が彼をシスコンする原因が存在している。
果たして彼が何をしたのか。
一体どうして、今も彼がシスコン扱いを受けるのか。
その、理由は――
●○
まなつが魔法少女になってから、俺は少しずつ調査を始めた。
当然だ、この街を守る退魔師は俺で、まなつの一件は間違いなく俺の管轄である。
俺たち退魔師の元締めである退魔省は、現在まなつに対する対処を検討中だ。まなつ事態は「生命の保護を最優先」で即決したが、魔法少女に対する対処は未だ会議が紛糾している。
なにせ、この世界が平和になって数年。突如として現れた外部勢力である。それも、この世界の内から湧いて出たわけではなく、完全に外から降ってきた存在など寝耳に水。
妖魔との戦いが終わって、規模が縮小傾向にあったのも良くなかっただろう、現状退魔省は有効な手立てを何一つ打ててはいなかった。
とりあえず最低限決まったことは、「接触はあくまで友好的に」。「外部組織との接触を最優先」。この2つ。前者に関しては言うまでもなく。後者は語ると長くなるため省略するが、端的に言えば交渉はまなつ相手ではなく、まなつを魔法少女にした存在――つまりあの妖精少女のバックにいる存在。もしくは魔法少女の統括組織――存在するならば、だが――相手に行うこと。
現場の裁量権は、概ね俺に任されることとなった。まぁ、これでも退魔師としては国内最高峰の退魔師なので、当然と言えば当然だ。
そんな俺の現在の最優先目標は、まなつの守護。そして“魔法”の調査だ。
前者に関しては、いろいろあって現状まなつが命の危機に脅かされないよう監視するにとどめている。今の主な仕事は後者だ。
ここ数日、魔法について観察した結果、あることがわかった。
退魔の術ができることといえば、主に「強化」、「変化」、「結界」、「呪い」の4つ。強化は身体の強化。いわゆる“バフ”だ。変化はその逆。“デバフ”。
結界と呪いは文字通りだ。退魔師は妖魔と戦う際、結界を使用して周囲に存在を気取られないようにする。他にも危ない妖魔を封印するのにも結界を使うし、神聖な場所を守るのにも結界は必要不可欠。
呪いは主に妖魔が使用する術だが、退魔師にも使うことはできる。とはいえたやすく命を奪う術式まで存在するため、多くの呪いにかかわる術式は“禁術”扱いを受けているが。
対して魔法がやっていることは、光の玉を生み出して放つこと。そして無機物を変身させ怪物にしていること。
その分、光の球の破壊力は凄まじく、少量の魔力でも用意に敵を傷つけることが可能だ。
そこから考えるに、“魔法”というのは行ってしまえば戦闘の道具。「拳銃」のようなものではないかと推測できた。
日常にも、戦闘にも、等しく様々なシチュエーションで使われる退魔の術とは正反対。ここらへん、対妖魔相手に発展してきた退魔の術と、“対人”相手に発展してきた魔法の技術体系的な違いがあるのではないかと俺は考察しているが、長くなる上にまとめる時間がないため、想像の域を出ない。
ともかく、俺は現在。
最初の戦闘時、俺はたしかにまなつたちが戦っている場所で、天魔級の魔の力を観測している。しかし、まなつの魔の力の総量は、間違いなく天才と言えるレベルだが人間の域を出ない。
妖精少女の総量も決して特別というほどではなく。彼女たちに初陣で倒された車の怪物がそんな魔の力を有しているはずもない。
であれば、どうしてそんな魔の力を検出できたのか。
――俺は、初めてまなつが魔法少女に変身した場所にやってきていた。何もない、閑静な住宅街である。どうみても人目を避ける場所だ。
魔法が最も器用ではないと感じる点、それは人払いができないことである。
現代社会の裏側で戦う退魔師にとって、人払いとは基礎中の基礎。
逆にそれをしない魔法は、すなわちそもそもひと目から隠れる必要がないということか。
そんな魔法によって生み出された怪物が、なぜ人目を避けるのか。それは、捜索に人手を使われたくないからだろう。相手は巧妙に自分の居場所を隠している。だが、それは結界などによる細工ではなく、物理的な隠蔽によるものならば。
――そこまで考えれば、自然と俺は敵がこの場所で何を隠したかったのか。どこへ隠したかったのかを、概ね推測することができた。
故に、
俺は、“壁をすり抜ける退魔の術”を使用して。するすると
●○
かつて、人と妖魔の最終決戦が起きた。
世界中から集められた退魔師と、世界を滅ぼすほどの力を有した無数の天魔が結界の中で激突していた。
その中で、退魔師たちは退魔師一人につき、天魔一人の討伐がノルマとなっていた。ちなみに天魔とは単体で国一つは軽く滅ぼせる存在であり、普通の退魔師なら数千人がかりで退治することになる怪物である。
しかし、“彼”はそうそうにノルマをこなしていた。要因は様々だが、彼にとって「大物ぐらい」こそ彼が最も得意とすることであり、周囲からも彼ならば当然だろうと思われていた。
そんな彼は、天魔を討伐し仲間のもとへ合流しようとする途中、“逃げる天魔”を発見する。天魔は怪物だが自己中心的な性格をしているので、こうして勝手に逃げ出すものもいる。
結果、彼はその天魔を追いかけることになった。追いかけっこは熾烈を極め、ついには結界の外へ抜け出すこととなってしまう。
そうこうしている間にも、戦いは最終局面へと向かっていく。
激闘のすえ、ついに天魔たちの親玉。つまり全ての妖魔の“王”が姿を表したのである。この時、王はある計画を実行した。
王はかつて、今から数千年前に当時の退魔師たちによって封印されていた。王を封印した退魔師は世界各地へ散らばり、今でもその退魔師達の子孫が退魔師をしているのだ。
故に、その“血”を利用した。かつて自分を封印した者の血縁を彼は呪ったのである。結果として、その場にいるほぼすべての退魔師が呪いによって無力化された。
しかも、血の繋がりが薄く、呪いの効果が大したものではない相手に対しても王は抜かりなかった。
王を“見た”時点で発生する呪いを使い、血の繋がりの薄いものすら弱体化させることに王は成功したのである。
万事休すだ。
しかし、この時。
ただ一人、王の“呪い”を覆す例外が存在していた。言うまでもなく、退魔師ではない一般人から退魔師となり、更には結界の外へ逃げた天魔を追ったために、王の姿を一瞥すらしていなかった“彼”だ。
そこからは、更にいくつもの要因が重なった。
すべての退魔師を無力化したと勘違いした王が、ほんの一瞬だけ油断したこと。
そもそも“彼”が格上殺し、大物ぐらいに特化した能力を有していたこと。
そして何より――勝ち誇った王が、退魔師を煽るために
その瞬間。偶然にも写ったのが、志度野まなつ――つまり彼の妹であったこと。
それに気付かず、相手がそもそも“王”であることにも気付かずようやく結界内部に戻ってきた兄が、目立つ妖魔として王に対して攻撃をしかけたこと。
それらの要因が重なり、
そもそも討伐した彼自身に、その自覚は一切なく。様々な偶然の末に、人と天魔の最終決戦は、王の全力を見ることなくケリがついたのだった。
――故に、それをなしたまなつの兄は、シスコンとして知られている。
誰もが、彼の行動を妹を手にかけられそうになったがための、乾坤一擲の大博打だったと疑わなかったために。
かくして彼は、世界を救うシスコンとして退魔の世界の新たな常識になったのだった――
●○
敵が何を、どこへ隠したかったのか。
ずばり、それは地下だ。
そんな俺の読みは当たっていた。地下へ地下へと潜っていくと、やがて開けた空洞へとたどり着く。その空洞は明らかに人為的に作られたもので、けれども同時に物理的にはどう考えても成立しない場所だった。
明らかに、魔の力……つまり魔法によって作られている。
先程、魔法は器用ではないと散々言ったのに、そんなことができるのかといえば、可能だろう。
“変身”の魔法であれば、何もない地面の一角を、空洞に“変身”させることだって可能なはずだ。事実、俺の目の前にはそれを為したであろう“呪具”が鎮座していた。
「でかい木だな……いや、杖か?」
思わずぽつりとこぼしつつ、壁抜けの術を解除して地面に降り立つ。警報のようなものはないだろう。あったらすでに俺の探査術式がそれを察知している。
目の前に合ったのは巨大な木の枝だ。すなわち、杖。俺は呪具と表現したが、そもそも魔法少女の杖――まなつが握っていたものも含めて――は呪具である。
呪具とは退魔の世界における退魔に関わる道具全般を指す。呪いなんて言葉を使ってはいるが、御札とかだって、見方を変えれば立派な呪具だ。魔法少女の杖もそこは変わらない。
そして、目の前のそれは間違いなく呪具の名にふさわしい、禍々しい代物に違いなかった。
「これだけの魔の力を……この空間を作るために使ったのか?」
なによりも特徴的なのはその魔の力の総量。天魔級――国一つを軽く滅ぼせる――という感覚に狂いはなく、もしもこの魔力を使って魔法を放てば、国一つを大地まるごと吹き飛ばすことは可能だろう。
車の怪物が、あの日あの瞬間、あの場所に出現した理由が解ってしまった。
敵は、これをこの場所に運び込む際のカモフラージュとして、あの怪物を呼び出したのだろう。この世界に持ち込む際に、その魔力の一端を感知することができたが、それ以降は地下に潜ってしまったせいで物理的な距離が壁となり、探知を阻んでいた。
だが、それだけではない。
「……あの怪物とこの杖、繋がってるな? ある意味、感覚器官――手足とか捕食口とでも言うべきか?」
あの怪物にはもう一つ役割がある。この世界の人間から魔力を奪い、この杖に蓄える役割だ。怪物と杖がつながっていて、怪物の捕食により魔力がこの杖に集まっていく。
幸い、今のところ俺とまなつでその被害は食い止めているが――いつ、一般人が怪物に襲われるかわかったものではない。
危険だ。
もしもこれを放置した結果、再び妖魔の王でも再誕してみろ、この退魔世界はかつての闘争の日々に逆戻りだ。
――しかし、運が良かった。
これを見つけたのが俺で。この杖が、
だが、これがただの呪具ならば――
「
浄化。それは俺が最も得意とする退魔の術。呪具や妖魔に張り付いた魔の力を引き剥がして霧散させる術だ。特性として、相手の使用した魔の力を浄化の力に変換するという特性を有する。これのなにが便利って、条件が噛み合えば天魔クラスにも問答無用で通用すること。
妖魔の王すら屠った格上殺しの俺の術。
とにかく大量に力を溜め込んでるだけの呪具というのは、ある意味もっとも相性がいいと言えるだろう。
この地下空間は、すでに変身の魔法によって変化が終わった後の空間であるため干渉できないが、杖の中にある魔力を吹き飛ばすくらいは簡単にできる。
むしろ、変に空間に干渉しないほうが相手に気取られずにすむためいいだろう。
さ、敵に気づかれないうちに、浄化の作業を済ませてしまうとしよう。俺は早速、作業に取り掛かるのだった――
●○
黒幕はほくそ笑んでいた。
危険を犯して魔法の存在しない辺境の世界に、変魔の杖を持ち込むことに成功した。文字通り変身の魔法を使うための杖であるそれは、魔力さえ貯めればどんなものにでも変身することのできる特別な杖だ。
それを使い、杖をあるものに変身させようとしていた黒幕は、杖の感覚器官である怪物を使って、魔力吸収を試みようとしていた。
とはいえ、その目論見は簡単には進まない。
まず、下手に一般人に魔法の存在が知られてはいけない。もちろんこれは必ずしも守る必要はないが、この世界の人間に魔法が大々的に知られると「ソシエティ」の連中はすぐに気がつくだろう。
ただ、あの怪物で魔力を捕食すると、捕食された前後の記憶が失われるため隠蔽はそこまで難しくはない。
くわえて黒幕は、魔力を集める効率的な方法を考えていた。黒幕が変魔の杖を、それを守護する妖精種族から盗み出す際、あえて妖精に自分を追わせた。
結果、妖精はこの世界にたどり着き、現地民を魔法少女にしたのだ。魔法少女はすなわち魔力の塊、これを捕食すれば一気に杖に魔力が貯まるだろう。
誤算もあった。この世界には魔法が存在しないが、魔力を利用して魔法とは異なる術を操る現地勢力が存在していたのだ。下手に敵対すると危ういが、逆に魔力を利用するということは魔法少女のように魔力の塊であることは明白。諸刃の剣だが、利用できなくはなかった。
どちらにせよ、黒幕はスピード勝負で目的を達成する必要がある。現地勢力と「ソシエティ」の本格的な介入を許す前に、すべてを成し遂げるのだ。
故に、黒幕は計画の要である変魔の杖を調整しようと地下へ向かい――――
――――変魔の杖から、魔力が根こそぎ失われていることに気が付き、愕然とするのだった。
ぶっちゃけて言えば、黒幕の計画が、全て破綻した瞬間だった。
――――“兄”の驚異を、人々は勘違いしている。
彼はシスコンで世界を救うことが驚異なのではない。
世界を救う上で、
始まりは、「一般人が退魔師になる」ことで呪いを振りまいていた妖魔の虚を突いたこと。
最終的には、「完全な不意打ち」で勝利を革新していた妖魔の親玉が本気を出す前に倒してしまう。
そして今回、黒幕が「命がけで持ち込んだ異界の呪物」を無慈悲に浄化してしまったこと。
それが、兄の何よりの驚異なのである――――