おばあ「戦車道時代」   作:ゼブラーの野郎

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ある女の詩

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

・・・・・・ 1 9 5 2 年 ・・・・・・

 

 

   ~初夏~

 

 ――大洗学園艦――

 

 

 【大洗女子学園】

 

教師「――さて、これで必要な書類は全部ね。明日からあなたは大洗の学徒よ」

 

 「ありがとうございます先生」

 

教師「それにしても遠くから引っ越してきて一人暮らしなんて大変ねぇ。ちょっと前までは学童疎開なんてのもあったけど・・・えっと、どこから来たんだっけ?」

 

 「九州です。南の」

 

教師「まあ、そんな遠くから・・・だけど、どうしてそんなに遠方から大洗に来たの?それも一人でなんて」

 

 「・・・それは――」

 

 ガラッ

 

 

冷泉久子(高校二年生)「おはようございます。遅刻届を提出に来ました」ダラ~

 

教師「あら、ずいぶんゆっくりの登校ね冷泉さん。財閥の令嬢でももう少し早く来るわよ。いつものことだけど」

 

冷泉「嫌味を言わんでくださいよ。大目に見てくださいや」

 

教師「でも丁度良かったわ。こちら、明日からあなたと同じ組に編入する子よ。仲良くしてあげてね」

 

 「・・・」モジッ

 

冷泉「学童疎開か」

 

教師「もう戦争は終わったの。七年も前にね。さあ、自己紹介して」

 

 

西住かほ「・・・西住かほです。大洗女子学園二年は組に編入することになりました」ペコリ

 

 

冷泉「冷泉久子。生まれも育ちも根っからの大洗っ子さ。よろしく」

 

西住「はい」

 

教師「西住さん、今日の用事は済んだから校内を散策するといいわ。冷泉さんは授業に行きなさい。午後の授業には間に合うでしょう」

 

冷泉「はいはい」

 

教師「はいは一回」

 

冷泉「ほ~い」

 

 

冷泉「西住・・・かほ、だったか?故郷はどこだい?」トボトボ

 

西住「九州の・・・熊本です」トボトボ

 

冷泉「きゅうしゅう!?なんだってそんな遠くから」トボトボ

 

西住「・・・か、家庭の事情というかなんというか」トボトボ

 

冷泉「まあ、来ちまったもんはしょうがない。すぐに慣れると思うよ」トボトボ

 

西住「あ、ありがとうございます。あの・・・ところで私達、どこへ向かってるんですか?冷泉さんは授業に行くんじゃ・・・」トボトボ

 

冷泉「初めての土地で右も左もわからない女の子をほっぽり出して行くほど私は冷たくはないよ。冷泉って名だけどね」

 

西住「・・・は、はあ」トボトボ

 

冷泉「ほら、こっちこっち」

 

 

 

 ――・・・

 

 ザザァ~~~ッ・・・

 

西住「わあ・・・綺麗」

 

冷泉「絶景だろう?学園艦から眺める海ってのはオツなもんだね。ほら、こっちは大洗の町が見える」

 

西住「ほんとだ・・・」

 

冷泉「ここの眺めを見ると活力が湧いてくる。日本は戦争でボロボロになったけど、また元気になる。あたしゃそう思うよ」

 

西住「・・・戦争・・・・・・」

 

冷泉「あんなことはもう金輪際お断りだよ」

 

西住「・・・あの、冷泉さん、授業は?・・・」

 

冷泉「察しが悪いね。さぼりたいからここにいるんじゃないか」

 

西住「・・・そ、そうなんですね」

 

 

 

 ――・・・翌日

 

西住「今日から新しい学校・・・もう故郷とは違う・・・誰も私のことを知らない場所なんだ」

 

 西住「よーし、西住かほ、心機一転がんばるぞ!」フンス

 

 西住「・・・ところで、学校ってどっちだっけ?」キョロキョロ

 

 

女子生徒「う~~~ん!・・・もう!いい加減シャンとしてよ久子!学校遅れちゃうよ!」ウーンショ!ウーンショ!

 

冷泉「ぐう・・・」ネムネム

 

 

西住「あ、昨日の・・・冷泉さん?」

 

女子生徒「!・・・そ、そこの彼女!ちょっと手を貸してくれない?」

 

西住「は、はい。えと、肩を貸せばいいんですね」ヨイショ

 

冷泉「むぅ・・・お~・・・西住さん・・・こんな夜遅くに会うとは・・・」ウトウト

 

女子生徒「確実に朝だよ!しっかりしてよ!」

 

 

 ――・・・

 

女子生徒「な・・・なんとか間に合った・・・」アブネー

 

冷泉「ぐう」

 

西住「冷泉さん、教室でもまだ寝てる・・・」

 

女子生徒「この子はいっつもこうなの。ところで君、転校生?久子の知り合い?」

 

西住「あ、はい。西住かほです」

 

女子生徒「私は武部 薫子(たけべ かおるこ)。同じ組だしよろしくしてね!」

 

西住「は、はい。ありがとうございます」

 

武部「ところで男前の兄弟とかいない?私、お見合いに憧れてるんだ~」

 

西住「・・・き、気が早いですね」

 

 

 ――・・・

 

冷泉「うーん・・・もう朝か」セノビー

 

武部「正午だよ」

 

西住「冷泉さん、午前中ずっと寝てましたね」

 

武部「この子、新聞配達の仕事してるんだよ。中学に上がった頃から毎朝。自転車で学園艦を北へ南へ東奔西走。だから仕事終わりで午前は眠いんだ」

 

西住「そ、それはすごいですね」

 

冷泉「大洗はあたしの庭」ブイ

 

武部「久子、今日の分ある?」

 

冷泉「ん」ガサッ

 

西住「武部さん、新聞読むんですね」

 

武部「世の中の動きを常に把握しておくのは乙女のたしなみだよ」

 

冷泉「早く嫁ぎに行きたくて努力してるのさ。本性は田舎から出てきたド百姓の娘だ」

 

武部「誰がド百姓よ!」

 

西住「あはは・・・」

 

武部「あ、見てみてこの記事。《戦車道連盟、第二次大戦中の戦車の試合参加を正式決定》だって」ガサ

 

 西住「!」

 

冷泉「戦車道?」

 

武部「《1945年8月15日までに設計が完了して試作されていた車輌の試合への導入が新たに認められた》・・・だって。戦車道なんてまだやってる人いるのかな」

 

冷泉「戦争が始まって誰もやらなくなった・・・というか出来なかったからね。昔の車輌は全部軍に持ってかれたし」

 

武部「終戦したから戦車道人口を増やそうとしてんだろうけど、ねえ・・・今の御時世、誰が好き好んで戦車に乗るかな」

 

冷泉「相当の変わり者か、よほどの戦車好きかだね」

 

武部「戦車に乗って大砲撃ち合うなんておっかないよね・・・せっかく平和になったのにまた戦争みたいなことするなんて私はいやだなぁ」

 

冷泉「誰だってそうさ」

 

西住「・・・」

 

 

 >>

 せっかく平和になったのに~:第二次大戦で日本と戦争状態にあった連合国諸国と『サンフランシスコ平和条約(日本国との平和条約)』が1951年に結ばれ、1952年の春に発効された

 このSSの時代は、戦後ようやく日本の主権が回復した時代であり、平和条約が発効されて2ヶ月ほど経ったばかりの夏の始まりの頃である

 

 新聞配達:実は当時の新聞配達は早朝には配られず、夕方に配られることも多かったらしい

 

 

女子生徒「・・・・・・あ、あの!」

 

西住「わ!?」ビクッ

 

女子生徒「あっ、わっ、す、すみません・・・驚かすつもりでは・・・」

 

西住「い、いえ・・・・・・えっと・・・あなたは・・・」

 

冷泉「あー、秋山ヤヱって子だよ。散髪屋の子」

 

秋山「秋山と申します。あの・・・西住さん、もしかして“あの”西住さんですか?」

 

 西住「!」

 

武部「あの?どの?」

 

秋山「戦車道の伝統ある流派、西住流のです。私、戦車のことが好きで好きで!」

 

冷泉「物好き居た」

 

秋山「父が戦時中、戦車の製造をしてる工廠の技師でして、よく戦車の話を聞いてるんです!そして西住流戦車道は大昔から戦前まで続く歴史ある流派で――」

 

西住「――ご、ごめんなさい!私ちょっと用事思い出しました・・・!」バッ タタタ

 

武部「ちょ、ちょっとかぽりん!」

 

秋山「あっ・・・やはり人違いだったんでしょうか・・・」

 

武部「戦車道の西住流って・・・も、もしかして私達、ひどいこと言っちゃったかな?」

 

冷泉「・・・」

 

 

 

 ――・・・

 

 ザザァ~・・・

 

西住「はぁ・・・」ショボン

 

冷泉「やっぱりここから眺める海は綺麗だろ」

 

西住「!・・・冷泉さん・・・ごめんなさい。突然飛び出して・・・秋山さんにも失礼だったかな」

 

冷泉「あたしゃ秋山と違うから計れんね」

 

西住「・・・・・・私・・・西住流の・・・戦車道の家元の子なんです」

 

冷泉「さっきの会話で察しはつくさ。すまんかった。知らなかったとはいえ」

 

西住「実家は戦車道流派の本家で・・・昔は良かったんです。歴史と伝統のある神聖な武道だと敬われて・・・」

 

 西住「だけど、戦争で全てが変わってしまった・・・」

 

冷泉「・・・」

 

西住「やっと戦争が終わったのに今さら誰も戦車になんか乗りたがらない」

 

 西住「戦車道は廃れゆくのみ・・・そう考えたお母さんは私を戦車道から遠ざけるために大洗に引っ越しさせたんです」

 

 西住「西住流を・・・継がせないために」

 

 

西住「でも・・・私・・・戦車道が好きなんです・・・戦争は嫌いだけど、戦車は好き・・・この気持ちに嘘はつけない」

 

 西住「一人じゃ無理でも仲間と協力して一つの戦車を動かす。そんな戦車が大好きなんです」

 

 西住「戦車道には人生の大切なことがたくさん詰まってる。その素晴らしさを・・・もっと多くの人にも知ってほしい」

 

 西住「でも・・・私にはどうすることもできない・・・どうすることも・・・」

 

 

冷泉「よし、わかった」パン

 

西住「・・・?」

 

 

冷泉「あたしもやるよ、戦車道」

 

 

西住「!・・・え?・・・・・・な、何で・・・」

 

冷泉「あんたの話を聞いてたら興味が湧いた」

 

西住「!」

 

冷泉「あんたが好きだと言う戦車道がどれくらい面白いもんなのか気になったからね、一緒に戦車道やろうって言ってるんだよ」

 

西住「で、でも・・・」

 

冷泉「あたしらで戦車道の素晴らしさってやつを天下に響かせてやろうじゃないか」

 

西住「冷泉さん・・・」

 

冷泉「あたしのことは久子って呼んでくれ。あたしもあんたのこと、かほって呼ぶからさ」

 

西住「・・・ほ、本当に・・・一緒に戦車道・・・やってくれるんですか?」

 

冷泉「勘違いしなさんな。やりたいからやるだけだよ」

 

西住「!・・・・・・あ・・・ありがとう・・・ございます・・・」

 

 

西住「・・・でも、このご時世に戦車道やるなんて、よっぽどの変わり者なんですね」フフ

 

冷泉「そいつはお互い様さ」ニヤリ

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