――・・・翌日
冷泉「ぐう・・・ぐう・・・」スヤァ!
西住「うーんしょ、うーんしょ・・・ひ、久子さん・・・しっかり歩いてよ~」ズリズリ
冷泉「起きてる・・・起きてるから・・・」スヤヤカァ!
西住「昨日あんなに威勢良かったのにこれだもん・・・」ズリズリ
風紀委員「学友の肩を借りて登校とはずいぶんな御身分ね冷泉さん」
西住「!・・・お、おはようございます」
冷泉「おお~そど子~・・・」ウトウト
風紀委員「そど子って呼ばないで!私の名前は園のど子!」
冷泉「わかったわかったそど子~・・・」ウトウト
そど子「こ、この寝坊助・・・っ!」ワナワナ
西住「す、すみませんそど子さん」
そど子「そののどこ!もういいわ、行きなさい。西住さん、あんまり冷泉さんに関わりすぎるとあなたまで不良になっちゃうわよ」
西住「えぇ・・・そ、そうなんですか?・・・伝染しないように気をつけます」
そど子「・・・もう遅いかもしれないわ」
――・・・
武部「せ、戦車道をやる~!?」ガタン
秋山「本当ですかぁ!?」パァー
冷泉「声が大きい。頭に響くからやめろ」
武部「昨日あんなけ戦車など流行らん言うちょったのになしてそなら心変わりしたべか!?」
西住「どこの言葉ですか・・・?」
冷泉「こいつはハイカラ憧れで普段は都会言葉で飾りたててるんだが、素はこんな感じの田舎っぺなんだ」
武部「かほちゃんの実家が戦車道のすごいとこだってことはわかったよ。昨日はひどいこと言っちゃってごめんね」
西住「あ、いえ」
武部「ほんでもこんなご時世に戦車て風代わりにもほどがあんべや!そんでどこに戦車があるってんべ!」
冷泉「なんとかなる。この新聞記事を読んでみな」ガサッ
秋山「なになに・・・《戦車道連盟は、戦車道普及を目的として活動する自治体、教育機関から申請を受ければ、戦車を贈与すると発表した》・・・」
冷泉「ようするに連盟から戦車がもらえるってことさ。切符がいいねぇ」
西住「連盟もみんなに戦車道をやってほしいんですね」
冷泉「っちゅーわけでさっそく申請を出しておいた。今日の夕暮れには戦車が手に入るって寸法よ」
武部「手際がよろしい!」
冷泉「日本中を巻き込んで戦車道人気を爆発させるつもりだよ」ニヤリ
武部「で、でもでも!どうやって人気を広めるの!?全国行脚してチラシでも配るの!?」
冷泉「戦車の大会を開くのさ」
武部「な、なんじゃとて!」ガターン
冷泉「賞金を懸けた大会だよ。人口の少ない競技で大金をかけりゃ、素人でも勝てるかもって甘い考えの連中が大挙するよ」
武部「くち悪ぃ~・・・」
冷泉「戦前に戦車道やってた学校だってあるだろう。そいつらを呼んで大規模にやるのさ」
西住「なんだか大事になりそう」
秋山「私は戦車に関われるだけでもヨダレものですっ!」ズビッ
武部「・・・そうですか・・・それではみなさんがんばってください」シュタ
冷泉「待て。お前にやってもらいたいことがある」ガシ
武部「ほらきた!巻き込まれるのは目に見えてたよ!」
冷泉「あんた他校にも連れ合いがいるだろう。他校の連中に大会のことを広めてくれ」
武部「ま、まあそれくらいなら・・・」
冷泉「それから大会の援助をしてくれる支援者を探してくれ」
武部「無茶来たよこれ!」
冷泉「景気の良い人間を丸めこむんだ。あたしらにゃ出資者が必要なんだよ」
武部「ほれほれ無茶苦茶言いよるよこの子は!」
冷泉「あんたの顔の広さなら羽振りの良い成り金の一人や二人見つかるだろ。上手いことだまくらかして金を出させな」
武部「く、くちわりぃ~・・・」
冷泉「任せたよ。やってやれねーことはねーだろう」
西住「がんばってください武部さん!」
秋山「大会の是非は武部殿の双肩にかかっております!」
武部「っ・・・わ、わかった。でも期待はしないでよ」
冷泉「あたし達は戦車を受け取って操縦練習に取り組むとするよ」
西住「私も実際に戦車を動かす練習がしたいです」
冷泉「だったら目一杯練習しないとだね。一等賞になるためにな」
――・・・翌日
冷泉「・・・こ、これが戦車だと・・・」ワナワナ
>バラバラ~ッ・・・<
秋山「まさかバラバラの状態で送られてくるなんて・・・しかも所々部品が欠けてる」
武部「がらくたを押しつけられたんじゃないの?」
西住「戦車道連盟からの文書も同封されてますよ」ペラ
手紙《現在、戦車道連盟が用意できる戦車はこれが精一杯です。すまんの》
冷泉「野郎・・・だまくらかしやがったな」
秋山「大丈夫です!私にお任せくださいぃ!闇市で部品を集めてきます!」
冷泉「頼むよ秋山。武部、出資者の件はどうだい?」
武部「ふっふーん、甘く見ないでくれますかね!ちゃーんと資金援助してくれそうな人を見つけたよ!」ブイ
西住「ほ、本当ですか!?」
武部「これからその人と話をつけに行くことになってるの。支援者になってもらえるように皆で説得に行こうよ!」
秋山「私は残って戦車組み立てに尽力します!」
冷泉「ようし、そいじゃあ成金野郎を舌先三寸で踊らせてむしり取ろうじゃないか」
武部「く、く、くちわりぃ~・・・」
――・・・
<カコンッ・・・
冷泉「こんな大きなお屋敷に案内されるとは驚いたね」
西住「お相手はどんな人なんですか?」
武部「中等学校の頃の友達でね、家業を継ぐために高等学校には進まず家で修行してるの」
西住「家業を継ぐために・・・」
襖<ススーッ・・・
冷泉「来たよ」
五十鈴「ようこそいらっしゃいました。華道五十鈴流長女、五十鈴梅と申します」スッ・・・
武部「梅、久しぶり~」
五十鈴「そちらの方々が薫子さんのご友人、西住かほさんと冷泉久子さんですね」
西住「は、はじめまして・・・!」
冷泉「話が早いね。私達が出向いた理由も知ってるんだろう?」
五十鈴「なんでも戦車道の催しを開きたいので五十鈴流に出資者になってほしいとのことですね」
冷泉「そこまでわかってて招いてくれたってことは、乗ってくれるんだね」
西住「ほ、本当ですか!?」パァ
五十鈴「お断りします」
西住「ぁぅ」シュン
五十鈴「戦車道のような野蛮で下品な武芸に助力するつもりはありません。戦争を思い起こさせるようなものになぜ助力をする必要がありましょうか」
武部「梅ぇ・・・」グスン
五十鈴「――ですが・・・」
西住「・・・!」
五十鈴「戦後七年・・・先日、日本と米国の安全保障条約が発効され、日本は本当の意味で戦争から解放されましたね」
五十鈴「これから日本は再生しなければならない。人々に活気をもたらすための『なにか』が必要だと日々考えておりました」
五十鈴「あなた方の仰る戦車道の大会・・・この大洗の皆さんに景気を付けることが出来るかもしれません」
武部「!」
五十鈴「なにより、戦車道の大会を開くことは世が平和になったことの証」
五十鈴「戦争の象徴でもあった戦車で女子が競い合い切磋琢磨するなど戦時中には考えられないことですからね」
武部「た、たしかに・・・」
五十鈴「平和になったからこその戦車道の復権・・・そこに大きな意義があると私は思います」
五十鈴「そして・・・西住かほさん、あなたの真剣な眼を見て気が変わりました。お母様に・・・五十鈴流家元に話を通しましょう」
西住「ほ、本当ですか!?今度こそ本当ですか!?」パァ
五十鈴「戦争が終わった日本の・・・この大洗の復興に一役かえるのなら力は惜しみません。あなた方に五十鈴流は出資いたします」
西住「やったぁ!やったね久子さん!」ダキッ
冷泉「話のわかる奴で助かったよ」
武部「さっすが梅!いよっ!太っ腹~!」
五十鈴「戦車道と華道・・・武芸の道をゆく者同士、力を合わせましょう」
西住「はい!ありがとうございます!」
冷泉「これで金の工面はなんとかなったね。景気よく羽舞っておくれよ、五十鈴さんよ」ハッハッハ
五十鈴「・・・冷泉久子さん、あなたは少し眼に邪な色が混じっておりますね」