博麗霊夢の場合
煙草の煙はつかみ所がなくただただ流れていくだけだ、まるで彼女のように
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幻想入りしてしばらく経った。することもないので、博麗神社にでも行こうと思う。
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縁側に座り煙草に火をつける。吐いた息は白い煙を纏ってゆらゆらと風に流されていく。
「あら、久しぶりに来たのね。」
客間の奥から袖が独立しているという独特な巫女装束を着て、その上から白い前掛けを掛けた少女が出てきた。その手にはお玉が握られている。恐らく夕食の準備をしていたのだろう。
少女の名は博麗霊夢と言った。
日本のとある山奥にある、忘れ去られたものたちが呼び寄せられる地、魑魅魍魎が住み着く場所、幻想郷においてその均衡を保つため妖怪としての命を全うする妖怪をに制裁を与える「ハクレイの巫女」であると彼女は言っていた。
ときに妖怪を、ときに神を、ときに人を裁く彼女は笑うこともなく、怒ることもなく、ただただ悪しきを裁くための機械のようでった。
「まぁな、たまには来ないと落ち着かないからな。」
地味な色の甚平に身を包み、黒く平凡な髪型をし、煙を吐き続ける彼は相模友人(さがみともひと)。
1年と6ヶ月13日前の午前1時15分22秒に幻想郷へとやってきた。幻想郷では彼のように外から流れ着く人間のことを「外来人」と呼び、ときには元いた場所へ、いるべき場所へ返し、ときには妖怪の餌として手厚くもてなしている。
しかし、彼は戻ることもなく、食われることもなく、1年半にも及ぶ期間を平然と過ごしていた。
普段は神社の西にある人里に住み、そこで万屋として生計を立てていた。
「来たばかりの頃はここに座ってただぼーっと1日が流れているのを見てたわよね。」
彼は外来人にしては運が良く、妖怪に襲われる心配が比較的少ないこの「博麗神社」に流れ着いていた。外来人の多くは妖怪の多い森や、更に運の悪いものは妖怪の住処へと流れ着き、そのまま餌となる。
そして流れ着いてから1週間、彼は人里へいくこともなく、ただ縁側から見れる景色を眺めながら煙草を吹かせていた。
当時、霊夢から「直ぐに逃げ出さないなんて、変な外来人ね」と言われていたことを思い出しながら彼は煙草を横においた器に押し付けた。
「あの頃は何をしたらいいかわからなかったからな。」
「それが今では外来人からランクアップしてニコ中のプータローですものね。」
霊夢は手で口元を隠しながら笑う。笑った顔は「ハクレイの巫女」でも「幻想郷の守人」でもなく、ただの十代の少女であった。
「笑うなよ。俺は今でもこの状況が信じられないんだよ。」
彼は頭を掻きながら面倒臭そうに、笑う霊夢を忠告した。
「目の前に世界一の美少女がいること?」
霊夢は平然とした顔で返す。
「ちげーよ、この幻想郷にいることだよ。……わかっていってるだろ?」
「当たり前でしょ。私が世界一なの周知の事実なのよ。」
「……」
「……何か言ってよ。独りでボケても虚しいだけよ。」
「いや、お前といたら調子が狂うと思っただけだ。けど、それが今ではなんとなく心地がいいんだ。」
「……貴方、やっぱりズルいわね。」
「知ってるよ。ズルくないと力のない人間は生き残れないんだ。……お前が教えてくれたことだよ。」
「感謝してる?」
「あぁもちろん。ここに来て最初にあったのがお前で本当によかったと思っているよ。」
「それなら許す。」
「それはどうも。」
「ところで、貴方が吸っている煙草って美味しいの?」
「これか?」
「そうよ。貴方がここに来てからいつも吸っているみたいだけど。」
「……そうだな。……俺は旨いとは思わないな。」
「美味しくないの?それならどうして?」
「落ち着くんだ。煙を吸うとき、煙が肺に入ったとき、煙を吐き出すとき、その時間はゆっくり流れてくれる。」
「ふーん。お茶みたいなものかしら?」
「そんなもんだな。一本吸うか?」
「嫌よ。臭いし、それに私はまだ煙草を吸っていい年じゃあないのよ。」
「宴会の度に酒をがぶ飲みして潰れる奴が言う台詞か?」
「いいじゃないの。」
「まぁいいけどな。」
「今日は泊まっていくの?」
「そのつもりだ。明日の朝にはここを出て紅魔館へ行くつもりだ。」
「紅魔館へ?何しに行くの?」
「少し咲夜さんの手伝いにな。」
「なるほどね。そろそろご飯にするから吸い終わったらお風呂入ってきてね。」
「お袋みたいな言い方だな。」
「いいじゃあない。日頃適当に生きているんだからこういう日くらいはしっかりしなさい。」
「わかったよ。」
「それとね……」
「ん?」
「……今夜は優しくしてね。」
「わかってるよ。」