夢を見た。
空、木、人全てが秋に、その先に待つ冬に備える、そんな日の夜、夢を見た。
「先輩、ぼーっとしてるなら先に旅館に行きますよ」
「先輩、課題を手伝ってください」
「先輩、九州って思っていたよりも暑くないんですね」
「先輩、」
夜よりも深い、艶のある黒髪。精一杯背伸びをして、漸く俺の身長に追い付く身長。隣によくいる女のせいで小さく見られるその乳房。俺を惹き付けたその瞳。俺の以外の人をも惹き付けてしまうその顔立ち、笑顔。
俺は夢を見た。
俺は何度かこの夢を見た。二人の少女、一人の俺。互いに、互いの理想を押し付けあっていた。その理想を、夢見てきた姿を互いが実現できると信じて。
幻想郷に来て最初の夢で少女は言った、「私と一緒に探求しませんか」と
二番目の夢で少女は言った「レポートを手伝ってくれたらいいことをしてあげますよ」と
三番目の夢で少女は言った「楽しい旅行にしましょうね」と
少女の夢は突然終わる。一つ一つの場面を繋ぎ会わせたかのように、自作の8mmフイルムのように、見るに値する美しい場面だけを切り出したように、目を背けたくなるような現実を切り捨てたかのように。
大学でたまたま出会い、趣味を同じくし、同じような志をもつもので集まり、語り、笑い、酒を飲み過ごし。少女は一足先に卒業した俺を追いかけ、俺は一年遅れて卒業する少女を待つ。
俺はその少女を知っていた。
目を背けたくなるような事実を知らないと嘘をつき、生きる希望をなくす理由にした。
目を背けたくなるような事実を知らないと嘘をつき、生きる希望を持ち続ける言い訳にした。
少女はいなくなった。それは事実である。
少女はいなくなったが、自身のいるべき場所を見つけ平穏に暮らしている。それは嘘だ。
俺は生きる意味を失っていた。それは事実である。
俺は死ぬ理由を探していた。それは嘘だ。
生きる意味もなければ、死ぬ理由もない。
無彩色の世界に色を付けるため、俺は自分に嘘をついた。
世界は俺の知らないものばかりである。
世界のどこかに、昔、妖怪や神と呼ばれ、恐れ、敬われ疎まれていたものたちの住む世界がある。
人智を超えた能力を持つ少女はそこで平穏に暮らしている。
そこでは怪奇の源となるものたちが暮らし、人と共存している。
そこでは怪奇が起これば少女がそれを鎮める。
少女が戦う際、公平を期すために殺し合いではなく特別なルールのもとに争いが行われる。
怪奇の源は怪奇を鎮める役割を持つ少女と怪奇の源たちをまとめる強大な力を持つ少女とを中心として社会を形成している。
そう、少女はどこか少女の住むべき世界で未だに生きている。
何故なら黒髪の少女の遺体は見つかったが、もう一人は、金髪の少女は見つかっていない。きっと金髪の少女はどこかで生きている。
そう嘘をついた。
「なんでも二人も死亡者を出しながらもそのサークルに残り、活動を続けたとか」
中年女性の声が響く。
嘘が壊れた。
それまでの鮮やかな色に染まった世界が消えた。
必死に創ってきた生きる理由をなくした。
…………
怪奇とはいつ現れるのだろうか。俺の前に現れてくれないだろうか。ウィスキーの瓶をコンクリートに叩きつけながら考える。
鉄製の柵に手をかける。マンションの屋上。落ちれば、失った生きる意味を探す必要もない。解放される。そう嘘をついた。
酔いで揺れる思考のなか、また考える。
「妖怪とはなんだ?」
妖怪は解明不能だった事象に対する恐怖を軽減するため、何かに責任を押し付けたかった昔の人々の弱さの集まりだ。
真夜中に大きな音がなれば鵺を創造し、
墓荒らしがあれば火車を創造し、
水難事故があれば河童を創造した。
小学生の頃、俺も昔は考えていた。同じような年頃の子供の姿をした妖怪たちを、遊んでくれる友達を創造していた。
もし、もう一度自分自身に嘘がつけるのなら、俺をそういった世界に連れていってくれないだろうか。
くぅ疲
解説なんか欲しいかたがいらっしゃいましたら、ご連絡下さい。何とかします