人間は今まで『怒り』という感情とともに歩んできた。『怒り』は人間の一部と言っても過言ではないだろう。
しかし人間は怒りを否定的なものとして捉える。なぜだろうか。
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家で煙草を吹かしていると客人が訪ねて来た。彼女は紫の式で橙の使役者のはずだ。
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「失礼する。」
「ん?どちら様?」
「八雲藍だ。そちらとは宴会で何度か顔を会わせたはずだが。」
「紫の式か……。で、今日は何の用事だ?無縁塚なら行きたくないと伝えてくれ。」
「そうではない。今回は私の私用で来たまでだ。紫様には何の関係もない。」
「そうか。で、何の用だ。」
「先日私の式の橙が世話になったらしくてな。その礼をしに来たのだが。」
「橙か……。そういえばこの間マヨヒガであったな。」
「そうだ。それで、自分が何したか覚えているか?」
「煙草を吸っていいと言われたから吸っただけだな。」
「……あまり減らず口を叩くなよ。」
「わかったよ。弄り甲斐があったからな、少しからかっただけだ。」
「あぁそうだな。」
「それがどうした?」
「何か言うことはないのか?」
「過保護すぎやしないか?子供が喧嘩したからって相手の家に殴り込みに行くような親がいるか?」
「過保護ではない。私は橙が可愛そうだから貴様に謝ってほしいと態々いいに来ただけだ。」
「それが過保護だろう?子供の責任は親が果たすべきだが、子供には子供の義務があるはずだ。」
「ほぅ、それでは私は何をすべきだと?」
「見守ればいいんだよ。子供ってのはな、元々みんなと仲良くなれる不思議な力を持ってるんだよ。大人が下手に干渉しなければ子供は純粋なまま育ってくれるんだよ。」
「そういうものなのか?」
「そんなものなんだよ。」
「世の中の穢いものの塊のような貴様に言われても全く有り難みがないな。」
「そういうな。こっちは向こうの世界でお前みたいなモンスターと闘って来たんだよ。」
「ん?あちらには妖孤が未だに残っていたのか?」
「似たようなもんだ。半端に知識を身につけた獣が一番怖いんだよ。」
「クスクス」
「何だ?何かおかしいこと言ったか?」
「いや、半端に知識を身につけた獣というのはお前たち人間のことだと思ってな。」
「そうかもしれないな……。俺らが猿のままだったらお前らは力を失ったり隠れて過ごしたりする必要もなかったんだよな。」
「あぁそうだな。しかし私達には人間の恐怖心が具現化したものも多くいる。必ずしも人間がいなければよかった……と言えないのも事実だ。」
「難しい話だな。」
「そうでもないさ。お前らがいたから私たちがいる。私たちがいたから今のお前たちがいる。それだけさ。」
「そうだな。」