朧月が見える。もう何十年も見てきたが見飽きない、美しい月だ。しかし億もの年月を過ごせば美しい朧月さえも見飽きてしまうのだろうか。
一一一一一一一一一一
レイセンの案内もあり、迷うことなく永遠亭にたどり着いた。
一一一一一一一一一一
「あら、お待ちしてましたわ。思っていたよりも早いのですね。てっきり遅くなると思っていましたのに……。」
「どういうことだ?」
「いや、貴方のことだからどうせ道に迷っているのかと思っただけよ。」
「悪かったな、方向音痴で。」
「で、どうして迷わなかったのかしら?妹紅は今頃姫様と遊んでいるはずなのだけれど……。」
「兎に案内してもらった。」
「あら、不思議の国のアリスみたいで愉しそうね。」
「あまりからかわないでくれ。」
「そうね、時間も惜しいし。」
「早く案内してくれ。」
「わかったわ。」
「ところで、今日の仕事は掃除でいいんだよな?」
「えぇ、冬の間ここまで来る人も少ないからあまり整頓してないのよ。」
「ところで喫煙所はあるか?」
「ないわよ。診療所をなんだと思っているの?」
「そうか……。」
「むしろここは煙草を吸うような人が来るべき場所よ。ここですったら元も子もないじゃない。」
「それもそうか……。」
「着いたわよ。」
「……。」
「……。」
「……これは酷いな。」
「冬の間中のゴミが溜まっているものね。」
「この紙切れは必要なものなのか?」
「勿論必要よ。もしかしたら、その紙から新しい薬が生まれるかもしれないのよ。」
「この空き瓶の山は必要なものなのか?」
「当たり前じゃない。試作品をどこにしまうのよ。」
「この食べ掛けの餅は必要なものなのか?」
「餅に生えたカビから新しい抗体が見付かるかもしれないし……。」
「この紙切れは必要なものなのか?」
「ほら、いつか……きっとメモ用紙に多分使えるかもしれないし……。」
「片付けるか?」
「お願いします。」
「とりあえず、要るものと要らないものとに分けるか……。」
「全部必要ね。」
「……。」
「……ごめんなさい。」
「薬の試作品と、それに関するメモは必要なもの。それ以外は必要なし。わかったか?」
「……はい。」
「とりあえず外で1本吸ってくる。」
「わかったわ。終わったら呼びにいくわね。」
「そうしてくれ。」
~~~~~~~~~~~
「……。」フーッ
「終わったわよ。」
「あぁそうか。」
「何を見ているの?」
「月だよ。今日はいい具合に霞が掛かっている。」
「そうね。」
「必要なものはわかったか?」
「何とかね。」
「八意先生も頭がよすぎて大変だな。」
「そうかしら?」
「あぁ、頭がいいからものの使い道が直ぐに思い付いてしまう。思い付かなくても、『いつか必ず役に立つ』と考えてしまう。損な性格だよ、貴方は。」
「そう言うつもりはないのたけれどね。物事を棄てきれないのは昔からの性分よ。どうしようもないわ。」
「昔のことも棄ててしまえばどうだ?」
「無理よ。あそこは私の一部だもの。棄てようとしても棄てきれないわ。この紙切れと同じよ。ここに私はいる、でもこの中にも私はいるのよ。」
「そうかもしれないな。」