忘れ、棄てて人は生きていく。
一一一一一一一一一一
呼び出されたので命蓮寺へ向かう。
一一一一一一一一一一
「あれ?煙草さんじゃん。何してるの?」
「お前んところの和尚さんに呼び出されたから行ってるんだよ。」
「聖が?」
「そうだな。何か用事があるんだろう。」
「どうだろう。聖はああ見えて実はお惚けさんだからね。」
「あぁ見えてというか見たまんまだけどな……。」
「そう?私が始めてみたときの聖は怖かったよ。」
「何をしたんだ?」
「なにもしてないよ。ただ、お寺に来た人たちを怖がらせてただけだよ。」
「明らかにそれだろ。命蓮寺のというより聖の目標はなんだ?」
「妖怪と人の共存だよね?」
「だろ?だからお前が一本踏鞴として人を脅かして寺に人が来なくなるのが嫌なんだよ。」
「ふーん。」
「聖としては少なくとも寺の妖怪は怖くないってことを証明したいはずだからな。」
「難しいな。」
「そうか?」
「だって、私にとって驚かすことは食事と同じだもん。煙草さんが朝起きて歯を磨く前に煙草を吸うのと同じだよ。」
「そんなもんなのか?」
「そうだよ。癖というより本能に近いって聖が言ってたの。」
「なるほどな。で、」
「ん?」
「驚かすのは止めたのか?」
「止めようとは思ってたんだけどね……」
「何で過去形なんだ?」
「暫くして参拝客が増えたんだって。だから止めなくていいって聖が言ってた。」
「何でだろうな。参拝客が増えたから驚かすのを止めなくていい理由にはならないよな?」
「さぁ?私はとりあえず人間を捕って喰うような妖怪じゃないからね。危険じゃないってわかったのかも。
「そうかもしれないな。」
「それならいいんだけどね。」
「危険な妖怪のふりをしたらどうだ?」
「ふぇ?」
「だって危険じゃないものは怖くないだろう?」
「そうかな?それなら放生会のお化け屋敷は商売にならないんじゃない?」
「怖いは怖いだろうが怖さは半減だろうな。安全だってわかっているんならな。」
「う~ん……けど、その安全が壊されたときが一番怖いんじゃないの?」
「……」
「あれ?トラウマ?」
「大昔の話だよ。今は関係ないさ。」
「それならいいけど……」
「まぁ、危険と思われているものほど安全に気をつけているものだと思うぞ。」
「そうかもね。」
「つまり安全と思われているものほど危険かもしれないってことだな。」
「なるほど……わかんない。」
「つまり、安全と思っているものほど安全に気を配ってないってことだよ。川の上流の水を態々警戒して飲むやつなんていないだろ?」
「人って難しいんだね。」
「そうだな。人間はややこしいんだよ。」