万屋もときには涙を流す。
昔を思い出したのか酒に溺れたのかは本人にもわからない。
一一一一一一一一一一
寺子屋で自然科学を教える。
といっても山や野原で遊んでいるだけだが……
一一一一一一一一一一
「万屋のおっちゃん、これ何?」
「リスが食べた松毬だな。リスは松毬の笠のところしか食べないからこうなるんだよ。」
「煙草さん、この虫何?」
「ん?見た感じカゲロウの仲間みたいだな。羽の大きさからしてウスバカゲロウかな。」
「薄、馬鹿、下郎?」
「ウスバ、カゲロウだ。羽が薄くて透けてるだろう?漢字で書くと薄羽蜻蛉だな。まぁ、アリジゴクの成虫だ。」
「万屋さん、変な歩き方する昆虫見つけた。」
「そいつはメクラクモだな。もしくはザトウムシだ。」
「目暗?座頭?目が見えないの?」
「一番前の足で地面を撫でるように動かすんだよ。その様子が目の見えない人が杖で安全を確認する様子に見えたらしい。」
「へー。」
「ちなみにそいつはダニの仲間だからな。」
「えっ?」
「正確には蜘蛛じゃないだけなんだがな。どちらかというとダニの方が近い。」
「こんなに蜘蛛っぽいのに。」
「おじさん!でかい雲!」
「入道雲だな。積乱雲でもいいがな。」
「なんで雲はできるの?」
「水蒸気が上に行って冷やされて水になってできるんだよ。」
「なんで上に行くの?」
「太陽の光が当たったら空気が暖かくなるよな。」
「うん。」
「暖かいものと冷たいものどっちが上にいく?」
「暖かいの。」
「そういうことだ。」
「特に入道雲は1ヶ所が急に暖められたときにできる雲だ。入道雲が出たらそのあとはどうなる?」
「雨が降る。」
「そうだな。」
……
「ねぇ先生。この魚何?」
「この木何?」
「どうして夏は暑いの?」
「どうして電球は光るの?」
……
「先輩、どうして来てくれなかったんですか?」
「先輩、どうして助けてくれなかったんですか?」
……
特別授業をしてから、たまにこうやって生徒たちと自然科学という名目のもと野山で遊んでいる。最初は生徒の保護者も心配になって様子を見に来ていたが、最近はあまり来なくなった。少しは信頼してくれたのだろう。
こうしていると昔を思い出す。
あることもないことも思い出してしまう。
そろそろかな。
……
「万屋さん、何してるの?」
「少しボーッとしていただけだよ。」
「万屋さん……」
「ん?」
「にやけてて気持ち悪いよ。」
「いいだろ。自分の中で結論が出たから楽しくてしょうがないんだよ。」
「ふーん。」
「万屋のおっちゃん!変な虫いた!!」
「わかった。今行く。……ほら、行くぞ。」
「うん!」