人は思いを、歴史を、伝説を音にのせ、伝えてきました。
そして、これからもそれは変わらない。
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人里を歩いていると人だかりができていた。
気品のある音、伸びのある声。
聞き惚れていた。
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「巧いものだな」
弁々「当たり前でしょ。私達、楽器本人が楽器を巧く扱えなくてどうするのよ」
「外では琴も琵琶も聞くことがなかったからな、新鮮だったよ」
八橋「へー、かわいそうね。こんなに美しい音を奏でられるものは他にないわよ」
「そうかもしれないな。現に聞き入っていたからな」
弁々「ウタは人間が作り出した最高の伝達手段よ。リズムがあるから覚えやすく伝わりやすいという面を持ちながらも、美しさという面をも持つのよ」
「なるほど。そういう見方もあるのか……」
八橋「そういう見方って音楽をなんだと思っていたの?」
「やかましい、ドンチャン騒ぎ、節操なし、それと……」
弁々「ストップ。もう十分よ」
八橋「うわぁ……そんなんじゃダメよ。音楽は素晴らしいものなんだから」
「どうも外の音楽は昔のものと大きくかわってしまってるみたいでな」
弁々「どう違うの?」
「人に何かを伝えるものというよりも、自分の賛同者を集めるためのものに換わってしまっているんだよ。あくまで俺の印象だがな」
弁々「どういうこと?」
「昔の音楽やウタは自分が見たもの、感じたものをリズムと音階を持つ言葉にして伝えるものなんだろ?」
八橋「さっき私達が言ったままね。」
弁々「まぁまぁ八橋。……で、外の今の音楽はどうなってるの?」
「何と言うか……聞く側の人間も体験したことのあるようなことを、耳障りのいい言葉とリズムにして共感してもらうためのもの……って言えば伝わるか?」
弁々・八橋「……」クビカシゲル
「……例えるなら『松島や あゝ松島や 松島や』という俳句があるだろ?これを今の感じで表すと……『松島の 海も空も 凄く綺麗』……ってな具合か?」
弁々・八橋「……??」
「俺が悪かった。端的に言うなら松島の風景が美しく言葉にできないっていう心情を詠った俳句が、言葉にできないはずの美しさを説明することで『そーだね』って言われるためのものに変化してるってことでいいか?」
八橋「何となくわかったわ。でもそれは仕方のないことなんじゃないの?」
「何がだ?」
弁々「昔は話を伝えるためにウタは拡がっていったの。でも、今となってはそれらは片手で探せる情報なのよ。事実を知るにウタは情報量が少ないのかもね」
「なるほどな」
八橋「何でも知ってる様に振る舞ってる貴方にも知らないものもあるのね」
「俺は全知全能の神じゃないんだよ。知っていることは知っているものだけだ。知らないもの、興味のないものも勿論ある」
弁々「ふーん。でも、私達は新しく一つ知ったわよ。ねぇ、八橋」
八橋「ねぇ」
「何をだ?」
弁々・八橋「貴方が芸術的なセンスに一切恵まれていないこと」
「全く興味がないんだよ」
弁々「それでも少しはかじってみるのも面白いと思うわよ」
八橋「折角先人が造ってくれたものなんだから少しは興味を持ってみるのも面白いかもしれないわよ」
「そうかもな」