人々は太鼓を櫓に奉り囲み踊る。先行く人々を弔い、敬い、親しみ、愛し……
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馴染みの居酒屋に顔を出す。聞くに、店を始めて10年が経ったらしい。
祝うべく、一升瓶と紫に頼み外から仕入れてもらった朱と黒の映える漆塗りの枡を手に持ち訪れる。
祝い酒と聞き、集まったのであろう酒飲みたちが既に盃を傾け、騒いでいる。
その中に一人、幻想郷に相応しくない透明なガラス製の大ジョッキを右手に、腰に左手を当て天井を仰ぎながらビールを飲み干す女がいた。
知り合いだと悟られたくはない。
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「じゃあ親父さん、俺はこれで……」
「あれ?煙草屋さん何してるの?」
「はぁ……」
「何?迷惑そうな溜息なんか出して」
「迷惑だから溜息出してるんだよ……」
「へー……まぁいいや!飲めるんでしょ?こっち来なさいよ」
「出来上がってるな」
「お祝いなんだから、潰れるまで飲むのが礼儀ってもんでしょ?」
「そんな礼儀は知らん」
「そう?でも、少なくとも今ここにいる連中にとっては常識であり、礼儀よ」
「酒飲みの常識で話すな」
「何よ、自分だってお酒好きな癖に……」
「俺は静かに飲むのが好きなんだよ。どんちゃん騒ぎは性に合わん」
「それよりも」
「ん?」
「あんた店に入ってから私と目を合わせないようにわざと視線そらしてたでしょ?」
「そんなことねぇよ」
「ほら!また目逸らした!!」
「なに飲むの?焼酎?ウィスキー?ジン?ウオッカ?それと、ロック以外は認めないわよ」
「不思議だな、焼酎が水の隠語か何かに思えてきた」
「冗談よ。そんなこと、ビール片手に言うほど性根腐れてないわ」
「それなら安心した」
「まぁ、軽く飲んでいきましょうよ。今日はただで飲めるしね」
…………
「飲んだな……」
「あんた、意外と飲めるのね。知らなかったわ」
「人前で飲めることを見せびらかす必要もないけどな」
「それもそうね」カチッ
「吸ってたか?知らなかった」
「最近よ。ドラムセットを依代にして以来、生活が変わってきてるのよ。」
「ドラムを依代にしたのは憑喪神になった直後だろ?生活も何もないだろ?」
「言い方が悪かったわ。性格が変わってきてるのよ、物にだって魂はある。以前の私ならビールなんて飲まなかったわ。麦焼酎を生でチビチビ飲んでいる『誰かの』姿が好きだった。紙巻きじゃなくて煙管をくわえてる『誰かの』姿が好きだった」
「心を持つものはいつか変わるものだろ?自ら望んで変わったやつが変わったことを後悔したら誰がお前を好いてくれるんだよ」
「変われない心もあるのよ。変われない心が変わってしまった心を懐かしんでるの。」
「変わっちまったもんは変わったままさ。以前と完全に同じ形に戻ることは絶対にない」
「そういうものかしらね……」
「そういうもんさ。人も心も空気もな」