人というのは誠に自分勝手だ。
弱者を見つけ、弱者を虐げる。
そのくせ、自分が弱者になったときのことは考えない
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九州の冬
懐かしく、思っていたよりも冷える。
空は曇り、空気は湿っている。
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「到着しました」
「ここか……」
「はい。相模さんと再会したビルの屋上です」
「二年半か。長かったな」
「色々ありましたからね。私も最終学歴が大学中退、高卒になるとは夢にも思いませんでした」
「妖怪も学歴を気にする時代なのか……難儀だな」
「リニアモーターカーが走り、太陽光だけで必要な電力を賄えるようになりましたからね。時代は移り行きます」
「宇佐見のばぁちゃんの話だったっけな?」
「はい。あの娘が生きた時代と今は変わりました。そして、私たちが産まれた時代とも変わりつつあります」
「俺は死んでよかったのだろうか?そう考える日がある」
「私は先輩には生きていて欲しかった。先輩のクールぶったキャラに相応しくない無邪気で無垢な笑顔が好きでした」
「俺はいつから笑えなくなった?いつから笑えるようになった?」
「先輩は作り笑いが下手です」
「そうか、まだ笑えてないんだな」
「先輩は人に気を使いすぎです。人のために笑って、人のために怒って、人のために怒られて……もっと自分のために生きることも出来たでしょう?」
「しょうがないさ。生きるのが嫌になったんだから」
「私たちのことは忘れてしまえばよかったのに……そう考える日があります」
「俺はあったヒトの顔は忘れないんだよ」
「適当に生きているくせに、適当になれない……、不憫な人です」
「昔からだよ」
「知っています。千年間、片時もあの日々を忘れたことはありません」
「あの日々が夢なら、あの出来事が夢なら何度もそう思った」
「現実です」
「もしここにいる俺が夢で目が覚めたら部室にいるのでは、そう思う」
「現実です」
「もしかしたら俺は今、ここから落ちている最中で走馬灯のようなものを見ているのでは、そう思っている」
「現実です」
「変わらないか」
「変えられないです」
「俺は今、どんな顔になってる?」
「泣きそうな笑顔です」
「この笑顔は本物か?」
「偽物です。目が泣いています」
「笑いかたを忘れちまったかな?」
「先輩は笑うとき人の目を見ていました。でも、今は俯いて笑うようになりました」
「空に向かっては笑えねぇよ」
「たまにはあの娘に笑顔を見せてあげたらどうですか?」
「向ける顔がないんだよ」
「案外すぐ許してくれるかもしれませんよ」
「案外、そこの物陰から出てくるかもしれないな」
「案外、笑いながら見ているかもしれませんね」
「案外、ここにいるのかもしれないな」
「……」
「案外、死んでないかもしれないな」
「辛いなら、帰りましょうか?」
「月だけ見て帰るよ。ウサギが見えるかもしれねぇからな」
余談ですが、夏の三角形は今でも見えます