久々に受けた人間からの依頼を終え、自宅の戸を開ける。目に光が入り、そちらの方を見ると、太陽は大きく西に傾き、既に山の影に飲まれようとしていた。夏が終わり、秋を迎え、冬が近づきつつあることを伝える。里で夕飯を食べてきたのは失敗だっただろうか。しかし、夕飯を終えた以上、後は寝るだけである。ならば問題はなかったのだろう。
家に入り、囲炉裏のそばに腰を下ろす。冬でもなく、寒さを感じる訳ではないが、思うところがあり、火を灯す。二年もたてばこれほど簡単に火を起こすことができるようになるかなどと自分の微かな成長に思いを馳せながら火を見る。
火が落ち着き始めたことを確認して袖から紙と葉を取り出す。
人差指、中指、親指で紙を丸める。窪みに葉を一掴み、二掴みと落としていく。しっかりと円柱になるように均一に均す。
末まで葉が詰まったことを確認し、親指と人差指を擦るようにして巻き上げる。糊が塗られた部分を残す。親指、中指、人差指で擦り、円に近づける。僅に残された、乾燥した糊が塗られた部分を舐めて湿らせる。
ゆっくりと最後の一巻。葉のつまり具合から喫味を想像する。今日は少し緩めに巻いてある。おそらく一口目は辛くなるだろう。そんなことを考えながら巻く。
ようやく仕上がる。ローラーを使わないのは最近始めたので少々ぶっ格好だが、味にはさほど影響しないだろう。
葉のつまり具合を見て、どちらをくわえるか定める。そして、少し灰を纏い白くなりつつある炭に巻いた不格好なそれを押し付ける。音がなることもなく、ゆっくりと先の方が紅く染まっていく。炭から外し、口にくわえ、いつもよりゆっくりと肺ではなく口で空気と煙を取り込む。いつもより少し辛い、舌を、鼻腔を焼くような感覚。いつも通りに吸わなくて良かったと、もう少し固くすれば良かったと様々な考えが脳を駆ける。
吸い込んだ煙を口内で冷まし、ゆっくりと肺に落とす。肺が煙で満たされ、一種の異物感を覚える。異物感に耐え、ゆっくりと鼻から煙を出す。香りを楽しみ、煙がゆっくりと溢れ出すように。
炭で火を着けたのは正解だったようだ。ガスの臭いもリンの臭いもしない、煙草そのものに一番近い香りと味。
ゆっくりと吸い込み、ゆっくりと鼻から煙を出す。肺がたまれば囲炉裏に落とす。
淡く、しかし確かに静かに流れる時間。
煙草をくわえたまま水瓶の方へ歩く。土間へ裸足で降りる。少しくらいいいだろうと誰に対するわけでもない罪悪感と謝罪の念に襲われる。
水瓶につくと煙草を外す。柄杓で一掬いし口に水を含む。口にこびりついていた違和感が拭われる。
明日は休みにしよう。たまの休みもいいものだ。
そう呟き煙草をかまどに擦り付け火を消した。
こういう話が好きです。
朝起きて、歯磨いて、顔洗って、朝食食べて、着替えて、登校や出勤するだけのような何気ない毎日の一コマを見るような話が好きです