「あっ…蝶々…。」
風に乗って、消えてしまいそうな声で彼女はそう呟いた。
彼女の名は『ルミナス』
彼女の走りは、誰もを魅了するものとなる。
「んー…。今日もダメかぁ。やっぱり新人のスカウトなんて誰も受けたくないよね。これからどうしよっかなぁ…。どこかのチームのトレーナーさんに声かけたら拾ってくれるかなぁ…。」
私は、今月配属された新人トレーナーの『真田陽毬(さなだ ひまり)』
何度かスカウトを試みているものの、新人だといって相手にされずに、既に1週間が経過してしまった。
「葵ちゃんはもう担当の子決まったんだもんなぁ。すごいなぁ…。やっぱり家の力かねぇ。いやいや、それは葵ちゃんに失礼でしょ!私も頑張るぞの精神!頑張れ私、頑張れ私…。」
そうしてトレセン学園の校庭を歩いていると、何かを踏んだ感覚がした。
「んみゅっ。」
「わっ、なに!ぎゃあ!!尻尾踏んだ!ごめんね、あなた大丈夫!?っていうか何してるの!?」
考え事をしながら歩いていたので、尻尾に気付かずに踏んでしまった。
そこには、草むらに頭を突っ込んで、お尻をこちらに突き出しているウマ娘がいた。いや、本当に何をしているのだろうか。
「だいじょうぶ…。今は、授業中に窓の外を見てたときに、落としちゃった、ペンを探してた、とこ。…尻尾はやっぱりいたい。だんだんいたくなってきた…。」
「ごめんね、考え事しちゃってて。お詫びと言っちゃなんだけど、ペン一緒に探すよ。この辺りなの?」
「うん。この辺り。ありがとう。」
とてもゆっくり、小さな声で話す子なので、少しでも他に音があると、声が聞こえなくなりそうだ。聞き逃さないように気をつけながら、一緒にペンを探した。
「あ、あったーーー!!!あったよ!これで合ってる?」
「うん。合ってる。いっしょに探してくれて、見つけてくれてありがとう。」
「いえいえ!これぐらい、トレセン学園のトレーナーとしては当然のことなので!」
「トレーナーさん、だったの。… では、ルミはこれで。」
「あっ、ちょっと待って!あなたの名前は…って速い!」
彼女は、私がトレーナーだと分かると、足速に去って行ってしまった。
わかったのは、『ルミ』という愛称のみ。
私は、逃げるために使われた、その脚に魅入っていた。
「速いなぁ…。あの子、担当トレーナーはいるのかな。いるんだろうなぁ…。はぁ。…よし、切り替え!明日の選抜レースに向けて、情報集めよう!」
私は、自室に戻り、明日の選抜レースに出るウマ娘をチェックすることにした。
「えーっと。次は芝の2000mに出る子を見てみよ。…1番、『ルミナス』ルミ…?いや、まさかね。あんな速い子にトレーナーがついてないはずがない。つぎつぎ。…3番、『トウカイテイオー』この子は、新人の私でも、噂を聞く子だな。ちょっと気にしておかないと。あわよくばスカウト!…できたらいいけどなぁ。」
そうして、いろいろな子をチェックしていったが、頭の中には、逃げられたあの子のことばかり浮かんでいた。
「さあ、この選抜レース。私にとっても勝負。これで担当の子が決まらなければ、私はどこかのチームに弟子入りする!よし、やるぞ!」
そして、選抜レースが始まった。
「ねえ、あなた!私と『君!是非うちのチームに来てくれ!』…先を越された。つぎつぎ!」
「そこのあなた!いい脚して『あなた、良い脚してるわね。このチームで末脚を磨いてみない?』…次!」
「あなた!スタートダッシュが『いいスタートダッシュだ!俺のチームに来て、逃げを極めようぜ!』…ああああもう!!」
スカウトは、ことごとく失敗した。やはり、新人というのは、顔も知られているベテランよりも選ばれることは少ない。その中でも、やると決めたならやるしかないのだ。
「次は、最後のレースか…。これで私の今年の運命は決まる。担当か、サブトレーナーか。どちらにしても頑張るけど、やっぱり担当と一緒に二人三脚で頑張ってみたい!…嘘でしょ?『ルミナス』って、あの子で合ってたの。…走り、ちゃんと見れるんだ。ははっ、スカウトのことばっかり考えて、今までのレースを見てたけど、このレースは、単純に楽しみだなぁ。っと、『トウカイテイオー』もちゃんと見ないとね。」
トイカイテイオーは、やる気満々といった感じだ。それに対してルミナスは、ぼーっとして、何も考えていないような表情をしている。…少し不安になってきた。
「あの子なら大丈夫、だよね。あの脚があるなら。」
そして、レースが始まった。トウカイテイオーはいいスタートを切った。さすが、噂になるだけはある。スタートだけでも、強さが窺えるものであった。ルミナスは最後方からのスタートだ。
「トウカイテイオーは先行気味。ルミナスは追い込み、かな。注目してる2人が、バラバラの脚質なのは見やすくてありがたいな。どっちが勝つかな。それとも、他の子が勝つか。」
レースは特に動きがなく、最終直線まで進んだ。そして、動いた。
「あ!トウカイテイオーが抜けた!ルミナスは…あれ、いない?…っ!もうあんな前に!」
トウカイテイオーが進出したのに気を取られている間に、ルミナスが8番手あたりまであがってきていた。そして、あがってきていたのに気付かなかった理由が2つ。
「速すぎる…。それと、姿勢が低すぎる。何あれ…オグリキャップより低いんじゃないの。」
低い姿勢とスピード。その2つにより、一瞬消えたかのように見える彼女の走り。会場にいるトレーナーはみな驚いている。残り200m、彼女は3番手まであがってきている。そして、落ちた。
「あっ、失速…。」
彼女の追い上げはここまでだった。1着はトウカイテイオー。そして、ルミナスは5着だった。
『あの子、一瞬は見張るものがあったが、本当に一瞬だったな。それよりトウカイテイオーだ!』
みな、揃ってトウカイテイオーのスカウトに向かって行った。だが、私はその場で動けないでいた。
「あのスピード、あの瞬間だけは、誰も彼女に追いつけない。あれはきっと、大きな武器。私は、彼女をスカウトしたい…!」
私は決意した。今度こそ、スカウトを成功させる。そして、彼女から直接、名前を教えてもらいたい。
「ねえ、あなた!単刀直入に言います。あなたをスカウトさせてください。」
「はぁっ、はぁっ…。あのときの、トレーナーさん。少し、待ってください。息を、整えさせてください。すぅー……、はぁー……。はい、大丈夫です。それで、スカウトですか。…理由をお聞きしてもいいですか?1着はトウカイテイオーさん、ルミは、5着。とてもスカウトを受けるような順位ではありませんが。」
「私は、あなたのあの末脚に可能性を感じたの。その脚があれば、あなたは1着になれる。たとえ、一瞬しか使えないのだとしてもね。」
「っ!…そこに気付くのですね。その通りです。ルミは、あの一瞬しか、速く走れません。色々試してみたことも、あります。少しスピードを緩めてみたら、もう少し長く走れるか、とか。前半に使えば、後半にまた使えるか、とか。でも、どれも失敗しました。スピードを緩めたら、長くは走れたけど、抜かせませんでした。前半に使えば、体力を持っていかれて、最後まで走れませんでした。ルミのあの走りは、レース中、1回だけ。そして、とても短い。それでも、あなたは、スカウトしますか?」
「…正直に言うわね。あなたとペンを探したあの日、あなた逃げていったじゃない?あのときから、私はあなたの脚に魅了されてるの。私はもう、あなたしか見えてないの。あなたのその脚は、誰にも負けない。一瞬しか使えなくても、その一瞬で、全員を抜き去るの。私があなたに、どれだけのことをしてあげられるのかわからない。隠さないで言うけど、私は新人だから。それでも、他のトレーナーよりも良いところはあると思うの。他のトレーナーはチームを組んでる。でも、私はあなただけ。あなた1人に力を注ぐことができます。あなたのためだけに全力を尽くします。…どうかスカウトを受けてくれませんか?そして、あなたの名前を教えてください。」
「…ルミに声をかけてくれたトレーナーさんは、みんな、ルミが一瞬しか走れないことを知ると、顔色を変えてどこかに行ってしまいました。あなたもそうなんだろう、と思って、仲良くなる前に逃げました。でも、あなたは違うんですね。…わかりました。新人とか、関係ない、です。ルミは、ルミから逃げていかないトレーナーさんが欲しかった。スカウト、受けます。わたしの名前は『ルミナス』です。よろしくお願いします。トレーナーさんの名前も教えてください。」
「ありがとう。よろしくお願いします、ルミナス。私の名前は『真田陽毬』です。気軽にひまりって呼んでね。」
「…わかった、ひまり。」
「っ!あーん、もう!かわいいねールミちゃん!!」
「ルミちゃんは、やめて。…なんだか恥ずかしい。」
「えー、いいじゃん。ルミちゃん。これからよろしくね!」
「はぁ、もう、それでいい。…改めて、よろしくお願いします。」
こうして、ルミナスと私の物語が始まった。
「ふーん、『ルミナス』ね。面白い子じゃん。覚えちゃったもんねー。次はいつ一緒に走れるかなぁ。楽しみ!」
はじめまして。
今回は、初めてオリジナルウマ娘の小説を投稿してみたいと思いました!
自分が読みたいものを書いていくつもりですが、もし気に入っていただけたら、こんな話が読みたい、などあれば入れさせていただくこともありますので、是非ともコメントをお願いします。
拙い文章ですがお付き合いいただけると嬉しく思います。