カミカゼ☆エクスプローラー NextTime 作:Gショック
気候の変化により海が増水し、世界の地表が水没した頃、若い世代の者たちに『メティス』と呼ばれる不思議な力が宿った。
世間からは、"人類の進化"という説が出たり、"エセ超能力者"と罵る事態も起きた。
このような事態に政府は、メティスを目覚めさせた若者を監視し、その若者本人にメティスをコントロールするために"澄之江学園"を設立。
一般学生も通うこの学園を先駆けに、同じメティスのカルキュラムが用意された公共施設が増え始めた。
そして、80年あまりの時が流れた現在、メティスに目覚めた人が世界の人口の6割にまで膨れ上がり、メティスが"個性"として受け入れられてきた。
反メティスパサーに対する"過激派"や外道的メティス研究所の出現、という問題が根付いているが、ここ十年近くは平和が続いている。
この話は、接触者のメティスを複製する『切り札(ジョーカー)』を持つ男、"絶対防御"と呼称される『アイギス』使いの女の、甘くスリル有りの学園生活が語られる。
[ガサゴソ、ガサゴソ・・・]
「・・・」
俺、"曽良(そら) 大和(やまと)"は自室にて、下着やら生活必需品を旅行バックに詰めていた。
「大和~、準備できた~?」
「お~う!」
下の階の母に大声で応え、旅行バックを片手で肩に担いで下に降りる。
玄関前には、日曜日の休日を満喫していた両親と、少し涙目の妹が待っていた。
妹の"ゆかり"は今年で5歳。歳の離れた兄妹だが、毎日毎日、ゆかりと遊んだものだ。
しかし、それも今日でしばらくお預け。
「ううぅ~・・・」
「ほら、ゆかり。お兄ちゃんに"行ってらっしゃい"は?」
「ぐすっ・・・う、うぇええええんっ!」
「もう、ゆかりったら」
得意の大泣きを、俺と両親の三人は微笑みながら眺める・・・ああぁ、この泣き顔もしばらく見れなくなるのか。
「私、ちょっとゆかりを・・・」
「ああ、頼むよ」
母がゆかりをリビングの方へ連れていき、俺と親父の二人っきり。
「大和。"澄之江"は、良いところだから安心して行って来い。ゆかりの事は心配するな。それに夕花ちゃんもいるんだ」
「そうだな・・・じゃあ、俺行くな」
「行って来い!」
背中を押された俺は、夕日に照らされた外にくり出した。
「行ってらっしゃ~い!! おにいちゃ~~~~ん!!」
振り向くと、二階の窓から身を乗り出し、手を振る母さんとゆかり。
ゆかりの顔は、涙でぐちゃぐちゃになってて、何かそれが無性に嬉しかった。
俺は、後ろ歩きに歩き方を変え、家が見えなくなるまで手を振り続けた。
(たかが、遠い高校に行くだけで、こんな壮大な別れになるなんて・・・)
それが"曽良家"の短所でもあり長所でもある。少なくても俺はそう思う。
俺はそんな感想を洩らしながら、上ヶ瀬市に向かうため最寄り駅に向かう。
そこに俺の待ち人がいるはずだ。
(アイツ、元気にしてるかな。もう5年近く会ってないんだよな・・・)
脳裏に浮かぶのは、ポワポワとした雰囲気を纏う華奢な少女。
お祭りで奢った花の髪留めを付け、俺の後ろをとことこと追ってくる・・・思い出すと、ちょっとにやけてしまうのは内緒。
昔の感傷に浸っていると、最寄り駅が見えてきた。仕事帰りのサラリーマン達や、下校中の学生達が行き交っている。
その集団の中に、見た事のない制服を着た女子と、それを囲む若い男子学生が三人。
(ナンパか?・・・随分と、詰め寄ったやり方だな)
女生徒が怖がっているのにも関わらず、学生達は肩に手を置いたり、ボディータッチが多い。
周りの人達は、それを見て見ぬフリをしている。
「おい」
俺ではない。
俺ではない誰かが、三人に突っかかる。
「あ? 何だよ、お前? 関係ねぇだろ」
「その子、怖がってるだろう。離せよ」
学生はギラギラした眼でガンを飛ばしたが、突っかかったスーツ姿の青年は怖じ気ずに睨み返す。
すると、学生はいきなり腕を振りかぶって青年の頬を殴りつけた。
「『ギア2』!」
「ぐふっ!」
「・・・飛ぶね~」
ただ殴られただけなのに、2メートル以上も吹っ飛ぶ青年の体・・・あの学生、メティスパサーだな。
ニュースとかで、こういうメティスを使った暴行事件を多く見ているが、実際に目撃したのは初めてだ。
「俺はな、相手に触れた時に起きる力のベクトルを最大六倍にして、ぶつけることができるのさ! ちなみに、今のは二倍な」
「くぅ・・・」
「俺らに突っかかって来るからだ」
へへへっと他の学生二人も笑う。どうやら、あの二人も何らかのメティスを秘めているようだ。
青年は、痛々しく腫れた頬をさすりながら立ち上がる。
「そっちがその気なら─────こっちだって本気出すぞ」
「何だ? あんたもメティスパサーか? 上等だ、この野郎!」
ボキボキと指の骨を鳴らして、戦闘態勢を取る学生達。
それに対して、青年は手にバッチリキメていた髪からオシャレ用のピンを取った。
俺は悪寒を感じた。
青年は、そのピンをたった手首の運動だけで、音速並のスピードで投擲した。
「え・・・?」
つぅー、赤い鮮血と流れるのは、青年を殴り飛ばした学生の頬。
他の二人は何が起きたのかも分からず、唖然としていた。
野次馬達は、青年の持つメティスが危険と判断したのか、急ぎ足で離れていく。
俺は、目の前のメティス同士のいざこざに目を奪われていて、動こうとしなかった。
「て、てめぇっ! 『ギア2』!」
「ふっ・・・」
殴りかかる学生の拳を、今度は簡単にいなし始める。
またピンを抜いた青年は、学生のスキを狙っているらしく、攻撃に転じていない。
「くそっ、『ギア2』!」
「さっきから"2"しか言ってないけど、何か理由があるのかな? もしかして、身体が耐え切れないとか?」
「っ・・・」
「図星か! なら、後手に回る必要はないな!」
ピンを持つ手を構え、投擲する青年。
学生は脊髄反射で身を屈める・・・その射線上に俺がいた。
「『アイギス』!」
「え?」
ふわりと蜜柑色の髪をなびかせて、俺の目の前に颯爽と立ったのは、先ほどまでナンパされていた女生徒だった。
彼女が両手を正面にかがすと、まるで見えない壁が出来たかのように、投擲されたピンが弾き飛ばされた。
「あ、アイギス・・・」
「超レアのメティスじゃねぇか・・・!?」
青年も学生三人も驚きを隠せない様子。
それもそのはず。彼女が使用したメティスは『アイギス』。
理論上、戦車の大砲もミサイルすらも防ぐことが出来る"絶対防御壁"。
世界で、ここまで完璧な防御系統のメティスに目覚めている者は一握りで、学生が言う通り超レアもののメティスである。
「公衆の場によるメティスの無断使用、メティス同士の戦闘、そして一般人に対する未遂被害・・・これ以上、騒ぎ大きくするのであれば、澄之江学園風紀委員"特殊班"として身柄を拘束します」
その女生徒の後ろ姿は、先ほどまでのオドオドさが微塵も残っておらず、片腕に腕章に刻まれた"風紀委員"という文字が輝いている。
俺はその女生徒を観察する。
童顔な顔に大きめの眼鏡をかけ、長髪を三つ編みにして一つに束ねている・・・一言で彼女の印象を例えるなら"可愛い"と断言できる。
・・・しかし、さらに目立つのは、中々お目にかからない巨乳。
こりゃ、ナンパされても仕方がないと言ってもいいほどの、プロポーションだった。
「澄之江学園の風紀委員・・・」
「しかも、『アイギス』・・・って、ちょっと不味くね?」
熱くなっていた青年と学生三人は、徐々に冷静を取り戻してきたようで、"風紀委員"の女生徒とは目を合わせないようにして、そそくさとその場から退散していく。
「おい、さっさと行こうぜ!」
「お、おう!」
「え、え~と・・・じゃあ俺、この後、用があるので」
女生徒は、四人の姿が見えなくなるまで俺を庇うように前に立っていたが、いなくなると「ふぅ~~」と一気に緊張を解いた。
「あ、あの、助かりました」
「え? い、いえいえ! 当然のことですから。えへへ」
やべっ・・・見た目じゃなく、全てにおいて可愛いじゃねぇか!?
こんな子、ゲームの世界でしか会った事ないぞ・・・。
「じゃあ、私は人を待っているので、これで」
「はい。ありがとうございました」
頭を下げると、照れた様子で彼女はまた「えへへ」と微笑んで、急ぎ足に駅へと走り去っていった。
さて、俺も"夕花"が待っている場所に行くか・・・。
確か、改札口の前で澄之江学園の制服を着て、待っているとか────
「あれ?」
そこに居たのは、先ほどの女生徒だった。
風紀委員の腕章は外しているが、確かにあの子だ・・・そういえば、あの子の着ている制服は澄之江のだったな。
「あ、あの~・・・」
「? どうかしましたか? もしかして、さっきの人達がまた────」
「いえ、そうじゃなくて」
「???」
よく飲み込めていない彼女は、顎に指をあてて首を傾げる。
「実は、ここで澄之江学園の人と待ち合わせしてまして・・・」
「ぇ・・・」
「そいつとは知り合いなんですけど、もしかして、あなたはその人の代わりで────」
「大和、ちゃん・・・?」
「・・・え?」
「大和ちゃん!」
どうやら、彼女こそが待ち人・・・"速瀬 夕花"だった。