カミカゼ☆エクスプローラー NextTime   作:Gショック

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一躍、有名人・・・なのか?

「ぶぅぅ~」

 

「わ、悪かったって・・・この通りだ」

 

「プイッ」

 

新幹線の席で並んで座る俺と夕花。

俺は何とか夕花の機嫌を取ろうとするが、夕花は聞く耳持たない。

五年ぶりに会った幼馴染が、自分の事を"赤の他人"として認識されていたのだから、不機嫌になる気持ちも分からなくもない。

だけど────

 

(変わり過ぎだろう・・・)

 

特に胸なんか・・・。

 

「なぁ、そろそろ許してくれよ」

 

「・・・じゃあ、イチゴパフェ奢って」

 

「ああ、分かった。奢るから」

 

コイツは昔から甘いものが───イチゴとソフトクリームが好きだ。

機嫌が悪くなった時、この二つを融合させた一品をご馳走すれば、ほぼ機嫌が良くなる・・・やっぱり夕花なんだな~。

 

「約束だよ! 絶対だよっ!」

 

「お、おい、近いって・・・!」

 

そんなに前屈み気味に近づかれると、どこを視線を送ればいいのか悩むんだよ・・・!

 

「あっ、ゴメンね・・・えへへ」

 

機嫌が逆転した夕花は、嬉しそうに暗くなった外を窓から眺める。

上ヶ瀬市までもうすぐだ。

 

「でも、大和ちゃんが澄之江に来るって聞いた時、ビックリしちゃった」

 

「元々、薦めは出ていたんだ。俺って、メティスに目覚めていないのにMWI値が高かったからな」

 

そう、俺はメティスパサーではない。

しかしメティスの強さに関する数字・・・それをMWI値と言われている・・・が高い。メティスに目覚めていないのにだ。

加えて、ここ半年でそのMWI値がまた上がり始めたため、ついに半強制的に澄之江学園へ編入する事が決まった。

ちなみに、現在の技術なら脳に特殊な測定機を取り付ける事によって、MWI値を測定することが出来る。

 

「何でだろうね? もしかして、もう既にメティスに目覚めていて、大和ちゃん本人が気づいていないだけなんじゃ?」

 

「それは家に来た人にも言われたよ。それを突き止めるために、俺は澄之江へ来ることになったんだと思うぞ」

 

「確かにそうだね・・・でも、途中で学校が変わるの、辛くない?」

 

心配そうに見つめてくる夕花とは、小学一年生から五年生までの付き合い。

つまり夕花は最後の六年生の時、違う地方で過ごした・・・だから、同じ立場に置かれた俺の事を案じているのだろう。

実は、その転校の理由はメティスに覚醒したからである。

余談だが、その覚醒時に俺は近くにいたのだが、それが『アイギス』だとは知らなかった。

 

「辛くはないが、寂しいっちゃ寂しいな」

 

あっ! 言い忘れていたが、俺は高校生1年生。

そして今は八月・・・夏休み中なのだ。

小学校からの付き合いのある奴、新しく出来た友人としばらく会えないのだから、寂しさの一つは必ずある。

 

「そう・・・だよね。寂しいよね」

 

「だけどさ、夕花がいてくれるから、寂しさは軽減されてるな」

 

「ふぇ・・・そ、そう///?」

 

「おうっ」

 

「え、えへへ~」

 

照れた様子の夕花の面影が、子供の頃の夕花と重なる。

その仕草に、俺までも照れてしまって、それから二人の間に会話がなくなった。

そしてアナウンスが目的地である上ヶ瀬市に到着した。

そこから、澄之江学園のある人工島"上ヶ瀬市澄之江都市町"に向かう専用の列車に乗った。

その間も会話はない・・・っていうか、何を話していいのか分からなかった。

 

『次は、"澄之江学園前"。"澄之江学園前"』

 

「着いたね」

 

「着いたな」

 

そう言い合うと、途端にドクンドクンッと緊張し始めた。

それを感じ取った夕花が、汗ばんだ俺の手を握る。

 

「大丈夫だよ。良い人ばっかりだし、大和ちゃんならすぐに馴染めるよ」

 

「・・・ああ、ありがと」

 

他人の不安感情や緊張に気付きやすい夕花は、こうやって手を握って、よく安心させようとする。

そんな夕花に、俺は微笑んでお礼を述べた。

 

「だけどさ、俺達って高校生だろ。こういうのは、やめようぜ」

 

「? 何が?」

 

「こう手を握ったりとかさ。ほら、俺達って別に付き合ってもいないだろ・・・あと、"大和ちゃん"ってのも」

 

「でもでも、大和ちゃんは大和ちゃんだよ」

 

「これからは"曽良"って苗字で呼んでくれ。俺も"速瀬"って呼ぶからさ」

 

「・・・」

 

「ほら、行こうぜ。速瀬」

 

俺が席を立つと、数秒遅れて夕花・・・速瀬も立って俺の背中を追う。

伏目がちに歩くので、少し危なっかしい。

少年期の俺だったら、ここで手を引いていたのだろうが、先ほど自分が言った事を考えると見て見ぬフリしか出来なかった。

微妙な距離感のまま、改札口を通り、目的地である"澄之江学園"の門をくぐった。

学園敷地内は、まるでお屋敷の庭園のように広く、自然が豊かで、整備が行き届いている・・・しかも、噴水まで設置されているとはオシャレだな。

 

「・・・え~と、俺はどこに行ったらいいんだ?」

 

「・・・」

 

「おーい」

 

「ぁっ、ごめん・・・」

 

・・・明らかに落ち込んでいやがる。

気分の浮き沈みの激しさは、昔のままか・・・。

 

「こっちの広い道に進むと校舎で、あっちの建物が男子寮と女子寮だよ」

 

男子の寮名が『凪波寮』、女子の寮名が『常若寮』という補足を入れておく。

速瀬の誘導中に二つの寮を見比べる。女子寮の方が規模がデカいな。

 

「あとは、『凪波寮』の寮父さんに尋ねれば案内してくれるから」

 

「ああ、ありがと、速瀬」

 

「う、うん、大和ちゃ────曽良、くん・・・」

 

「・・・」

 

苗字を呼ぶだけで落ち込む速瀬・・・そこまで落ち込まなくてもいいじゃないか。

お前のその態度が、俺を極度に追い詰めていることに気付かないのかっ。

 

「あ~、あれだ。さっきの言った事はさ、他人様に聞かれたら恥ずかしいってだけで」

 

「・・・」

 

夕花が顔を上げる。

その表情には、戸惑いと少しの期待が混ざっていた。

 

「まぁ・・・そんなにいつもの呼び方が良いなら・・・好きに呼べ」

 

「[パァァ!]うん! 大和ちゃん!」

 

(はぁ~・・・敵わないな)

 

「バイバ~イ!」と手を振って女子寮に走っていく夕花を見ながら、夕花に対する甘さを実感する。

 

「前を向かないと転ぶぞ~!」

 

「転ばないよ~うわぉっとっとっと~~!?」

 

何とか持ちこたえた夕花が、無事に寮に入るまで、俺はずっとその場で見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、これから生活する部屋だ」

 

"諸塚(もろつか)"先生と言う隆々とした体躯を持つ寮夫に、寮内の案内され、目の前の扉の奥こそが俺が寝床とする部屋だ。

男女関係なく二人部屋で、もちろん俺がこれから生活を共にする"ルームメイト"がいる。

 

「最初の内は戸惑うと思うが、頑張れよ」

 

バンッ、と景気の良いもみじを背中に叩き込む諸塚先生。

とりあえず、俺はノックをしてから寮室に入った────。

 

「お邪魔しま~す」

 

「お? ようやく来たな、新入り!」

 

ノリのよさそうな奴が、ベットの上でエロ雑誌を読みながら出迎えてくれた。

・・・なるほど、コイツは一目はばからず変態になれる奴なんだな。珍しい男だ。

 

「俺、"海老名 比呂"だ。比呂って呼んでくれ」

 

「曽良 大和だ。大和でよろしく」

 

差し出された手を握り、固い握手を交わす・・・すごいな。比呂のフルネームの前後一文字ずつを取ると"エロ"になる。

 

「うっし! お近づきの印として・・・俺の秘蔵コレクションNo.20を進呈しよう!」

 

言動も"エロ"に沿っている・・・比呂はそういう星の元に生まれたんだろうな。

俺も男なので、進呈されたコレクションを手に取って表紙を見る・・・『巨乳美女の○○◯』。

 

「巨乳派か?」

 

「当たり前だ! あの双丘に男のロマンが詰まっているんだ!・・・まさか貴様────!」

 

「俺も巨乳派だ」

 

比呂ほど中毒になっていないが・・・。

 

「だよな~! じゃなかったら、お前にナニが付いている事に疑いを持つところだったぜ」

 

夕花の言う通り、すぐにこの学園に馴染めそうな気がしていた。

その後、俺と比呂は消灯時間まで他愛もない話で過ごした。

比呂も俺と同じく、メティスに目覚めていないノーマルだという事。

バスケ部の期待のエースとして活躍している事。

不可思議なメティスを間近で見たいがために、澄之江学園を受験した事・・・色々、聞いた。

 

「へぇ~、MWI値がね~・・・メティスに目覚めていないのにか?」

 

「家に来た学園関係者が言うには、実はもうメティスに目覚めているけど実感がない・・・だとさ」

 

「なるほどな~・・・あっ、話は変わるけどさ。おっぱいって────」

 

「いや、変わり過ぎだよね?」

 

そんなバカみたいな話を続けながら、一緒に床につく。

 

「明日は確か、選択授業があるんだけどさ」

 

「うん」

 

「メティスパサーは実技授業と特別講習があって、俺みたいなノーマルは体力強化メニューとか美術の授業がある。大和は、どっちを受けるんだ?」

 

「さぁ? たぶん、メティスが覚醒するまで比呂と同じ授業を受けるんじゃないか?」

 

「やっぱそうか・・・まっ、何か困ったら俺でも良いから言ってくれ」

 

「おう。ありがと」

 

ベットに身を沈めていると、眠気がどんどん強くなってくる。

・・・あ~、ついでに夕花について聞いとくべきだったな。

アイツが風紀委員に所属して、世界で一握りしかいない『アイギス』使い手で、男子四人に対して堂々と出来るようになっている事に驚いたものだ。

まっ、それを明日に回すとして、さっさと寝よう────

 

「ぐがぁぁぁ・・・ぐがぁぁぁ・・・!」

 

(・・・う、うるせぇ~~~!)

 

 

 

 

 

 

 

結局、その夜は一睡も出来なかった。

 

「ぐがぁあああ・・・! ぐがぁあああ・・・!」

 

(まるで悲痛の叫びだな・・・これは果たしてイビキと分類していいのだろうか?)

 

ダルイ身体を起こして、めい一杯顔に水かけ、新調された制服に袖を通す。

澄之江の手提げ鞄に必要なものを詰め、財布の残額を確認・・・2000円。

時刻はただいま7時少し前。まだ食堂もやってないし、登校にしては早過ぎだが、少し敷地内をぐるぐる回りたいな・・・。

 

「ぐがぁあああ・・・! ふがっ・・・!」

 

この騒音から逃れるように俺は寮室を出る。

寮を出る手前、自動ドアの脇にある寮父室から諸塚先生が声をかけてきた。

 

「おはよう、曽良。早起きなんだな?」

 

「おはようございます。まぁ・・・ルームメイトが、その・・・」

 

「あ~、やっぱりか。あのイビキのせいで、何人もの生徒が部屋替えを希望してな・・・もう余っている部屋はないんでな、我慢してくれ」

 

「そ、そうですか・・・」

 

学校に馴染む前に、あのイビキに耐性を持たないと、身体が持たないって事か・・・良い奴なんだがな。

 

「ああ、そうだ。分かっていると思うが、先に職員室に顔を出しておけ。俺ももうすぐ校舎に行くが、一緒に来るか?」

 

「・・・いえ、せっかくなんで、俺はちょっと学園を見学します」

 

「あんま、そこら辺を歩き回れるのは困るんだが・・・まぁいいだろう。だが、登校時間は守れよ」

 

「分かりました」

 

寮を出るとまだ空は薄水色。

俺は、瞼を思いっきり抓って、とりあえずそこら辺をぶらついた。

まずは校舎・・・ここ近年、設備やマネーの電子化が進み、かなりハイテクになっている。

目の前にそびえる校舎も、あらゆる箇所にその時代の背景が見えており、依然通っていた学園よりも金をかけている気がした。

校舎を通り過ぎ、その裏手にある中庭へ向かう。

中庭は校舎と違い、質素なイメージを受ける。しかし草木の手入れは行き届いていて、過ごしやすい場所のようだ・・・昼食をここで取るのも一興だろう。

 

「ん?」

 

その中庭の奥・・・中庭から繋がる細い道の方から人の気配がする。

気になってその道を行くと、上品な白いテラスがそこにあった。

そして、優雅にお茶を楽しむ女子生徒も・・・。

艶やかな髪をなびかせて、茶だけでなくその場の空気すらを堪能しているその女子は、どこかのおとぎの世界の住人のようだった。

 

「・・・」

 

俺と女子と目が合う。

 

「あら? こんな朝早くに、ここを訪れる方がいるとは・・・見ない顔ですけど、もしかして"曽良 大和"さん?」

 

「そ、そうですけど・・・何でそれを?」

 

「これでも私は、"祐天寺"の者ですから・・・祐天寺という名ぐらい聞いた事あるでしょ?」

 

・・・・・・・・・

 

「いえ、まったく」

 

「[ガクッ!]・・・そ、そうなんですか。それは失礼しました」

 

俺の答えがあまりにもおかしかったのだろうか? まぁ、知らないもんは知らない。

 

「コホンッ」

 

咳払いで調子を戻す女子は、席を立ってスカートの両端をつまんで上品にお辞儀した。

 

「私は"祐天寺 佳織"、二年生よ。初めまして、曽良君」

 

「ご、ご丁寧にどうも・・・」

 

「せっかくだから、一緒にお茶でもどう?・・・ぽち」

 

「ハッ」

 

「っ?! い、いつの間に後ろに・・・?」

 

まるで忍者のように俺の背後から参上した女生徒は、女性にしては背が高く、目もキリっとしていて"格好良い"という印象を受けた。

そんな女生徒の手には、ティーセット一式を持っている。

すぐに俺を抜き去って、祐天寺先輩が座っていたテラスのテーブルに一つのカップが用意された。

 

「彼女は"景浦 智美(さとみ)"。代々、祐天寺に仕えているボディーガードの家系なの・・・ほら、彼女の淹れた紅茶は美味しいわよ」

 

「恐縮です。では失礼します」

 

静かに一礼した姿は、女王に忠誠を誓う騎士のようだった。

俺の方に歩いてくる景浦さんに、一瞬の隙もない。

 

「実を言うと、あなたが中庭に着いた時から背後にいましたよ」

 

[ビクッ]

 

丁度、景浦さんが俺の真横に立った時に、囁かれた言葉に恐怖を覚えた。

振り向いた時には、彼女はもう姿を消している・・・。

 

「ほら、こちらにどうぞ」

 

「は、はい・・・」

 

引かれた椅子に座り、湯気をたてている紅茶のカップに口をつける・・・うん、美味い。

 

「う~ん、こうやって他の人とお茶をするのは久々だわ・・・そうだ、曽良君のメティスについて教えてくれない?」

 

「いや、俺にメティスはありませんよ」

 

「ん? じゃあ、何で澄之江に編入できたの? 原則として澄之江は編入制度を設けていないはず」

 

俺は、ここまで澄之江に来た経緯を説明した。

すると、先輩は不思議そうに腕を組んだ。

 

「MWI値が高いのに、メティスに目覚めていない・・・もしくは気付いていない・・・ちなみに、MWI値はどのくらいなの?」

 

「確か、最後に測った時は180ジャストでした」

 

「"180"っ!?」

 

それを聞いた先輩は、勢いよく立ち上がる。目の前にあったカップは、ガチャガチャと揺れたが零れることなく揺れに堪えた。

 

「やっぱり、すごいんですか? この数字」

 

「すごいも何も・・・[ブルルルルッ、ブルルルルッ]」

 

先輩の制服のポケットから薄っぺらい携帯端末機から、バイブ音が聞こえてくる。

その端末の画面を見た先輩が「もうこんな時間」呟いた・・・どうやら、今のバイブ音はアラームの音だったらしい。

 

「アラームなんてかけているんですか?」

 

「ええ。私って、よくボ~っとしちゃって時間を忘れてしまうのよ。だから、こうやって逐一アラームをかけているの」

 

俺も自分の携帯で時刻を確認すると、寮を出てからもう1時間以上は経過していた。

そろそろ、職員室の方に行かないと・・・。

 

「すみません。じゃあ、俺はこれで失礼します」

 

「あっ、ちょっと待って!」

 

席を立った俺の制服の袖を掴んだ先輩。

だが、自分の咄嗟の行動を恥じて、すぐに手は離された。

 

「えと・・・何か?」

 

「出来れば、先ほどの話の続きをしたかったけど・・・放課後でもいいかしら?」

 

「すみません、実はちょっと用がありまして・・・」

 

夕花にパフェを奢んなくちゃならない・・・昨日の今日で連れていかないと、余計に拗ねてしまうからな。

 

「そう・・・じゃあ、また明日、この時間に会えないかしら?」

 

「わ、分かりました」

 

結構、強引な人だな・・・と、そう思いながらテラスを後にし中庭に出る。

 

「そこの人」

 

「ん?」

 

すると、女の子の声がしたので周囲を見回したが、誰もいない。

 

「ここだ、ここ。新喜劇か、貴様!」

 

「お、おうっ!? 下にいたのか・・・!」

 

見下ろすと、俺の腰あたりに頭があるほど"小っちゃい子"がいた。

アホ毛一本ぴょ~ん、と立っていて見るから小学生っぽいが、その少女の腕章に"風紀委員"と彫られていた。

 

「ゴホンッ・・・ここで何をしていましたか?」

 

「いや、何って・・・そこのテラスの方に」

 

「ああ、祐天寺さんね・・・あの人にあまり関わらない方がいいわ。これは"忠告"だから」

 

「は、はぁ・・・」

 

「そういえば、あなた、見ない顔ですね?」

 

「ああ、俺は─────」

 

その時、"小っちゃい子"の懐から「ピー ピー]と電子音が鳴る。

すると耳の奥に取り付けていたらしいインカムで、俺には聞こえないような声で会話をし始めた。

 

「────分かったわ。じゃあ、私はこれで」

 

「え? あ、はい・・・」

 

「さっきも言ったように、祐天寺さんに関わるのはオススメしないから」

 

そう言い残して走り去っていく"小っちゃい子"・・・見かけによらず速い。

 

「大和ちゃ~~ん!!」

 

今度は、夕花が全力のようで全力に見えない走りで、俺の方にやってくる・・・今日は千客万来だな。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・もう、どこに、居た、の? はぁ、はぁ・・・」

 

そういえば、コイツは体育全般ダメだったな・・・なんて思いながら、膝に手をつき、前屈みになっている夕花の胸元に目が奪われていた。

・・・なんと重量感のある代物だろうか。昨日、比呂と巨乳の話をしてたから、余計に意識が向いてしまう。

 

「何だ? 俺を迎えにきててくれてたのか?」

 

「そ、そうだよ~・・・ふぅ・・・初めての登校だから、一緒にいた方がいいかなって。そしたら、もう凪波寮にはもういなかったし・・・」

 

「そりゃあ、悪かった。まさか、迎えに来るとは考えてなかった」

 

俺が素直に謝ると、特に気にしてない様子で「私も前もって言ってればよかった」と、自分も反省していた。

 

「とりあえず、行こうか」

 

「うん!」

 

俺の一歩後ろをトコトコとついてくる夕花。

中庭を過ぎて裏の校門から入ることが出来るが、原則的に登校時は表の校門から校舎に入らなければいけないらしく、ぐるっと校舎を回る。

 

「あれ、速瀬さんじゃない?」

 

「速瀬さんが男を連れてる・・・?」

 

「嘘だろ、あの速瀬が・・・」

 

道行く生徒達の視線が、とても驚きの色を滲みだしていた。

後ろを振り向けば、そんな視線に気づいてない夕花は、屈託のないニコニコ顔を浮かべていた。

 

「? な~に?」

 

「・・・いや、何にも」

 

「???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが職員室だよ」

 

夕花の誘導のおかげで無事にここまで来れた・・・と言うのも、先ほどまで、殺意ある男子視線に晒され続けていたからだ。

・・・夕花ってモテるんだな。本人にその自覚があるかは怪しいが・・・。

 

「たぶん私と同じクラスだから、またあとでね」

 

「ああ、ここまであんがと」

 

「どういたしまして♪」

 

そして、夕花は自分のクラスへ向かっていった。

途中振り向いては、手を振ってくる・・・俺もそれに応えて振り返し続けた。

 

「何やってる? さっさと入って来いよ」

 

「あっ、すんません・・・」

 

職員室から顔を出した女性教師に手招きされて、俺は我に返った。

 

「私が1年B組の担任の"新(あらい) まどか"だ。まだ新人だが、これでもメティスの実技授業の主任顧問を務めているから、あんま舐めてかかると痛い目みるぞ」

 

そう笑いながら言う先生は、"新人"と見えるぐらい若かった。

スラッとしていて、今まで会ってきた男よりも男らしさが滲み出ている。

 

「うっし、なら行くか」

 

新先生は、クラスの出席簿を片手に持って、俺を連れて1年B組に向かう。

道中、先生が俺のMWI値について尋ねてきた。

 

「扇(おうぎ)さんから事情は聞いている。私も、お前自身がメティスの覚醒に気付いていないと思っている」

 

"扇 一義(かずよし)"・・・俺の家に澄之江学園の編入を薦めた四十代の男性。

"メティス研究澄之江本部"の専務兼取締役のお偉いさんらしいが、とても腰が低く柔らかい印象を受けた。

 

「それで一つ質問なんだが、お前に"夢"はあるか?」

 

「夢・・・?」

 

はて? 俺にそんな大層なものはない・・・はず。

 

「特にありませんけど」

 

「なら、測定の時に何を思い浮かべていた?」

 

「う~ん・・・測定中は暇だったから、ゲームの事とか漫画の続き何かな~?とか・・・あと、ああいう暇な時はよく昔のことを思い返したりしてましたね」

 

「もしかしたら、それかもな。お前の欲望(メティス)の源はそこにあるのかもしれない」

 

意味深な解答をこぼした先生。

俺は、その言葉の裏付けをつけるために過去を顧みてみる。

最初に思い浮かんだのは、夕花の事だった。

初めて会った日・・・初めて遊んだ事・・・夕花が俺を"守ってくれた"出来事・・・。

 

「さぁ、今日からお前の教室だ。呼んだら入って来い」

 

そう言って先生は、先にB組のクラスに入っていく。

先ほどまで騒いでいた生徒達の声が静まった。

事務連絡をほどほどに済ませた先生は、編入生の話を持ち出した。すると、クラスの連中がまた騒ぎ出す・・・女子だけっていうのが、ちょっと気になるが。

 

「よーし、入って来い」

 

「はい」

 

俺が教室に入ると、クラスの連中は舐めまわすように俺を観察してくる。

・・・動物になった気分だ。

特に、男子からの視線が痛々しい。その中に比呂もいた。

 

[ニコニコ]

 

夕花と目が合うと、屈託の無い笑顔を俺に向けてくる。

 

「曽良、自己紹介を」

 

「曽良 大和です。"メティスパサー推薦"を利用して編入してきましたが、まだメティスに目覚めていません。これからよろしくお願いします」

 

「一応、しばらくの間は速瀬に曽良の事を任せてあるが、みんなも支えてやってくれ。以上、SHRを終わりにする。号令を」

 

「起立、礼」

 

真面目そうな女生徒が号令をかけた。

 

「大和ちゃん。大和ちゃんの席はこっちだよ」

 

[ギロッ]

 

「あ、ああ」

 

やっぱり「大和ちゃん」は止めた方が良かったか・・・? 男子の視線に殺意が滲み出てやがる。

 

「こうやって隣同士に座るの久しぶりだね」

 

「あ~、確かにそうだな」

 

「えへへ~」

 

さっきから、夕花はにやけっぱなしだ。

すると、俺の前に座る女生徒が振り向いて話しかけてきた。

 

「曽良君、だっけ? 君がかの有名な「大和ちゃん」なんだね」

 

何かスポーツでもやっているのか、女生徒の骨格はしっかりしていてスタイルも無駄なところがない。

背も女子の中では高い気がする。

 

「え、え~と・・・」

 

「大和ちゃん、彼女は"雪路(ゆきじ) 美香"さん。陸上部のエースなんだよ」

 

「エースっていってもウチの部は、弱小だけどね・・・あっ、私の事は美香で読んで。苗字で呼ばれるの嫌いなの」

 

「じゃあ俺も大和でいいよ・・・それで、"かの有名な「大和ちゃん」"って?」

 

「ああ、それはね~────」

 

「わぁー! わぁー! ストーップ ストーップ!」

 

手をぶんぶん振って話の腰を折る夕花。

顔はリンゴみたいに真っ赤になって、今にでも頭から湯気が出そうだ。

 

「ごっめ~ん、やっぱ言うのやめる」

 

「大丈夫さ。俺にはもう一人、情報を提供してくれるやつがいる」

 

二人が"?"を浮かべ、俺はルームメイトである比呂の元へ。

 

「比呂、ちょっといいか?」

 

「・・・」

 

「・・・比呂?」

 

背中に声をかけても比呂は、振り返るどころか返事すらない。

何事かと思い、さらに近づこうと────

 

「寄るな」

 

「へ?」

 

「寄・る・な」

[ギロッ]

 

「ぃっ!?」

 

チラッと合う比呂の眼は、ひどく血走っていて、隙を見せたらかみ殺されるという錯覚が襲った。

俺は、本能に突き動かされてすぐさま自席へと避難した。

 

「ど、どうしたの、大和ちゃん?」

 

「顔真っ青だけど」

 

「い、いいいや、何でもないヨ?」

 

この瞬間は、ただの序章に過ぎない気がした。

・・・ただ、これだけは言える。

 

(ある意味、この学園内で有名人になったようだ・・・不安だ)

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