レベル3 水
ATK:0/DEF:1500
水族/効果
①このカードが墓地に送られた場合に発動できる。「水霊指定都市 スチュースライム」以外の「水霊指定都市」と書かれたカード1枚を手札に加える。
②水族リンクモンスターが自分フィールドに存在する場合、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。デッキから攻撃力0の水属性モンスター1体を、自分フィールドのリンクモンスターのリンクマーカーの先に特殊召喚する。
悠久の過去、高度に発達した古代文明が魔術、呪術の手段として用いた儀式があった。異界の怪異や英雄を象った文字盤を操ることで編み上げられる、その儀式に目を付けたとある企業の若き長が、娯楽として蘇らせたゲームに端を発する一大ムーヴメント。
人々に『デュエルモンスターズ』と呼ばれ愛されるそのカードゲームは今や、ゲームという概念の垣根を超え、社会の構築要素のひとつと化していた。
「早く! もう始まってるわ!」
「焦らなくても、今からならまだ前の方に並べるよ!」
「甘く見ないで! 『スプラッシュクイーン』のゲリラライブは、一分一秒ですぐに満席になるんだから! 近くにいられた私たちは幸運なのよ!」
――この街、ジョイフルタウンに集う若者たちも、またデュエルモンスターズに青春を――果ては人生までをも捧げる覚悟でいる、『デュエリスト』たちであった。
そんなジョイフルタウンのビーチエリアに面したアーケードのカフェ、その車道に面したテラス席で、鮮やかなエメラルド色のドリンクに差されたストローを咥えながら、次々にビーチへと駆けていく少年少女たちをぼんやりと眺める少女は、ストローから唇を離しながら、向かいの席に腰かけていた青年へと声をかけた。
「あんたはいいの? そろそろライブが始まるらしいわよ?」
「……おいおい、俺が商売敵のDJライブなんざに現を抜かすような輩だと思ってんのかい?」
「あら、己を知り敵を知れば百戦危うからず、でしょう?」
「俺は手前ェのことなんざァ厭って程知ってらァ!」
「フッ、情熱的な言葉ね!」
「そんなことより、晴れ舞台の主役が遅刻ってなァ、頂けねェもんじゃないか? なぁ――。」
ビキニタイプの水着の上からショートパーカーを羽織り、洒落たサングラスで目線を隠す少女に、青年はその名を呼んで見せる。
「――『スプラッシュクイーン』様!」
「言われなくとも、ブルーマリンエリアの陽射しに負けない熱狂を、砂浜に昇らせてやるわよ!」
『新時代のデュエリストたちの殿堂』。ジョイフルタウンがそう呼ばれるのは、ひとえにジョイフルタウンのあまりにも特異すぎる特色に起因している。
「皆々様におかれましては、お控えなすってェ!」
キーワードはいくらでもあるだろう。『八大企業』。『カンパニーズエリア』。『ソリッドビジョン・ファウンデーション・システム』。『ジョイフルタウン・デュエルアカデミア』。『ポーター』。『デュエル重犯罪』。だが、それらはあくまでも、ジョイフルタウンを構成するほんの一部分に過ぎないのだ。
「ジョイフルタウンに集い集う皆々様ならばご存知のお方も多いと承知の上に失礼重ねて今宵の皆々様のご案内を務めさせていただきやす、手前生国発します処ジョイフルタウンは
だが、一部分をひとつひとつ紐解くことで、見えてくる世界がある。その過程を、どうか楽しんでいただきたい。
「さてさて、まず皆々様に見て頂くは世にも奇妙な九つの異世界! 『カンパニーズエリア』についてといきやしょう!」
銘真亭遊楽がいざなう、摩訶不思議なデュエリストたちの楽園、ジョイフルタウンへようこそ。
――『ブルーマリンエリア』と呼ばれているジョイフルタウンの海浜地区は、常にハワイのような常夏の気候を有している。これはジョイフルタウンの地下に満遍なく敷設されているとある技術による産物なのだが、それは今は置いておくことにしよう。
ジョイフルタウンのトレンドの発信地として名を馳せるその海辺の町の波打ち際で、ひとりの少女が額に滲んだ汗をタオルで拭いながら、遥か彼方の水平線を、細めた目で望んでいた。
「いょ。」
そんな少女の元へ、法被と詰襟の中間点のような服装を身に纏った青年が歩み寄る。即ち、遊楽であった。
「俺はシティポップだのエレクトロだのってェのは何分わからんが、あれだけの観客を魅了して湧き上がらせる手前ェの技量……あれもまた、『祭』だと思うぜ!」
「あんたの祭判定ってほんと広範囲よね。」
「祭ってなァそういうもんだからな! みんなが集って、同じ目的でばか騒ぎできりゃそれが祭よォ!」
「ばかはあんたじゃない。……ま、ライブもミュージックフェスの縮小版みたいなもんだし、祭と言えば祭、か。」
「おぅともよ!」
「でもなんか癪ね。あんたの言う事素直に受け入れるのは。」
遠くで同一のユニフォームを纏った十数名のスタッフたちが、組み立て式のライブステージや音響機材を撤収させていく光景を眺めながら、青髪の少女はふぅと溜息を吐く。
「……これだけやっても、あたしのポーターとしての活動は、他のブルーマリンポーターと比べても……とてもではないでしょうけど、遠く及ばないと思う。」
「ソイツを俺に言って何がどう変わるんで?」
「うるさいわね、同業者の愚痴くらい聞いてよ!」
「……燦燦お天道様と青い海に免じて聞いてやらァ。」
「遊楽、あんたはどうなのよ? ポーターになろうと志したキッカケ、ちゃんと覚えてる?」
「ッたりめェだろが! 何だよ、迷い風にでも吹かれたか?」
「……あたしはね、元々デュエリストになる気は無かったの。そりゃ、ジョイフルタウンに生まれた子供だもの。デュエル自体は嫌いじゃなかったわ。小さい頃は、
「お前さんらしいじゃねェか。」
「ありがとう。――あの日、あたしは伝説的なDJとして世界中を飛び回りながら、超一流のデュエリストとして大会でも盾やトロフィーを乱獲していた、とある女性と偶然にも、お話しする機会があったの。」
サングラスの奥に揺れる瞳で、寄せては返す波間を弄ぶ足先をじっと見つめて、少女は迸る飛沫が顔にかかるのも構わず話し続ける。
「当時、あたしには夢とか――なりたい目標とかが無くて。彼女に聞いたのよ。『子供の頃の将来の夢はなんでしたか?』って。」
そこで少女はフッと薄く笑って、遊楽の方を振り向いた。
「そしたら彼女、すっごく爽やかな笑顔で言ったのよ! ――『子供の頃から今までずっと、私は「私」になりたかったわ!』って!」
「格好良い御仁じゃねェか!」
「でしょ!? あたし……あたし、あの人みたいにカッコよくはなれないから……だからせめて、あの人を目標にしようと思ったの。あの人みたいなデュエリストになろうって!」
「それでDJデュエリストの道に進んだってェ訳かぃ?」
「そ。……結局、この道はあたしが思った以上にしんどかったけどね。今でこそあたしは『スプラッシュクイーン』だなんて持て囃されてるけど、ここまで来るのにどれだけ……どれだけ険しい道を歩いてきたか。なんだか最近、この道が正しかったのか、なんて考えちゃうときがあるのよ。」
少女は白砂の上にどすんと勢いよく腰をおろすと、その優れたプロポーションの肢体を海に曝しながら、眩しそうに目を細め、煌めく太陽を見上げる。
「無我夢中でここまで来たわ! これまでの道のりに後悔は無いけど……疑問に思っちゃうの。私は『私』になれたかなって。結局、彼女の真似事だけで終わってないかなって。」
「……。」
「遊楽?」
少女がふと、何も答えなくなった遊楽の方を向くと、遊楽は何やら携帯端末を操作していた。そんな遊楽にムッとした表情を見せ、少女は糾弾する。
「ちょっと! そういう態度、友達なくすよ!」
だが次の瞬間、遊楽は満面の笑みで自身の携帯端末の画面を少女に開示して見せた。
「え……?」
「ポーターデュエルだ、
それは、遊楽のSNSアカウント。最新の投稿には、『これよりマリンブルーエリア、エメラルドビーチにて、マリンブルーエリアのポーター、水奈川アリスとデュエルを行う』という主旨の文言が、仁義口調で記載されていた。
早速、付近にいた少女――水奈川アリスのファンたちが、そのデュエルを一目見ようと集い始め、マリンブルーエリアに店舗を構えるフードショップの出店や、フードワゴンなどのいわゆる的屋と呼ばれるような移動商店も続々と集まり始めていた。
「アリス、お前さんがデュエルの道に進んできた事を疑問に思うのなら、その答えはデュエルの中に求めるしかない。そうだろォ? 人生という名の祭で落とした大切なモノは、祭が終わるまでに見つけなくちゃ取り返しが付かなくなるってモンだぜェ!!」
「――……あんたってヤツはほんとに……ばかなんだから! いいわ! このスプラッシュクイーンことブルーマリンポーター・水奈川アリス、龍安ポーター・三代目銘真亭遊楽の挑戦を受けて立ちます!」
直後、二人の足元にそれぞれひとつずつ、円盤状の白く金属質な物体がどこからともなく現れ、二人がそれに飛び乗ったことを確認するように黄色のネオンが円上に奔ると、そのまま円盤は二人の距離を引き離し、中空へと浮かび上がって静止する。
「ソリッドビジョン・ファウンデーション・システム、ポーターデュエルモードで起動! 展開座標指定!」
アリスが呪文のように唱えたその言葉と共に投げられた端末を起点に、ハニカム模様のホログラムが二人の間の距離が生み出す空間上に、まるで海の波のように押し寄せ、そして端末へと引き返していく。
「ファーストジャッジ、セット!」
そして、地面に投げ捨てられた端末の画面から、これもまたホログラムのコインが打ち上げられ、くるくると舞い上がって、また地面へと落ちた時、コインの表面にはアリスの横顔を模したエンブレムが輝いていた。
「……先攻は貰ったわ、あんたのデッキは先攻展開が怖いもの!」
「お褒めに預かり、恐悦至極。」
そして両者の左腕にデュエルディスクと呼ばれるデュエリストの必需品が出現すると、両者は猛獣の如き眼光、そして笑顔を互いに剥き出し、寸分違わぬタイミングで開戦の合図を吼える。
「「――デュエル!!」」