THE HERO   作:ワンコそば

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気分転換で書きました。


一話

 

夢を見た。地獄の業火のような街の中で、ただ1人男に助けられる子供を。

 

夢を見た。無数の屍の上で、ただ1人立つ男の姿を。

 

夢を見た。絞首台に立つ男を嘲笑う民衆、罵倒する民衆その言葉を当然のことだと受け入れる男の最後を。

 

あぁ、あんまりではないか。ただ、男は多くの人間を救いたかっただけなのに、こんな結末は悲劇だ。

正義の体現者として人生を費やした男は確かに狂っているのかもしれない。けれど誰かの為になりたいという思いが間違いのはずがない。

 

 

「……またか、」

 

たまに、夢を見る。10年前のあの日、名前も顔も知らない人物に救われた日から夢を見る。ずっと、私は探しているのだ。

 

私に命をくれた人物を。

 

どうやって私を助けてくれたのか方法は分からない。けれど、間違いなくその人物は私を救ってくれたのだ。今もこうして私の心臓が動いているのは間違いなくその人物のおかげだ。

その人物にただ一言「ありがとう」と伝えたい、ただそれだけなのに、私の思いを10年届けられないでいる。

 

 

「……いつか、伝えられるといいな」

 

◆◇◆

 

「司令!」

「……何があった?」

「また、無銘です!今月これで4件目です!」

 

司令と言われた中年の女性は少しため息を吐き何か考えるようなそぶりをする。

 

「……無銘が活動し始めてかれこれ十年か」

 

ここはDirectAttack通称DAと呼ばれる組織の本部である。この組織の目的は犯罪者や犯罪を行おうとする人物を秘密裏に抹殺することで国の治安の維持を目的とし、また政府と協力関係にあり、政府の指揮下には置かれず強い特権を持った組織でもある。しかし、そんな組織の中で頭を悩ませる事案が発生していた。

 

「未だに手がかりひとつ掴めないか……。」

 

今現在この組織において頭を悩ませる種となっているのが、無銘と呼ばれる人物だ。無銘とはDAがつけたコードネームであり、10年の間活動しているにも関わらず、人物の正体につながる手がかりをほとんど見つけられなかったためについたコードネームが無銘である。

 

無銘について現時点で分かっている情報がフルフェイスヘルメットをかぶる男性であり、身長は180後半ほど、そして戦闘の際には多彩な武器を使い分け、犯罪者を捕縛あるいは抹殺することに尽力をしているという情報のみである。

 

「……DAの力をもってしてもこの程度の情報しか集まらないとはな」

 

無銘の資料に目を落としながら愚痴をこぼすようにぼやく司令と呼ばれる女性。

 

「無銘とアプローチを何とかして取りたいが、如何せん奴が逃げに徹すれば捕縛は困難を極める」

 

DAが無銘とアプローチを取りたい理由は、協力者としてDAの戦力に加わってほしいという期待と無銘がテロリスト側についた場合、間違いなく国の治安維持に大きな影響を与えかねないという危険性からDAは彼の捕縛をこころみてはいるが、結果ことごとく失敗に終わっている。

 

「とりあえず、リコリス達には今後も無銘に会敵した場合、捕縛に尽力してもらうほかないか」

 

◆◇◆

 

昔話をしよう

10年前それはこの身が突如としてこの世界に放り出された時期だ。

最初は前情報がなく混乱したが、すぐにここは日本だと理解した。自身の魂に刻まれ、摩耗してもなお忘れなかった懐かしい記憶の断片達が次々と記憶を蘇らせる。

周りには桜の花びらがその一瞬の儚さを表すようにひらひらと地面に舞い落ちる。少し、見惚れて感傷に浸っていたが、自身の異変にすぐに気づく。

 

 

「───受肉している……?」

 

 

本来英霊とは体の大部分をエーテルで構成されている為、生身の肉体を持つこと自体あり得ない。しかし、現状この身は間違いなくエーテル体ではなく人間としての肉体がこの場にある。

それだけではない、抑止力から派遣されたこの身は霊長の守護者としてすぐに人類存続にかかわる脅威を排除する為に命令が下されるはずだがそれがない。どうやら聖杯戦争で他のサーヴァントと聖杯を獲るために武を競い殺し合うために呼ばれたわけでもなさそうだ。

肉体を持って召喚された理由。前例がない事態で疑問が尽きないが仕方ない。

とにかく動かねば、情報が足りない。

何を成すべきか考える必要がある。

そして大地を踏みしめた瞬間、さらに異変を感じた。

 

「───マナが一切感じられない?」

 

マナは自然界に満ちている星の息吹たる魔力だが、それを一切感じることができない。マナが枯渇しているのか?否───周りを見る限りこの星が滅亡に向かっているというワケではない。こうなると、世界そのものに魔術基盤が刻まれてない可能性が浮上する。魔術基盤は既に世界に刻まれたルールであり、それがないとなると魔術師はこぞって魔術の発動ができなくなる。自身も例外ではない。正確に言えば無理やり使おうとすれば数回程度の投影が可能だが、その後は使えなくなるのは目に見えている。守護者としては死活問題だが、世界規模の問題になると流石に対応のしようがない。そもそも、ここは本当に自身の知っている世界なのかという疑問がでる。仮に神秘の一切が確認できない場合、それはもはや異世界と言っても過言ではないのだろうか。少なからず私の世界では減少傾向にあったとはいえ神秘はそう珍しいものではなかった。だが、それの一切を確認できないとなるとバカげた話だがないとは言い切れない。魔術が否定されたパラレルワールドに来てしまったということになる。

 

だが、どんな状況下であれ結局のところこの身が守護者であることには変わりはない。英霊としてのスペックが落ちていようと魔術の行使が制限されてようとやることは変わらない。

 

「……この身は所詮薄汚い掃除屋でしかない」

諦観を感じる言葉と共に動き出す。この世界の癌を取り除くために────

 

 

 

 

「───10年か、」

あれから10年。まさか10年もの間、この世界に居座り続けるとは思ってもみなかった。抑止力から私への介入はない。未だに何が目的で、この世界に召喚されたのか分からず、魔術はただ1人の少女助けるためにとっくに失ってしまった。だが、ないものねだりしてもしかたない。今は────仕事に集中しなければならない。

 

「…私としたことが職務中に思索に耽すぎだな。この世界に慣れてだいぶ気が緩んでいるようだな」

 

その言葉と同時にエミヤすぐに切り替える。その姿は歴戦の戦士を彷彿させるような気迫を纏っている。

 

「───さて、仕事を終わらせよう」

ワルサーWA2000を構え標的の頭にスコープを合わせる。───そして、引き金を引いた。

 

 

◆◇◆

 

東京にあるとある小さな和風喫茶店リコリコに仕事を終えた1人の男────エミヤが訪れていた。エミヤにとってこの店は初めてであり内心柄にもなく楽しみにしていた。

 

ドアノブに手をかけ捻り扉を開ける。そこに広がっていたのは外観通り和風な内装がほんの少しコーヒーの香ばしい匂いと一緒に広がっていた。席を探して座ろうとすると、視線に気づく。おそらく店主であろう黒人男性が唖然とした顔でこちらを見ている。記憶を遡り、彼に似たような人物をピックアップし発見した。

 

あぁ、ここは彼の店か────

随分丸くなったようにみえる。こんなところで古い知人に会うとはな。

 

「いらっしゃいませ〜!」

私が少し昔を懐かしんでいると、元気な少女の声が聞こえた。どたどたと慌しい足音でこちらに向かってくる。

 

「お客さん、はじめましてだよね?私はここの看板娘の千束で〜す!」

「はじめまして。君は元気がいいな」

「元気が私の取り柄だから!」

「そうか。それはいいことだ」

 

すると、もう1人の少女がキッチンから顔を出し少しムッとした表情でこちらを見つめる。厳密に言えば私と楽しそうに喋る少女の方にだが。

 

「千束!オーダー取ってください!」

 

すると黒髪の少女はずんずんと千束と呼ばれた少女の方に歩いていき叱りつける。

 

「……あっ、ごめんたきな!お客さんもごめん!」

 

少女があまりにも申し訳なさそうにするから、思わず少し笑ってしまう。

 

「いや、私は構わないさ」

「お客さん、注文は何にする?」

 

メニュー表示を見て、数秒の間迷った末に注文する。

「そうだな、ブレンドコーヒーとおはぎセットをそれぞれ一つずつ」

「了解しました!」

 

すると、オーダーを取り終えた少女は慌ただしくキッチンに向かう。

 

「お待たせしました!」

 

数分後、少女が戻ってきてコーヒーとおはぎを持ってきた。とてもいい香りが漂ってくる。

 

「では、頂こう」

 

味に期待をしコーヒーを一口飲んだ。口の中にコーヒー特有の苦味が広がる。香りといい味といい中々にお目にかかれないコーヒーに内心少し感動をする。

 

「どうどう、先生のコーヒー美味しいでしょ?」

 

少女がこちらを見つめ若干ソワソワしながらもコーヒーの美味しさを尋ねてくる。

 

「あぁ、美味いな」

 

パァーと途端に少女が笑顔見せてくる。

「やぁ〜、お客さんも気に入ってくれて嬉しいよ」

 

本当に嬉しそうに少女が言うものだから自然と顔の筋肉が緩んでしまう。

 

「ねぇねぇ、お客さんって海外の人?」

 

すると、私の容姿が日本人らしくないからかそんなことを聞いてくる。

 

「一応これでも日本人でね、海外には度々旅行には行っているが」

「えっ、日本人なの!?」

 

目の前の少女と同じように先程たきなと呼ばれた少女もびっくりしたようにこちらを見つめる。そこまで日本人らしくないだろうかと内心では少し落ち込みはしたが自身の容姿を改めて思い出すと少女達の反応にも納得してしまう。

それから、目の前の少女と雑談を楽しみながらコーヒーやおはぎを味わう。

 

「お客さんさ、私とどこかで会ったことある?」

 

唐突に少女がナンパの常套句みたいなことを聞いてきたために内心は驚きを隠せなかった。

 

「さて、どうだろうか。どこかでもしかしたらすれ違ったかもしれないな」

「う〜ん」と唸ってどこか納得いかなさそうな顔をする。

 

「ナンパみたいになっちゃったね」

 

少し照れながらそんなことを言う。

 

「君みたいな美少女に言い寄られるなら私もまだまだ捨てたものじゃないな」

「お客さん、女たらしってよく言われない?」

 

今度はジト目でこちらを見つめてくる少女に私は苦笑をもらす。

 

「久しぶりだなエミヤ」

すると、カチャカチャと歩行用の杖をつきながらこちらに歩いてくる人物が話をかけてくる。10年ほど前に知り合ったこの喫茶店の店主ミカだ。

 

「あぁ、君も健勝で何よりだよ」

「えっ、もしかして先生と知り合いだったの?」

 

少し驚いたように私たちの関係を尋ねてくる。

 

「そうだな、10年ほど前に彼とは知り合ってね」

「へぇ〜、てかエミヤさんて言うんだ?ねぇねぇ、下の名前も教えて?」

 

どうやら私の名前に興味を示したらしい。随分と人懐っこい少女だ。

 

「シロウだ。エミヤシロウ、これが私の名前だ」

 

すると、少女がブツブツと何度も私の名前を繰り返し言う。

「うん、覚えた。エミヤシロウ。これからシロウさんって呼んでいい?」

「君の好きに呼びたまえ」

「やった!」

 

ただ、名前呼びを許可しただけでここまで喜ばれるとなんだか変な気分だ。しかし、先程から少女から漂う懐かしい気配の正体は一体────

 

「あっ、私も改めて名乗るね。錦木千束!この店で看板娘してま〜す!」

 

思わず目を見開いてしまった。

「ミカ、この子がそうか?」

「あぁ、そうだ」

「?」

 

あぁ、あの時の────随分と大きくなったものだ。人の成長を実感するとはこう言うものなのだろうか。中々に感慨深いものだな。

「君は今楽しいか?」

「うん!楽しい!」

そうか、その言葉を聞いてつい言葉がこぼれてしまった。

 

「────あぁ、安心した」

「……え?」

 

千束はこの言葉を聞いてこちらを訝しむように見る。

 

「ねぇ、シロウさんってもしかしなくても私のこと知ってるでしょ?」

「さて、どうだろうな」

 

誤魔化す私に納得いかないのか追求をやめる気配はない。

 

「えぇー、教えてよ」

 

すると、千束は駄々をこねるように私の右腕を掴みながら逃がさないといった表情でこちらを見つめる。

何か思い詰めるたように言葉を吐く───

 

「ねぇ、シロウさんは10年前に私を「さて、私はそろそろ帰らさせてもらおう」えっ、ちよっ、待って!」

 

私はわざとらしく話を区切って掴まれてる腕をスキを見て外す。

 

「ねぇ、お願い待って!」

 

あまりにも、必死そうな顔で言うからつい「また、この店に寄らせてもらうよ」なんて言ってしまった。

すると、千束は

「分かった」

少し不満げにそんな言葉を言う。

 

だから私は手を頭に乗せ撫でるように、

「必ず近いうちもう一度来ると約束しよう」

千束は納得したのか今度は笑顔で頷いた。

 

「また、お店で待ってますから!待ってます!」

「あぁ」と短い返事だけをし、お金を払いこの店を出て行く。

入れ替わりで入ってきたメガネをかけた女性が後ろで千束と何か騒いでいたようだが気にしないことにした。

 

 




※ ちなみに、ワルサーWA2000は衛宮切嗣が愛用してた銃です。

※魔術基盤がないと勝手に魔術が使えないってことにしちゃったんですけど実際どうなんでしょうね?無理やり過ぎましたかね。


※コンセプトとしては衛宮切嗣のように戦うエミヤを目指しています。
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