もう少し早く投稿したかったのですが、国家試験が近づいてきているために執筆する時間が取れず遅くなりました。
申し訳ございません。
夫婦剣から伝って流れ出る赤い血がポタポタ滴り落ち白く染まった地面を赤で塗りつぶす。
「……せん、ぱい?」
────あぁ、やめてくれ。オレをそんな風に呼ばないでくれ。
朦朧した意識でこちらに向かって手を伸ばす■。顔には今にも消えそうな熱を宿した手が触れる。
「会えて、よかった……」
────頼むから、やめてくれ
「……ごめんなさい、めいわく、かけて」
────違う。謝るのはオレの方なのに。
「……せんぱい…泣かないで、」
────辛いのは、お前の方なのに
「……最後に…抱きしめてください…」
ただ、強く強く抱き締める。■の全身から徐々に力が抜けていくのを感じる。
『いつか冬が過ぎて新しい春になったら…二人で…桜を見に行こう…』
今は遠い約束────
────あぁ、オレは本当は何を……
◆◇◆
「クソっ、バケモンが!!」
ここはある廃ビルの一室。既に壁には銃痕の跡が無数に広がっている。そのせいか硝煙の匂いがフロア全体に漂っていた。
回りにはすでに事切れた複数人の男達。どの男にも共通して頭に大きな損傷が見られる。
一人だけ生き残った男は機関銃を使い何百発もの弾丸を乱射する。だが、目の前の男にはどういったからくりか、まるで当たる気配はない。
「……っ、ふざけんな!」
男は吠える。しかし、それは恐怖を押し殺す虚勢でしかない。着々と迫る死の気配の前に男は虚勢を張ることしかできない。
目の前の人物がいつの間にか銃を構えている。瞬間、男は己を死を悟る。8人いた仲間全員が、頭を正確に狙われて倒れ伏した姿を見ていた。ただの一発も外さず。
一撃必中。死。
頭にそんな言葉がよぎる。男の恐怖はここにきて最大限に増幅した。生存本能に従いその場から目の前の人物に背中を向け全力で逃走しようとしたが、暗転────銃声がなった瞬間には男も他の8人同様、物言わぬ骸とかした。
ヘルメットを被る人物────無銘は仕事を終えたからかその場を立ち去ろうとしたが、複数の足音がこちらに向かってくるのに気づく。
「こちらアルファワン。すでに対象は沈黙。現場には件の人物がいます。これより、捕縛を開始します」
こちらに銃を構えながら近づく少女達。無銘は彼女達を知っている。度々、現場で鉢合わせる学制服を着た少女の集団。だが、彼女達はただの少女ではない。日本の治安を守るために日々裏で暗躍するエージェント────リコリスだ。
『いや、捕縛は中止だ。無銘とは、話し合いをしたい。敵対行動がないかぎり攻撃はするな。こちらに同行してもらえるか、確認を取れ』
「了解です」
僅かばりの警戒を持って、無銘に接近する赤服のリコリス────フキ。無銘の警戒を解くためか、銃を地面に手放し接近する。一方、無銘側も相手の意図を察してか攻撃する素振りを見せない。
「……あなたと我々の上司が会って話し合いがしたいとのことです」
緊張が高まる。得体の知れない人物を相手にするフキは、内心生きた心地はしていない。他のリコリス達もすぐに自分達のリーダーを守れるように細心の注意を払いながら無銘の一挙一動を見逃さない。
無銘が数十秒ほど考える素振りを見せてからそして一度頷いて指で丸を作る。Okサインだ。
瞬間、フキの内心に安堵が広がる。他のリコリスも警戒を解く。
「では、我々の車でお送りしますのでご同行お願いします」
その言葉に、一度頷いてからリコリス達について行く。
ビルから出てすぐ近くの駐車場に、車が数台止まっている。リコリス達に案内された無銘は黒塗りのワゴンに赤服のリコリスと乗るが、他のリコリス達は向かい側にある護送車に乗り込む。運転席には黒服の男が一名。その男が無銘とフキが乗ったことを確認したからか、エンジンをかけ出発をする。
そこから、約1時間程度車に揺られ乗りついた先は、ホテルだ。ホテルの周りにはリコリスが複数人確認できる。無銘の前に先導するように黒服の男が立ち、ホテルのロビーまで案内する。無銘の監視のためかフキも後ろにつき着いていく。
ようやくロビーに到着したところで見えたのは椅子に一人座っている女性────楠木だ。
「はじめまして、無銘」
右手を差し出し、握手の構えをとる楠木。一方で無銘もその握手に応じない理由はないため、楠木の手をとる。
「楽にしてくれ」
そういうと、楠木は再度椅子に座り直し、無銘も楠木に倣い座る。
「さて、無銘。いい加減そのヘルメットを取ったらどうだ?」
「……そうだな」
楠木は無銘が反応すると思わなかったのか、僅かに目を見開く。ヘルメットに手をかけ素顔を露わにする。そこには、正体を露わにした無銘────改めエミヤがいた。
「……さて、はじめましてと言うべきかな。私はエミヤシロウ。君らに長年付き纏われてた者だ」
「DAの司令官を任されている、楠木だ」
多少、皮肉混じりに自己紹介をするエミヤだが楠木はまるで気にしないといった表情で自身の自己紹介をする。
「それで、君達が私と話し合いをしたいと言って案内されたのが丸々一つ貸し切られたホテルとはね。てっきりDAの本部に招かれると思ってただけにいささかコチラも驚いたよ。」
こうは言うが、自分達の本部にわざわざ得体の知れない人物を招くほど愚かではないとエミヤ自身分かっている。
「その口ぶりからするとDAについて多少なりとも知っているようだな」
「さて、どうかな?」
ニヒルな口調でわざとらしくおどけてはいるが、冷静に話す楠木に内心やりにくさを感じていた。
「しかし、我々も驚いた。まさか、あの無銘が話し合いに応じるとは思わなかったからな」
「何、私も正体を隠しながら仕事を行うのは厳しく感じていたところだからな。なにしろ10年前と今じゃ技術水準が明らかに差がある。僅かな痕跡で私の正体を暴くこともできるだろう。それにDAに狙われながら活動するのもいい加減疲れてきていたからな」
「ほぅ、罠だとは思わなかったのか?」
「それなら、廃ビルで容赦なく君達は私を襲ってきだろ?」
ここでようやくエミヤから切り出す。
「それで、私との話し合いを設けた本題はなにかね?」
「では、単刀直入に言おう。DAの協力者としてお前には働いてもらう」
「なるほど。それでこの話し合いか」
しかし、働いてほしいではなく、働いてもらうか。逃す気はないようだな。
「分かった。いいだろう」
「随分あっさり承諾するのだな」
「断ったら断ったで後が怖いからな」
そう言うとと物陰に隠れるリコリスにチラッと視線を向ける。
「さすがは、無銘。気づいているか」
協力を脅しという形で迫る楠木に内心感心してしまう。
「それで、私は基本的に君達から出される任務をこなすという形でいいのかね?」
「あぁ、そういことになる。相応の金額は支払おう。必要な武器もこちらで用意しよう。その都度申請してくれ」
「了解した。なら、話はこれで終わりか?だったら帰らせてもらうが」
「いや、もう一つ。こちらが紹介する支部の所属になってほしい。ある程度顔を出す程度で構わない」
「支部……?」
私にバレても構わない支部か。恐らく監視の役割も含められているのだろう。
「あぁ、今から住所を教える。そこに、明日顔を出してくれ」
◆◇◆
ここは喫茶リコリコ。表向きは口コミで評価の高い和風喫茶店となっているが、その実はDAの支部の一つである。そんな喫茶店内は、開店前で多少慌ただしい雰囲気である。しかし、そこに一人の少女の元気な声が響く。
「千束が来ました〜」
「今日もうるさいのが来たわね」
「たきな、おはよう!」
「おはようございます、千束」
「ねぇ、先生今日新しい子来るんでしょ?どんな子なんだろ」
つい先日、DAの司令官である楠木から人員を派遣するという連絡がリコリコに通達された。しかし、詳細は未だ喫茶店の店主であるミカにしか分からず、その他の者には伝えられてない。多かれ少なかれ個人差はあれど新しい人員が派遣されると聞いてリコリコの従業員は浮き足立っていた。
「たきな、よかったな。クビ仲間が増えるぞ?」
「クルミ、私はクビになってません!」
「悪かったて。そう睨むなよ」
たきなの地雷を見事に踏み抜いたクルミは鋭い目つきで睨まれる。
「先生、どんな子なの?」
「来てからのお楽しみだ」
「えぇー教えてよ!」
ミカにせがむが千束にニヤニヤした顔を向けながら教えようとはしない。
「ここに派遣されたということはやはり、殴られたんでしょうか?」
「それはお前だけだ」
たきなとクルミが殴られたか殴られてないかを議論していると、カランカランとベルの音が響く。
その瞬間ものすごい勢いで、千束は顔をドアの方に顔を向けた。
「あっ来た!はじめまし……え?」
しかし、顔を振り向けた先には褐色の大男が立っていた。
「あっ!シロウさん、来てくれたんだ。でもごめんなさいまだ、開店前で……」
「ん?ミカ、伝えてないのか?」
「あぁ、千束を驚かせたくてな」
「えっなになに?どういこと?」
「千束、こいつだ。」
「こいつだってまさか!」
「あぁ、そうだ」
「今日から、こちらで世話になるエミヤシロウだ。どのくらいここに居座るか分からないがよろしく頼む」
派遣されたのはリコリスではなくエミヤであった。
「えーうそうそ!すごい嬉しい」
キャッキャッと喜ぶ千束と、「っしゃあー!イケメンキタァー」と叫んでるミズキそして、おそらく事情を知っているだろうミカを除いた、たきなとクルミは頭の中に疑問が浮かぶ。
「あの、派遣されるのはリコリスではないのですか?」
疑問を疑問のままにしておけない少女であるたきなが質問する。
「リコリスが派遣されるとは一言も言ってないぞ?」
たきなの質問にミカが答える。するとたきなが「……確かに」と呟く。
「しかし、なぜ…えっと「呼びやすい方で構わないぞ?」では、エミヤさんで。なぜエミヤさんが派遣されたのですか?」
「何、簡単な話さ。私がDAの協力者になったからだ。最も半脅しじみた協力要請だったがね」
皮肉げに言うエミヤにさらに疑問を抱くたきな。
「……協力者?」
「あぁ、そうだ君達にはまだ伝わっていなかったな。こちらも失念していた」
やれやれ、といわんばかりの露骨な表情を浮かべる。
「────無銘、そう言えば君達にも伝わるかな?」
無銘と言う単語を聞き、大きく目を見開くたきなだが、それ以上に声を大にして千束は驚く。
「えっ、シロウさんが無銘の正体だったの!?」
「そういうことになるな」
あまりにもあっけらかんと正体を明かすエミヤに戸惑う二人だが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「へぇ〜でもシロウさんの正体が無銘って納得かも」
意味深にエミヤを見つめながらそう言い放つ千束に苦笑を漏らしてしまう。
「で?私はまだ君達の名前を聞いていないんだが」
話題を変えようとリコリコのメンバーに自己紹介を促す。
「あっそうだそうだ。みんなのこと紹介しないと。この黒髪の美少女は井ノ上たきな。私とバディを組んでる相棒、でこの店の二大看板娘の一人。あっ、ちなみにもう一人は私ね。で、こっちのちっこいのがクルミとこの飲んだくれのおばさんがミズキ」
千束が順々にリコリコのメンバーを紹介していく。
「井ノ上たきなです。改めてよろしくお願いします」
律儀挨拶を返すたきなだが、無銘と名乗った瞬間からエミヤを見る目が尊敬をするような目に変わったのにエミヤは気づいた。しかし、エミヤはそれを指摘することなく挨拶を返す。
「あぁ、これからよろしく頼む」
「はい!」
「クルミだ」
次に小学生ぐらいの少女?が名乗る。
「ちょっ、誰が飲んだくれのおばさんよ!お姉さんだろ。あっ、はじめまして中原ミズキです。この後時間ってあります?」
エミヤが挨拶を返そうとした瞬間それよりも早く千束がミズキに食ってかかる。
「何、口説こうとしてんだよ。シロウさんはおばさんなんかに興味はありませ〜ん。私みたいな若い美少女の方がいいに決まってるでしょ」
「寝言は寝て言え」
「何を!」
「やんのか!」
「やめなさい、二人とも」
「すいません〜先生」
「は〜い」
すぐにミカに止められ喧嘩が収まる。
「君の店は随分賑やかだな。昔の君からは想像できんな」
「あぁ、10年もあれば人は変わるものだ。いや、お前のおかげで変われたと言うべきか」
「そうか……」
その知人の変化に嬉しく思う一方で、変われない自身に少し落胆してしまう。結局、10年という時間を与えられようと私の本質はどこまでいっても変わらないのだろう。
一通り自己紹介を終えある程度この喫茶店の仕事内容を聞いたため自身も手伝おうとした矢先、声がかかる。
「ねぇ、シロウさんこのあと時間ある?」
「あぁ、別に時間はあるが……」
「じゃあ、私と少しお話ししよ?」
人のいい笑顔を見せつつ今回は逃さないといった目で見つめてくる千束に内心どう対応すべきか考えあぐねていた。
いつの間にか千束に腕を掴まれ座敷の方に案内される。
「ねぇ、シロウさん私の昔話聞いてくれない?」
千束のその問いに数秒吟味してから答えを出す。
「いいだろう。君の話を聞かせてくれ」
◆◇◆
10年前まで私は、先天性心疾患を患っていた。本当ならとっくの昔に死んでいた。どうして私がなんて思う時期もあったけど、どうにもならないことを考えても仕方ないと思って自分の死について深く考えることはしないようにした。でも、そんなある日、DAの命令で任務に行くようにという指令が下った。
きっとDAはどうせ死ぬなら任務で使い捨てた方がいいと結論を出したんだろう。その任務がきっと私の最初で最後の任務になるはずだろうと思っていた。私自身、どうせ短い命なら何かを成してDAのために捨てようと思っていた。しかし、現実はどこまでも残酷で、任務中に案の定、発作を引き起こしてしまい脇腹を撃たれてしまった。味方とは逸れ、助けは期待できない状況。ただ何も成せずに死んでしまうのかと思いそれが辛くて、悔しくて、そして怖かった。私はあの時きっと絶望していたんだと思う。
「大丈夫か!?」
意識が朦朧とする中で声がかかる。敵はいつの間にか倒れ伏していて、私に近づく男が一人。顔は目がぼやけてよく見えはしなかったが、今でもその言葉だけは覚えている。
「もっと、いき…たい…」
無意識に出た言葉だった。誰かも知らない人に縋ってしまうほど私は精神的に弱ってたのかもしれない。だけど、男は私の言葉に答えてくれた。
「大丈夫だ。君は助かる」
初めて会ったはずの男のその言葉にどれだけ安心させられたか分からない。その言葉には、溢れんばかりの優しさが含まれていた。
あぁ、この人はきっと私を助けてくれる。そう思った瞬間そこで意識が途切れた。
次に目覚めた時は病院にいてなぜか脇腹を撃たれたはずなのに傷が無くなってていてそれどころか持病の心臓疾患すら魔法のように消えていた。何が何だかわからなかった。けれど、私はまだ生きられるんだって嬉しくて嬉しくて、思わず泣いてしまった。
それと同時に私を助けてくれたあの人みたいにそうなりたいと思った。きっとその人からすれば当たり前で、助けるべき大勢の中の一人だったかもしれない。けれど、私からすれば私に命を与えてくれた大恩人なんだ。だから、いつかちゃんとありがとうって伝えたくてそして、いつかあの人に立派に成長した姿を見せたくて今も探してる。
「探してるんだけどさ〜シロウさん」
「なぜそこで私を見つめるのか分からないな」
「分かってるくせに」
ニヤニヤしてこちらを見つめる千束。
「しかし、君は随分辛い人生を送ってきたんだな」
「そんなことないですよ。その人が助けてくれて毎日楽しんでますとも」
「……そうか」
その言葉聞いて自然と頬が緩む。
きっと、彼女は私が生涯をかけて得られなかった答えを見つけたのだろう。私からすれば羨ましい限りである。
これから先彼女ならば私のような愚行を犯すようなことはしないだろう。
※この物語の主人公は千束でもたきなでもなくエミヤです。
※バトルシーンがどうしても短くなってしまう。