錦木さん家のキョウ 作:千束に養われたいだけの人生だった
エンゲージキス9話で曇り、リコリコ9話でも曇る。バランス取れてねぇぞ!A-1 Pictures
それから数十分後。
千束とたきなは特急を乗り換え、依頼人との待ち合わせ場所に向かっていた。
「話によれば、この先の駐車場に車を用意しているとの事ですが……」
「え?マジ?はいはい!千束が運転します~」
「私がします」
「えぇぇ~。たきな運転出来んのかよ」
「リコリスになる為の必修科目ですよ?当然です」
「えぇぇ~。わたしが運転したいしたいしたいぃ~~」
子供の様に駄々を捏ねる千束に、たきなは呆れた表情を見せる。
「子供ですか。まあ、別に良いんですけど……不安ですね」
「そこは大丈夫!買い出しとかで運転してるから」
「お店のですか?」
「いんや、家の車」
「車持ってるんですね」
「そりゃ、持ってるよ」
意外そうな表情を浮かべたたきなに、千束はさも当然の様に答えた。
「因みに、何に乗ってるんですか?」
「N-BOX。軽自動車だけど、車内広くて快適だからお勧め」
「あれ、車高高いし、風の影響をもろに受けそうですね。カーチェイスには向いてなさそうですね」
「いや、ファミリーカーにカーチェイスなんて求めてないよ」
「……運転はどのくらいの頻度で?」
「…………普段からキョウが運転するから、月に数回程度」
千束は視線を逸らして答えた。
「やっぱり、私が運転します」
「ええ、そんなぁ~~」
ぶーぶーと不満そうに口を尖らせる千束を無視し、たきなは待ち合わせ場所に向かう。
そして数分後。待ち合わせ場所に用意されていた車を見て、千束は雄叫びを上げた。
「うおぉぉぉ!?スーパーカーじゃん!!」
ガニ股でフェンスにしがみ付いき、すげぇ!すげぇ!とフェンスを揺らす千束。
「……あれ、レクサスLFAじゃないですか。限定五〇〇台生産された超高級車ですよ」
「そうなの!?やっぱり、わたしが運転する!」
「いえ、流石に、あれが逃走車な訳ないでしょう。一体、幾らすると思ってるんですか」
※発売時価格で三七五〇万円。
「えぇぇぇ!たきな夢の無いこと言うなよ~~。きっと、あれに違いない。いや、あれが良い!!」
「本当に一児の母なんですか、あなた……」
とてもそうは思えないと、たきなが呆れた表情を浮かべた直後、駐車場近くの公園から一台の軽自動車が飛び出した。
「うえぇ、何々!?」
今時の自動車には珍しい、丸形のヘッドランプに、昭和時代を彷彿とさせる車体。初代トゥデイである。
トゥデイは千束とたきなの目に止まると、窓から着ぐるみを着た人物が顔を出す。
『ウォール!』
着ぐるみは変声機を使っているのか、男とも女とも取れる声で叫んだ。
「ナット」
たきなが冷静に答えと着ぐるみは、早く乗れとドアを開ける。
素早く乗車するたきな。
「え、今の合言葉?もっと、マシなの無かったの?かっこわるぅ……」
駐車場に止まるレクサスを名残惜しそうに見つめる千束に、早く乗れ!と急かす着ぐるみ。
「はいはい。ああ、スーパーカーが良かったぁ~~」
千束が渋々と乗車すると、着ぐるみはアクセルを踏み込んだ。
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その車内はカオスだった。
着ぐるみを着た運転手に、シートベルトをした黄色いスーツケース。後部座席には二人の女子高生。
『予定と違ってすまない。ボクはウォールナット。キミ達の依頼人だ。今日は宜しく頼む』
「はいはい。千束です、隣に居るのはたきな」
着ぐるみ改め、ウォールナットが自己紹介をすると、千束も気だるげに自己紹介をする。
「それにしても、なんで、守られる側の人間が颯爽と現れるの?普通逆でしょ」
「目立つし、こっちの方が良いですよ」
「この車も十分に目立つよ。何十年前の車よ。これ」
『初代トゥデイは一九八五年にホンダ社が開発した軽自動車だが、この車は近年リメイクされた物だ。
外装や内装は初代トゥデイをベースに、中身は自動運転を始めとした、最新の設備を備えている。
更にこの車は防弾仕様のカスタマイズモデルだ。対物ライフルや対戦車ミサイルでも持って来ない限り、この車の装甲を抜く事は敵わない。狙撃を気にせず、安全に羽田に直行出来る』
自慢げに語るトゥデイ?の性能に二人は顔を引き攣らせた。
「まるで装甲車ですね」
「それ、わたし達必要ある?」
『あなるい、ザザッ……しば……ザザッ……てろ』
「「……??」」
千束の質問に答えようとしたウォールナットの声に雑音が入る。
『すまない。雑音が混ざった。それで、君達が必要かどうかの話だったな。勿論必要だとも、ずっと、車で逃亡する訳にも行かないし、この車を用意したのも君達の仲間だ』
「仲間?」
『キョウと言う人物だ』
「「キョウ(さん)が?」」
『ああ、今朝この車で迎えに来てもらった。この車はレトロチックな外装からは考えられない程優秀だ。非常に助かってる。優秀な仲間を持ったな』
旦那を褒められた事に、千束は蔓延の笑みを浮かべた。
「でしょ、でしょ!うちの旦那様は凄いんだから!」
『……旦那?』
「キョウさんと千束さんは夫婦なんです」
『…………マジか』
驚愕するウォールナット。
「あ、因みに娘も居るよ」
はいこれ。と、待ち受けに映った、なえの写真を見せる千束。
『確かに、瓜二つだ。何も知らなければ親子と言うよりも、妹かキミの幼少期の写真としか見えない』
「他にも写真あるよ」
更に写真を見せようとする千束に、ウォールナットは必要ないと答えた。
既にハッキングしてアルバム内を確認したからだ。
アルバムデータには産後の千束がなえを抱く姿を始めとし、なえに授乳する写真。三人で映った家族写真。リコリコの常連に抱かれた写真など、幾つもの写真が存在した。
少なくとも、なえが千束の娘であるのは間違いないだろう。
問題があるとすれば、キョウだ。
見た目、三十代にしか見えないキョウと、十七歳の千束。
『…………事案か?」
『違うよ!?キョウとわたしは三つしか歳違わないよ!!」
『マジか!?』
衝撃の事実にウォールナットは驚愕の声を上げた。
「そう言えば、キョウはどうしたの?」
『この車を持って来た後、囮になってもらってる』
「囮に?大丈夫なのでしょうか?」
心配するたきなに、千束は大丈夫、大丈夫と欠片の心配もしていない様子で笑う。
「ありゃ、殺しても死ぬような奴じゃないから」
「心配じゃないんですか?」
「心配するだけ無駄無駄」
「は、はぁ……?」
『少しは心配してやったらどうだ?彼は君の事を心配していたぞ。こんな車を用意する程度には』
「「え?」」
そう言った直後、ウォールナットは突然助手席のスーツケースを「ゴンッ」と叩いた。
『わぁ!……すまない。虫が居たもので、つい』
「あ、いえ」
ウォールナットの突然の行動に、千束はたきなに顔を近付けて呟いた。
「なんか、思ってたハッカさんと違うね」
『底意地の悪い痩せた眼鏡小僧だとでも?だとしたら映画の見過ぎだな』
「そうですよ、太ってるし」
『ボクは太ってない!』
「いやいや、その体系で太ってないは無理があるでしょう」
千束とたきなはウォールナットに視線を向ける。
それは太かった。丸太の様に太かった。着ぐるみの上に更に着ぐるみを着ているのかと思う程には。
『こ、これは実際の体系を隠す為に敢えて、大きな着ぐるみを着てるんだ。ハッカーは素性を隠した方が長生き出来るからな!』
「あ~。うん。ソウデスネ」
『嘘じゃないからな!本当だからな!ボクは太ってなんかないからな!!』
「あ、はい」
何となく、着ぐるみの中身は女性なのかな。と二人は考えた。
『ボクよりも、君達JKの殺し屋の方が異常だ』
「カバのハッカーよりかは合理的です」
「像だよ。たきな」
『リスだ!!体格で判断しただろう!?』
信号が赤になったタイミングで、着ぐるみが質問を投げかけた。
『それで?JKの殺し屋がどう合理的なんだ?』
「つまり、日本で一番警戒されない服って事ですよ。
『確かに、何も知らなければ、学生服を着た少女を警戒する事は無いか。差し詰め、都会の迷彩服って所か』
「そう言う事です」
『色が違うのは、何か理由があるのか?』
「ん~。まあ、赤がファーストで、紺がセカンド、ベージュがサードってランク分けされてる」
『……赤が一番階級が低いのか?』
「ううん。一番上。わたし、これでも凄いのだ~」
『そうか、人は見掛けに依らないな』
どう言う事!?と千束は叫んだ。
そのタイミングで信号が青に変わる。
「そう言えば、さっきから気になってましたけど、そのスーツケースは何ですか?」
『ボクの全て。場合によっては、僕よりもそのスーツケースを優先してくれ』
「命よりも大事な物って事ですか?」
『そうだ。それさえ無事ならば、再起出来る。逆にそれがなければ再起できない。そのスーツケースの紛失か破損は任務失敗と思ってくれ』
ウォールナットの言葉に、たきなは分かりましたと答える。
千束はさっき、思いっきり殴ってなっかたっけ?と疑問符を浮かべた。
「それはそうと、国外逃亡するんですよね。何処に行くんですか?」
『ここよりも平和な国』
「そりゃ、天国ぐらいですよ」
違いない。とウォールナットは笑った。
『特に決めてはないが、インドかエストニアか、ITが発展した国を転々とするつもりだ』
「良いな~。海外。わたしも行ってみたい」
『一緒に行くかい?』
「わたし達戸籍が無いからパスポート申請出来ないんですよ」
『何も正規の手段で海外に出る必要はない。僕の伝手を使えば偽造パスポートを作る事も、好きな国に密入国できるぞ』
「ホント!?」
目を輝かせる千束に、ウォールナットは造作もないと答えた。
『ただし、日本には早々戻って来れなくなるが』
「あ、じゃあ良いや」
『何故?』
「家族を置いて、海外には行けないでしょう」
『そうか……よかったな』
「…………?」
ウォールナットはスーツケースを「コツン」と小突いた。
謎の言動をするハッカさんだな。と千束は考えた。
それから雑談を交わしながら街中を走行する事、十分。
その間、襲撃どころか、尾行された様子もなかった。
「追って、来てませんね」
「そうだね。諦めちゃったのかな?」
『だと良いが』
そう呟いた直後、インターチェンジを横切った。
『……うん?』
「あれ?高速乗るのでは?」
『その筈だが、どうした?』
「いや、わたし達に聞かれても」
ウォールナットがハンドルを手放す。すると、ハンドルは一人でに動いた。
『車を乗っ取られた。……ネットワークを遮断しておくべきだったな』
「えぇぇ!?」
『全く、サイバー対策は万全じゃなかったのか?』
その直後、運転席に表示されるディスプレイにノイズが走り、赤いロボットのアイコンが表示された。
『このマークはロボ太か。腕を上げたな』
乗っ取られたトゥデイは加速し、ぐんぐんと速度を上げた。
『不味いな。このままだと海にダイブだ』
「回線の切断を!」
『いや、制御を取り戻しても、直ぐにロボ太に上書きされる。ネットを物理的に切るべきだな。最初からそうすべきだった。兎も角、一度制御を取り戻さないとな』
ウォールナットは親指で背後を指す。
千束とたきなは無言で指さした方角を確認する。すると、そこにはトゥデイを追う一台のドローン。
「あれか」
「ばれると逃げられます。ウォールナットさん。車のガラスは防弾ですか?」
『防弾だ。だが、内側の衝撃に弱い。こいつを二、三発撃ち込めば、体当たりでガラスを割れる』
そう言って、ウォールナットは一丁の銃を千束に手渡す。
「で、デザートイーグル!?」
『50AE弾を装填している』
「50AE!?」
最強クラスの拳銃と弾薬である。
「千束さん任せました」
「たきなさん!?」
「わたしはドローン本体を撃つんで」
『よし、制御を取り戻すぞ。魚の餌になりたくなければ、さっさとやれ』
「ああ、もう!」
こうなりゃ、やけだ!と千束はデザートイーグルの安全装置を外し、スライド。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!と左後部窓に三発撃ち込んだ。
「いったぁぁぁ!」
あまりの反動に、千束は悲鳴を上げる。
「上出来です」
間髪入れず、ひび割れた窓を体当たりで破壊し、車外へと身を乗り出すたきな。
タンッ!タンッ!タンッ!
愛銃のS&W M&P9Lを構え、三発発砲。全ての弾がドローンに命中し、ドローンは煙と火花を撒き散らしながら墜落した。
直後、コントロールを取り戻したトゥデイを必死に操縦するウォールナット。
防波堤を滑り落ち、海に落ちるか落ちないかの、ギリギリの所で何とか、止まるトゥデイ。
左車輪が防波堤をはみ出し、車体は左に傾いた。
車内の三人は右側に体を寄せる事で、何とか海に落ちないようにバランスを取っているが、徐々に左に傾いている。海に落ちるのは時間の問題だった。
「皆、取り敢えず動かないで」
『す、スーツケースを……』
「私が持ちます。しかし……」
どうやって、脱出するかと頭を悩ませるたきな。
トゥデイは後部座席のドアがなく、窓も開かない。
先程撃ち破った左窓の先は海。
またデザートイーグルを撃ち込んで、窓を撃ち破るとしても、その反動でトゥデイが海に落ちそうだ。
「どうしよっか」
結果として、防弾仕様にしたのが裏目に出た形となった。
窓が防弾でさなければ、千束やたきなの銃で窓を撃ち破る事も可能だった。
デザートイーグルよりかは反動が少ない為、車体が大きく揺れる事はなく、海に落ちる前に脱出する事も出来ただろう。
脱出ルートは運転席のドアのみ。そこから素早く車外に脱出するしか道は無い。
「よし、依頼主最優先。ウォー-」ガチャ
千束が指示を出すよりも速く、ウォールナットは運転席のドアを開き車外に出た。
そして……
そのままトゥデイの車体を引っ張り、陸に引き上げた。
「「え、えぇぇ……」」
現実離れした出来事にドン引く千束とたきな。
『化け物か……』
「いや、アンタがやったんだろうがい!!」
『え、あ、いや、そうなんだが……火事場の馬鹿力と言う奴だ。僕もここまでの力が出るとは思わなかった』
人間。追い込められた時ほど強くなる者なんだな。と端末を取り出すウォールナット。
千束とたきなは一応の危機が去った事に安堵しながら、素早くトゥデイから脱出した。
『車はもう使えない。場所を変えよう』
タイトル:デブのハッカー
悲報:ミズキさん肥える。
昼間から酒ばっかり飲むから……
それにしても、同期にオリジナルアニメ。それも両方面白い作品を手掛けるA-1 Picturesマジバケモン。
……クズ主人公を養うヤンデレ千束。アリだな。