錦木さん家のキョウ    作:千束に養われたいだけの人生だった

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本日の天気は朝から昼間に掛けて晴れのち雨。
夕方以降は曇り空となるでしょう。


第2-3話 千束の〇〇顔って良くない?

それから、三人は廃墟となったスーパーに移動した。

場所は商品コーナ。台や棚が立ち並び物影が多い。

 

「数は五人。武装は全員小銃(AKMS)っと、あ、二手に分かれた」

『空中にはドローンが確認出来る。数は一つだけか、なら死角はある筈だな。ハッキングして位置を割り出そう』

「よし、取り敢えず、裏口を目指しましょう。付いて来て下さい」

 

千束を先頭に、タブレットを持ったウォールナット、スーツケースを持ったたきなが続き、台の物影から棚の物影に移動する。

 

「居たぞ!」

 

たきなが物影を渡る途中で、二人組のテロリストに発見された。

直後、タタタタッと小銃が掃射される。

咄嗟にスーツケースを盾にするが、その直後に物影に隠れていたウォールナットが飛び出し、たきなとスーツケースをタックルで物影まで跳ね飛ばした。

 

『無事か?』

「ッ!はい」

 

護衛対象に守られた事実に、たきなは奥歯を噛み締めて悔しがる。

そして、瞬時にM&P9Lを構え、反撃する。

タン、タンタンと三発発砲し、その内の二発がテロリストの頬と腕を掠めた。

 

「よいしょ!」

 

その直後、物影から密かに近付いた千束が棚を蹴って跳躍、空中で三発発砲し、その全てが命中。ゴム弾を使用していた事により、死亡こそしなかったのもの、テロリストの一人は戦闘不能に陥った。

 

「無理をするな。退け」

 

負傷したテロリストの指示をする赤帽子のテロリスト。

そのタイミングでたきなが発砲。その内の一発が赤帽子のテロリストの脇に命中。

 

「チッ!」

 

被弾したテロリスト二人は、物影の陰に隠れる。

その隙に千束達三人も素早く移動し、従業員通路に進む。

そこでタイミング悪く、先行した千束が別のテロリストに遭遇。

 

タタタタッ!

 

弾丸の雨が襲い掛かり、直ぐに通路の陰に身を潜ませた。

銃撃では埒が明かないと、痺れを切らしたテロリストが小銃から手を放し、手榴弾のピンを抜く。その一瞬の隙に千束が物影から飛び出した。

 

「なっ!」

 

咄嗟の出来事にテロリストは反応出来ず、握っていた手榴弾を叩かれた。

千束はそのまま、地面に転がった手榴弾をトイレの中に蹴飛ばしてドアを閉める。

 

「残念でした~」

「がぁ!」

 

更に、一瞬の出来事に呆気に取られたテロリストに肘鉄を食らわせ、そのまま防弾ベストの紐を掴みトイレのドアに投げ飛ばす。

その瞬間、先程トイレの中に蹴飛ばした手榴弾が爆発。その爆発でトイレのドア諸共、テロリストが吹き飛んだ。

 

『キミのパートナーは中々えぐい事をするな』

「隠れていて下さい」

 

一丁上がり、と息を吐く暇もなく、千束の背後、商品コーナからテロリストが現れる。それも既に狙いを定め終えた状態でだ。

たきなは咄嗟に、ウォールナットの手を引いて物影に隠れる。

 

「千束さん!」

 

間に合わないと思った。

 

タタタタタタタッ!!

 

銃声が鳴り響く。次の瞬間には、その身を赤く染めて、血の海に倒れ伏す千束の姿を想像した。

だが、そんな未来は訪れなかった。

凶弾の嵐に晒される中、千束は顔色一つ変えず、まるで、踊る様に軽やかに、弾を避けていた。

 

『嘘だろ』

 

現実離れした光景に、たきなもウォールナットも驚愕する。

そして凶弾の嵐が止まなぬ中、千束はテロリストに一歩一歩近付き、愛銃(デトニクス)の引き金を引く。

 

タンタンタンッ

 

三発のゴム弾の全てがテロリストに命中し、テロリストは力無く倒れる。

 

ダンッ

 

千束は弾倉に残った最後の一発を倒れたテロリストに撃ち込むと、素早くリロードし商品コーナから近付く赤帽子のテロリストに発砲し、手に持った小銃(AKMS)を蹴り飛ばす。

 

「ぐおぉ!」

 

武器を失った赤帽子のテロリストは立ち上がろうとするが、直ぐに力無く膝を突き、息を上げる。

良く見ると、脇を押さえており、その手の隙間からは血が滲んでいる。

致命傷ではないが、このまま放って置けば出血多量で死ぬ。

千束は銃を下した。

 

「そのまま、傷を抑えてて」

「なにを!?」

「応急処置」

 

そう言うと、千束は鞄から薬品とガムテープを取り出した。

 

「敵はまだ、二人は居ます。増援が来る前に脱出しましょう」

「ちょい待ち」

「囲まれますよ!」

「放って置いたら死んじゃうでしょう」

 

手慣れた手付きで応急処置を始める千束に、たきなはこれ以上は言っても無駄だと、説得を諦めた。

 

『どうやら、脱出ルートはまだ、敵には把握されていない様子だ』

 

ウォールナットは手に持った端末情報を見て呟いた。

 

「先行ってて」

「……行きましょう」

 

たきなはそう言うと、ウォールナットと共に裏口に向かった。

千束とテロリストが残された状態で、赤帽子のテロリストは苦悶の表情を浮かべながら口を開いた。

 

「止めろ、揶揄っているのか……」

「じゃあ、死にたい?」

 

千束は冷たい声で銃口を向けた。

 

「い、いや。死にたくない」

「でしょ」

 

千束は近くに銃を置き、応急処置を再開した。

赤帽子のテロリストも抵抗を止め、処置を受け入れた。

 

「今日。夕飯は誰と?」

「…………家族だ」

「いいね。わたしもそうなんだ。娘と旦那が帰りを待ってる」

「その歳で子持ちか」

 

赤帽子のテロリストは地に倒れ伏す仲間を見て、悲嘆そうな表情を浮かべた。

 

「お前は、俺が報復するって考えないのか?何時の日か、お前の旦那と子供を殺しに来るとは、考えないのか?」

「考えてるよ。でも、それとこれとは別でしょ?」

「…………」

 

当たり前の事の様に答える千束に、赤帽子のテロリストは言葉が出なかった。

 

「それに、わたしよりも、キョウを敵に回した方が怖いよ~」

「キョウ?それがあんたの旦那か?名前まで出して良かったのか」

「大丈夫。キョウは強いんだから」

「アンタよりもか?」

「うん」

 

まさかの即答に、思わず苦笑いを零す。

 

「それは恐ろしいな」

 

弾を顔色一つ変えず避ける妻を持つ男。

きっと、想像も付かない化け物なのだろうと考えた。

 

「ぐっ、痛ぁぁ……」

「何ッ!?」

 

死んだと思った仲間の声に、赤帽子のテロリストは驚愕した。

 

「わたしが撃った人は大丈夫」

「……ゴム弾か」

 

通路の奥では、爆風を受けて倒れたテロリストも気を取り戻した。

死んだと思った仲間が生きていた事実に、赤帽子のテロリストは毒気を抜かれた様に息を吐いた。

 

「もう良い。行け」

「……分かった。これに懲りたら、足洗いなよ」

 

そう言って、裏口に向かう千束。赤帽子のテロリストは一瞬、躊躇いの表情を浮かべた後に千束を呼び止めた。

 

「そっちは止せ」

「ん?」

「待ち伏せしてる。出た瞬間に蜂の巣になるぞ」

 

その言葉を聞き、千束は裏口に向かって走った。

二人の背中を捉えたのは、既にウォールナットが裏口から出ようとした瞬間だった。

 

「たきな、ウォールナット!出ないで!!」

 

二人に向かって叫ぶ千束。しかし……。

 

ターン!

 

千束の忠告虚しく、一発の凶弾がウォールナットの胸を貫いた。

 

タタタタタタタッ!

 

その直後には数十発の凶弾がウォールナットを襲い、着ぐるみの綿と、ウォールナットの鮮血が周囲に撒き散った。

ウォールナットは凶弾の雨に倒れる、その際に着ぐるみの顔が衝撃で脱げた。

 

「ウォールナ……えっ!」

 

そして露わになるウォールナットの素顔。それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キョウだった。

 

「……なん、で」

 

千束はふら付いた足取りで、血溜まりに倒れ伏すウォールナット、いや、キョウに歩み寄る。

 

「だい、じょうぶ……だよね?」

「…………」

 

キョウは答えない。否、答えられる筈もない。

被り物が脱げて分かる範囲でも、右前頭部と右目を撃ち抜かれ、顔の右半分は原型を留めていない。即死だ。

それでも、と、千束は一縷の望みに縋った。

キョウの首に手を添える。

脈は無かった。

 

「あ、あぁぁぁ、あああああああああああああああああ!」

 

 

----------

 

保育園にて

 

「びえぇぇぇぇぇ!びぇぇぇぇぇ!」

「あらあら、どうしたの?なえちゃん。お腹すいたの?それともオムツ?」

「びえぇぇぇぇ!」

「珍しいわね。なえちゃんがあんなに泣くなんて」

「そうね。普段は大人しいし、泣いたとしても、ミルクを上げるか、オムツを変えてあげれば泣き止むのに」




タイトル:千束の曇り顔って良くない?

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