錦木さん家のキョウ 作:千束に養われたいだけの人生だった
夕方以降は曇り空となるでしょう。
それから、三人は廃墟となったスーパーに移動した。
場所は商品コーナ。台や棚が立ち並び物影が多い。
「数は五人。武装は全員
『空中にはドローンが確認出来る。数は一つだけか、なら死角はある筈だな。ハッキングして位置を割り出そう』
「よし、取り敢えず、裏口を目指しましょう。付いて来て下さい」
千束を先頭に、タブレットを持ったウォールナット、スーツケースを持ったたきなが続き、台の物影から棚の物影に移動する。
「居たぞ!」
たきなが物影を渡る途中で、二人組のテロリストに発見された。
直後、タタタタッと小銃が掃射される。
咄嗟にスーツケースを盾にするが、その直後に物影に隠れていたウォールナットが飛び出し、たきなとスーツケースをタックルで物影まで跳ね飛ばした。
『無事か?』
「ッ!はい」
護衛対象に守られた事実に、たきなは奥歯を噛み締めて悔しがる。
そして、瞬時にM&P9Lを構え、反撃する。
タン、タンタンと三発発砲し、その内の二発がテロリストの頬と腕を掠めた。
「よいしょ!」
その直後、物影から密かに近付いた千束が棚を蹴って跳躍、空中で三発発砲し、その全てが命中。ゴム弾を使用していた事により、死亡こそしなかったのもの、テロリストの一人は戦闘不能に陥った。
「無理をするな。退け」
負傷したテロリストの指示をする赤帽子のテロリスト。
そのタイミングでたきなが発砲。その内の一発が赤帽子のテロリストの脇に命中。
「チッ!」
被弾したテロリスト二人は、物影の陰に隠れる。
その隙に千束達三人も素早く移動し、従業員通路に進む。
そこでタイミング悪く、先行した千束が別のテロリストに遭遇。
タタタタッ!
弾丸の雨が襲い掛かり、直ぐに通路の陰に身を潜ませた。
銃撃では埒が明かないと、痺れを切らしたテロリストが小銃から手を放し、手榴弾のピンを抜く。その一瞬の隙に千束が物影から飛び出した。
「なっ!」
咄嗟の出来事にテロリストは反応出来ず、握っていた手榴弾を叩かれた。
千束はそのまま、地面に転がった手榴弾をトイレの中に蹴飛ばしてドアを閉める。
「残念でした~」
「がぁ!」
更に、一瞬の出来事に呆気に取られたテロリストに肘鉄を食らわせ、そのまま防弾ベストの紐を掴みトイレのドアに投げ飛ばす。
その瞬間、先程トイレの中に蹴飛ばした手榴弾が爆発。その爆発でトイレのドア諸共、テロリストが吹き飛んだ。
『キミのパートナーは中々えぐい事をするな』
「隠れていて下さい」
一丁上がり、と息を吐く暇もなく、千束の背後、商品コーナからテロリストが現れる。それも既に狙いを定め終えた状態でだ。
たきなは咄嗟に、ウォールナットの手を引いて物影に隠れる。
「千束さん!」
間に合わないと思った。
タタタタタタタッ!!
銃声が鳴り響く。次の瞬間には、その身を赤く染めて、血の海に倒れ伏す千束の姿を想像した。
だが、そんな未来は訪れなかった。
凶弾の嵐に晒される中、千束は顔色一つ変えず、まるで、踊る様に軽やかに、弾を避けていた。
『嘘だろ』
現実離れした光景に、たきなもウォールナットも驚愕する。
そして凶弾の嵐が止まなぬ中、千束はテロリストに一歩一歩近付き、
タンタンタンッ
三発のゴム弾の全てがテロリストに命中し、テロリストは力無く倒れる。
ダンッ
千束は弾倉に残った最後の一発を倒れたテロリストに撃ち込むと、素早くリロードし商品コーナから近付く赤帽子のテロリストに発砲し、手に持った
「ぐおぉ!」
武器を失った赤帽子のテロリストは立ち上がろうとするが、直ぐに力無く膝を突き、息を上げる。
良く見ると、脇を押さえており、その手の隙間からは血が滲んでいる。
致命傷ではないが、このまま放って置けば出血多量で死ぬ。
千束は銃を下した。
「そのまま、傷を抑えてて」
「なにを!?」
「応急処置」
そう言うと、千束は鞄から薬品とガムテープを取り出した。
「敵はまだ、二人は居ます。増援が来る前に脱出しましょう」
「ちょい待ち」
「囲まれますよ!」
「放って置いたら死んじゃうでしょう」
手慣れた手付きで応急処置を始める千束に、たきなはこれ以上は言っても無駄だと、説得を諦めた。
『どうやら、脱出ルートはまだ、敵には把握されていない様子だ』
ウォールナットは手に持った端末情報を見て呟いた。
「先行ってて」
「……行きましょう」
たきなはそう言うと、ウォールナットと共に裏口に向かった。
千束とテロリストが残された状態で、赤帽子のテロリストは苦悶の表情を浮かべながら口を開いた。
「止めろ、揶揄っているのか……」
「じゃあ、死にたい?」
千束は冷たい声で銃口を向けた。
「い、いや。死にたくない」
「でしょ」
千束は近くに銃を置き、応急処置を再開した。
赤帽子のテロリストも抵抗を止め、処置を受け入れた。
「今日。夕飯は誰と?」
「…………家族だ」
「いいね。わたしもそうなんだ。娘と旦那が帰りを待ってる」
「その歳で子持ちか」
赤帽子のテロリストは地に倒れ伏す仲間を見て、悲嘆そうな表情を浮かべた。
「お前は、俺が報復するって考えないのか?何時の日か、お前の旦那と子供を殺しに来るとは、考えないのか?」
「考えてるよ。でも、それとこれとは別でしょ?」
「…………」
当たり前の事の様に答える千束に、赤帽子のテロリストは言葉が出なかった。
「それに、わたしよりも、キョウを敵に回した方が怖いよ~」
「キョウ?それがあんたの旦那か?名前まで出して良かったのか」
「大丈夫。キョウは強いんだから」
「アンタよりもか?」
「うん」
まさかの即答に、思わず苦笑いを零す。
「それは恐ろしいな」
弾を顔色一つ変えず避ける妻を持つ男。
きっと、想像も付かない化け物なのだろうと考えた。
「ぐっ、痛ぁぁ……」
「何ッ!?」
死んだと思った仲間の声に、赤帽子のテロリストは驚愕した。
「わたしが撃った人は大丈夫」
「……ゴム弾か」
通路の奥では、爆風を受けて倒れたテロリストも気を取り戻した。
死んだと思った仲間が生きていた事実に、赤帽子のテロリストは毒気を抜かれた様に息を吐いた。
「もう良い。行け」
「……分かった。これに懲りたら、足洗いなよ」
そう言って、裏口に向かう千束。赤帽子のテロリストは一瞬、躊躇いの表情を浮かべた後に千束を呼び止めた。
「そっちは止せ」
「ん?」
「待ち伏せしてる。出た瞬間に蜂の巣になるぞ」
その言葉を聞き、千束は裏口に向かって走った。
二人の背中を捉えたのは、既にウォールナットが裏口から出ようとした瞬間だった。
「たきな、ウォールナット!出ないで!!」
二人に向かって叫ぶ千束。しかし……。
ターン!
千束の忠告虚しく、一発の凶弾がウォールナットの胸を貫いた。
タタタタタタタッ!
その直後には数十発の凶弾がウォールナットを襲い、着ぐるみの綿と、ウォールナットの鮮血が周囲に撒き散った。
ウォールナットは凶弾の雨に倒れる、その際に着ぐるみの顔が衝撃で脱げた。
「ウォールナ……えっ!」
そして露わになるウォールナットの素顔。それは……
キョウだった。
「……なん、で」
千束はふら付いた足取りで、血溜まりに倒れ伏すウォールナット、いや、キョウに歩み寄る。
「だい、じょうぶ……だよね?」
「…………」
キョウは答えない。否、答えられる筈もない。
被り物が脱げて分かる範囲でも、右前頭部と右目を撃ち抜かれ、顔の右半分は原型を留めていない。即死だ。
それでも、と、千束は一縷の望みに縋った。
キョウの首に手を添える。
脈は無かった。
「あ、あぁぁぁ、あああああああああああああああああ!」
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保育園にて
「びえぇぇぇぇぇ!びぇぇぇぇぇ!」
「あらあら、どうしたの?なえちゃん。お腹すいたの?それともオムツ?」
「びえぇぇぇぇ!」
「珍しいわね。なえちゃんがあんなに泣くなんて」
「そうね。普段は大人しいし、泣いたとしても、ミルクを上げるか、オムツを変えてあげれば泣き止むのに」
タイトル:千束の曇り顔って良くない?
この瞬間が書きたかった!