Fate/GrandOrder×月姫 死徒徘徊都市 総耶   作:ryugann

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炎は消え去り凍土が来たる

 世界が凍りついたような感覚に襲われたその後、事態は大きくなったと判断した俺たちはシエルさんと志貴さんに誘導されながらその中心に向かっていた。

 秋葉さんたちだが、遠野邸は重要な拠点なので留守を任してもらっている。

 その道中、通信機越しにさっきの話を煉獄から聞かせてもらう。

 

 『ここに来たサーヴァントたちは抑止力から呼ばれた連中だろ?聞いた話だけでもギリシャ異聞帯に匹敵する数が来ていることから抑止力も本気でこの特異点を消す気でいる。

 だけどな、一番の問題が黒幕が誰か分かってないんだよ』

 「それってどういう……?」

 『抑止力からの命令は“この特異点を作った黒幕を消して特異点を消滅させること”。多分それだ。

 でもさっき言ったように抑止力自身もそれが誰か分かってない。当然それに応えて現界したサーヴァントたちも分からない。

 これはあくまでも推測だが、そいつらは明確な敵が誰か分からないから現状維持を目指したんだ』

 「現状維持、ですか?」

 『そ。ヴローヴの撃破を妨害したのは状況が変わることを恐れたからだろうな。ひとまず両陣営を打倒できるほどの戦力が集まるまでこの方針で進めていた。

 ただ誤算だったのは、英霊たちの想定していた以上に両陣営からの攻勢が激しかったことだろうな』

 

 煉獄の説明は俺の心のどこかで疑問の穴がはまったように納得することが出来るものだった。

 敵が誰か分からないから、誰も信用することが出来ないから裏切られた時を考えて有利になれる志貴さんたちとの共闘を蹴ってまで人理のために動いてくれた彼らのことに目を閉じて敬意を示す。

 

 ──ありがとう。後は、俺たちに任せてください。

 

 あらかた説明してくれると“そろそろ主のところに戻る”と言って出ていって少し時間が経った。

 礼装には温度調節の魔術が施されているおかげで寒くはないが、近付いていくたびに精神が凍っていくような錯覚に襲われ、身体の芯が震える。

 周りの建物も中心に近いものほど霜がかかっており、道路は水が一切かかってないはずなのに凍り付いていて、シエルさんの話は真実だという証拠をまじまじと見せつけられた。

 

 

 

 

 

 『ヴローヴの能力は炎じゃない!?』

 

 中心に向かう前、出立の準備をしていた時にシエルさんはヴローヴの本当の力について教えてもらっていた。

 

 『炎は寒さから逃れるために編み出した苦し紛れの行動にすぎません。ヴローヴの本当の異能は寒さ。その力は街一つを容易く壊滅させる程の恐ろしいものです』

 『あいつは血を暖として扱っているから血を流させて弱体化させる一般的な死徒への対応は逆効果なんだ。

 さらに厄介なことに炎出してる時は意識が混濁してるから罠に嵌めるのが簡単なんだけど、本性を出せばあいつは意識を覚醒させる。そうなったら殺すこともかなり難しくなる』

 

 ヴローヴの力は弱らせれば逆に強くなる。逆に言えば強くなる前に仕留めれたら問題はない。

 でもそれはもう出来ない。俺たちがそうさせてしまったと言っても過言ではないから。申し訳なくてつい、顔を彼らから逸らしてしまう俺がいた。

 

 『いや、藤丸さんたちの責任じゃないよ。まだその時のヴローヴは覚醒はしていない。そうしたのは別の連中なんだから気にしなくてもいいよ』

 

 志貴さんからフォローされるがそれでも気分は晴れることはなかった。

 そんな俺に少し苛ついたのかもしれない。

 俺の顔を無理やり志貴さんの方に固定されて少し刺を入れてはっきりと口にした。

 

 『……ああもう。いいか、よく聞け。そんなに落ち込む暇があるならヴローヴを倒すことだけ考えろ。泣き言とか弱音はその後で好きなだけ言えばいい。俺が聞いてやるから』

 

 泣き言とか聞いてくれるんだ──

 そう思うとふと、笑みがこぼれた。

 志貴さんも自分が言ったことに恥ずかしくなったのか、ちょっと顔を赤くして視線をずらした。

 それを見てもう我慢出来なくなって笑いが噴き出して志貴さんがやけくそになって俺の頭をグリグリと拳で押しこんで、いつの間にかさっきまであった罪悪感を簡単に消えていた。

 

 

 

 

 

 「そろそろ着きます。全員、戦闘態勢に入ってください」

 

 そんなことを思い出していると目的地に着いたみたいで、シエルさんから警告が入る。

 今回のヴローヴ戦では俺の役割はマシュに守ってもらいながらエドモンたちへ指示を出すことである。

 

 そうして、ヴローヴがいる広場だった場所に着いた。

 周りは激戦があったのだろう。

 多くの建物が剣や槍で出来たであろう切り傷や矢や魔術が当たったのか多くの穴が空いていた。

 中でも特筆するべきなのは床、があった場所だろう。

 完全に陥没しており、戦場になるであろう場所は大半が瓦礫で覆われており、バランスを取ることに気を付けないと、足がよろけてそれで致命傷を与えられるかもしれない。

 

 そこの中心に、ヴローヴ・アルハンゲリは立っていた。

 手には剣ではなく人の身長を軽く越える派手な装飾が付いた槍が構えられており、纏う気配も炎を出してた時よりも冷たいが、明確な意思が確かにあった。

 俺たちが来ることは既に分かっていたようで驚きもせず、こちらを観察してるようにジッと見ている。その目の中にはさっきまであった混沌は消え、氷のように凛とした、決して油断も慢心も無い騎士としての輝きがあった。

 

 「──来たか」

 

 一言、発しただけ。

 ただそれだけで俺の身体は震えて呼吸が乱れた。

 この感じは神霊の威圧を受けたものと同じもの──!

 

 「落ち着け、まだ奴は喋っただけだ。この調子では先が苦労するぞ」

 

 ふらりと体勢が崩れるもエドモンに支えられて頼れる味方がいると改めて感じたおかげで身体の震えも止まった。

 周りを見渡すとマシュも俺ほどじゃないけれど混乱していたがベディヴィエールとハサンのおかげで正気に戻っている。

 志貴さんとシエルさんは慣れているようでヴローヴの動きを一瞬でも見逃さないように見つめていた。

 

 「まさかもう一度ここで戦うとは思いませんでしたが、ここがあなたの二度目の墓場です。ヴローヴ・アルハンゲリ」

 「そうだな……確かにここは縁起が悪い。だが、それを覆してこそサーヴァントというものだろう。おれは、お前たちを殺す」

 

 ヴローヴは槍の切っ先をこちらに向ける。それに合わせてこちらも武器を構える。

 

 シエルさんが立案した作戦では、この時のヴローヴは機動力が鈍るという弱点があるということで、マシュとベディヴィエールがヴローヴの攻撃を受け流しつつ、動きを完全に止めて、ハサンとエドモンで撹乱、最後にシエルさんと志貴さんと式さんで止めを刺すという手筈になっている。

 

 だけどヴローヴは槍を構えても動くことはなかった。

 それを怪しんだが、ならばこちらからと、ベディヴィエールとエドモンが攻勢に出る。

 ベディヴィエールの剣戟とヴローヴの槍捌きが互いにぶつかり火花を散らす。その動きは俺の目には漫画のコマのように見えてしまうほど速い。

 エドモンの光線も瞬時に見抜いて相殺している。

 このまま続けても埒が明かないと判断した二人はこちらへ離脱する。

 その時に追撃を仕掛けてくるかと警戒したがヴローヴは一切しない。

 その様子を見た俺たちは流石に違和感を覚える。ヴローヴの狙いが分からない以上、こちらから仕掛けるのは危険か。

 だけどその狙いは突然鳴り響いた通信機から聞こえるダヴィンチちゃんによって明らかになった。

 

 『不味い!そっちにサーヴァントが向かっている!ロボだ!ヴローヴはロボと合流する気だ!』

 「……!」

 

 そうだ。どうして忘れていたのだろうか。

 ロボにはもう一人のサーヴァントが付いているとホームズは推理していた。

 ロボの氷塊や吹雪の攻撃は今のヴローヴとひどく似通っている部分があり、とするとヴローヴのクラスは──!

 

 「もしかしてヴローヴはランサーになってるの!?」

 『うん!理由は分からないけど今のヴローヴはセイバーじゃなくてランサーだ!いやほんと何でかなあ!

 偽装の線も考慮したけどセイバークラスだってバッチリ確定してたから安心しきってた!』

 『一つの霊基に二つのクラスが混同するのはあり得ない。ディオスクロイ然りアン・ボニー、メアリー・リード然り二人の場合も例外は無い。

 だがその例外が現れた。考えられる可能性としては別側面のクラスを同時に持っていたことだが、それが事実ならよく霊基が崩壊することはなかったものだ』

 

 別霊基の変更はカルデアではよく見かけるが、それがそもそも特別なことで普通なら霊基が二つのクラスに耐えきれずに崩れるとのこと。

 それよりも今はヴローヴとロボの合流を防ぐべきだ。

 一気に勝負を着けるべく、全員で攻撃を開始する。

 だけど──

 

 「無駄だ。この距離ならば“喚べる”。

 来い、我が相棒、魔狼“フェンリル”──!」

 

 ヴローヴの発した言葉に疑問が浮かんだ瞬間、召喚した時に起きる光が周囲を包んだ。

 

 「■■■■──!」

 

 光が収まり視界が回復してすぐに咆哮が俺たちの耳に襲いかかる。

 この咆哮が誰のものなのか、そんなのはすでに答えは出ている。ロボがヴローヴの召喚に応じてこの場に現れたことに危機感を覚える。

 だけどそのロボの姿を見た時、絶句するしかなかった。

 

 

 

 ──その獣はもはやロボと呼べるものではなかった。

 形こそ狼の姿を保っているが、身体の左半分は痛々しいと思わせるほどに氷に纏われていて、冷気が常に流れ、周囲を凍らせている。

 彼が咥えていた鎌も元々あった禍々しさに加えて刺々しい氷が覆われておりさらに凶悪になっていた。

 そして、彼に──復讐者ロボにあった慈しむ心すらも失くしたのを証明するように全てを見下した眼。

 それは、彼を知る者として到底許せるものではなかった。

 

 「ロボに……彼に何をした!」

 

 気付けば俺は恐怖を忘れて声を荒らげてヴローヴに強く問い詰める。誤魔化すのは許さないと睨みつける。

 ヴローヴはそれを特に気にせずにロボの毛並みを触る。そして独り言を話すように淡々と口にした。

 

 「調教しただけだ。抵抗したからな、おれの原理を少し霊基に入れた。

 ──ああ、そういえば上に何かいたな。邪魔だったから燃やしたが、消滅したか確認してなかったな」

 「な……!」

 

 ヴローヴの語った内容に絶句するしかない俺たちを余所に、ヴローヴは全力の殺気を出して標的となった俺たちに宣言する。

 

 「太陽は沈み、我らの時間が来た。

 死神よ、抜け殻よ。前回の借りは返させてもらう。

 そして死徒を知らぬカルデアよ。我が実力を以て、貴様らを討ち果たす!」

 

 騎士は魔狼に跨り、全てを打ち砕く槍をこちらに構えて突き進む。

 来訪者たちは、死徒と対峙してきた彼らと共に迎え撃つ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ではカルデアの諸君。これが第一の関門だ。

 あまり期待はしていないが頑張ってくれたまえ。善戦を期待している。

 何しろ、一方が強いと劇というのはつまらないのだから──

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