Fate/GrandOrder×月姫 死徒徘徊都市 総耶 作:ryugann
ヴローヴは寒さを司る原理を持っているが故に機動力は無いに等しい。それがヴローヴと戦ったことがある志貴さんたちの常識だった。
それを踏まえて作戦を立てたが、それは全て破算となった。
何故なら今のヴローヴはフェンリル──元はロボだった存在に跨ってこちらを襲ってきているからだ。
こうして機動力というヴローヴの弱点はフェンリルという追加された要素によって克服されたのだった。
「全員散開!」
誰が言ったのか、志貴さんかシエルさんか。はたまた俺たちのうちの誰かか。
その言葉に従って二手に跳躍してヴローヴの突進を回避する。
「甘い」
呟かれた言葉がこの逼迫した空間に響き渡ると同時にヴローヴの周りから急に氷塊が円状に出現し、発射される。
俺はマシュに守られながら、その他の皆は器用に躱したり持っている武器で迎え撃っている。
俺がいる方にはマシュ、べディヴィエール、志貴さん。向こう側にはシエルさん、エドモン、ハサン、式さんと分断されてしまった。
突進から態勢を戻したヴローヴは瞬時に分断された俺たちを見て戦力を確かめている。
果たしてどちらから仕留めるか。
ヴローヴはフェンリルと共にサーヴァントたちの要である俺がいる方を狙って突撃を始めた。
だけどさっきと違う点は既に氷塊が展開されており、逃げ場が塞がれたこと。そして槍の切っ先を完全に仕留めんと構えていること。
でも、それをエドモンたちが放っておくことはありえない。
そもそもヴローヴがそんな隙を見せるか。何かある。そう確信し、周囲を警戒する。
そして、その答えは向こうの方で見えた人影ですぐに判明することになった。
よく見るとエドモンたちは何かと交戦していた。あの姿は見覚えがある。
かつてキャメロットで獅子王に仕え、その後もチェイテや妖精國でも見た騎士。
「粛清騎士!?」
『いや違う!姿は粛清騎士だけど中身はただの死徒だ!』
ダウィンチちゃんの言う通り、シエルさんの投げた黒鍵が兜を割ってこぼれた中身はレイシフト直後に見た死徒と同じだった。
いや、その死徒は身体が凍っていた。
「秘蔵の騎士団だ。時間稼ぎには使える」
誇るわけでも驕ったわけでもないその口は決して笑ってはないことから本当にただ説明しただけだということを嫌でも理解してしまう。
油断などするはずもなく、フェンリルのスピードを乗せて槍が一点を貫かんとする。
それを受けるは円卓が誇る最高の騎士、マシュ・キリエライトとべディヴィエール。
マシュが槍を、べディヴィエールがフェンリルを。
騎士と騎士が激突したその瞬間──爆音にも等しい衝突音が辺り一帯を震わせた。
結果は、互いが吹き飛ばされていた。
最初に動いたのはべディヴィエールだった。彼は義腕をフェンリルの前足に直撃させてスピードを殺し、マシュがその反動と共にヴローヴの槍にぶつかったのだ。
威力を殺して受けた一撃でも二人は吹き飛ばされ、ヴローヴとフェンリルも二人ほどではないにしろ、後退することになる。
急いでマシュたちを起こしに向かうが、それをみすみす逃すヴローヴではない。
「やれ、騎士たちよ!」
地中から粛清騎士の姿をした死徒が現れる。守る手段がない俺を騎士たちは躊躇なく剣を振り下ろす。
「させるか──!」
志貴さんのナイフが騎士の剣をバターのように斬り、そのままがら空きになった身体に刺した。途端に騎士は倒れてそのまま灰になる。
その現象には見覚えがある。今も向こうで戦っている式さんがしていることと瓜二つで、もしかして志貴さんも持っているのかと疑う。
「急げ!俺がこいつらを止める!マシュさんのところに行け!」
「……!うん、分かった!」
だけどその思考は今することじゃない。志貴さんに騎士の相手を任せてマシュたちのところへ向かった。
何とか辿り着いたがマシュたちは戦闘不能にはなっていなかったが衰弱していた。
「マシュ、べディ!大丈夫!?」
「は、い……何とか……」
「すみません、マスター。私が不甲斐ないばかりに……」
「そんなのはいいから!」
急いでマシュたちに魔力を供給させる。これで最低限、身体は動かせるだろう。
「ダウィンチちゃん!状況は!」
『エドモンたちは粛清騎士と戦っている!そっちは何とかなりそうだけど、足止めしている彼が問題だ!
今、騎士だけじゃなくてヴローヴとフェンリルとも交戦している!急いで援護に向かってくれ!』
「了解!」
『こらえろ、藤丸!今、至急で追加戦力を送る準備をしている!それまで何とか……!』
その後のことはもう聞いてはなかった。俺は急いで来た道を戻って今も戦ってくれてる志貴の元へ走る。
頼む……間に合ってくれ……!
「何!?今何て言った、経営顧問!追加戦力は送るなだと!」
その頃、管制室もまた大きな騒ぎが起こっていた。
追加戦力の手配をしていたゴルドルフにホームズが止めるよう言ったのだ。
この緊急事態の時に、藤丸やマシュ、カルデアのサーヴァントの命の危機が迫っているというこの状況下でその言葉はゴルドルフの怒りに触れてしまい、怒鳴っていた。
それに待ったをかけたのはダウィンチちゃんとシオンだった。
「待ってゴルドルフ君。君の言いたいことも分かるけどホームズの考えを聞こう。まずはそれからだよ」
「ええ、ホームズ氏がこの状況で言うということは何かあるんでしょう。リラックスしましょう。落ち着いていれば見えるものもあります」
「……そうだな。私としたことが指揮官として大事なことを忘れていた。
では経営顧問、話してくれ。なぜそんなことを言ったのかを」
落ち着いたゴルドルフにホームズも素直に自分の考えを話す。
「確かに援軍を送る必要があるのは分かります。ですがそれをするに当たって懸念事項があります。
未だ解明されていない魔力の徴税です。あれがあってはいくら援軍を送っても精々宝具を一発撃つのが限度でしょう。それで倒せればいいですが、最悪を考えるべきかと」
ホームズの説明に納得はしたが、今も死地にいる彼らに何もすることが出来ないことを認められないようで苦い顔をしている。
だがそれはすぐに消え、何か決意をしたのかモニターの通信機の前に向いた。
「確かに経営顧問の言う通り、援軍は送れない。それについては納得したが、それでも何も出来ないわけではない!
すまないが、そこのマリーンズ。孔明とオデュッセウス、それから織田信長を呼んでくれ!彼らの知識が必要だ、大至急頼んだ!」
「ラジャー!」
急いで管制室から出るマリーンズ。既に館内放送で招集をかけているからすぐに集まってくれるだろう。
モニターで戦況を見逃さないようにするゴルドルフは傍から見ればさぞ名のある指揮官と思わせる風格を漂わせていた。
「
スタッフたちもその姿に影響を受け、現在飛び交っている情報を更に精密に捉えようと動き出していた。
当然、ダウィンチたちも例外ではなかった。
「ゴルドルフ君もだいぶ指揮官らしくなったね。こっちも負けちゃいられないよ」
「確かに。我々も彼のような不死鳥の如く諦めないその姿を見習うべきだ」
「と、そんなことを言って、頭はフル回転してますよね。さて、どれだけ謎は解けましたか?」
「それに関してだが、エルメロイ二世たちと合流してからだ。今までもそうだが、今回は特に間違ってはいけないからね」
「成程、了解しました。では私もそれに参加させてもらいますね」
先ほどまで消沈していた空気が不死鳥の炎によって焼却され、誰も彼もがいつものように、されど気を緩めたりせずに走り回る。
カルデアは、まだ負けてはいない──
藤丸立香はマシュとべディヴィエールを引き連れて全速力で来た道を戻っている。
粛清騎士の足止めを受けた志貴が現在、ヴローヴと交戦中だと通信から分かったからだ。
数分もしないうちに戻ってきたが、今日、何度目かの絶句が襲った。
志貴は生きていた。
だがそれもギリギリで、ヴローヴとフェンリルの攻撃を皮一枚で躱している状況だ。
ちらりとエドモンたちの方を見る。向こうにいる粛清騎士とゾンビたちの数は減っていて、あと少し耐えれば合流出来る。
なら、なんとかいける──!
直後、一発の発砲音が鳴り響いた。
それは立香たちではなく、志貴やシエルさんのものでも無かった。ならば、一体誰が?その音が響いた方を見れば分かる。
そして、絶望に至る。
全身黒ずくめの服装に鳥を模した仮面。それはかつてロシア異聞帯で、フィニス・カルデア崩壊時の原因の一端として相まみえたそれは、脈絡もなく突然現れた。
「オプリ、チニキ……?」
確か、あれはイヴァン雷帝の宝具なのに、何故?
いやシエルさんは言っていた。この特異点で退去したサーヴァントの中にはイヴァン雷帝も含まれていた。
だからますます分からない。何故退去したサーヴァントの宝具が今も動いているのかを。
「……“混沌”め。余計な真似を」
オプリチニキがどれだけいるか分からない。だけど五十を超える数は一斉に全方向から俺たちの方に雪崩のように迫ってくる。
『いかん、奴ら物量で押し潰す気か!マスター、一点集中で囲みを崩せ!』
信長の声が聞こえるが、そうはいかない。
瀕死になっている志貴を見捨てることは出来ないし、なによりヴローヴは逃がす気は毛頭ない。
「これで詰みだ。“混沌”の介入は予想外だったが、こういう事もあるだろう。雑兵に潰される最期は不本意だろう。せめておれの手で終わらせよう」
槍を構える。それに合わせてフェンリルも助走の準備を始める。粛清騎士もオプリチニキに合わせて突撃を始める。
可能性があるのは信長が言っていた一点集中だけ。
「べディ、いける?」
「お任せを。カムランの戦いに比べればこの程度、突破など容易い!」
霊基に大きなダメージを負っているにも関わらず、その絶対だと疑わない自信が安心させてくれる。
──でも、自分で言ったことだからちょっと恥ずかしいけどもう大丈夫だった。
つい先ほど気付いたが、今、近くにサーヴァントがいる。
それも敵ではない。令呪から感じる温もりがカルデアで召喚された英霊だということを証明してくれている。
そして彼はやってきた。
「──
その言葉が吸血鬼たちの耳に届く前に、地面から生えた槍が彼らを襲った。
周囲から距離を詰めていた粛清騎士は鎧ごと、悲鳴を上げることさえ許されずに貫かれ、疾走していたオプリチニキたちも例外は許されないと言わんばかりに磔刑に処され勢いは止まった。
ヴローヴとフェンリルだが、野生の勘が働いたのか空中に避難して難を逃れていた。
そして俺たちにはその槍が向けられることはなく、急いで合流することが出来た。
「一体、何が起きたんですか?」
この現象を初めて見た二人は戸惑っているが、心配することはないと伝える。
「大丈夫です。これは俺たちの仲間がやってくれたんです。
それにしても……大丈夫ですか“将軍”ー!魔力すっからかんになってると思いますがー!」
「馬鹿め!私がたかが魔力不足で、己のマスターを、友を見殺しにする気はない!だが安心せよ!」
俺の心配を真っ向から打ち砕き、陥没した地表に彼は降り立った。
黒い甲冑に血濡れのマント。その狂気とも言える信仰にその身を捧げ、数多の侵略から国を守った武人。
その真名は──
「ヴラド三世、遅参したその罪は今、この武功によって拭わせてもらう!」
ヴラド将軍──カルデアには二人いるため公と将軍で呼ばせてもらっている──が来たことで戦況はだいぶ変わった。
だけどヴローヴとフェンリルは今だ健在であり、ヴラド将軍の宝具から生き延びた粛清騎士やオプリチニキも少なからずいる。
ここが正念場だ。油断するつもりはないが何で足を掬われるか分からない。
『よーし、オデュッセウスと孔明も合流したし、こっちからのサポートは任せてくれたまえ!』
「よし!皆──いくぞ!!」
「「了解!!」」