Fate/GrandOrder×月姫 死徒徘徊都市 総耶 作:ryugann
ヴローヴと
だが油断は許されない。
ヴラドの宝具から生き残った者も確認されているのもあるがなによりもヴローヴとフェンリルは健在。
さあ、どこから巻き返すか───。
「将軍、これを飲んで!」
「む、これは……?おお、魔力が回復した!」
俺はヴラドに水が入っているペットボトルを渡すと彼は疑念を抱いたが躊躇うことなくそれを飲み干すと、自身の魔力が戻ったことに驚いている。こちらも効果がちゃんと発揮されて良かったと内心ホッとしている。
無論、この水はただの水ではない。
ヴローヴのところへ向かう前、カルデアからの解析で一つ分かったことがあったのだ。
実は遠野邸の水には良質な魔力が混入しているらしい。
魔術の総本山である時計塔も欲しがるレベルの霊脈があるせいなのか或いはこの特異点特有のものかは分からないがそれでもこの情報はこちらにとって重要なものだった。
すぐさまゴルドルフ所長とダウィンチちゃんが秋葉さんに交渉してその結果、この水を好きなだけ使っても良いと許可をもらえた。
マシュとべディヴィエールもこれのおかげですぐに前線へ復帰出来たのだから戻ったら所長たちと秋葉さんに感謝しなければならないと心に誓う。
ちなみに俺には害は無いとのことだ。
宝具を使った消費分とレイシフト時に発生する徴税分はこれで補給出来たから魔力切れで退去するなんてことは無くなったがこれも無限にあるわけではないので出来る限り消費するのは避けたい。
「それにしても、吸血鬼らをどうやって攻略するべきか……。将を射んとすればまず馬からと言いますが……」
「馬というか狼だが、そう上手くはいかないだろう。それに下手すれば将よりも厄介だ」
「なら、あの二体を分断するしかありませんね。はっ!」
今もなお突き刺さっているヴラドの槍を掻い潜ろうと登っていた粛正騎士やオプリチニキを倒しながら、どうやって倒すか話し合っているが良い案が浮かんでこない。
シエルさんのヴローヴとフェンリルを分断させるのは良いと思うが、どうやって分断させるかの方法が出てこない。
時間が無意味に消費されてる中、とうとうヴローヴの回避によって生じたクールタイムも終わり、突き刺さる槍を一閃で打ち砕きながらこちらに向かってきている。
「よし!とりあえず臨機応変に対応していって隙があったら分断していこう!ひとまず──」
急いで散開するよう口を開こうとしたら、シエルさんが腕を出して制止するように合図を出した。
何事かと思っていると顔に焦りを見せる志貴さんが空を見上げていた。
「御安心ください。もうすぐヴローヴたちは分断されます。後、ついでに周囲の敵も一掃されますのでそのままでいてくれれば」
えっ──と頭が理解する前に志貴さんが大声で叫んだ。
「嘘でしょ、先輩!?全員ここから動くなーー!!」
それが響き渡った直後、流星群が降ってきたのかと疑うほどの大量の光が轟音と共に地面に突撃した。
ヴラドの宝具から生き残った粛正騎士やオプリチニキは何が起きたか分からぬまま吹き飛ばされて死んだ者もいればなんとか持ってる武器で弾き返す猛者もいた。
だが無限のように降り注ぐそれを相手に無駄な足掻きで、すぐに限界が来て前者と同じような結末が訪れた。
「何───!?」
そしてヴラドの槍から逃れて襲撃のタイミングを伺っていたヴローヴとフェンリルも例外なくこの流星群の餌食となった。
フェンリルの機動力でも逃れることは出来ないと悟ったヴローヴは躊躇いもなく相棒であるフェンリルから飛び降りて一網打尽にされることを避けたのを最後に立香の視界から消えた。
「ねえこれワシら来た意味あった?」
緊急事態と言われ、力を貸すため管制室に集まったのだが、敵は既にこの攻撃でほぼ全滅したようで何もすることがないと愚痴る信長。
「あー、うん。粛正騎士が集団で連携取ってたからそのために軍略に強い君たちを呼んだんだけど……その敵消えちゃったね……」
「むしろ良かったと思おう。マスターたちは自分たちの力でこの状況を打破した。彼らは今も成長していると喜ぶべきだ」
「───嘘でしょ?」
解析していたダウィンチがわけが分からないような声を出した。
「むっ、どうした?ダウィンチ女史」
「……あのさ、さっきの広範囲攻撃のあれね。最初は大魔術か何かだと思ってたけどそれにしては魔力反応が小さくてね。詳しく調べたら……」
「調べたら?」
その後、ダウィンチから告げられた言葉に全員が絶句し、天草に全員の視線が集まり、彼が全力で否定したのは当然であった。なお、その言葉はすぐに明かされることになる。
「ところで車椅子に乗ってそうでビーム撃っとる軍師どこいった?」
「エルメロイ氏のことですか?車椅子はよく分かりませんが彼は医務室に行きました。理由は……彼の名誉のために黙りますが」
「どうせ胃痛めただけじゃろ」
「かの軍師も中々苦労しておるの……」
流星群がようやく終わり、辺りからは砂煙が上がっており、何が起きたのかまだ分からなかった。
「一体、何が起きた……の?」
「私も何が起きたのか……確か空から何かが降ってきたのは分かりましたがそれ以上は……。カルデアからの解析を待つしかありませんが……」
『あー、解析は終わったんだけど……信じられないかもしれないけどちゃんと聞いてね?
さっきの流星群、全部黒鍵でした』
「「はい?」」
ダウィンチちゃんの言ってる意味が分からない。
黒鍵って天草が使っている武器のことだ。
シエルさんが使っているのを見たから彼女の仕業というのは分かる。分かるんだけど……。
「黒鍵って対軍宝具だっけ?」
『うん。その気持ちは分かる。でも天草がすっごい否定してるからそれはない、と思うなあ……』
『あーもう分かった!黒鍵は対軍宝具じゃないことは分かったから首ブンブン横に振るのとそのぶつぶつ否定するの止めなさい!もうすっごい電気マッサージみたいに振動しながら呪詛吐いてるようで心臓悪いから!』
……ちょっとその天草気になる。
『今録画してるから帰ったら見ようねーマスター!』
ネモ・マリーン、ナイス。
ってそんなこと言ってる場合じゃない。
「ヴローヴは!?」
『残念だけどヴローヴはまだ生きている!でもロボ──じゃない、フェンリルとは離れてる。分断は成功だ!』
ダウィンチちゃんから朗報が伝えられ、ホッとするのも束の間、砂煙の中から氷塊がこちらに向かって突撃していた。
だがエドモンが光線を放ち、相殺した。
「気を付けろ、共犯者よ。敵は戦意を失ったわけではない。ここからが正念場だ!」
敵の狙いが自分とフェンリルの分断であることは理解している。
だが、それでもこの攻撃は不死に近い再生能力を持つヴローヴでも死ぬ危険があり、フェンリルに乗っていても逃げ切れず、最悪共倒れになる可能性を考慮すればこの選択が最善だったと思っている。
ただ、相手の狙い通りに動いてしまったのは祖として、騎士として少し、癪に触る。
「おれとフェンリルを分断したからと言って勝てると思っているのならそれは甘い考えだ。妻が作った菓子よりもな。
───その下らん妄想ごと粉微塵になるまで粉砕してやる」
騎士は槍を構える。敵は全力で自分を殺す気で来る。
相棒も黒鍵が身体全体に刺さっているがまだ脅威であることを表すように唸り声を上げる。
そして砂煙は上がり、現れたのは死を纏う青年と銀腕の騎士、槍を構えた武将のたった三人だけだった。
「藤丸とマシュさんはフェンリルのところに行ってくれ」
飛び出す前、迅速にメンバー決めをしていた時、志貴さんがそんなことを言ってきた。
志貴さんが言ってくる前はヴローヴには俺とマシュ、ヴラドとベディヴィエールと志貴さん。フェンリルにはエドモンと式さんとシエルさん、そしてハサンと決めていた。
「ですが、それだとフェンリルに対する戦力に偏りが出来てしまいます。」
「マシュ。これは彼だけの意見ではなく私たちもこれに賛同しています」
志貴さんの意見に異論を唱えるマシュにベディヴィエールからまさかの言葉が告げられた。
私たちということはベディヴィエールだけじゃなくてヴラドも賛成したということ。この二人が賛同したとなると何か大きな理由があるのだろう。
「このメンバーは二手に別れたヴローヴたちをそれぞれで倒すことを前提にしているけど、それだけであいつらを倒せるとは俺は思わない。
だからどっちかが一方の足止めをして、もう一方を撃破。その後、全員で残った敵を倒した方が確実だって考えている」
「なるほど、つまり先に倒す敵はこのメンバーからしてフェンリルの方か」
「うむ。先程、銀腕の騎士から話を聞いたが、奴、ヴローヴという吸血鬼は動きが鈍いと聞く。ならばその移動手段を滅ぼした方が逃げられずに済むから我もこの案に乗った」
……確かに志貴さんの意見はこの作戦の成功率を高めてくれるものだ。その点については納得した。
だが、一つ問題がある。それは───
「確認するけど、俺たちが来るまで耐えられる?」
「───」
食い止める一方が全滅してしまえば破綻する作戦だということだ。
志貴さんは目を瞑る。彼がどう考えているのかは分からない。だけどこれは聞かなくてはいけない問題だ。
僅か数秒、精神的に数分と感じた時間の中、彼は目を開けた。
「───問題ない。俺はヴローヴと戦ったことがあるからある程度のアドバンテージは人数が多いこっちにある。それに、あいつが今最も警戒してるのは多分俺だ。なら、俺が当たればヴローヴの気は引ける。
それに、さっきの様子から見てフェンリルのことを知ってるみたいだし」
……正確に言えばロボなのだが元は彼なのだからある程度の差があっても似ている部分はあるかもしれない。
俺は、彼の意見に首を縦に振る。
マシュも何か思うところはあるのだろう。少し不安な表情を見せるが、すぐに切り替え、決意を決めた騎士の顔に変わる。
「はぁ……私は正直、遠野君の意見には個人的には反対です。───ですが、大局を見ればこの作戦は成功率が高い。反対する理由がありません。その代わり、私たちが来るまで無事でいてくださいね」
シエルさんは渋々納得し、他の皆からは反対意見は出ず、こうして作戦は決まった。
『計測からあと三十秒後に砂煙は晴れます。作戦を開始するのはその時をおすすめします』
シオンからの報告が届き、準備を終え、砂煙が落ち着くのを待つ。
あと二十秒。
「なあ、藤丸」
俺の後ろに立っている志貴──さんが背を向けたまま声をかける。
俺は後ろを向かない。
「───勝とうぜ」
「───うん」
あと、五秒。
『作戦を開始する!武運を祈る!』
ゴルドルフ所長の掛け声と共に俺たちはそれぞれの目標に向かって全力で走る。
砂煙は晴れた。
目の前には黒鍵が刺さったまま敵意を露にする左半分が凍った魔狼フェンリルが立ち塞がる。
「全員、戦闘開始!」