Fate/GrandOrder×月姫 死徒徘徊都市 総耶   作:ryugann

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凍土の騎士 ヴローヴ・アルハンゲリ

 ハサンが持つ擬似心臓が握り潰された。それを喰らったヴローヴは瞬時に身構え、己の魔力を心臓に集中させる。

 

 だが、心臓が潰される感覚はいつまでも来ない。

 不発を疑うが、それはすぐ否定し何かあると睨む。

 その時だった。

 

 「────ッ!?」

 

 身体ではなく霊基そのものにに強い衝撃が襲った。

 自身に異常は無いのに異常を霊基が伝える。それはつまり、同じ霊基を共有するフェンリルに異常が起きたということ。

 そしてその原因は間違いなくハサンであるのは明白。

 

 「貴様、フェンリルの心臓を潰したか!」

 「然り。隙を見つけた故に触れさせてもらった!」

 

 ハサンの言葉に偽りはなく、効くかどうかは分からないが保険として罠を仕掛けている時にシエル、エドモン、式と交戦していたフェンリルが近くにいたのだ。

 彼らの援護としてシャイタンの腕を解放して一か八かで賭けてみたらなんと心臓に触れることが出来たのだ。

 

 ただ気になるのは当然それに気付いたフェンリルがハサンを殺そうと前足の爪を振るおうとした時、まるで見えない壁に遮られたようにその動きを止めたこと。

 だがそれよりも問題なのはこれを潰すタイミング。

 

 ヴローヴのように潰されても再生するのなら、精々一瞬だけ動きを止めることしか出来ない。

 なら使い道はここではない。

 結論を出したハサンはこの中で最も戦場を俯瞰し、指示を出す信頼するマスターである藤丸立香にそのタイミングを委ねた。

 

 その結果がどうなったか分からない。だが、この一手が何かを成したのならこの身を賭けた甲斐があった。

 

 しかし、その代償は大きかった。

 それをヴローヴはすぐに気付いた。なにせ、己の分身とも呼べるものなのだから。

 

 「だが代償は大きいぞ!我が呪いよ!その身を蝕み尽くせ!」

 

 次の瞬間、ハサンの身体が凍り始めていく。

 そう。ハサンは心臓に触れた時、外傷は負わなかった。しかし疑似の心臓と云えど、フェンリルの心臓は原理血戒(イデアブラッド)に侵されたもの。

 仮にその時に潰していればその影響は少なかったが、今まで潰さずにいたため、呪いの侵食は身体全体を蝕んでいたのだ。

 

 「ハサン殿ッ!」

 「呪腕のっ!」

 「ハサンさんっ!」

 

 ここに来てハサンの離脱は痛い。だが、そんな中でもハサンは笑っていた。仮面で見えないのに、それがわかってしまう。

 

 「マスター殿は来る……。フェンリルは負ける。ヴローヴ・アルハンゲリ、貴様の負けだ。あとは皆さん、頼みました、ぞ……」

 

 果たすべき務めを果たし、仲間の勝利を信じて呪腕のハサンは氷像と化した。

 だが、ハサンが心臓を潰したことでフェンリルとの戦いの行方も大きく変わる。マスターである藤丸立香は必ず来る。

 その言葉は確信へと変わり、そしてハサンの退場。ならば負けるわけにはいかないとベディヴィエールたちの戦意は揺るぎない確固たる覚悟と成る。

 

 ヴローヴもその覚悟を肌で感じとり、まだ槍の届く距離にいたベディヴィエールを仕留めんと心臓を狙った一撃が放たれる。

 だが、ベディヴィエールの方が上手だった。

 銀の腕が光輝き、それと共に魔力が膨れ上がる。

 即ち、宝具。

 

 「銀の腕よ!凍土の騎士にその力を示せっ!“一閃せよ、銀色の腕(デッドエンド・アガートラム)”!!」

 

 激突する仮想聖剣と凍土より来る魔槍。

 互いが譲れないと拮抗し、軋みだす。

 

 「ぐうっ……!」

 

 死徒の持つ優れた身体能力の差で押され始める。

 

 「退きません……!絶対にっ!」

 

 だがここで退くことなど出来ない。その選択肢すら無い。

 たとえ末席と云えど、彼の誇り高きブリテンを守らんと戦った円卓の騎士の一人なのだ。

 怪物に堕ちた騎士に負けるわけにはいかない。

 その胸にあるのは円卓の騎士である誇り、マスターに仕えるサーヴァントとしての誇り。

 騎士とは仕えるに値する主の下、そして理想のために輝く存在なのだ。

 その時点で、勝負は決まっていたようなものだった。

 

 「ハアァァァァッ──!!」

 「なにっ……!?」

 

 ──次の瞬間、光輝く仮想聖剣の一閃が夜を照らした。

 それは太陽が昇ったと間違えるほどの輝きで、その場にいた者たちは目を閉じる。

 そこでヴローヴは気付いた。槍が軽くなっていることに。

 穂先に目を向けると、すべてを砕き貫かんとする槍はその面影すら残らない状態で砕かれていた。

 

 主から賜った槍が、負けた──?

 思考が停止した。だがそれを許さないと云わんばかりに強い衝撃がヴローヴの腹を貫いた。

 

 「まだ終わりではないぞ!吸血鬼っ!」

 

 主武装を失ったことを好機と見てヴラドが仕掛けたのだ。

 追撃は続く。

 貫かれた箇所から中心に全身から杭が生え、ゴミのように地を転がる。

 普通ならばこれで霊基は現界を保てずに現世から消える。それで勝負はついた──はずなのに。

 

 「グッ……ゥゥ……!」

 

 ヴローヴが消える気配は、ない。

 霊核は確実に潰した。それなのにヴローヴは立ち上がろうとしていた。魔力が一時的に尽きたのか、身体が再生する気配はないが、そんなものは気にしてる場合ではない。

 

 「ヴラド!俺なら確実に殺せるっ!」

 

 ヴローヴをこのまま放置しておくのはマズイ。直感でそう感じた志貴は一直線にヴローヴの“点”を断つために飛び出す。

 ベディヴィエールが義腕でもがくヴローヴを押さえつける。

 

 「今ですっ!志貴殿!」

 「ああ!ここで仕留め、る……?」

 

 

 

 なにか、違和感があった。

 自分の前にあるヴローヴの生命の源である“点”。それはサーヴァントにとっては霊核であるもので、それを彼は何度も見てきた。交戦している時もヴローヴの“点”はそれと同じもの、だった。

 

 だが、なにかが違う。

 こうして目の前まで近づけたからこそ気付けた。

 

 ──ヴローヴの霊核は、なかった

 

 否、正確には霊核と呼べるものにナニかが覆っていた。

 その正体に気付けたのは生前のヴローヴと戦っていたから。

 

 ヴローヴの霊核は、ヴローヴの原理血戒(イデアブラッド)に乗っ取られていた。

 

 「ベディヴィエールさん!避け──!?」

 

 それは先ほど、人理に召喚されたサーヴァントたちを壊滅に追い込むほどではないにしても周囲にいる者を吹き飛ばすほどの吹雪が吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 ──もしも、呪いに負けたオレならば。

 きっと醜く暴れて消滅しただろう。

 

 ──真祖の姫と、代行者と戦ったオレだったら。

 きっとこの結末に勝手に満足して逝っただろう。

 

 だが、忠義の騎士(ベディヴィエール)が言った。

 「──胸を張って騎士を名乗れるのか!」

 

 ──そうだ。オレはご当主様の騎士と呼べる存在ではない。

 蛇に誑かされたとはいえ、主を殺したオレがどうして甦らせただけで騎士に戻れると思ったのだ。

 それはただゼロになっただけでしかない。

 だからこそ、オレは──

 

 

 

 

 「──これは意地だ」

 

 吹き飛ばされた志貴たちが周囲の状況を把握しようと立ち上がった時だった。

 

 ヴラドはヴローヴから最も離れていたから被害は最小限でヴローヴの異変に真っ先に気付けた。

 ベディヴィエールはヴローヴを仕留める志貴を援護するため至近距離にいたことで身体の一部が凍ってしまい、動けるのに時間がかかるだろう。

 志貴もヴローヴの目の前にいたが、霊核の正体を知った瞬間、脳が警鐘を鳴らしたおかげで咄嗟に後方へ跳んだことで戦線離脱するほどのダメージは避けれた。

 

 ヴローヴの声に反応し、前を見る。

 霊核が既に死んだ影響か、聖杯からの魔力供給が途絶えたようで先程の猛攻によって損傷した身体は再生していない。

 だがその部分は氷で構成されており、槍が砕けた衝撃で使い物にならなくなっていた右腕は全体を凍らせただけだというのに、問題なく動いていた。

 そして右手にはべディヴィエールが砕いた槍を模倣して作られた氷槍を、左手には炎の狂気に溺れた時に使用していた鉈が握りしめられていた。

 その瞳には理性と同時に覚悟を決めた騎士の眼が宿っていた。

 

 「フェンリルは敗れた。オレも霊核を貫かれ、退去するのも時間の問題だ。──だが」

 

 大量の氷塊が展開される。その眼には一人の暗殺者(遠野志貴)しか映っていない。

 

 「お前を倒す。真祖に、抜け殻に邪魔されたが、決着を着けさせてもらう。これでようやくオレは、騎士となる、その一歩を進める。そう考えている……!

 たとえ何も無いとしても、無駄だとしても──最後の勝ちは、譲らんぞ……!遠野志貴──ッ!!」

 「……ああ」

 

 その執念とも呼べるその感情に、俺はこんな時なのに理解してしまう。分かってしまった。

 ヴローヴとの因縁は彼女(・・)から始まった。

 その最期に立ち合い、全てが終わったはずなのに、ここで退けば俺もサーヴァントになった理由が分からなくなってしまう。そう思えた。

 だから、俺の手に握られたナイフを奴に向けた。

 

 「──ショウタイムだ、吸血鬼。因果因縁その他諸共、ここで終わらせる(殺す)

 

 その眼に映るのは一人の騎士。

 あの夜の再演を──始めよう。

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