Fate/GrandOrder×月姫 死徒徘徊都市 総耶   作:ryugann

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死者の洗礼

 レイシフト特有の浮遊感がなくなり、冬特有のあらゆる生命にとって厳しい自然の風が身体に当たる。

 それでレイシフトが終わったと分かり、瞼を開ける。

 

 そこは薄暗い都市部の路地裏で遠くから聞こえる喧騒と夜なのに強い光が闇を追い出していることからかなり発展している都市だと分かった。

 

 それは今まで灯りが無かった、或いはその技術が発達しなかった時代にレイシフトしてきた立香たちにとって慣れないものだった。

 しかしラスベガスや秋葉原など現代の特異点にレイシフトしたこともあったがそれでもこの都心部の光はこの国で生まれた立香にとって懐かしいものに違いなかった。

 

 「先輩?どうかしましたか?」

 「いや何でもないよ。ただ、ちょっと懐かしくてね」

 

 最後にこの光景を見たのはいつだったか。家族で高校受験で合格したお祝いでここに連れてきてもらった時か。友達と長期の休みで遊びに行った時か。

 そのどれもが俺の大切な思い出に変わりない。

 

 「おい、いつまでボケっとしてるんだ」

 

 後ろから式さんの声が聞こえてきた。

 彼女もこの特異点解決のために選ばれたメンバーの一人で合流できたのはまだ彼女だけだ。

 

 「ごめん、どうしたの式さん?」

 「どうしたじゃないだろ、いくら現代に近いからってここは特異点だ。

 何か出ないうちにさっさとここを抜けるぞ。情報収集もしないといけないんだろう?」

 

 確かにここは式さんの言う通り特異点だ。何が出てくるか分からないし人のいる方に向かったほうがいいだろう。

 マシュもいつの間にか武装を解いてカルデアで見かけるパーカー姿になって人混みに入れるようにしている。

 俺の身に付けている礼装も2014年と現代に近いから違和感が無いようなかなかオシャレな服装になっている。

 準備が整ったのでこの路地裏とはおさらばしよう。

 

 「そこの二人、何してるのかな」

 

 後ろから懐中電灯の光が照らされて光源の方を振り向くと二人の警察官が立っていた。

 警察官から見ると俺たちはこんな薄暗い路地裏にたむろっている非行集団にしか見えないのだろう。手慣れているようで逃げられないように、さりとてどちらかが襲われてもすぐに助けられるぐらいの範囲で囲んでくる。

 

 「とりあえず交番まで来てもらえる?話はそこで聞くから」

 「先輩、どうしましょう?このまま着いていった方が安全に出れるのではないでしょうか?」

 

 警察官には聞こえないよう小声で言うマシュの意見について吟味する。

 俺たちはこのあたりのことなど何も知らず、どこになにがあるのかまったく分からない。最悪今日はこの路地裏から抜けられないかもしれないことも考慮しないといけない。

 だったら土地勘のある人に案内してもらえれば助かるしこのあたりの情報も教えてもらえれば一石二鳥だ。

 

 「俺もマシュの意見に賛成だよ」

 

 ひとまず警察のお世話になることを決めた俺たちは抵抗はしないと手を挙げた。

 

 「気を付けてほしいもんだよ。最近この街じゃ吸血鬼事件が起こってるんだから。まあ君たちは無事で良かったよ」

 大人しく着いてくると分かったのか警戒心を解いた警察官の一人がそんなことを口に出した。

 「吸血鬼事件?」

 

 それは吸血鬼という生き物が実在することを知っている俺たちにとって聞き捨てならないものだった。

 

 「おや、知らないのかい?一月前から起きてる事件でね。こういう人気の無い場所で死体が見つかったんだ。それがただの死体じゃなくて血が抜かれたのがたくさん。

 それをマスコミが吸血鬼の仕業なんて揶揄して世間じゃそう言う名前で通っているんだ」

 

 喋ってくれてる警察官には悪いけど気づかれないよう小声で緊急会議を行う。

 

 「吸血鬼事件と聖杯は関係あるんじゃないかな?」

 「はい、現代の警察機関はとても優秀だと聞いています。その彼らが犯人を見つけていないということは間違いなく吸血鬼の仕業です」

 

 俺もそう思うけど断定出来るほどではなく全然情報が足りない。

 もっと詳しい話をしてもらおうと警察官の方に振り向く。

 

 「すみません。その吸血鬼事件について詳しく聞かせてもらえないで──」

 

 その言葉は最後まで続くことはなかった。当然だろう。

 

 

 

 後ろに人の形をしたものが警察官を襲おうとしていたのだから。

 

 「マ──」

 

 シュ、と名前を呼ばれる前に彼女は一瞬で武装をし、警察官二人の合間をすり抜けて自慢の盾で襲撃者を吹き飛ばした。

 襲撃者は重力の法則に従い落下してコンクリートの地面に鈍い音を出して頭からぶつけ、そのままピクリとも動かなくなった。

 

 「な……!」

 

 一瞬の間で起きた出来事呆気に取られ、固まってしまう警察官。だがその隙をそれらは逃すわけも無く、声にもならない叫びとともに噛り付こうと──。

 

 「させるわけないだろ」

 

 警察官に見つかる直前に気配遮断によって姿を消していた少女──両儀式──が姿を現し、死角に入られたそれらは彼女のナイフでまるでバターを切るかのように勢いが止まることなく切断され肉片と化した。

 

 「式さん!」

 

 どこに行ったのか内心慌てていた立香は無事だったことによる安堵と警察官を守ってくれたことへの感謝を込めて両儀式の名を呼ぶ。

 

 「おいマスター!分かっていると思うがこいつらはもう人間じゃない!線が多すぎる!」

 

 遠くから何かが来ている。おそらくこの騒ぎを聞いて駆けつけてきた増援だろう。

 だけど音からしてそこまで多くはない。ならいける。

 

 「マシュは後ろの二人を守ることに専念して!式さんは無理に前に出ないで着実に倒していって!」

 「「了解(しました)!」」

 

 襲いかかってくる死体は依然として警察官の二人を目標として攻めてくるがマシュによって阻まれ、盾で吹き飛ばされてそのまま戦闘不能になったり、動きが止まった隙を突いた式さんによって文字通りバラバラになるなど特に苦戦することなく襲撃者を殲滅することが出来た。

 

 

 

 「二人ともお疲れ様」

 

 戦闘が終わった二人に労いの言葉をかけて魔力を補給させる。

 そこまで魔力は消費されていないと思うが念のためだ。その間に警察官の無事を確認する。

 警察官の人たちはさっきまで起こっていたことへの脳の情報処理が間に合わなかったのかいつの間にか倒れていた。

 でも脈はある。生きている。

 

 「良かった...」

 

 守れた。何度もやってきたことだがやり遂げたことで心底安心する。

 その時、腕に付けている通信機が反応し始めた。

 

 『藤丸君、聞こえるかい!藤丸君、聞こえるかい!』

 

 通信が繋がったことに気付いてないのか何度も応答を呼びかけるダウィンチの声に一瞬驚いたがすぐに応答する。

 

 「ダウィンチちゃん!」

 

 『良かった……。みんな、藤丸君とマシュは無事だ!』

 通信越しでも歓喜するスタッフたちの声も聞こえてくる。

 『おい!本当に二人とも無事なのかね!?嘘とか言ったらゴッフスペシャルは無しだからね!特に藤丸!』

 「ゴルドルフさん!」

 

 通信が繋がったことを察したマシュが立香の横に行くと所長の姿が見えた。

 

 「ようやく繋がったみたいだな。安心しろ所長さん、オレがいたんだ。全員無事だ」

 『その声は両儀式か。……うむ、君が言うのだから間違いないのだろう。ならば現在の状況を伝えてくれんか。少しでも情報が欲しい』

 

 そこまで俺は信用が無いのかと少しショックだったけど今まであったことを話した。

 

 

 

 『吸血鬼事件……か。少し待ってなさい。今から吸血鬼の逸話がある人物を探すから』

 『いいえ、その必要はありませんよ』

 

 手がかりを集めるべく動く所長にシオンさんが待ったをかけた。

 

 『どういうことかね、シオン君?』

 『この事件を起こしているのはサーヴァントじゃないってことです。これは私の専門なのでこの解明は私に任せてください』

 『そ、そうか。なら頼んだぞ』

 

 シオンさんに押し負けた所長はシオンさんに通信を譲った。シオンさんの顔は何に勝ったのか分からないけど勝ち誇った表情をしていた。

 

 『では失礼して。もう一度言いますからちゃんと聞いてくださいね。この特異点で起きてる吸血鬼事件、それにサーヴァントが関与してる可能性はありません。ナイナイです』

 「じゃあ、誰がやってるんですか?」

 

 犯人がサーヴァントでないのなら誰がこんなことをしているか分からない。

 だがシオンさんが次に言った言葉は俺の耳を疑うものだった。

 

 『ではその質問にお答えしましょう。

 結論から言いますと、犯人は吸血鬼そのものです。いやー吸血鬼事件って中々的を得てますね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし彼らは気付かない。

 一時の小競り合いが終わり、安心している時ほど油断は禁物だということを。

 サーヴァントは関係ない?馬鹿馬鹿しい。ここが特異点である以上、彼らはどんな形であろうと現れる。

 

 その証拠に、カルデアの探知をくぐり抜いて、彼らを睨む者が存在した。

 

 「……あれが、カルデアか」

 

 血を求めて徘徊していた時、忌々しい“同僚”の眷属の気配が消えたのを察知し、不本意ながら敵の戦力を確認しにここまで出向いたのだが。

 非力な人間一人。盾を持つ英霊の混ざりものが一体。ナイフを持った女、恐らく暗殺者(アサシン)が一体。

 どれも恐るるに足りない、いや──

 

 「あの女……死を視たな」

 

 でなければ刃が短いナイフであそこまで綺麗に切れるはずがない。一段階警戒を上げるとしよう。

 ちょうどその時、隣に我が相棒(・・)が到着する。だがその眼は既に自分ではなくカルデアに向けられている。

 

 「良いだろう。少し早いが狩りの時間だ。行け」

 

 その言葉が広がる前に相棒は既に動いていた。余程、彼らが憎いとみた。

 

 「だがそれでいい。猟犬(・・)とは臆病よりも血気盛んな方がこの場合は良い。それにしても」

 

 それは肺の中に溜まった異物を吐き出すように、大きく息を吐いた。

 その息は白く、大気が凍る。

 そして口元から見える尖った犬歯。それはまるで、

 

 「──ここは、寒い」

 

 吸血鬼のようだった。

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