Fate/GrandOrder×月姫 死徒徘徊都市 総耶   作:ryugann

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火炎の吸血鬼 ヴローヴ・アルハンゲリ

 『我が名はヴローヴ、ヴローヴ・アルハンゲリ。死徒の王、二十七ある祖の一角(一人)として不相応にも立ってしまった愚者の名だ』

 

 藤丸君たちの前に立ちはだかるヴローヴという死徒を見た瞬間、私に悪寒が走った。

 あれは敵だ。打ち倒すべき敵なのに──勝てないと、逆らってはいけないという絶対的な恐怖に包まれた。

 

 「シオン君大丈夫かね!?どうしたのそんな顔色悪くなって!」

 「あ、ああ…すみません……ダメ、です」

 「えっ?」

 「あれと、ヴローヴと戦ったらダメです……ロボなんかよりもっと恐ろしい存在です……あれは。絶対に勝てない……!」

 「……解析班の見解は?」

 

 顔が青くなって倒れようとするシオンをゴルドルフと駆け付けたネモ・ナースが介抱している間にダウィンチが情報の収集を開始する。

 

 「はい、解析によるとヴローヴと名乗った死徒もサーヴァントの反応が出ました。クラスは剣士(セイバー)。魔力に関してはシオンさんの言ってる通り、ロボさんより高いです。それにこちらからも聖杯の魔力を確認しましたが聖杯を持ってるかはロボさんの件もあるので怪しいですね」

 「失礼、ヴローヴのクラスがセイバー、ですか?」

 

 プロフェッサーが解析時の報告をすると、さっきまで推理に耽っていたホームズが突然質問してきた。

 いきなりのことなのでプロフェッサーは慌てて質問に答える。

 

 「は、はいー、間違いなくヴローヴさんはセイバーだと思います、が……?」

 「ふむ……矛盾している」

 「?矛盾って?」

 

 ホームズの矛盾という言葉が引っかかりゴルドルフがどういうことなのか説明を求める。

 シオンだが、ゴルドルフとネモ・ナースの介抱のおかげで体調は取り戻している。

 

 「はい、それについてはロボの件から話さないといけません。

 本来ロボというサーヴァントは英霊に至る程の霊基ではない幻霊でしたが、同じ幻霊であったへシアンと融合することで英霊となった稀なサーヴァントです。だからこそロボが単体で英霊になるのはおかしい。

 私は彼が英霊となった原因がどこかにいる。ヴローヴがそうだと考えましたが、違った」

 「彼がセイバーで、ロボがランサーだからかい?」

 「その通り。同じ霊基なら同じクラスでないといけない。それは絶対の条件です。そうでなければ霊基が崩壊しかねない」

 

 ロボとヴローヴの共通点がカルデアの敵であることしか分からない現状、この推理は手がかりが無ければ進まない。

 そう判断したホームズはひとまず考えることを止めて目の前の難事の対処を始める。

 そしてその時、モニター越しに映るヴローヴは戦闘を始めていた。

 

 

 

 

 ヴローヴは真名を明かすとすぐに左手をかざして炎の手を出現させると、こちらに向かって襲ってきた。

 それを式さんがナイフで切断し、霧散させる。

 だけどヴローヴは炎の手を放った後にすぐに動いていた。炎の手の処理をしている式さんの横を通り過ぎて俺の方へ右に持つ剣で仕留めんと差し向けた。

 

 「させません!」

 

 俺の傍にいたマシュが凶刃を防いだ。でも不味い。このままヴローヴが炎を発生させたら至近距離にいるマシュも俺も無事ではすまない。

 予想通りヴローヴは左腕をマシュの盾に向けて炎を撃とうと──

 

 「──!」

 

 戻ってきた式さんがその腕を斬ろうと迫るがヴローヴはこの好機をあっさり捨ててマシュの盾を壁に見立てて蹴り上げて後退する。その間にも放たれる炎の群れ。

 その全てを捌くのは無理だと、けれど短時間で決着を着けないと勝ち目は無いと判断した式さんは、路地裏の壁を蹴り上げて宙に跳ぶことで回避しつつヴローヴとの距離を詰める。

 接近戦に移る距離まで近づく。もはやこの距離では炎を出すより剣で戦うしかない。

 

 だが、ヴローヴは俺たちの考えの上をいった。

 

 ヴローヴは自分に有利なはずの接近戦に持ち込むことはせず、なんと地面を蹴って空を跳んだのだ。

 その後も近付こうとするが近づくたびにヴローヴは距離を取って炎の攻撃で式さんから離れている。

 明らかに式さんを警戒している。

 こうしている間にも俺たちの魔力は減っていき敗北が近づいている。

 ヴローヴもそのことを察したのだろう。疲労困憊の式さんを無視して再び俺を仕留めに迫りくる。

 

 「させ──」

 「邪魔だ。小娘」

 

 防御態勢を取ったマシュにそのまま剣で殴打して、そのまま吹っ飛ばした。その内側にいたマシュと俺、倒れている警察官もその巻き添えを喰らって飛ばれた勢いのまま壁に衝突してしまった。

 

 「グ、ウ……」

 

 動け、ない。一応この礼装には衝撃を和らげる魔術がかけられているがそれでもこの威力。辛うじて息は出来るが、意味は、もう無いのだろう。

 だって、俺の前には頭を潰さんと剣を縦に構えたヴローヴがいたのだから。

 

 「これが貴様の旅の終わりだ。死ね、カルデア」

 『藤丸君逃げて!逃げ……』

 

 通信から何か聞こえる。

 これが、俺の終わり?まだ、こんなところで人理を取り戻せてないのに。消えた友だちにたくさん託されて、生きていたのに。ここで、終わる?

 そんなの──認めたくない!

 令呪を持つ右手に力を込める。そして、サーヴァントを呼ぼうとしたその時──死を、圧倒的な死を感じた。

 

 「──ッ!」

 

 頭まで後、数ミリまでというところまで剣が振り下ろされた時、ヴローヴはその気配に気付き、気配のする街中の方角を睨む。

 俺の目にはヴローヴの背中しか映らないけど、分かってしまう。ヴローヴはこの世のものとは思えないような形相でそれを視界に入れようとしている。明らかに俺たちよりも警戒している。

 その時だった。

 上空から銀の光がヴローヴに直撃し、俺の身体が宙に浮いていることに気が付いた。

 

 「ご無事ですか、マスター殿!」

 

 黒の外套に身を隠した髑髏の面が俺を覗きこんだ。この姿を、この声を、俺は知っている。

 

 「ハサン……!」

 「遅くなり申し訳ありません。とにかく、今はこの場を離れるのが先決でしょう!“べディヴィエール”殿!」

 「ええ、承知しました!サー・マシュ、立てますか」

 「べディ、ヴィエールさん……」

 

 式さんと同じ特異点解決のメンバーの二人、呪腕のハサンとべディヴィエールは別の何かに気を取られているヴローヴの隙を突いて倒れている俺やマシュ、警察官二人を抱えて街を目指して走り出す。式さんがどうなったのか気になったが彼女も無事に街中を目指しつつ、後ろにいるヴローヴの動きに警戒している。

 

 「っ、急げ!さっきの比じゃない炎が来るぞ!」

 

 逃げる俺たちの気配を感じて、目の前に迫ろうとする気配への対処よりも目標の始末を優先したヴローヴが炎を繰り出そうとする。だが──

 

 「ハサン殿!」

 「ご安心を!──既に奴の心臓には触れている!」

 

 ハサンの腕を見ると巻かれている帯は外されており、赤い悪魔の腕が現れていた。そしてその手の中にある心臓。

 

 「これで終いだ!“魂なぞ飴細工、苦悶を溢せ──妄想心音(ザバーニーヤ)”!」

 

 悪魔の腕が一切の容赦も無く、鼓動をする心臓を握り潰した。

 その瞬間、ヴローヴの全ての行動が時が止まったように停止し、その顔が苦悶の表情に歪んだ。

 

 「ガ、アアアアアアアアアアアア!!」

 

 その一秒後、悲痛な叫びが路地裏に響き渡る。これで終わりだ。どんなサーヴァントでも人であるなら心臓という器官の重要さは英霊になっても変わらない。それが潰されたのならチェックメイト。

 だが、

 

 「待、て……!逃がさんぞ、カルデア──!!」

 

 ヴローヴは死ぬことはなかった。

 

 「なっ……馬鹿な!?心臓を潰されたのに、何故生きている!?」

 

 心臓を潰したハサンが驚くのも無理はない。ヴローヴは倒れるどころか、さらに強くなっている。しかも最悪なことにあの様子から見て明らかに暴走している。これでは街中まで逃げても追ってくる可能性が高い。

 その証拠に今まで近づかなかった街中に続く道を何の躊躇もなく足を踏み出して迫ってくる。

 負傷者や疲れて満足に動けない者が多い俺たちでは少し離れた程度の距離ではすぐに追いつかれてしまうのは目に見えている。

 このまま街中に出て、もし一般の人がいたら関係ない戦いに巻き込んでしまう。だけどハサンやべディヴィエールが加わっても、守るものが多いこの状況では勝てないのは明白だ。

 そんな結論が着いた時だった。

 

 

 

 ハサンごと俺を両断しようとするヴローヴに吸い寄せられるように、反対方向──俺たちが目指す街中──から何十の銀の光が俺の横を通り去った。

 そしてそれは寸分の違いも許さずにヴローヴに突き刺さった。

 

 「──!おのれ、脱け殻め……!」

 

 その衝撃で正気を取り戻したヴローヴは表情こそ変わらないものの、自分の置かれている状況をすぐさま把握し、迷わず撤退を選んだ。

 

 標的の一つであるカルデアの姿は確認出来た。可能であれば仕留めたかったが、このままここにいても援軍として駆けつけた2騎のサーヴァントと姿を見せない脱け殻を何時までも相手にはしていられない。しかもおれが感じたあの気配。──間違いなく奴も近付いている。

 夜はじき終わり、太陽が起きる時まであと僅か。撤退しない理由は無く、戦闘を継続する程顔を知らない召喚者に義理は無い。

 だが、これほど追い詰めたというのに仕留め損ねたという事実は正気を失おうとも決して消えないものとなった。

 故に冷めた心の内に誓う。

 

 「次は殺す──」

 

 その誓いは誰にも聞こえずに、炎熱を操る吸血鬼は路地裏の闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

 

 「はあ、は、あ……」

 

 ヴローヴからの追撃から逃れて路地裏を脱出した俺たちは近くにあった公園で休息と怪我の治療を行っていた。

 ちなみに俺たちの中で疲労もあまりなく、ハサンと比べて不審者に間違われることがないということでべディヴィエールが適当な場所に警察官を置きに行ってる。

 

 「ひとまず応急処置はしましたのでせめて数時間は安静にしていただければ」

 「うん……ありがとう、ハサン」

 

 ハサンから怪我をした箇所の手当てを受け終わるとマシュのところへ向かった。式さんは魔力を使いすぎたと言って霊体化している。

 

 「マスター、ただいま帰還しました」

 「お帰り、べディ。あの人たちはどこに?」

 「朝が近いとはいえ、あのような者たちが現れるとは限りませんので交番の近くに」

 

 ベンチに行儀悪く寝ていると、べディヴィエールが帰っていたようだ。無事にいったようで安心した。

 ハサンとマシュの方も処置は終わったみたいでようやく一段落ついたと大きく息を吐いた。

 だけど、いつまでもゆっくりしてはいられない。こうしている間にも特異点は規模を大きくしているのだから。

 

 「よし、全員集合」

 

 ベンチから起き上がると声をかける。式さんも霊体化を解いて一つに集まる。するとカルデアから通信が入ってくる。

 

 『あーあー。これから方針も含めての作戦会議なのだろうがそれはちょっと待って聞いてほしいのだが……今そっちに敵性反応無いけど見知らぬサーヴァントが一人来てるから注意してね?』

 「おや、もうバレちゃいましたか」

 

 ゴルドルフ所長からの警告、というよりお知らせを聞くと俺たちではない声が明け方の若干明るくなった公園に響く。

 敵性反応が無いというけど、少し身構えてそのサーヴァントと対峙する。

 

 そのサーヴァントは修道服を着た女性で、編み上げブーツ特有の硬い足音を響かせながらこっちに向かってくる。

 

 「流石は死徒たちの噂になっているカルデア。サーヴァントの気配なんて簡単に探知出来るようですね。

 紹介が遅れました。裁定者(ルーラー)のクラスでこの特異点に召喚されたサーヴァント。真名をシエル。“埋葬機関”、といえば詳しい方なら分かると思いますが?」

 

 シエルと名乗ったサーヴァントは事務的に淡々と自己紹介を終えると、真っ直ぐ俺の方を見る。って式さん?何で俺の方に向かっているの?

 

  「少しは警戒しとけ」

 

 その声が俺の耳に入った瞬間、二つの金属がぶつかる音がかき消した。

 

 その音がした方──後ろを振り返ると式さんと俺と似た服を着た青年のナイフがぶつかり火花を散らしていた。

 もし式さんが来なかったら人質に取られてたか殺されてた可能性があったと気付き、背筋が凍る。

 

 『気配遮断っ!?ってことはアサシンか!全員、藤丸君を守って!』

 

 その言葉を聞く前にマシュたちは俺を中心に円陣を組み、目の前のシエルに警戒する。

 

 

 「──つまり、お互い人でなしってことか」

 「そういうことだ」

 

 どうやら式さんと青年は何か話していたようでそれが終わった瞬間にお互いが距離を取ってナイフを目の前の敵に向けていた。

 

 「まったく……“遠野君”ったら」

 

 この時、目の前にいたシエルが口を動かして何か呟いていたがその内容までは聞き取ることは出来なかった。

 

 「──まだ自分を人でなしなんて思ってるんですね」

 

 ──そしてこの日、本来存在するのか疑念があった死を視る魔眼を所有する二人が地を駆け、激突した。

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