Fate/GrandOrder×月姫 死徒徘徊都市 総耶 作:ryugann
それは偶然であり必然だった。
シエルと名乗るサーヴァントに注目しているマスターの後ろからナイフを持って近づいてきているアサシンに両儀式は気づいた。
相手から殺気がないのが不自然だったが、だからこそ今までこんな至近距離まで接近を許されたのだと理解し、一息呼吸を入れて脚に力を込めて一気に近づく。
マスターを狙う殺意無き凶刃は彼女の持つナイフの刃で防がれる。
「上手く気配は消せてたと思ったけど、まだ甘かったみたいだな」
「いや、そうでもないぜ?実際、そこにいる暗殺のプロですら何か違和感を感じるぐらいには消せてたよ」
式の言う通り、ハサンもアサシンの気配を違和感として察知し、周囲の警戒を始めていた。だが、シエルの魔力量に気を取られ、この状況を招いてしまった。
「それは、褒めているのか?でも、それならなんで分かった?」
「なに、簡単な話だ。オレはこういうのに敏感なだけだ。言ってしまえば同族嫌悪ってやつだ」
「──つまり、お互い人でなしってことか」
「そういうことだ」
その言葉を最後に二人の暗殺者はナイフ一本を手に持ち、地を駆ける。
二人の距離はそこまで遠くはないため1、2秒後には接敵する。だけどそこで攻撃することはなく、すれ違うだけ。
その瞬間で相手の攻撃範囲、身体能力、力量を計測し、目の前の敵を殺す手段を模索する。
先に動いたのはアサシンだった。
相手の力量が自分より上だと悟り、主導権を取られないように攻勢に出る。
式も相手の動きに合わせて守勢に入り、攻撃を避けていく。刃渡りの短いナイフで火花散らすような激突なぞ、自分の首を絞めることと同義だ。
実際、過去に刀が歪になったせいで避けられないはずの技が躱され、敗退したサーヴァントがいるのだからその対応は間違ってはいなかった。
やがて、疲労してきたアサシンの攻撃が鈍った一瞬の隙を突いて式は守勢から攻勢に転じる。
「クッ……!」
慌ててアサシンも応戦するが、攻勢時の疲労と力量差によって段々追い詰められていく。
だが、自分より実力がある強敵と戦った経歴があるのか、傷一つなく避けており、戦況が膠着状態に入った。
「──そこまでです。そちらも、遠野君も武器を納めてください」
式とアサシンの足元に黒鍵が刺され、その間にシエルが入ることで戦闘は終わりを告げた。
式とアサシンが戦闘を始めた直後のこと。
藤丸立香とそれを守るように円陣を組んだマシュたちは後方で戦っている式をいつでも援護出来るように気を配りながらシエルと相対する。
「後ろで仲間が戦っているのに、薄情ですね」
呆れも失望も、軽蔑もない無感情で冷徹な、挑発とは呼べない批判は後ろの戦闘音に紛れて消えていく。
「今、両儀殿の援護に行っても困るのはそちらだろう。あのアサシンは見たところ力量は両儀殿より下。勝負はじきに着く」
「……まあ、彼の評価は間違ってはいません。
ただ、それを私がさせるとでも?」
「サー・マシュ、貴女はマスターから離れないように。彼女の相手は私とハサン殿がします」
ベディヴィエールは剣を抜き、ハサンは黒のローブの中に隠し持つ
それに対してシエルは両側の裾から何故か刃がない柄を出して装備する。
でもあれには見覚えがあった。
「あれは……黒鍵?」
「これを知っているということはそちらには優秀な教会関係者がいるのですね。ですが、知識があるだけで私に勝てるとでも?」
柄から銀の光とともに刃が現れる。
べディヴィエールとハサン、そしてシエル。一秒でも動きを見せるとそれが戦闘開始の合図になる。そう直感するほど緊迫した空間に俺は包まれている。
でも、前に出て戦うべディヴィエールとハサン、俺を守ろうと頑張るマシュにはそれ以上のプレッシャーがかかっているはず。
なら俺も頑張らないと……!
と、自分で自分を鼓舞していると、あることに気付いた。そしてそれがこの状況を打破する鍵になると信じて勇気を出して前に出た。
「先輩っ!?」
「マスター!?いけません、前に出ては!」
「……見たところ、貴方がカルデアの要のようですね。その貴方が前に出るとは、死ぬ気ですか?」
一番前にいるからか、目の前の彼女から放たれる威圧はさっきまで感じたものよりも何倍もあり、出来ることなら逃げたいと思ってしまうが、その弱音を心の奥底に置いてゆっくりと、されどハッキリ伝わるように口を動かす。
「ヴローヴに追われてた時、助けてくれてありがとうございます」
「…………え?」
何を言うのか警戒していた彼女はさっきまで無表情で冷徹な顔をしていたのに、俺の口から出た言葉が感謝だったことに拍子抜いて素が出てしまったようだ。
それはマシュたちも同じようで、完全に固まっている。
意図していないことだったけど、この場を支配したのはシエルでもマシュたちでもなく俺だったことに何だかおかしくて笑みを浮かべてしまった。
「──なぜ、私がヴローヴから助けたと思ったのですか?」
「貴女が持っている黒鍵です。カルデアにも使う人がいるけど、その人はこっちには来ていないから有り得ない。特異点に呼ばれた場合も考えたけど、味方なら姿を見せるはずだし、敵ならヴローヴから助けてくれるはずが無い。
それに、いつでも俺たちを襲えたのに貴女は俺たちの前に現れてくれた」
多分、この人は今の俺たちよりも強いし、気づかれないで殺すなんてことは簡単に出来たはずだ。
それをしないで堂々と現れたのはきっと、敵対するためじゃない何かがあるんだと思う。
「……はあ、随分とお人好しですね。その様子だと仲間の人たちにかなり迷惑をかけてきたようですね。でも、嫌いじゃありません。その心をどうかいつまでも忘れないように」
さっきまでの冷徹な機械のような様子から一転して年相応の笑顔を見せ、そのギャップに困惑したが彼女からは微塵も敵意を感じなくなり黒鍵を仕舞ったことで音一つ許さない緊迫した状況は解消された。
べディヴィエールたちも武器を仕舞い、マシュも武装を解除してこっちに向かってくる。
『いきなり何しとるんだこの馬鹿者!』
それと同時にゴルドルフ所長の雷が直撃した。
『急に埋葬機関の前に出て言葉で説き伏せるなんて、相手が納得してくれたから良かったが下手しなくても死んでた可能性があったんだぞ!もっと自分の身を大事にしなさい!』
「ゴルドルフ所長の言う通りです。先輩はもっと考えて行動するべきかと」
「マシュ殿の言う通りです。我らの身を案じてくださったのはありがたいですが、だからこそ命を粗末に扱わないでくだされ。貴方の身に何かあれば初代様に切られるので」
「マスター、私からは何も申しませんのでしっかり反省してください」
皆から一斉に放たれた言葉が胸に刺さりまくって痛い。特にべディヴィエール。何も言われないのって結構キツイ。
「ごめんなさい……反省します……」
「……」
全面降伏を選んだ俺を情けないと呆れた様子で見るシエルさん。くそうこの世界は俺に厳しい。
「コホン、では場も落ち着いたので話し合いを──っとその前に」
シエルさんは黒鍵を取り出し、一瞬で投げつけた。
その先には式さんとアサシンがおり、黒鍵が二人の足元に刺さっていた。
「そこまでです。そちらも、遠野君も武器を納めてください」
誰の目にも見えないほどの素早い投擲と刺さった場所を中心に地面にヒビが入っているのを見て、改めて戦いを避けて良かったと心の底から俺たちは思った。
「では、改めて自己紹介を。私はシエル。クラスは
「は、はい。俺の名前は“遠野志貴”。クラスは
完全に戦闘が終わった後、シエルさんと志貴と名乗るアサシンは素性を話すとすぐにこの特異点の現状を話してくれた。
「この特異点は太陽が出ている間は普通の街ですが夜になると死徒と呼ばれる存在が徘徊する魔都です。私たちはそれを打ち破るために呼ばれた──というより巻き込まれました」
「巻き込まれた?」
「この特異点が出来る一ヶ月前は俺も先輩もただの人間で、気が付いたらこの特異点にいてサーヴァント?ってものになってたんですよ」
「一ヶ月前……!?」
彼らの話が本当なら特異点がカルデアで観測された時期と一致していない。それに特異点がサーヴァントでは無かった志貴さんたちを呼ぶってあり得るのか?
今まで多くの特異点を修復してきた立香とマシュにとっても初めての状況で、困惑してしまう。
「さて、ここで全部話してもいいのですが、そちらも安全な場所を探しているようですし、そこに移動しましょう。遠野君は大丈夫ですか?」
「えーと、秋葉に連絡してもいいですか?流石に何も言わないで来たら秋葉たちも警戒するので」
「勿論です。では案内しますので着いてきてください」
シエルさんの言うとおり、安全な拠点が今欲しいのでお言葉に甘えて着いていく。
志貴さんはズボンのポケットから携帯電話を取り出すと誰かに電話している。正直、サバフェス以外でサーヴァントが携帯電話を使って連絡するのを見るのは初めてだ。
「──分かった、ありがとう秋葉。先輩、秋葉からの許可が出ました」
「それは重畳です。やっと味方になってくれそうな人たちを確保したのに決裂でもしたら事ですしね」
「あの、失礼ですが、秋葉さんとは一体どんな人なんでしょうか?」
マシュが恐る恐る質問する。俺たちがお世話になるかもしれない人だ。それを知ろうとするのは必要なことだと思う。
「秋葉は俺の妹で家の家主をしてるんだ」
「志貴さんはお兄さんだったんですね」
「いや、秋葉には色々と頭が上がらない、情けない兄なんだけど……
と、そこは置いて、秋葉はそんな警戒するような人じゃないから安心してくれ」
絶対の自信を持って安全だと言う志貴さんに不安が少し取れたし、良いお兄さんなんだろうなと簡単に予想できることがとても微笑ましく思った。
ただ、何でだろう。シエルさんは何だか信じられないものを見るかのような目を志貴さんに向けていたのは少し気になった。
そこは、一つの城が建てれると思う程、広かった。
「す、すごいお屋敷です……日本にはこのような豪邸があるのですね」
「残念だけど多分家だけだと思うよ。ってあれは……」
志貴さんが突然上を見ているのに釣られて上を見上げると何か人のようなものが降ってくる。
地上に降りてくると、それはメイドの姿をしたロボットだった。メカエリちゃん関係かな?と考えていると志貴さんが声をかける。
「メカヒスイ、お疲れ様。秋葉から聞いてるだろうけどこちらはお客様だから攻撃しないように」
……メカヒスイ?
「なんだ、吸血鬼にメカとかハロウィンの再来か?」
やめて式さん。ここに来てから死ぬ目にばかり合っているのにここがハロウィン特異点だったらもう全力で逃げるしかない。
マシュ、ハサン、べディ?なんで俺をジッと見ているの?まるでいつ逃げるか見逃さないようにしているけどそこまで信用ない?
「あの、なんでハロウィンが出てくるのが分かりませんがあれはこの屋敷の使用人さんが開発したロボットで、屋敷の警備を任されているんです」
様子がおかしくなった俺たちをフォローするようにこそっとメカヒスイのことを話してくれた。
「ハロウィンは関係ありませんか?」
「だからなんでハロウィンですか?まだそんな時期ではないはずですが……」
「溶岩を泳げる人はいますか?」
「いえ、普通に溶岩を泳げる人なんてサーヴァントでもいないと思いますが……まあ、心当たりはありますが」
「建物の上に建物が立つことはありますかな?」
「あの、さっきから何を言ってるんですか……?」
「メカヒスイさんは巨大化するのでしょうか?」
「さあ?見たことないので分かりませんが……ハロウィンに何かありました?」
いくつか不安事項はあるけど、ハロウィンは関係ないと信じて静かにガッツポーズをする俺たち。シエルさんは完全に置いてかれている。
「……もう一度言いますけど、ハロウィンで何があったんですか……」
「気にしなくていい。知っても理解出来ないだろうし、聞かない方があんたのためだ。
ところで、なんであのロボットはずっとオレたちを見ているんだ?」
「「え?」」
式さんの言葉を聞いてメカヒスイの方を見ると志貴さんのことを無視してこちらを凝視している不穏な気配がそこにあった。
「あの、メカヒスイ?彼らはお客様。何かあっても俺が責任取るし、そんな行動は起こさないと思うから大丈夫だって」
「──数ガ、合イマセン」
「はい?」
「志貴様ノ仰ッテタ人数ト合イマセン。──計画修正。コレヨリ殲滅シマス」
「ちょっ──!?」
メカヒスイが襲いかかってきた──!