Fate/GrandOrder×月姫 死徒徘徊都市 総耶   作:ryugann

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遠野邸の洗礼、死へのカウントダウン

 家が一つ丸々建てれそうな広さを誇るが、その全てに手入れの行き届いた俗世から切り離された邸宅の前は、跡形もなく無惨に焼き焦げていた。

 

 「何とか勝てた……」

 

 吸血鬼の眷属からロボにヴローヴとまともに休息が無いなかでの連戦続きで俺たちは完全に疲れ切ってしまった。加えて式さんは志貴さんと戦っていたので俺たちの倍は疲れているのにその素振りも見せないのは流石だ。

 

 「改めて規格外でしたな……よもや手から銃弾を撃ってくる上に、ミサイルまで装着していたとは……」

 

 メカヒスイと戦って分かったが、下手なサーヴァントよりも強かった。

 手から機関銃を放つわ、刃物になって斬りつけるわ、挙句の果てにミサイル発射とロボットのロマンが溢れていたが、それを喜べるほど楽な相手では無かった。

 意味が分からないまま戦闘に入って攻撃しても空を飛んで躱され、そこから銃を乱射されて避けてを繰り返してようやくハサンのダークが相手の心臓と頭に刺さって止めを刺したかと思ったら、漫画じゃお約束の自爆でこの辺りを吹っ飛ばしてしまったのだ。

 すると志貴さん──何故かメカヒスイは攻撃することなく、しれっと自爆範囲の外にいたので無傷だった人──が一段落終わったと判断してこっちに声をかけてきた。

 

 「その……何というか……うちのメカヒスイがどうもすいませんでした」

 「いえ、みんな無事でしたし、志貴さんが謝るようなことじゃないですよ」

 「──そうです。兄さんが謝る必要はありません。非はそちらにあるのですから」

 

 この場にいる誰でもない第三者の声が聞こえた。その声のする方を向くとそこには三人の少女の姿があった。

 

 一人はメカヒスイと同じ姿をしたおそらくモデルになったメイド。

 もう一人は彼女とそっくりだが、和服にエプロンという少々異質な組み合わせを違和感無く着こなす使用人。

 最後は使用人である彼女たちが一歩引いて立てていることからここの主なのだろう。その姿は志貴さんによく似ていて、凛とした佇まいからは高貴さと芯の強さがよく現れている。

 

 「迎えに来なくてもいいのにありがとうな、秋葉、翡翠、琥珀さん。ところでさっき言ったこと、どういう意味だ?」

 

 迎えに来てくれた秋葉たちに感謝すると同時に彼女の言った意味を話すよう少し圧を加える。

 ただ、秋葉には意味が無いようで涼しい顔で受け流しながら、藤丸を、いやその“影”を睨んだ。

 

 「兄さんはともかくそこの欲情シスターまで気付いてないのは落胆しましたが、ここは私たちの屋敷──そちら風に言えば魔術師の工房とでも言いましょうか。その中でコソコソと動くドブネズミを見逃すはずがありません。

 五秒、いえ三秒数えますが、その間に姿を現さなくてもこちらとしては構いません。ですが、その時にはそこにいる彼は死んでいるものと考えるように。琥珀」

 「では、カウントダウンを。三……二……」

 「──秋葉、本気か!?」

 

 緩んだ空気が一瞬で処刑場に変貌した。

 冗談かと最初は考えたけど、志貴さんのあの表情からして秋葉さんは本気だ──!

 耳の捉えた錯覚だが、処刑人が一歩ずつ音を立てて近づいているのを感じてしまい、冷や汗が流れる。

 

 マシュたちが俺を守るように前に出る。通信機からは喧騒の声が聞こえる。志貴さんは説得をしている。シエルさんは何もせずにただ何かを祈るように目を閉じるだけ。

 

 「一」

 

 カウントダウンは止まらない。あと一秒なのに、時間の感覚がとても長く感じる。

 そして死刑執行を行う言葉が放たれる直前に、影が動いた。

 

 「……」

 

 影から人の姿をしたものが浮き上がり、その姿を照りつける朝日が翳した。

 黒寄りの緑のマントをたなびかせ、スーツを難なく着こなす色白の肌を持つ男。そう、彼こそは──

 

 「エド、モン……?」

 「……すまなかった。決して、お前を傷つけるために潜んではいなかった」

 

 復讐者(アヴェンジャー)、巌窟王エドモン・ダンテスまたの名をモンテクリスト伯。

 カルデアにもマスターである藤丸立香にも誰にも知られずに、この人理すらも歪んだ特異点に同行したサーヴァントだった。

 

 

 

 

 

 エドモンが現れたことで死へのカウントダウンは止まったものの、知らなかったとはいえ仲間の存在を隠していたことで信用出来ないと秋葉さんは屋敷に滞在する許可を出さずに追い返そうとした。

 けど、志貴さんが根気強く説得してくれたおかげで渋い顔をしながらも滞在の許可を出してくれた。

 

 拠点を確保して今後の作戦について話し合おうとしたけど、それに待ったをかけたのが秋葉さんだった。

 

 「兄さんから聞きましたが、皆様、かなりお疲れとか。話をするのは結構ですが、その前にお休みになられては?人数分の空き部屋があるのでそこを使ってください」

 「いえ、ありがたいのですが、流石にそこまでしてもらうのは少し申し訳なく……」

 「ああ、申し訳ございません。少し言葉を間違えてしまいました。──泥や砂、血がかかった状態で屋敷を歩き回るのはおやめください。

 怪我をしている方は琥珀に診させますし、部屋及び浴場の案内は翡翠に任せますので、良いですね?」

 

 すごい爽やかな笑みとは裏腹に拒むことは許さないという圧力に圧倒され、首を縦に振ることしか出来なくなってしまう。

 多分だけど、拒否したら追い出されるどころかそれよりもっと恐ろしいことになると予感する。

 

 「兄さんと違ってお利口ですね。そもそも客人を満足にもてなすことが出来ないのは遠野の恥。兄さんとシエルさんもお疲れのようですし、話は起きた後にでもしましょう。

 翡翠、琥珀」

 「無論、承知しております。それでは怪我をした方は私に申し上げてください。それにここはいわゆる霊脈?がある場所らしいので魔力が不足している方も遠慮なくお使いくださいね」

 『うわ本当だ。ここの屋敷を中心にかなりの規模の霊脈がある!神秘が廃れた現代の中でもこれは特上物で、なんで時計塔が把握してないのか気になるレベルだよこれ!』

 『え、そんなにすごいの?でもそうは言っても時計塔が抱えてるレベルじゃ……なんで個人が持ってるの?これ特上どころか最上級の部類じゃないかねこれ!?』

 

 琥珀さんの説明に反応して霊脈の反応を調べていたダウィンチちゃんとゴルドルフ所長はその規模に驚いて開いた口が塞がらない様子。それがおかしくて周りはクスクスと笑っている声が通信機越しでも聞こえてくる。

 

 『ふー。ヴローヴの前で無様を晒したシオン・エルトナム・ソカリス、魔の医療室から無事に帰還しました!っと、話は聞いてましたがこれほどの霊脈を保有しているとは、日本の名家は恐ろしいですね。

 ですが、これで魔力の供給手段も手に入れたので、問題の一つは解消出来たのは良いことですね』

 

 体調を崩していたシオンが戻ってきてこの現状を喜ぶべきものとして受け入れる。

 確かにその通りで、皆の魔力も回復しており、油断は出来ないけどこれからの特異点探索では頼もしくなってほっとする。

 

 「では皆様、客室へとご案内しますので私に着いてきてください」

 『それじゃあ、こっちも厳重警戒を解いて休ませてもらうね。藤丸君たちもゆっくり休んでね』 

 

 ダウィンチちゃんの通信はこれで一区切りと切られ、屋敷の中へ入っていく。

 屋敷に入ってから改めてその広さと一つ一つの装飾の豪華さに驚かされながら、翡翠さんに案内されていく。

 

 「この先が客室となっているので、どうぞご自由にお使いください。浴場はこちらに従ってご利用くだされば幸いです」

 

 “それでは、失礼いたします”と彼女は一礼して去っていった。

 志貴さんたちは自分たちの個室があるとのことで二階で分かれ、全員分の個室が用意されていたので皆別々の部屋へと入っていく。

 部屋に入るとそこはベッドに休憩用の椅子と机と最低限、しかしそのどれもが高級品であることが分かる家具が置かれていて、この部屋には俺一人しかいないと理解するまで少し時間がかかった。

 カルデアでもマイルームには最低でも一人は隠れ潜んでいて、レイシフト時は安全のためと皆に見守られながら過ごしていたから完全な孤独は久しぶりの感覚だ。

 すると、そのことに昔を思い出したのか、今までの疲労がドッと来たのか急に眠くなっていって、そのままベッドの上で目を瞑り、視界は完全に暗闇に包まれた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、ただ■■と一緒に生きているだけで、満足だった。■■といると白黒だけで構成されたつまらない世界も一瞬で鮮やかな色に染められて初めて幸せを実感した。

 纏わりついていた邪魔者もいたけどそれでも■■は私を選んでくれたと知った時の感情は今でも説明できないほどぐっちゃぐちゃで激しく揺れて宇宙が生まれる瞬間とはこういうものなのかと思うほど、忘れられることはなかった。

 慣れない家事をして失敗だらけの私を■■は文句を言ってくるけど、結局最後まで一緒に手伝ってくれた。初めて二人で作ったご飯は不出来で味もそこそこ。一緒に食べた不純物いっぱいのハンバーガーの方が良い出来であったほど。

 でも美味しかった。どれだけ人の価値では美味しいと言われるものよりも、美しいと言われるものよりも私にとっては最も価値のある食べ物でその時の味を一生忘れたくないと思った程に。

 二人で寝たこともあった。獣のように互いを貪りあって愛を何度も育みあった。その全てを鮮明に覚えている。

 

 でも、急に■■は姿を消した。

 思い浮かべたのは今でもするちょっとした喧嘩。馬鹿という単語をキャッチボールのように投げ合うゲームのようなものだったけど、それが原因?

 ならすぐに探して謝らないと。すぐに私は思い立ち外を出た。

 ──そこから、私の時は止まったのだろう。

 街中を虱潰しに探して、もしかしたらもう帰ってきているかもと、■■との愛の巣に帰る。

 だけどまだいなかった。まさか私に愛想を尽くした?その考えはすぐに蹂躙してこの世から消し去る。

 私はそばにあった■■の温もりがある人形(・・)をそっと抱いて、探しにいく。もしかしたら■■の知り合いが知っているかもと目星を付けて飛び出す。

 

 

 その人形から流れる赤い液体に一切気付くことはなく彼女は終わらない旅へ飛び出して──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……?」

 

 目を開ける。既に外は太陽が地に落ちて夜が始まろうとしていた。

 身体の汚れをそのままにして眠ってしまったことに気付いて、翡翠さんが言っていた浴場に向かう。

 でも何かが頭の中にこびりつく感覚があって歩くのが少し億劫だった。

 向かう途中、エドモンに会ったけど何かあったのかいつもの無愛想な顔つきだけど不機嫌だ。

 

 「──夢は、見れたか?」

 

 すれ違うギリギリで投げかけられた言葉。どういうことなのか聞こうと後ろを振り向いたけど、エドモンは部屋に入っていったようで聞くことは出来なかった。

 でも、夢か。

 それを考えてるといつの間にか頭のこびりついた感覚は無くなっていて、エドモンのおかげかなと考えて浴場へ向かった。

 

 そうして、青年は夢の存在すらも身体の汚れと共に洗い流して忘れていった。

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