まれびとの旅   作:サブレ.

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第十五話

最初の攻防は完全に互角、とはいかず、ジャッキーがやや上回っている。跳び上がった悟空を空中で蹴り飛ばす動作なんかまさにそれだ。まあ、悟空はさっき生えた尻尾でプロペラみたいなことして戦線復帰してきたんだが。

 

「………………うーん」

 

効率いいのか悪いのか分からん。いずれ空飛ぶやり方も教えた方がいいのかなあ。ていうか地球に空の飛び方って確立されてんのか?西の都で勉強と仕事に邁進してたからよく分かんないな。天下一武闘会終わったらもう少し本格的に調べてみるべきか。

 

「じいちゃんみたいにかめはめ波で飛ぼうと思ったけどさあ、あれはとっておきにしようと思って」

「なまいき言いおって!おまえにわしほどのかめはめ波が出来るわけ無かろう!」

「できるよーだ!」

 

悟空とジャッキーが互いにかめはめ波の体勢に入った。撃ち合いは全くの互角で、放たれたエネルギーは武闘台の中央ど真ん中で弾けて相殺、その反動で二人が同時に尻餅をつく。

その後も残像拳の応酬など、師弟ならではと言っていい同じ技のやり取りが続いた。会場のボルテージも一気に上がる。あ、亀仙人か頭に一撃食らった。

 

「しからばこれでどうじゃ!……ヒック」

 

突然ジャッキーがしゃっくりをした、と思ったら何故か酔っ払ったような挙動をし始めた。悟空も思わず心配してしまう、見事な酔っ払いの完成である。

 

「え?昨日飲みすぎた、訳ないよな……」

 

つーか酔っぱらいながら的確に攻撃してるし……あ!まさかコレが名高き酔拳か!?スッゲー!初めて見た本物だ!ていうか孫悟飯も得意だったんだ、酔拳同士の戦いってどうなるんだろう?あ、でも悟空未成年だから真似できないな、残念!

 

『これはやばい、孫選手!フラフラになってきました!』

 

動きが読めないからけっこう良いところに入るな。悟空は、一旦距離を取って呻いて……呻いて?

 

「ううう〜がるるるる……!」

 

よだれを垂らしてまるで野犬のように四つん這いになってジャッキーに飛びかかる悟空に、流石に驚いたのか目を瞑ったのが命取り。背後から強烈な蹴りを喰らってしまった。ちなみにこの技の名前は『狂拳』らしい。正しくは狂犬ではなかろうか。

つーか悟空どっちかというと猿だろ。

と思ってたら次は猿になりきる猿拳を繰り出してきていた。ちゃんと猿にもなるのね。

 

「お調子に乗りおって……よぉ〜し……お前の負けじゃ、ごくあっさりとな……」

 

ジャッキーは両手を繰り出したかと思うと、ゆらゆらと動かしながら歌い始めた。いわゆる子守唄を聞いた悟空の瞼が、だんだんと落ち始めて……。

寝た。

ごくあっさりと寝た。

 

「よいこ睡眠拳じゃ!勝った!」

「ありゃまあ」

 

戸惑いながらもカウントが始まる。うーん、応援がOKなら声かけの手伝いくらいしていいだろう。すうっと息を吸い込んで、叫ぶ。

 

「悟空、飯だぞ!」

「孫くんご飯の時間よー!」

 

あ、ブルマと被った。まあいっか。

 

「へっ!どこどこっ!ご飯どこにあるのっ!?ご飯ご飯っ!」

 

そして起きた。どんだけ腹減ってたんだ。

いや、サイヤ人は燃費が悪いからめちゃくちゃ食べるのは分かるけど。

起きたので改めて試合再開。しかし悟空の技のキレは悪く、ジャッキーも疲れが見え始めてきた。だいぶ時間も経ったしそろそろ試合も終わりそうだ。

パン、と柏手ひとつ。幾度かの問答の末に、手のひらから気が凝縮され、強いエネルギーが悟空へと向けられる。

 

「萬國驚天掌ーーー!!!」

 

バチバチ、という音と共に悟空がエネルギー波に捕らえられた。なるほど、強い。というかコレ、電気の性質持ってるのか?なるほど、うまくコントロールすれば気に特定の性質を与えられる、と。マジで亀仙人学ぶところ多い。そして、悟空は最大のピンチを迎えている。

 

「悟空、耐えろっ!お前はまだこんなもんじゃないだろ!」

「うぎぎぎ……っ!」

 

周囲からは負けを認めろという声が上がっている。だからこそ俺は悟空に負けるなと叫んだ。

悲鳴が耳に痛い。誰も彼もが悟空に降伏を勧めてくる。それは実際に技を放っているジャッキーでさえ例外でない。

それでもいいじゃないか、一人くらい絶望的な状況に諦めるなって叫んだって。負けたくないって気持ちの悟空に同調したって。

 

「負けるな!!!」

「もっもういい悟空!まいったといえーっ!よく我慢したぞーっ!」

「ぐ、くく、くそ〜っ……!くっ……くやしいけど……、ま……ま……」

 

己の限界を悟っているのか、悟空がとうとう根負けした。攻撃を仕掛けている側のジャッキーもまた、どこかホッとした面持ちに感じる。俺はといえば少しだけ残念だけど、それでもよくやったと叫ぼうとして、違和感に気づいた。

悟空の視線の先を振り向くと、まんまるな夕月が浮かんでいる。

あ、まずい。なんて思った瞬間、みるみるうちに悟空は大猿となってしまった。

……反応から見るに、悟空のやつ修行期間律儀に満月見なかったんだな。

 

「おいっ!俺が尻尾切り落とすか!?」

「そんなことをしたらワシが反則負けになるじゃろうが!」

「そんなこと言ってる場合かぁ!なんとかできんのか!?」

 

言いながら、大猿が建物を破壊しようとしている所に割って入り、伸ばしてきた手のひらを鞘のついた剣でぶん殴る。大猿は勢いを殺しきれず、フラフラと重心が後ろに動いたあと尻餅をついた。加減したからギリ場外にはなってない。

 

「よしっ、今のうちじゃ!やむを得ん!──かめはめ波!最大出力!」

「はい!?」

「いかんっ!悟空を殺して騒ぎを食い止める気だっ!」

 

バサリと上着を脱ぎ捨てて、ジャッキーは全身に力を込めた。ぐぐっと筋肉が盛り上がる。この世界の人間ってどんな構造してるんだろうか。異世界の元地球人としてちょっと気になる。

亀仙人のことだ、悟空を殺さなくてもなんとかなる手段があるんだろう。その辺りを信用してるのは、今世での経験か、それとも前世の記憶か。

放たれたかめはめ波は真っ直ぐ空へ向かって飛んで行き──見事月をぶっ壊した。なるほど月が無くなれば大猿化はしなくなる……いやいや。

 

「力技ぁ……」

 

案外脳筋な答えなのか、それとも意外性のあると言っていいのか。ちょっとリアクションに窮するがピンチが終わったことに変わりはない。

まあ、大猿化はサイヤ人の特徴の一つでしかないからいいか。尻尾が無くなろうと月が無くなろうと、最強の戦闘民族の評価は変わらないんだし。

 

『こっこれはとんでもないことをしてくれました!これからお月見はどうしたらいいのでしょうか!』

 

だからってこのリアクションもどうかと思うけど。ていうか月が消えた感想、それでいいんだ。

 

+++++

 

起きた悟空が改めて胴着に着替えて、試合再開。その結末はこれまでの試合内容から見るとひどくあっさりしていた。空中に飛び出して互いに蹴りを繰り出して、ジャッキーと悟空の体格差が勝敗を分ける。

 

「優勝したもんねーっ!」

 

高らかな勝鬨に会場は大盛り上がり。俺も惜しみなく拍手を送った。マイク越しの案内に従いながらブルマと合流する。しばらく待っていると人はどんどんはけていき、俺たちだけが残った。

 

「悟空、クリリン、ヤムチャ、おつかれ」

「にいちゃん、亀仙人のじっちゃん見てないか?」

「決勝の前に見かけたんだけどな。それより悟空、あんぱん食べるか?」

「食べるっ!」

 

試しに声をかけてみたら悟空が飛びついてきた。おやつ用に取っておいたそれが一瞬で消える。まあ、一日中動き回っていた悟空と俺だと消費カロリーが違うしな。

 

「クリリンは?」

「あ、俺は大丈夫ですよ」

「そっか」

 

そんなふうに過ごしていたら、亀仙人がやって来た。負けてしまった二人に与えられた激励に、悟空もクリリンも背筋を伸ばして答える。にしても、本当の修業はこれからはじまるんじゃ、か。俺も修業したいなあ。だけど俺、強くなりすぎると死ぬしなあ。感覚だけど。

 

「よし!では、いちおうよい試合をしたご褒美に夕飯をたらふくご馳走してやろう!お前たちも来るか?」

「はいっ!」

「もちろん!」

「じゃ、お言葉に甘えます」

 

俺もお腹空いてきた。悟空と一緒の夕飯も久しぶりだなあ。

 

+++++

 

たらふく食べたついでに、こっそり亀仙人より早く支払いを終わらせておく。明細見て苦笑い。六十万ゼニーて。食べる量を控えめにしておいて良かったわ。

食事を終えてひと段落。亀仙人としては二人の修業はひと段落したらしい。

 

「じゃあ、悟空はドラゴンボール探しか?そろそろ復活した頃合いだろ」

「にいちゃんは一緒に来るか?」

「ん、着いてくわ。でさ、亀仙人の所の修業の話聞かせてくれよ」

 

筋斗雲持ちだから、同じように旅ができるはずだ。悟空は目的を決めたと思うと、亀仙人に預かってもらっていた悟空の荷物を受け取っていた。

 

「にいちゃん、行こう!」

「なんだ、もう行くのか!なんとか探しに!」

「ドラゴンボール、な。もう行くんだろ?」

「ちょっとでも早い方がいいもんな」

「じゃあ呼ぶぞ。おーい、筋斗雲ー!」

 

すうっと近寄ってくる二つの金色の雲は、大きさの違いも相まって親子のようだ。俺は大きい方に、悟空は小さい方にそれぞれ乗っかった。

 

「じゃあなみんな!また会おうなー!」

「言われなくても会えると思うぞ」

「?」

「なんでもない。じゃ、行くか」

 

ひゅんっと雲が風を切る。悟空から見せてもらったドラゴンレーダーは遥か先だが、このスピードなら一日も経たずに到着するだろう。

はてさて、どんな冒険になるのやら、楽しみだ。

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