まれびとの旅   作:サブレ.

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第十七話

途中で町に降りて防寒用コートを買った。男の子用のダッフルコートにもこもこの帽子に手袋。あとついでにマフラーも買ってみる。うーんファッションショー。楽しい。

 

「にいちゃん、このゴーグル?っての頭ギュってなってやだ」

「でもそれしないと帽子が風で飛ばされかねないぞ」

 

そーいや西遊記の孫悟空って頭に金属の輪っかはめられてなかったっけ。名前忘れたけど、悪いことするとギュッてなるやつ。

それを考えると、ゴーグルを嫌がるのも分かる、かもしれない。

カードでお買い上げして、ついでにお腹いっぱいご飯を食べて、改めて筋斗雲へ。

風が冷たい。服買っておいて良かった。悟空はといえば、ご飯の後だからか呑気に昼寝中。

しばらく進むと、雪で覆われた村が見えてきた。ドラゴンボールもこの近辺にあるらしい。

悟空を抱えて、一度村外れに降りる。気を探ってレッドリボン軍と思われる人間を避けながら歩いていると、女の子とであった。村人らしい。

 

「こんにちは」

「あなた達、誰?」

「俺はマレビト、こっちは昼寝してる悟空。聞きたいことがあるんだけど」

「マレビトさん!?」

「お、おう」

 

食い気味に反応されてビビったが、なんでも俺の作ったカードゲームが村でもブームになって、それで名前を覚えていたらしい。

とりあえずうちに来て、と言われたので言葉に甘えてお邪魔することにした。

 

 

「ここどこ?」

「起きたか。ここはジングル村。ドラゴンボールがある場所だよ」

 

少し経って悟空が起床。大体の顛末を説明する。ここにはレッドリボン軍が村長を人質にドラゴンボールを集めてるのだ。ろくなことしないなレッドリボン。もらったココアをふうふう飲みながら、悟空はキョロキョロと周囲を見渡している。

 

「マレビトさんはレッドリボン軍なの?」

「違うよ。むしろ嫌われてるんじゃないかな、悟空と一緒に」

「どうして?」

「ドラゴンボール探してレッドリボン軍とかちあって、まあ色々と」

「あなたたちは、どうしてドラゴンボールを探してるの?」

「見せてあげる、これがドラゴンボールさ」

 

悟空が六星球を取り出して見せながら、探している四星球やドラゴンボールの特徴について説明する。そういや、レッドリボン軍の目的ってなんなんだろうな。

レッドリボンは村長を人質に、村の男衆を使ってドラゴンボールを捜索中とのことだ。助けたくても強くて敵わず、さらにはバイオーム人間も徘徊してるらしい。

だからなんなんだよバイオーム人間。

 

「ふーん、よし!オラがそいつらやっつけてやるよ!バイオーム人間ってのとも戦ってみたいしな!」

「そーいやあの時は不意打ちで仕留めたもんな」

 

真正面から戦ってみたい、というのが本音なんだろう。もちろん、ジングル村を助けたいという気持ちも本当だろうけど。

そうと決まれば早速出立準備。タイミングよく殴り込んできたレッドリボンの兵士二人をデコピンで沈めてから、悟空と一緒にコートと帽子を被る。

 

「にいちゃん、これやらなくていいか」

「ゴーグル?しなくていいよ。それ風圧対策に買ったやつだし」

 

そんなに嫌いか、ゴーグル。

雪は、新雪ではないようで足元に不安はない。しょっちゅう人が歩き回って踏み固められているからかもしれない。雪かあ、そういやこっちの地球で見るのは初めてだな。

 

「じゃあ行ってくる!」

「ばい」

 

悟空と一緒に基地に向かって走り出す……テンション高っ!なんだこのテンションは。パッパラパッパパパパーン!とか歌……というかファンファーレか?

巨大な塔がみるみる近づいてくる。門番は悟空が如意棒で一掃。俺の足元にも迫ってきたのでぴょいと飛んで回避する。そのまま悟空は棒高跳びの要領でヒョイっと見張り台の上に登ってしまった。

 

「へへっ。先行くぞ!」

「おーう。いってら」

 

スピーカーから聞こえてくるラスボス、もとい敵司令官の言葉に従って……マッスルタワーっていうんだこの城。作ったの?それとも改造したの?

そんなことを思いながら、完全に忘れられた俺は一階のドアを蹴破って入場した。全員悟空にかかりきりでそんなに人は居ないだろうか?

 

「ぐぎゃぎゃ……」

「あっ」

 

気を探るのサボってたツケか、目の前には複数体のサイバイマン、もといバイオーム人間。慌てて気を探ったらバイオーム人間は全部一階にいた。一拍分の沈黙の後、一斉に襲いかかってくるそれらを相手にするために剣を抜く。

すまん悟空、今回も俺が全部仕留めるわ。

 

 

全部のバイオーム人間を切り裂いたあと、検分のために一番原型をとどめている死体の頭に触れた。ぱっくり割れるわけでもなく、無駄に硬い頭だけだ。つるつるしている。

俺の知ってるサイバイマンは、頭がぱっくり割れてそこから溶解液を出すことが出来ていた。しかしこいつらにはそれがない。ためしに剣で切り裂く。自爆するための機能も取り外されていた。

 

「……?フリーザ軍ならわざわざ弱くする理由もないしな?」

 

少なくとも、俺の知るオリジナルサイバイマンではない。ならこれは、バイオーム人間と呼ぶのが正しいんだろう。

さて、ではこいつらがこの地球の人間に合わせて弱くデザインされている理由はなんなんだろう。そもそもサイバイマンの種と地球の土壌が合わなかったのか、それとも。

そもそも、地球人に合わせて品種改良されているのか。

 

「んー……」

 

品種改良されたとして、レッドリボンではないだろう。あいつら強すぎる怪物作って自滅するタイプだろうし。

だとしたら、バイオーム人間そのものが地球人に合わせてサイバイマンをリデザインした、オリジナルがいて、レッドリボンはそれを培養コピーしたと考えるのが妥当だろうか。

なんで?って聞かれると答えられないが。

 

「ま、いいや」

 

これ以上は結論が出ないからいいや。また何かヒントがあれば考えよう。死体に手をかざして、ミイラになるまで残った生体エネルギーを吸い取ってから外に出る。

バイオーム人間が俺を狙う理由も、さっぱり分からないしな。

 

+++++

 

俺がそんなことを考えている間に悟空はマッスルタワーを最上階まで登り人造人間8号ことハッチャンとお友達になってホワイト将軍をぶっ倒し村長を救出していた。

人造人間、なんかどっかで聞いたことあるぞ。未来の敵というか味方というか、アレだ。まあ今は関係ないか。

 

「ハッチャン、にいちゃんだ」

「どーも、マレビトだ。考え事してるうちに終わっちまったから俺なんにもしてないけど。悟空助けてくれてありがとな」

 

途中で脱いだコートを悟空に着せて、背中におぶる。ハッチャンと村長に合わせて歩いて村へと戻る。わあっと湧き立つ村に苦笑した。どんだけ酷いことしてきたのかレッドリボンは。

美味しいご飯をいただき(マッスルタワーからいくつか失敬してきた)、食後に入れてもらった紅茶を飲みながら、話題はドラゴンボールに移った。

 

「そういや、ドラゴンボールって結局どこにあったんだ?」

「……俺が持ってた」

「おお、まじか」

 

灯台下暗し。ハッチャン持ってたんかい。

キラキラ光るオレンジ色の球体は確かにドラゴンボールだ。星は二つ。レッドリボンはドラゴンボールを見つけたら村人を皆殺しにするつもりでいて、だからそうならないように隠していたと。

ハッチャンは村長からめちゃくちゃ気に入られていた。当たり前だ。

 

 

明日の出発に備えて、ハッチャン、スノ、俺、悟空の四人で一つの部屋で寝ることになった。カードゲーム開発者として大人たちにサインしたり話をしたりしてから部屋に入ると、ハッチャンが机に向かって四苦八苦している。

 

「なんがあったのか」

「にいちゃん、ドラゴンレーダー壊れちった」

「ありゃ。じゃあブルマに直してもらわないとな」

「何処にいるのか知ってるのか?」

「うん」

 

西の都で何回も会ってる。ていうか、カードゲームで遊ぶための腕につける道具、作ったのカプセルコーポレーションだし。

 

「じゃあ次の目的地は西の都だな」

「疲れたし、たくさん寝ておかないとねっ!おやすみ!」

「おやすみ!」

 

電気が消える。すぐに三つ分の寝息が聞こえてきた。俺はといえば寝付けない。心臓がバクバク音を立てて、かと思えばギュッと痛くなる。

あーもう、四人で寝るとか……なんで。

もうとっくの昔に、仕方ないって諦めたはずなのに。

なんで、こんなに前世の家族を思い出すんだろう。


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