まれびとの旅   作:サブレ.

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第十九話

アラレちゃん、なあ。

知ってるけどほぼ覚えてない。カニにジャンケンで負けた子ってのは知ってるけど。

俺その知識どこで覚えた?そしてなんでその知識だけ持ってる?

 

「ねーねー、にーちゃん誰?」

「マレビト」

「マレビトくん?」

「うん。なあ、オレンジ色の服着た、きみと同じくらいの身長の男の子知らないか」

「知ってるよ!金色の雲に乗っててね!乗せてもらいたくておっかけてるの!」

「なんだ、筋斗雲に乗りたいのか。おーい、筋斗雲ー」

 

筋斗雲を呼んで、その上に乗る。こうなるんだったら別に降りなくてもよかったかな。後ろに女の子たちが乗ったのを確認して、悟空の気を探った。

 

「よしいけ、筋斗雲!」

 

ぐいん!と筋斗雲が猛スピードで走り出した。ジェットコースターもかくやの軌道とスピードである。もしかして筋斗雲も可愛い女の子を乗せてテンション上がってるのか?思ったより俗っぽいなオマエ。

そんな風にアクロバティックに飛んでいると、下の方で何やら困っている悟空を発見。

 

「おーい、悟空ー」

「にいちゃん!」

「んちゃ!」

 

急降下アンド急停車。ずいぶん楽しんだ背後は置いておく。ついさっきまでうんうん唸っていた悟空は俺を見るなりパァッと顔を綻ばせて抱きついてきた。どんだけ困ってたんだ。

 

「にいちゃん、ドラゴンレーダー壊れた!」

「またか!笑顔で報告するなよ!」

「またブルマに直してもらわないとな……なあにいちゃん、ここどこ?」

「無意識に来たのか?ペンギン村だよ。なあ」

「うん!」

 

試しにドラゴンレーダーを受け取ってカチカチスイッチを連打したり試しに軽く叩いてみたりしたが、直らない。これは本格的な修理に出さなきゃダメかもしれない。

 

「ねえそれ、こわれちったの?」

「ああ」

「博士だったらなおせるよ!」

「ほんと!?」

「まじか、頼んでいいのか?」

「うん!筋斗雲のお礼だよ」

 

じゃあお言葉に甘えるか。もう一回筋斗雲に乗りたそうにしてたので、今度は悟空の方の筋斗雲に乗ってもらう。

そうして再びアクロバティックな空中飛行を楽しんで、アラレちゃんの案内に従い博士の家に到着。

 

「オッス……じゃなくて、こんにちは!」

「はい、こんにちは」

「はじめまして、お世話になります」

 

ドラゴンレーダーを博士たちに預けて、俺は少し距離を取った。

なんか、アラレちゃん単体ならともかく、こうして複数の人が集まると俺にとって、なんというか、あんまり良くない気がした。

危機を察知する直感というやつだ。なんでこんなに平和な光景に働いたのかはさっぱりわからないけど。

 

「……ふー、」

 

大きく深呼吸して心を落ち着ける。一旦落ち着こう。冷静になって……

 

「こっこのやろう!オラのレーダー返せよ!」

 

お前誰?つーか悟空をいじめてんじゃねえよ。

苛立ちのまま半裸の男を鞘付きの剣で殴り飛ばした。そしたらアラレちゃんが頭突きで男を空高く吹っ飛ばした。

たーまやー?

 

「あっ、レーダーどっかいっちゃった」

「にいちゃん、大丈夫か?」

「それはこっちの台詞なんだが」

 

まあ、怪我してなさそうだしいいか。

 

「きみ、顔色がずいぶん悪いぞ。休んで行きなさい」

「そんなに?」

 

アラレちゃんが持ってきた鏡の俺は……おお、めっちゃ顔色悪い。けどここで休んでも悪化する気しかしない。

なんでだろう。

 

「いいよ。すぐ治るから」

「しかしだな」

「本当に大丈夫だから!」

 

しまった。思わず声が荒んでしまった。心配してくれただけなのに。

ゆっくり深呼吸。これ以上、ここにいない方がいい。悟空はいつの間にやら、新しいドラゴンレーダー持ってるし。

 

「……アラレちゃん」

「ほよ?」

「んー……色々とありがとう。はかせ、怒鳴ってごめんなさい」

 

……行くか。

 

+++++

 

筋斗雲で飛ぶことしばらく。だんだん頭が冷えてきたのと同時に、あの不調の原因も見えてきた。

過去の記憶を掘り出してみるに、アラレちゃんは多分、ギャグ漫画と呼ばれる部類に入るんだろう。そしてギャグ漫画、ギャグアニメは往々にして、メタフィクションを引き起こす。

俺は元々、そのメタと呼ばれる場所にいた。そこから、少なくとも俺の世界におけるフィクション世界に飛んできてしまったのだ。そんな稀人が、メタとフィクションの距離が近いあの空間にいたことで、肉体と魂のバランスを崩しかけてしまったのが、今回の不調の原因なんだろう。

 

「……ギャグ、恐るべし」

 

あそこに居続けたら、本格的にマレビトという個人が自己崩壊をはじめかねない。こええ。二度と近づかないようにしよう。

あの空間にいなくても、目の前にドラゴンボールの単行本が置かれただけで大パニックを引き起こす自信があるし。

 

「──ちゃん、にいちゃん」

「?っと、悟空?」

 

やべえ、思索に耽りすぎた。悟空を振り返ると、サイヤ人らしい真っ黒な瞳が俺をじーっと見つめている。何考えてるか分からん。

 

「にいちゃんは、どっからきたんだ?」

「……うん、どっかから」

 

うおお、ペンギン村の影響か?メタ視点は持ってくれるなよ頼むから。今でも心臓がバクバク跳ねてるってのにさあ。もう強引に話を変えてしまえ。

 

「俺は今が楽しいからいいんだよ」

「そうなんか」

「そうなの。それより悟空、次のレーダーの位置はどこだ?」

「あっち!」

 

指を挿した方向には、天高く聳える謎の塔が。

……なんか、ペンギン村とは別方向で、嫌な予感がひしひしとする。

悟空のワクワクとは全く違うドキドキが俺を襲っているが、行かないわけにもいかない。

さて、どうなることやら。

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