第二十八話
会場まで戻るのと、悟空が筋斗雲で飛び出したのはほぼ同時だった。振り向くと、ドラゴンレーダーを片手に悟空が鬼気迫る表情で何か、一つの気を追いかけている。
「あんのバカ!」
天津飯との死闘で体力使い果たしてただろうがお前!一旦カリン塔によって仙豆食べるとかしないと勝てるものも勝てんだろうが!
ただ、ポポと『ピッコロ大魔王に手出ししない』っていう約束をしたから、それは守らないといけない。サイヤ人丈夫だしすぐ死にはしないだろ……しないよな?
「とんでもないことになったな……」
「……亀仙人、状況教えてくれるか」
「わしらもまだよく分かっておらんのじゃ……」
「わからない?ピッコロ大魔王というやつが関係してるって話じゃないのか?」
「ピッコロ大魔王じゃと!?」
聞き覚えあるらしいな?俺はポポの話を聞いて直感的にピッコロ大魔王の話だって察しがついたから、原作の中ボスではあるんだろう。しかし俺はドラゴンボールを見たことがあってもオタクってほど詳しい訳じゃないから、何も判断がつかないのが歯痒い。が、亀仙人は流石に知ってるみたいだな。
クリリンの横に落ちていた謎のマークも、ピッコロ大魔王を示すもので間違いないらしい。
「みんな知ってるのか?」
「話には聞いたことがある。その昔、世界を恐怖のどん底に叩き落としたという大魔王だ……」
「その昔?封印でもしてたってのか?」
「その通りじゃ」
亀仙人が話して曰く、その昔まだ亀仙人と鶴仙人が若い頃、武泰斗という名前の師匠が己の命と引き換えに魔封波によって電子ジャーに封印したのだという。なんで電子ジャーなのかというツッコミはこの際置いておこう。
海底に沈めていたはずのそれが復活してしまった。
「第三者が引き上げたのか……鶴仙人じゃあないのか?」
「それは考えられん。大魔王の恐ろしさはあやつもよう知っておる……」
「とりあえずヤバいってのは理解した。分かってるのはそれだけだな?」
状況は把握した。なら次は悟空がどこに行ったか探る。……いた、生きてるな。なら問題なし!
「じゃあちょっと行ってくる!」
「行くってどこによ!場所は分かるの!?」
「悟空の気を探ってその場所に瞬間移動する!」
「し、瞬間移動!?」
あれ、瞬間移動出来ること言ってなかったっけ。まあいっか、いまそれどころじゃねえし。
「悟空のことは取り敢えず俺に任せろ、なんとかする」
「わかった、気をつけろ!」
「おう」
気を探って、今の悟空がいる座標を確認する。そこから少しだけ離れた場所、正確には空にいる悟空の真下に移動した。
上を見上げるとそこから、筋斗雲を失った悟空が落下してくる。死んでないが疲れ切ってるか?空中でそのままキャッチ、気を消したまま大きな木の影に滑り込んだ。
とりあえず気付かれてはいないようだ。常日頃から気を消しておいてよかった。
「一旦寝かせて、起きたら飯食わせるのが一番いいか?」
仙豆、一応持ってるけど、寝てる相手に押し込むのもなあ、なんか気が引ける。
……まあこの数年後、瀕死の相手に仙豆を押し込むっていう動作めちゃくちゃやることになるんだけど。
とりあえず悟空を仰向けに寝かせて上着として着ているジャケットを脱いで腹にかけた。ついでにドラゴンレーダーを拝借して、と。
「……んー?近くにあるな。あとは移動してるのがひとつか」
鳥かなにかが持ってるか、あるいは。
レッドリボン軍のように、誰かがかき集めてるか。
「…………」
正直、俺としては誰かがドラゴンボールを集めてても文句はない。世界征服とか、そんなことを願わない限り人の欲望というやつは自由だ。
が、これがピッコロ大魔王の一派だった場合話は別なのである。
さて、どう動いたものか。
+++++
翌朝。
「よお」
「誰だお前」
「マレビトだ。そっちは?」
「オレはヤジロベーさまだ」
ドラゴンレーダーの反応を頼りに少し移動すると、いた。首からドラゴンボール、一星球を下げた男。ヤジロベーと名乗ったそいつは、意識を集中させると分かるが、悟空と戦ってた魔族よりも幾分か強い。
「頼みがあるんだ。ヤジロベーが首から下げてるドラゴンボールが欲しい」
「これか?やだよ、これは俺のものだ」
「何と交換なら、オーケー出してくれるか?」
「美味い飯だ」
「わかった、用意する。だから渡してくれるか?」
「やだよ。飯食うのが先だ」
んんー、交渉難しいな。
とりあえずヤジロベーの代わりに魚を取って焼いて渡した。手付金(金じゃないけど)というやつだ。匂いに釣られて悟空も起きてきたのでもう一匹焼いたやつを悟空にやった。
「悟空、お前回復もしてないのに飛び出す奴がいるか」
「いてえっ!」
軽くデコピンするとおでこがうっすら赤くなった。悟空も回復したことだし、こっからが本番だ。本格的にピッコロ大魔王の配下?と思われる気が近づいている。魔族だなこれは。倒して……いっか。
「ちょっと俺出かけてくるから」
「あ?なんだよ」
「魔族っていう生き物がこっちに向かってきてんだよ」
「うめえのか?」
「さあ、食べたことないし」
立ち上がって、悟空に貸していたジャケットを受け取る。すると、飯を食い終わった二人も立ち上がって着いてきた。
……めっちゃ個人的な感想なんだが、この二人俺より背がちっちゃい。なんか嬉しい。
テキトーに開けた場所に出たら、大体同じタイミングでピッコロ大魔王とやらが生み出したらしき魔族がドラゴンボールを狙って来ていた。やたらずんぐりむっくりしている。そいつは偉そうにこっちに話しかけてきた。
「おいガキども」
「ガキじゃねえが」
「オレさまの質問に答えろ。正直に言わないと死ぬことになるぞ」
無視された!つーかお前、ガキ呼びしたが俺どころか悟空ヤジロベーよりも年下だろ絶対に!!!
でっぷりした魔族はヤジロベーのドラゴンボールに目を付けた。そしてオラが倒すと意気込む悟空とじゃんけんぽん。余裕だなおまえら。
そして、なんやかんやでヤジロベーがじゃんけん勝って、魔族にも勝った。
本当に余裕だった。なにも心配することなかった。
そしてヤジロベーは倒した魔族を食った。美味いらしいが、俺はいいかな。なんとなく食欲がわかないし。
「で、こいつらなんなんだ?」
「ピッコロ大魔王の配下じゃねえの?」
「うん、そうだ。にいちゃん、こいつの仲間にクリリンが殺されたんだよ!」
「ああ、状況は大体把握してるよ。クリリンたちを生き返らせるためにドラゴンボールが必要ってのもな」
「じゃあにいちゃんも手伝ってくれるのか?!」
「すまん、今回ピッコロ大魔王に関係することは手出しできないんだ」
「いいっ!?」
「それ以外は手伝うからさ。悟空、ピッコロ大魔王倒せそうか?もし無理なら俺がなんとかするけど」
神様、正確にはそのお使いと約束したからな。試しにちょっと煽るようなことを言ってみる。カリン塔で、なんか意地みたいなのを見せてたから、少しくらい響いてくれるといいけど。
そんな会話は、ピッコロ大魔王の名前の正体に気付いた
「ち、ちょっと待て。ピッコロ大魔王って、まさか昔話の……」
「昔話かどうかは知らんけど、つい最近復活した恐怖の大魔王だな」
自分で言っててなんだけど、恐怖の大魔王って俺にとってはフリーザ(と、コルド)だから、ピッコロをそう呼ぶのってなんか違和感。ピッコロって、俺の中では保父さんのイメージだからかな。
……なんで保父さん?
「こ、これやるよ!飯の礼だ!じゃあな!」
ヤジロベーはドラゴンボールを渡して去っていった。後には俺と悟空が取り残される。とは言っても、近くにはいるみたいだが。やがてやってきた二匹めの魔族も悟空が危なげなく倒した。
魔族そのものは俺が手出ししてもいいけどするまでもないくらい弱く。しかし親玉のピッコロ大魔王はめっちゃ強いのに俺が手出ししてはいけない、か。
改めて、とんでもないジレンマだな。