補足:描写が足りていませんでしたが、悟空の尻尾は原作通り神様に取ってもらっています。
冷静に考えて、この試合はナメック星人とサイヤ人という、ある種正反対の異星人二人の戦いである。地球人どこ行った。盛り上がってるしまあいっか。
『天下一武道会決勝戦!始めてください!』
アナウンサーの一声で、戦いが始まった。今まで全力を出さずに来たピッコロと孫悟空は、まあそれはそれは楽しそうに戦っている。
ピッコロから投げ渡された瓶の蓋を開けた。ぽん、と小気味良い音がして封印されていた神様が現れる。
「おす」
「まさか、ここは」
「ほら見ろよ、神様の弟子の孫悟空が戦ってるぞ」
ピッコロとの攻防を指差す。神様の表情はどこか複雑なものが混じっていた。
このピッコロの父親が、自分が追い出した悪性だからこそ、だろうか?
「私は、地球の平和のためにピッコロを封じようとした。……しかし、このピッコロは私の半身であった大魔王ではない。マレビト、お前が導いたのか」
「俺が育てました……ってほどじゃないけどな」
そんな大層なものではないが、ちょいちょい面倒見てたのは事実だ。真夜中に通信機で叩き起こされたのも今や懐かしい思い出である。
「なぜだ」
「ん?」
「なぜ、大魔王の後継者であるピッコロを愛した?」
愛した、とな。なんかすごい斜め上というか視覚からデッドボール食らったかのような衝撃である。そんな自覚ないし……。
「別にいいじゃん」
「私は、ピッコロを悪として見てきた。しかしお前の行動を見て思う、それが本当に正しかったのか……」
「正しいんじゃない?少なくとも神様としてリスクに対応するのは当たり前だろ。つーか誰も彼もおんなじことしか考えないならそっちの方が怖いわ」
俺は責任がないから面倒見てただけだし。俺ばっかりが正しいと思われてもそれはそれで困惑する。
「俺があげたのは、ご飯つーか水と風呂と布団だけ。それでまっすぐ育ったんならピッコロが元々そういうやつだったんだろ。
つーか今はそんなことより決勝だろ!!!」
孫悟空の三度目の正直がかかった決勝戦だぞ!?見逃してたまるかこんなハラハラする試合滅多にないのに!
悟空とピッコロの競り合いは続いている。悟空が放った全力のかめはめ波でさえ耐えきり、流石にこれは悟空自身も想定外だったらしい。なんてやつだ……と驚いている。
が、ここで会場の空気が変わった。ざわざわと会場全体が騒がしくなり始める。
「やはり起こったか……観客たちが、ピッコロの正体に気づいた」
「みたいだな」
『あ……あれ?この姿、ど、どこかで……』
「にてるぞ、ピッコロ大魔王に……!」
ピッコロ大魔王が王の宮殿を襲撃した模様は全世界に知られている。世界征服こそ俺が時間稼ぎしたおかげで達成していないが、大々的なニュースになりピッコロ大魔王と俺のやりとりも世界に配信された。あとでニュース映像確認したけどバッチリ映ってたのは頭を抱えたなあ。
「……!似てて当たり前だ!このオレはピッコロ大魔王の生まれ変わりだ!」
あ、とうとう宣言した。しん、とほんのわずかな間会場が静まり返る。
「心配ではないのか?」
「だから手を打ったんだろ」
「なんだと?」
「……す」
沈黙と静かなさざめきを経て、一人の観客が声を上げた。
「すげえ!だからあんなに強かったのか!」
その後も頑張れだとか、好意的な歓声がわあっと会場中から上がった。恐怖で包まれると思ったピッコロはポカンとして、それから勢いよく俺を見上げた。悟空はどこか嬉しそうに笑ってるし、神様はどういうことだと俺を凝視してる。二つの視線が俺に集中している。
「あのな、ピッコロに神様。世界一のゲームクリエイターのプロパガンダ力を舐めるな!」
アニメにピッコロ大魔王がモチーフと公言しているラスボスの息子枠を作り、それが人気を博した以上、今代ピッコロの印象もそちらに引っ張られている。それが、今の観客の歓声の正体だ。
まあぶっちゃけ、あそこまで人気出るのは俺も予想外だったけど。
『なんと驚きです!マジュニア選手はなんとあのピッコロ大魔王の生まれ変わりでした!この天下一武道会で、歴史に残る戦いが繰り広げられています!』
そしてアナウンサーは冷静に実況を進めている。プロだな……もっとやばい状況でもやっぱり実況してそうなプロっぷりだ。すげえ。
ピッコロは思わぬ応援に肩透かしを食いつつ、なんやかんやで悟空との戦いが再開した。でっかくなったり、かと思えば空中で戦ったり。
「……楽しそうだな」
孫悟空も、ピッコロも、観客も。
凶暴で残忍なサイヤ人と、穏やかで善良なナメック星人。それが、こんなふうに関わることができるのか。
永遠にも思える一進一退はあっという間に終わりが近づく。もっと続けばいいのにという思いは、多分この会場の大多数が思っていることなのだろう。
ピッコロが繰り出した渾身の一撃が悟空を直撃する。その余波で生まれた瓦礫を片っ端から切り刻んで安全確保しつつ成り行きを見届ける。
そして。
「悟空!悟空だー!」
「舞空術だっ!」
空から、重力さえ味方につけた悟空が、猛スピードでピッコロに激突した。石頭による渾身の頭突きは、自分より大きな体を容易く吹き飛ばす。元々体力の限界が近かったピッコロはあえなく場外へと落下した。
『じ、場外!場外です!孫悟空選手の勝ちです!優勝は孫悟空選手!!!』
わあっと会場が沸き立った。名物選手である悟空の三度目の正直を讃える声に、ピッコロの善戦を讃える声もある。
うん、なんか、天下一武道会のいいところが沢山詰まっているような、そんな空気だ。
「やったあー!!!天下一武道会に優勝したぞーっ!!!ひゃっはーっ!!!」
「すごいな悟空!おめでとう!」
「ピッコロもすごかったぞー!!!」
「すげー試合だった!」
あ、ヤジロベーがカリン様から預かってる仙豆配ってる。やっぱり便利だなー仙豆。
ピッコロはするりと武闘台から降りると、俺の隣にやってきた。怪我は仙豆で治ってる。表情は、負けたけどどこかスッキリしたものだ。あんまり心配することもないかな。
「おつかれさん。いい試合だった!」
「ふん、次は俺が勝つ」
「そうだな。頑張れ」
「……きさまは、孫悟空の勝利を願っていたのではなかったのか」
「俺が願ってるのは悟空が人生を面白く楽しく生きてくれることだよ。もちろんピッコロもな」
見ろよあのめちゃくちゃ嬉しそうな顔を。というのは負けたばっかりのピッコロに言うことじゃないな。
神様は複雑そうに眩しそうに俺たちのやりとりを見ていたが、やがて静かにピッコロに語りかける。
「まだ、世界征服を諦めていないのか」
「それは孫悟空を倒してからだ」
「……そうか」
ピッコロはすうっと空を飛んでどこかへと消えていった。まああいつ通信機持ってるしまたすぐ会えるだろ。
「マレビトよ、礼を言わねばな」
「そういうのいいよ」
二人とも、なんやかんやで楽しそうだった。それだけで報酬みたいなものだから。
悟空もピッコロも地球の征服を勝手に願われて、そんな奴らが天下一武道会という平和な戦いで雌雄を決した。
改めて考えると奇跡的な出会いだな。
その後、悟空は結婚したばかりの新妻と一緒に賞金を受け取ると筋斗雲で空の彼方へと飛んでいった。やれやれひと段落したかな。
後で冷やかしに行ってやろっと。